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第90話 さつまいも①

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「ただいま!」

 午前中。母親が外出から戻ってきた。私とぬらりひょんは玄関に移動して母親を出迎える。

「おかえりなさい」
「これ、魚道さんからさつまいも貰ったの」
「こんなに?!」

 聞けば魚道さんと母親は自宅の庭を畑にして、さつまいもを育てているのだという。それらがちょうど収穫を終えた為、私達へくれる事になったのだった。

「そう言えば最近、さつまいもがよく見るなと思ってたのはあったわね」
「雑誌で?」
「そう」
「成程ね……」

 私達はまだ父親からの仕送りがあるから全然恵まれた方だ。その仕送りも少し量が減ったようには感じるが。

「千恵子。このさつまいも使ってお味噌汁にする?」
「うん! ぬらりひょんは?」
「食べたい!!」
「じゃあ、決まりね」

 母親はそう言うと、台所にいる沼霧さんにさつまいもの山を両腕で抱えて持っていったのだった。

「ぬらりひょん、さつまいも食べた事ある?」
「そりゃあ、あるよ。焼きいもだけだけど」
「焼きいもどうだった?」
「お寺の人が落ち葉集めて焼いて作ったの。甘くて美味しかったよ」
「へえ」

 落ち葉を集めて、火で焼き、その火でさつまいもを焼いたらしい。甘くて美味しいと聞き私もなんだか食べたくなってきた。

「おやつに焼きいもする?」
「うん!」

 ぬらりひょんが目を輝かせて頷いた。一応母親と沼霧さんにも話をする。

「いいわね、しましょう。海の近くなら煙も目立たないでしょう」
「私もお手伝いしますね」
「ありがとう!」

 こうしてお昼とおやつが決まった所で、まずは台所にてお昼ごはんの準備を進めていく。
 
「味噌汁作っていきましょうか」
「そうだね、さつまいもの他は何使う?」
「ニンジンと玉ねぎがあるので、それ使いましょう」

 ニンジンは皮を剥き細長い短冊状に、玉ねぎは縦の半月状にそれぞれ切る。さつまいもは薄くこれも半月状かつ一口分に切っていく。
 切り終えた野菜をざるに入れて水洗いし、鍋に入れる。その上から更に水とだし用の昆布を入れてふつふつと煮立たせる。煮立った所で味噌を入れてひと煮たちさせればお味噌汁の完成だ。

「よし、出来たよ」

 ぬらりひょんに、お箸と食卓拭きをお願いし私と沼霧さんは麦ごはんと出来たお味噌汁をそれぞれお茶碗とお椀に盛っていく。漬物も忘れない。

「はい、お待たせしました」

 お盆にお椀とお茶碗らを乗せて食卓まで運ぶ沼霧さんの、高く締まった声が廊下中に響き渡る。食卓の準備が終わればいよいよ昼食だ。

「いただきまーーす!」


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