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第2話 狼男との同居生活

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「お前の名は?」

 狼男にいきなり問われたが、モアという名前が胸の奥から出そうに無い。

(記憶を思い出した以上、私の名前はナターシャの方がしっくりくる)
 
 そのままナターシャと名乗った。まあ、私の悪行はこんな山奥までは知られて無いだろう。それに、頭の中を整理してみても、モアとしての記憶の中には良いと感じる思い出が見つからなかった。モアはどこまでも平凡な、暮らしだったのだ。それならいっそ人外と静かに森の中で平凡に暮らす方が、面白い。

「あの皇太子のお妃様と同じ名前か」
(知ってる?!)
「と言っても名前しか知らないのだが」

 と、無表情で語る彼を見て、私は胸の内でほっと息を吐いた。無表情の方が助かるからだ。

「あなたの名前は?」
「俺はリーク。よろしく」
「リークね、覚えたわ」

 すると狼男改めリークが右手を私に差し出してくる。その様子はまるで握手を求めているかのように見える。

「握手って事?」
「うん。人間はこういう時よくやるんだろう?」

 求められたのならば、答えるのみ。私はリークと硬く握手を交わした。

「よろしく、ナターシャ」
「ええ、よろしくね。リーク」

 と、挨拶を交わした私だが、1つだけ頭の中である事が浮かんでいた。それは住まいである。ナターシャとしての記憶を思い出してしまったのだ。なら、このままモアの家には戻りたくないという気持ちが湧いて出て来る。それならここで住んだ方が、私らしい。という事に気が付いた。
 
「あの……」
「なんだ」
「申し訳ないんだけど、ここに、住まわせてくれるかしら?」
「良いぞ」
「え」

 思わず聞き返してしまうくらいの即答だった。

「当たり前だ。お前困ってそうだし……」
「いや、でも」
「俺は人食わないから安心しろ」
「そ、そう……」

 こうしていかにもあっさりと、私とリークの同居が決まったのだった。

「家の中を案内しないとな」

 リークから私は家の中を案内させて貰う事となった。
 キッチンにリビング、そして小ぢんまりした寝室が2つ。トイレは宮廷とは違って人1人入るのが精一杯の狭さである。
 浴室は離れが該当し、これも木で作られた小ぢんまりしたものである。離れには倉庫とお米を炊く釜もあり、そして家の右横には巨大な大樹があり、その上にはツリーハウスもあった。

「あのツリーハウスでよく昼寝をするんだ」
「眠れるの?」
「夕方まで寝てしまう」

 そして家と離れ、大樹で囲うように小さな畑と井戸もあった。思ったより充実している。

「ここで野菜を育てている。肉は…山の中には熊や鹿、イノシシがいるからそいつらを取って食べている」

 自給自足の生活である。井戸からは地下水が取れ、水が枯れた事は一度もないらしい。この井戸から水を汲み、キッチンで専用の道具を使ってろ過し、煮沸消毒してから使っているようだ。

「成る程ね」
「そんな感じだ。質問は特にあるか?」


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