あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第115話 出立の後

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「篝先生、上京しちまったのか?」

 あれから数日後。光さんにも、彼が上京した事全てを私は伝えたのだった。

「それにしても突然だなあ」
「東京で大規模な空襲があったから、それで……」
「空襲って、空から爆弾が降ってくんだろ?」
「うん」
「おいおい……」

 もしそうなったら、もう何もかも終わりである。私も死んでしまうかもしれない。

「大丈夫、だよね……?」

 この島には陸軍の施設もある。敵に狙われる可能性は正直否定できない。

「千恵子、こう言う時は大丈夫だと思え」
「え?」

 光さんの低く優しい声が耳の中にまで響いた。

「怖がるより、大丈夫だと思った方が楽だろ」

 言われてみればそうだ。いつ狙われるかもしれないと、常にびくびくして過ごすよりかは、大丈夫だと安心させながら過ごす方が……胸の内は楽だ。

「確かに、そうだよね……」
「ずっと怖がってばかりじゃきついだろ。いわしじゃあるめえし。それに篝先生も頑張ってるんだ。俺は篝先生は必ず帰ると信じてる」

 光さんの力強い言葉。そうだ、篝先生も頑張っている。
 落ち込んでいるよりも、必ず帰ると信じる方が、なんだか希望がはっきりと見えて来た、そんな気がした。

「……ふふっ、そうだよね」

 光さんと話す内に、重苦しかった胸の中が大分晴れ晴れになって楽になった。

「ありがとう、光さん」
「いや、どうって事ねえよ」
「楽になれた。ほんとありがとう」

 別荘の台所に戻ると、夕食の準備が進んでいた。

「今日は何にするの?」
「千恵子おかえり。夕食は炊き込みご飯よ。鯛良いの貰ったから丸々使おうと思ってね」

 母親の言う通り、夕食は鯛を1匹丸々使用した炊き込みご飯にお味噌汁だ。

「頂きます」

 お茶碗に盛られた炊き込みご飯には、ほぐれた鯛の身と細かく刻まれたしょうがが入っている。
 口の中に入れると、しょうがのピリッとした風味に温かさと鯛の柔らかい味が口の中全体に広がる。

「むっ……!」

 とても美味しい。それにしょうがの効果か、身体がじんわりと温かくなっていくのが分かる。

「美味しい!」
「千恵子姉ちゃんの笑顔久しぶりに見た」

 いきなりぬらりひょんにそう指摘されて、思わずえっ。と素っ頓狂な声が出る。

「そう?」
「だって篝先生出てってから暗い雰囲気だったよ」
「そ、そっか……」

 沼霧さんと母親は穏やかに私に視線を向けている。

「うん、元気になった!」
 
 頑張ろう私。と気合いを入れつつ、炊き込みご飯とお味噌汁を食べたのだった。

「ごちそうさまでした」
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