12 / 161
第10話 小麦粉を水で溶いて焼くだけの素朴なおやつ
しおりを挟む
15時過ぎ。夕方が近くなった頃合いだ。鳥の鳴き声がぴよぴよと響いている。
「ふう……」
私は自室のベッドでごろごろとうたた寝をしていた。だがちょっと小腹がすいたような感覚がある。
(何かつまむものでもあるだろうか)
と、リビングを渡ってキッチンへ行こうとすると既にキッチンにはリークがいた。何やら戸棚を開けて探し物をしているようだ。
「なんだ?」
「あ、その、小腹がすいたというか」
「おやつでもつくろうか」
リークはそう言ってガラスのボウルと小麦粉と水を用意した。たったそれだけで、一体何を作るつもりなのだろうか。
(なんだろう)
リークは無言でボウルに小麦粉をどさっと入れて、その上から少しずつ水を入れていく。
「このくらいだろうか」
リークは水を入れるのをやめて、小麦粉を練っていく。小麦粉の硬さと粘度を見る限り、まるで粘土を練っているかのような姿に見える。
「お前もやってみるか」
「何を?」
「これを、これくらい取って整形するんだ。こんな具合に」
そう言ったリークが見せてくれたのは、パンケーキを拳くらいの大きさに縮めたような形だった。私も生地をつかみ取り、リークが教えてくれたように整形する。
「どうかしら」
「うん、良いと思うわ」
(笑ってる)
生地を整形し終えると、リークはフライパンを取り出し、火にかけた。フライパン油を敷き終えると生地を一枚一枚並べて熱していく。
(簡素なパンケーキみたいな感じね)
少し時間が経ったらフライ返しで裏へ返す。すると小麦粉の生地に若干焦げ目がついて、表面が硬くなっているように見えた。
「それでまたひっくり返すのね」
「そうだ」
パンケーキは、後宮内では時折侍女たちが食べていた。私が食べるパンケーキはそれはもう、贅沢に生クリームやら季節のフルーツやら、マカロンやらが乗せられておりひとりで食べるのは到底無理な量だった。
(こういう質素なものもありね)
そしてリークはまた、フライ返しで生地を一枚ずつ返していく。
「出来たぞ。皿を頼む」
「これでいい?」
「ああ、ちょうどいい」
出来上がった生地を皿の上へ雑に並べると、おやつの完成のようだ。
「なるほどね。どうやって食べるの?」
「ジャムを付けたり、そのまま食べたり、ハムやソーセージを挟んで食べたり…色々ある」
試しにリークが作った野イチゴのジャムを付けて頂く事にした。
「うん、おいしい」
野イチゴのジャムの酸っぱさを素朴で味付けしていない生地が適度に和らげてくれる。まろやかな味わいだ。
「残りは明日の分に取っておこう」
「そうね。そうしましょう」
「ナターシャ、こういうおやつは食べた事あるのか?」
ナターシャ妃としては勿論、モアとしてもこのようなおやつは食べた事が無い。なので正直に無いと答える。
「そうか」
「ええ、初めて食べたわ」
「じゃあ、また一緒に作ろう」
リークの不器用だが優しい笑顔が、すぅっと胸の奥に染みた。
「ふう……」
私は自室のベッドでごろごろとうたた寝をしていた。だがちょっと小腹がすいたような感覚がある。
(何かつまむものでもあるだろうか)
と、リビングを渡ってキッチンへ行こうとすると既にキッチンにはリークがいた。何やら戸棚を開けて探し物をしているようだ。
「なんだ?」
「あ、その、小腹がすいたというか」
「おやつでもつくろうか」
リークはそう言ってガラスのボウルと小麦粉と水を用意した。たったそれだけで、一体何を作るつもりなのだろうか。
(なんだろう)
リークは無言でボウルに小麦粉をどさっと入れて、その上から少しずつ水を入れていく。
「このくらいだろうか」
リークは水を入れるのをやめて、小麦粉を練っていく。小麦粉の硬さと粘度を見る限り、まるで粘土を練っているかのような姿に見える。
「お前もやってみるか」
「何を?」
「これを、これくらい取って整形するんだ。こんな具合に」
そう言ったリークが見せてくれたのは、パンケーキを拳くらいの大きさに縮めたような形だった。私も生地をつかみ取り、リークが教えてくれたように整形する。
「どうかしら」
「うん、良いと思うわ」
(笑ってる)
生地を整形し終えると、リークはフライパンを取り出し、火にかけた。フライパン油を敷き終えると生地を一枚一枚並べて熱していく。
(簡素なパンケーキみたいな感じね)
少し時間が経ったらフライ返しで裏へ返す。すると小麦粉の生地に若干焦げ目がついて、表面が硬くなっているように見えた。
「それでまたひっくり返すのね」
「そうだ」
パンケーキは、後宮内では時折侍女たちが食べていた。私が食べるパンケーキはそれはもう、贅沢に生クリームやら季節のフルーツやら、マカロンやらが乗せられておりひとりで食べるのは到底無理な量だった。
(こういう質素なものもありね)
そしてリークはまた、フライ返しで生地を一枚ずつ返していく。
「出来たぞ。皿を頼む」
「これでいい?」
「ああ、ちょうどいい」
出来上がった生地を皿の上へ雑に並べると、おやつの完成のようだ。
「なるほどね。どうやって食べるの?」
「ジャムを付けたり、そのまま食べたり、ハムやソーセージを挟んで食べたり…色々ある」
試しにリークが作った野イチゴのジャムを付けて頂く事にした。
「うん、おいしい」
野イチゴのジャムの酸っぱさを素朴で味付けしていない生地が適度に和らげてくれる。まろやかな味わいだ。
「残りは明日の分に取っておこう」
「そうね。そうしましょう」
「ナターシャ、こういうおやつは食べた事あるのか?」
ナターシャ妃としては勿論、モアとしてもこのようなおやつは食べた事が無い。なので正直に無いと答える。
「そうか」
「ええ、初めて食べたわ」
「じゃあ、また一緒に作ろう」
リークの不器用だが優しい笑顔が、すぅっと胸の奥に染みた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
221
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる