あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

文字の大きさ
上 下
43 / 130

第39話 誕生日のちらし寿司②

しおりを挟む
 マグロは何とか解体し、ちらし寿司に使う分をしょうゆに漬け込んでおく。麦ごはんは朝ご飯で食べきったので、また炊かないといけない。しかもなんと5合分。

「中々多いよね、5合って」
「地域によっては、5合のご飯を1人で食べきってこそ、一人前の男だ。なんて風習もありましたね」
「そうなんだ。5合は流石に1人じゃ食べきれないや」
「私もですよ」

 母親は、配給に行っている。その間に、私と沼霧さんで麦ごはんを炊いて、野菜(と言ってもニンジンと干ししいたけだけだが)を細かくみじん切りにして、しょうゆと砂糖で煮詰めていく。

「お屋敷にいた時から、ちらし寿司食べてらしたんでしたっけ」
「そうだよ。その時は卵以外にもいくらものってた」
「いくらですか。美味しいですよね」

 麦ごはんを水で研ぎ終え、釜で炊いていく。
 すると、マグロを運び終えた後家の外に移動していた一反木綿が、再び台所に戻ってくる。

「? 一反木綿?」
「ふむふむ、鮭を今から取ってくると言ってますね」
「ええーっ北海道まで行くつもり?!! 遠いよ?!」

 沼霧さんを通訳にした、いきなりの申し出に私は驚かざるを得ない。しかもここから北海道なんて、かなり距離があるというのに。
 だが、一反木綿の意志は鋼のように硬いようだ。

「わ、わかった。夕方までには戻ってきてね。あと、いくら入ってるかどうかはわかるの?」
「むむ、妖力で分かる。との事です」
「なるほどね。じゃあ、行っておいで。無茶しちゃだめだからね!」

 一反木綿は暴風の如き速度で、びゅんと空の彼方へと飛び去っていった。

「すごいやる気だなあ……」
「無事に戻ってきて欲しい所です。野菜はこれくらいでよろしいでしょう」

 鍋からは、早くもしょうゆと砂糖の甘くて香ばしい匂いが漏れ出ている。
 これは俄然楽しみになってきた。

「ただいまーー」

 母親が配給から戻ってきた。玄関で靴を脱ぎ、私に卵を差し出す。

「千恵子。卵あったわよ」
「ありがとう!」
「ヨシさん。マグロ手に入ったので、しょうゆに漬けています!」
「ほんと?!」

 母親が早歩きで台所へと向かったので、私もそれについていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

あやかしが家族になりました

山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ いつもありがとうございます。 当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。 ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。 母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。 一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。 ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。 そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。 真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。 しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。 家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

今日から、契約家族はじめます

浅名ゆうな
キャラ文芸
旧題:あの、連れ子4人って聞いてませんでしたけど。 大好きだった母が死に、天涯孤独になった有賀ひなこ。 悲しみに暮れていた時出会ったイケメン社長に口説かれ、なぜか契約結婚することに! しかも男には子供が四人いた。 長男はひなこと同じ学校に通い、学校一のイケメンと騒がれる楓。長女は宝塚ばりに正統派王子様な譲葉など、ひとくせある者ばかり。 ひなこの新婚(?)生活は一体どうなる!?

処理中です...