あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第67話 鍋

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「気を付けてな、千恵子」

 父親は玄関で、私達に向けて挨拶をした。
 これから私達はお屋敷を出て、月館島に向かう。篝先生も一緒についてきてくれる事になった。

「はい。お父さんも気を付けて。弟達にもよろしく言っといてくれたら嬉しい」
「ああ。伝えておく」
「じゃあ、お父さん元気でね」
「千恵子は私達に任せてください。では、行ってきます」
「ああ。気を付けて」

 父親と女中に見送られながら私達はお屋敷を出て、人気のない道まで行くとそこからは一反木綿に乗せてもらい島までひとっ跳びする。
 
 のだが。篝先生は一反木綿に乗ろうとしない。

「篝先生は乗らなくていいの?」
「私は空を飛べますから。ご安心ください」
「篝先生空飛べるんだ……」
「九尾の妖狐ですからね。相当妖力がおありなのはひしひしと伝わってきます」
「そうなんだ……」

 あやかしである沼霧さんがそう言うのだから、あやかしからすればそうなのだろう。

(すごいあやかしなんだなあ、篝先生て)

 篝先生は尾をばさっと出すと、そのままふんわりと宙に浮かんだ。
 
「では、参りましょう」

 一反木綿が私達を乗せてぶわっと宙に浮かぶ。そしてぐんぐんと速度を上げていった。篝先生も負けじと空を飛ぶ。

(すご……)

 冷たい風が顔に終始ばんばんと当たり続けて、鼻がきんきんに冷たくなるがそれをじっとこらえながら、島を目指す。
 そして島の別荘が早くも見えて来た。一反木綿は徐々に減速し、別荘の手前で止まって私達を降ろしてくれた。

「ありがとうね」

 と、私が伝えると一反木綿は大きく頷いた。
 桟橋から見える海には……光さんは来ていない。

「ここが川上家の別荘ですか」
「はい先生。そうです」
「沼霧さん。あと奥さん。後でご案内の程よろしくお願いします」

 早速、荷物を家の中に運び入れて片付けを済ませたら、もうあっという間に昼が来る。

「お腹空いた……」

 空腹だ。こういう時は温かくてさっさと作れて食べられるものが欲しくなる。いや、買い出しに行かないといけないのでさっさと作れるものは無理か。ではどうしようか。

(じゃあ、温かいもの……鍋かなあ)
「お昼、鍋にする?」

 私はとりあえず沼霧さんに聞いてみた。

「篝先生もいますし、鍋にしますか」
「すき焼きにする? それとも普通の寄せ鍋?」

 沼霧さんは、母親と篝先生にすき焼きと寄せ鍋のどちらが良いか伺った。

「私は寄せ鍋かしら」
「私はどちらでも良いですよ」

 という事で、お昼は寄せ鍋をする事に決まった。

「シメに雑炊します?」
「沼霧さんいいね、しよしよ」
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