上 下
47 / 53

第46話 私はこの町が好きだ

しおりを挟む
「こちら、封を開けても構いませんか?」

 と、ギルテット様が男性に尋ねると彼は構いませんと静かに答える。ギルテット様がびりびり……とゆっくり端を破りながら封を開けて中の紙を取り出して読み始める。

「1週間後、ですか」
「そうですね」
「明日にでも出発した方がよさそうですね。そして俺は宮廷、シュネルはルナリア公爵家で準備を進めていく事になると」
「はい」
「わかりました。ではそのようにいたします。シュネル、何か疑問に思った事とかあれば仰ってください」

 ギルテット様から手紙を受け取って読んでみる。

「1週間後宮廷にて第5王子ギルテットとシュネル・ルナリア公爵令嬢との婚約パーティーを開く事を決定した。さしあたってギルテットは宮廷へ、シュネル嬢はルナリア公爵家へと移動しパーティーの準備にあたってほしい」

 文言にはそのように記されていた。

(婚約パーティーか……)

 今回の相手は王子。貴族同士の結婚以上に大規模かつ華やかなものになるのは疑いようがない。

「緊張してきましたね……」

 まだ早いのに心臓の鼓動が早まっていくのが感じる。それと少し嫌な予感が感じ始めてもいた。

「それに……ジュリエッタとまた顔を合わさなければならないんですよね……」
「そうでしょうね。国中の貴族が集まるでしょうから」
「ああ……」

 ジュリエッタと会うのは嫌だけど仕方ない。国王陛下もギルテット様の婚約者は大々的にお披露目したいだろう。

「シュネル。俺がいるから大丈夫。心配しないで……」

 そっとギルテット様が私を抱きしめてくれた。柔らかく優しく抱きしめられた私。心臓の鼓動と嫌な予感が少しだけ落ち着いて楽になっていく。

「パーティー当日は俺がそばにいます。それにもし何かあったらすぐに呼んでください」
「ありがとうございます。ギルテット様」
 
 ギルテット様は私をそっと話すと右手の甲にそよ風のようなキスを落としてくれた。結婚したらこれ以上の事までするんだよね?! と考えてしまってまた心臓の鼓動が早くなっていくのだった。

(ソアリス様とは何もなかったから……初夜ってなると絶対緊張するかも、いや絶対する)

 こうしてまた王都へととんぼ返りする事になるのだが、その前にデリアの町でも婚約披露パーティーを行う事を決めた。これらは全て私とギルテット様の独断によるものだが、婚約してからはデリアの町へ中々戻っては来れないかもしれない。勿論私とギルテット様の希望としては引き続きデリアの町で医療活動に励みたいというので一致しているがギルテット様は王子、そして私は公爵家の養女。もちろん王族や貴族としての務めもはたしていかなければならないの理解している。
 婚約披露パーティーが行われるのはなんと港。もちろん屋外だ。町の女性達が港の船着き場に花や旗の飾りをつけて彩ってくれた。海にはイルカの群れにあのシャチの群れもいる。空には海鳥と動物達の姿も多く見られてとても賑やかな場になっている。
 出席者には近くの集落で採れたぶどうをジュースにしたぶどうジュースが小さなコップに入れられて配られた。そして神父様の号令の元乾杯が始まる。

「ギルテット王子とシュネル・ルナリア嬢がこの度婚約する事になりました。おふたりの門出を祝って乾杯!」

 ぶどうジュースは酸味が効いていて美味しい。それに癖も無くて飲みやすい。ワインではないから子供も安心して飲める。

「ぶどうジュース美味しいね!」
「うん、姉ちゃん美味しい! 僕もっと飲みたい!」
「こら、あんまり飲み過ぎたらだめよ? お腹壊しちゃうよ?」

 などというほほえましいやり取りも目に入って来る。ちょっと年季の入ったベンチに座っていると海の向こうでは相変わらず小型~中型くらいの鯨類のブローが見えている。時折虹がそこにかかってキラキラと輝きを放っているのも見えた。

「美しい眺めですね」

 ギルテット様がぶどうジュースを片手に私の隣にちょこんと座る。しかしながらここからの眺めは格別だ。町の人達から海の水平線まで見渡せる。

「ええ、そうですね……」
「ここまで色々ありましたね」

 ギルテット様が水平線を眺めながらぽつりと漏らした。

「ええ、ギルテット様やシュタイナー、バティス兄様に町の人達には本当にお世話になりました。あなたがたがいなければ今頃……殺されていたかも」

 頭の中でインクの染みのようにソアリス様や父親、ジュリエッタの顔が浮かぶ。ソアリス様はああするしかなかった。
 ……だめだ、吐き気がしてきた。

「俺があなたを守ります」
「ギルテット様……」

 ギルテット様が私の左手をそっと握ってくれた。吐き気がゆっくりと和らいぐ。彼の手の温かさはデリアの町の穏やかな空気と似ている気がした。

「ありがとうございます、ギルテット様。……私はこの町が大好き」
「俺もです。ずっとこの町にいたいくらい。正直宮廷よりもこの町の方が居心地が良いんですよね」

 彼のにこりとした穏やかな微笑みが私へと向けられた。
 デリアの町での婚約パーティーが終わった後。私達はまた王都へと戻った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される

中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。 実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。 それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。 ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。 目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。 すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。 抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……? 傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに たっぷり愛され甘やかされるお話。 このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。 修正をしながら順次更新していきます。 また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。 もし御覧頂けた際にはご注意ください。 ※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

聖獣がなつくのは私だけですよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
3姉妹の3女であるエリッサは、生まれた時から不吉な存在だというレッテルを張られ、家族はもちろん周囲の人々からも冷たい扱いを受けていた。そんなある日の事、エリッサが消えることが自分たちの幸せにつながると信じてやまない彼女の家族は、エリッサに強引に家出を強いる形で、自分たちの手を汚すことなく彼女を追い出すことに成功する。…行く当てのないエリッサは死さえ覚悟し、誰も立ち入らない荒れ果てた大地に足を踏み入れる。死神に出会うことを覚悟していたエリッサだったものの、そんな彼女の前に現れたのは、絶大な力をその身に宿す聖獣だった…!

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...