あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第42話 誕生日のちらし寿司⑤

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 台所にお皿を乗せたお盆を持った沼霧さんがやって来る。

「一反木綿まだ戻ってきてませんか?」
「うん。まだ」
「心配ですねえ」
「無理して無いといいんだけど」

 それから時間は過ぎて17時過ぎの事。

「あ!」

 2階の自室の窓から白い何かが家に向かって猛烈な速度で飛んでくるのが見えた。家の目の前でぴたりと止まったそれは紛れもなく一反木綿だった。

「戻ってきた……!」

 沼霧さんと共に、一反木綿の帰還を喜ぶ。尾?の付近には鮭が一匹縛り付けられていた。
 一反木綿はその鮭を、私へと差し出す。

「取ってきてくれたんだね。ありがとう」

 一反木綿はへこへこと頭を下げた。沼霧さん曰く、鮭の腹の中にはちゃんといくらがあるとの事だ。

「では、台所に持ち帰ってさばきましょう」

 私は沼霧さんに鮭を渡した。受け取った沼霧さんは台所へと小走りで移動する。
 外には私と一反木綿だけとなった。

(せっかくだし、何かしてあげたいな)
「ちらし寿司、食べる?」

 一反木綿はうんうんとまたも上下に頷く仕草を見せる。だが、どうやってちらし寿司を食べるのだろうか。

(まあ、どうにかなるか)

 台所で沼霧さんと共に鮭をさばき、すじこをいくらにした。マグロはしょうゆと砂糖で身を煮てみたのだった。

「ねえ、沼霧さん」
「何でしょう」
「一反木綿にも、ちらし寿司食べさせてあげても良い?」
「いいんじゃないでしょうか。早速連れて来ましょう」

 廊下で待っていた一反木綿を台所に誘導し、試しにちらし寿司を一口分、掲げて見せる。
 するとちらし寿司が一瞬だけ黄色く光ったかと思えば宙に浮いて、一反木綿の中に吸収されて取り込まれていった。今度はマグロの煮込みを掲げてみると、やはり同じようになった。

「こうやって食べるらしいです」
「なるほど……」

 新たなあやかしの一面を知った所で、夕食の準備を更に進める。

「よし、完成かな」

 全てお皿に盛って出来上がり。母親も加わって食卓に並べていく。食卓の箸にはもう、小さな海坊主達が待機していた。
 ついに夕食の時間だ。ちらし寿司にはいくらも乗ってある

「頂きます」

 ちらし寿司を一口頂く。昼食べた具材と更にいくらが加わって、美味しさが倍増しているのがすぐにわかった。

「美味しい!!」

 やっぱり、ちらし寿司といくらはよく合う。ぷちぷちとはじける食感から、お味噌汁のような独特の風味がご飯やマグロ、錦糸卵にも降りかかってとっても美味しい。
 マグロの煮込みも、思ったより柔らかく仕上がっており美味しい。

「ちらし寿司にいくらは合うよねえ」
「千恵子、いくらちょっといる?」
「お母さん、いいの?」
「だって今日は千恵子の誕生日じゃない。気にせず食べなさいな」
「……ありがとう」

 来年の誕生日もちらし寿司を、たくさん食べたい。



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