あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

文字の大きさ
上 下
12 / 130

第10話 みかん

しおりを挟む
 今日は朝起きてからずっと、雨が降っている。それに風も強く、凍てつくように冷たい。
 朝食は納豆と、麦ごはんにネギ入りの味噌汁。納豆には欠かさずからしを入れて頂く。

「今日は冷えるわね……」
「ヨシさん、これだけ冷えると雨が雪に変わるかもしれません」
「沼霧さん。洗濯干すなら家の中にお願い」
「畏まりました」

 朝食を食べ終えて薬を飲み、食器を片付ける。

「冷たっ」

 流しの蛇口から出る水は一段と冷たい。手がかじかむのが一瞬で分かる。

「沼霧さん冷たく無い?」
「慣れてしまえばそれほどでも無いですよ」
「うっそだあ」

 おそらく経験と言うのもあるかもしれない。あかぎれも出来てなさそうだし、あやかしというのもあるのだろう。
 片付けを終わらせると、母親と沼霧さんは配給品を貰いに出かけて行った。家には私とあやかし達だけとなる。

「?」

 中庭には、いつの間にか一つ目の黒猫が座っていた。黒猫の尾の先端は青い炎が燃えている。この子もあやかしのようだ。

「こっちに来なよ。寒いでしょ」

 私は中庭の扉を開いて、黒猫のあやかしを招き入れた。黒猫のあやかしはすたすたと尾を上げながら廊下を歩くと居間の食卓の下に入り込み、丸くなった。

「ゆっくりしていって」

 そう言うと、黒猫のしっぽが左右に揺れた。炎が灯っているが床に触れても床が燃える事は無かった。

「ただいまーー」

 母親と沼霧さんが戻ってきた。腕一杯に配給品に父親からの仕送りも持っている。私はそれらを受け取り2人と共に仕分けしていく。
 すると紙袋の中にみかんが何個か入っていた。

「みかん?」
「千恵子も食べる?」
「うん」

 母親も沼霧さんも頂くようだ。丁度小腹が空いたし、頂くとしよう。

「あ、こんなとこに」

 母親が食卓の下で丸くなっている黒猫のあやかしを見つけた。私は中庭にいたのを中に入れてあげたというと、どうやら今日の深夜くらいからあの中庭にいたのだという。

「入れてあげたのね。寒いしそれが良いと思うわ」
「うん。ここなら大丈夫だよね」

 黒猫のあやかしがにゃーんと鳴いた。私達は食卓にてみかんの皮を剥いて食べていく。
 みかんはちょっと小さめだが皮が剥きやすく、みずみずしくて味も程よく酸っぱくて美味しい。

「美味しいね」
「でも食べ過ぎたらお昼入らなくなるわよ?」

 みかんは1つだけに我慢しておく事にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

あやかしが家族になりました

山いい奈
キャラ文芸
★お知らせ いつもありがとうございます。 当作品、3月末にて非公開にさせていただきます。再公開の日時は未定です。 ご迷惑をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。 母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。 一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。 ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。 そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。 真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。 しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。 家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず
キャラ文芸
『おおかみ宿舎』に食堂で住み込みで働くことになった雛姫麻乃(ひなきまの)。麻乃は自分を『透明人間』だと言う。誰にも認識されず、すぐに忘れられてしまうような存在。 そんな麻乃が『おおかみ宿舎』で働くようになり、宿舎の住民達は二癖も三癖もある様な怪しい人々で、麻乃の周りには不思議な人々が集まっていく。 美味しい食事を提供しつつ、麻乃は自分の過去を取り戻していく。

処理中です...