あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第52話 クジラの味噌汁

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「お世話になりました。ありがとうございました」

 朝。海風とその母親は挨拶をして月館島から去っていった。海風の体力も考え、船に乗って移動するようだ。

「また、良かったら島に遊びにいらしてください」
「待ってる!」
「はい!」

 こうして、別荘はいつも通りの姿となる。私は家に戻って残った朝食を食べてから、光さんのいる桟橋近くの海まで歩いていった。

「光さん!」
「おお、千恵子!」
「昨日はありがとうね!」

 あれから海風が母親と再会し、帰っていった事を光さんに報告する。

「そうかそうか! そりゃあよかった!」

 光さんは嬉しそうに歯を出しながら喜んでいた。

「どうやって連れてきたの?」
「とりあえず海の中泳いでたのを見つけて、こっちまで誘導したって感じ」
「成程ね」
「見つかって良かったよ。あやかしの親子がはぐれたりするの、たまに見かけるからさ」

 実際早くに見つかって、再会できたのは良かったというよりほかない。

「あいつ、体調はどうなんだ」
「だいぶ良くなったよ。でも一応船に乗って帰るみたい」
「そりゃあそっちの方が良いかもな。海も大分冷え込んできているし、なげえ事泳いだらぶりかえしちまう」
「だよね」

 その後。光さんと更に話をしてから、自室へと戻ったのだった。

「あら千恵子、おかえり」

 母親がよそいきの服に着替えている。これから配給に行くのだという。

「気を付けて」
「ええ、行ってくる」

 いつも通り挨拶をして、しばらく経つと母親が帰ってきた。

「クジラ肉入手してきたわよ。おかずに使いましょう」
「クジラ肉!」

 クジラ肉は今回、漁港からでは無く配給からの品だったそうだ。母親は沼霧さんにクジラ肉の塊を渡す。

「では、処理してきます」
「お願い。お昼はこの肉でお汁にしましょう」

 こうしてお昼はクジラ肉を使ったお味噌汁を作った。麦ごはんも一緒だ。

「頂きます」

 クジラ肉はちょっと硬めだがしょうゆと生姜で漬け込み、臭みもある程度は取れている。味噌汁の具材であるにんじんとネギと白菜も、それぞれから出ただしと味噌の味が染みていて美味しい。

「沼霧さん、クジラ肉まだ余ってる?」
「はい。余ってます」
「白菜もあるから今晩は鍋にしましょう」

 私の予想以上に、大分冬も近づいてきているのかもしれない。

「ごちそうさまでした」
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