65 / 130
第61話 梅がゆと父親がよこした軍医
しおりを挟む
沼霧さんにより、部屋に荷物が運ばれる。
そして夕食は、看護婦長が直々に部屋まで持ってきてくれた。
「梅がゆです。あと味噌汁ね」
白い使い古されたお茶碗に入っているのは、麦ごはんのおかゆと梅干しが1つ。そして味噌汁は白味噌仕立てで中には大根とニンジンが入っている。
「ありがとうございます」
「また、お茶碗回収に来ますね」
看護婦長が退出し、1人での夕食となる。
普段。月館島では母親に沼霧さんとあやかし達とで食事をしていた。その時の賑やかさは無い。
(さみしいなあ)
仕方ないが、1人で食べるしか無い。
「頂きます」
まずは味噌汁から頂く。とろみがほんのりとある。白味噌仕立てだからだろうか。
具材は少なめだが、くたくたの大根からは甘味も出ているし、ニンジンも柔らかくて美味しい。
「うん。美味しい」
次に梅がゆ。梅干しを細かくし、種を取り除いて混ぜてから食べる。
梅の酸っぱさが上手く強調されている。だが、美味しさで言えば味噌汁の方が上か。
(おかゆだから仕方ない)
何とか食べ終えると、看護婦長がお茶碗を回収しに部屋に再び戻ってきた。
「ごちそうさまでした」
「完食ね。どうでしたか?」
「お味噌汁美味しかったです。あと梅がゆも」
「そうでしたか。ありがとうございます」
看護婦長がお皿を下げて退出するのを、私はベッドの上から見送っていったのだった。
看護婦長が去って30分程すると、彼女はまた部屋に入ってくる。
「千恵子さん。紹介したいお医者さんがいまして。お時間構いませんか?」
「はい、大丈夫ですが……」
看護婦長に先導されて中に入ってきたのは、若い男性の医者だ。軍服の上からは白衣を羽織っており、髪を七三分けにして長身で美しい顔立ちをしている。
「初めまして。千恵子さん。篝と申します。これから千恵子さんの主治医として勤めてまいりますので、よろしくお願い申し上げます」
彼の物腰の柔らかい態度には好感が持てた。
「よろしくお願いします」
「千恵子さん。篝先生はですね。陸軍の軍医をされてらっしゃる方で、お父様から直々にご指名いただけたんです。あと診察時に当院の医者が失礼な物言いをされたと聞いて、申し訳ありません」
「……あの女医さんですか?」
「そうです。誠に申し訳ございませんでした」
あの、診察室から出る前の物言いか。おそらくは母親が父親に伝えたのだろうか。
まああのいかにもご令嬢ですが?な雰囲気は母親としても思う所があったのだろう。
「わかりました。では今後は篝先生が私を診るという事でよろしいですか?」
「はい。千恵子さん。私が責任をもって診させていただきます」
篝先生はそう言うと、穏やかににこっと笑ったのだった。
そして夕食は、看護婦長が直々に部屋まで持ってきてくれた。
「梅がゆです。あと味噌汁ね」
白い使い古されたお茶碗に入っているのは、麦ごはんのおかゆと梅干しが1つ。そして味噌汁は白味噌仕立てで中には大根とニンジンが入っている。
「ありがとうございます」
「また、お茶碗回収に来ますね」
看護婦長が退出し、1人での夕食となる。
普段。月館島では母親に沼霧さんとあやかし達とで食事をしていた。その時の賑やかさは無い。
(さみしいなあ)
仕方ないが、1人で食べるしか無い。
「頂きます」
まずは味噌汁から頂く。とろみがほんのりとある。白味噌仕立てだからだろうか。
具材は少なめだが、くたくたの大根からは甘味も出ているし、ニンジンも柔らかくて美味しい。
「うん。美味しい」
次に梅がゆ。梅干しを細かくし、種を取り除いて混ぜてから食べる。
梅の酸っぱさが上手く強調されている。だが、美味しさで言えば味噌汁の方が上か。
(おかゆだから仕方ない)
何とか食べ終えると、看護婦長がお茶碗を回収しに部屋に再び戻ってきた。
「ごちそうさまでした」
「完食ね。どうでしたか?」
「お味噌汁美味しかったです。あと梅がゆも」
「そうでしたか。ありがとうございます」
看護婦長がお皿を下げて退出するのを、私はベッドの上から見送っていったのだった。
看護婦長が去って30分程すると、彼女はまた部屋に入ってくる。
「千恵子さん。紹介したいお医者さんがいまして。お時間構いませんか?」
「はい、大丈夫ですが……」
看護婦長に先導されて中に入ってきたのは、若い男性の医者だ。軍服の上からは白衣を羽織っており、髪を七三分けにして長身で美しい顔立ちをしている。
「初めまして。千恵子さん。篝と申します。これから千恵子さんの主治医として勤めてまいりますので、よろしくお願い申し上げます」
彼の物腰の柔らかい態度には好感が持てた。
「よろしくお願いします」
「千恵子さん。篝先生はですね。陸軍の軍医をされてらっしゃる方で、お父様から直々にご指名いただけたんです。あと診察時に当院の医者が失礼な物言いをされたと聞いて、申し訳ありません」
「……あの女医さんですか?」
「そうです。誠に申し訳ございませんでした」
あの、診察室から出る前の物言いか。おそらくは母親が父親に伝えたのだろうか。
まああのいかにもご令嬢ですが?な雰囲気は母親としても思う所があったのだろう。
「わかりました。では今後は篝先生が私を診るという事でよろしいですか?」
「はい。千恵子さん。私が責任をもって診させていただきます」
篝先生はそう言うと、穏やかににこっと笑ったのだった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる