今更愛していると言われても困ります。

二位関りをん

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第40話 遺体争奪戦

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「あなた、跡継ぎの者に食ってかかるおつもりで?」
「ぎ、ギルテット王子……! そんなおつもりは……!」

 ジュリエッタの声が震えている。こんな恐怖におののくジュリエッタを見た覚えはない。

「いいですか? バティス・グレゴリアスは跡継ぎです。その跡継ぎが遺体を引き取り葬儀を挙げる事のどこに責められる点があるのでしょうか?」
「……わ、わかりました。ではどうぞ。私はもう何も言いませんわ……ああ、そうだ1つだけ」

 ジュリエッタにしては素直に引き下がっているような気はする。けどまだ油断はならない。

「お姉様はどうやって王子を誘惑したのかしら?」

 ギルテット様がにこやかな殺意溢れる笑顔を浮かべて反論しようとするのを私が制する。ここは私自ら教えてあげた方が良いだろう。

「あら、ジュリエッタ? 知りたい? それはね、看護婦としての仕事を真面目に行う。たったこれだけよ。簡単でしょ?」
「……は?」
「あらやだ。あなた鳥頭じゃないんだから。あなたそんなにバカだったかしら?」
「……何よお姉様のくせに!」
「ふうん、それしか言えないの? ダメな子ねえジュリエッタは」
「いいぞシュネル、もっと言ってやれあのクソ妹にな!」

 どうしよう。ジュリエッタを煽るのが楽しすぎて止まりそうにない。あそこまで余裕のない表情になるなんて思いもしなかった。
 そっか。今の彼女はソアリス様を失い父親も死んだ。となると後ろ盾がいないのかも。

「という事でお父様の葬式にはちゃんと来るのよ? それくらい出来るでしょ?」
「馬鹿にしないでよ! ギルテット様がいるからってバカにしないで!」
「はいはい、バティス兄様、行きましょう」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 往生際の悪い妹だ。今度は何をしようとしているのか。

「待って! やっぱり遺体は私が運ぶわ! だって馬に括り付けただけでは痛むじゃない! こっちは馬車だから大丈夫よ!」
「無視していこうぜ」

 バティス兄様の言う通り、ジュリエッタは無視して馬に跨り歩を進める。ジュリエッタと話したって埒が明かないし早くデリアの町へと戻ろう。

「待ちなさいよ! 待って!」
「あんなクソ妹と話したって無駄だ! 早く戻ろう!」
「そうね、バティス兄様!」

 私達は急いで馬を走らせるが後ろからジュリエッタが馬車に乗っておいかけてくる。
 もう! 往生際が悪すぎる! そんなに私達を疑っているのと言いたいがこちらだってジュリエッタを疑っている状況だ。早く王都へ戻り葬儀屋を呼んで葬儀の手配をしなければ。あとそうだ、神父様も呼んで……!

「あいつまだ追ってきてんのかよ!」
「うそでしょ、早く戻らないと! 目的地はバティス兄様のお屋敷でいいのですか?」
「シェリーさんそれでいいでしょう! 宮廷でもいいですけど!」
「バティス兄様! どっちにします?!」
「ギルテット王子! 多分ここからだと宮廷の方が近いのでそれでもいいでしょうか?!」
「いいですよ!」

 という事で宮廷に向けて馬を走らせる。手綱を握る手には汗が思っていた以上ににじんできている。しっかり握っておかないと振り落とされてしまったら大変な事になる。ソアリス様の元にも父親の元にも行きたくないし。
 草原から山々へと景色が変わる。ここでギルテット様がもっと細道へ行こうと切り出した。

「馬車が通らない道へ行きましょう!」
「そうですね!」

 そうだ。馬車が通れない道ならジュリエッタも追っては来れない。それを忘れていた。

「馬車は来てないですよ!」

 シュタイナーが後ろへ振りかえってジュリエッタの乗った馬車が来ているか確認をしてくれた。よし、来ていないならいいだろう。
 この険しい山道には木々が生えているものの段々畑が広がっておりぽつぽつと小屋のような建物が立っている。

「休憩しますか」
「そうですね……ギルテット様」

 ここで一旦休憩を取り、そしてまた馬を走らせる。父親の遺体はちゃんと馬の腹に括り付けられたままだ。
 そうしてなるべく広い道を通らずかつショートカットしながら移動しようやく宮廷へと到着した。宮廷の広間に父親の遺体を置き何事かと驚いている侍従達に事情を説明する。

「なるほど、わかりました。ここからまずは教会へ向かった方がよろしいかと」
「了解しました」

 侍従の案内を受けここから更に教会へと移動し、シスターと神父様に早口で事情を説明した。もう息切れしてしまって肩で息をしている状態だ。

「話は聞きました。グレゴリアス子爵の葬儀は明日行いましょう。ご遺体は当教会のシスターたちが管理します」

 それから神父様とバティス兄様が教会内にある個室で話し合った結果。通夜は明日、そして告別式が明後日という日程が決まった。
 葬式の段取りは勿論、誰を招待するかとかそう言った細かい部分も決めていかなければならない。バティス兄様は疲労の色を隠し切れない中何とか段取りを詰めていく。その間私達は別室で待機していた。
 それにしても急な話だ。父親が転落死するとは。

「すみません! グレゴリアス家の方はどちらですか?」

 廊下から、サナトリウムで門番をしていた男性の声がくぐもった状態で聞こえてきた。

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