17 / 53
第16話 ジュリエッタ視点②
しおりを挟む
バシッ!
鞭で身体を叩く音がこっちまで聞こえてくる。うーーんお姉様がいなくなった辺りの頃だったかしら? もしくは最近? 詳しい時期は覚えてなくてもまあいっか。お父様は鞭で廊下にいるメイドを無差別に叩くようになった。それだけじゃなくて……例えばいきなり大声を上げたり癇癪の度合いも増えた。まあ、最初におかしくなったのはお母様が亡くなってからなんだけど。
なんでお姉様を虐めるのか、かつてお父様にそう聞いた事がある。お姉様がぐずでのろまだから? それともお姉様が嫌いだから? 私はそのどれかだと思っていた。けどどうも答えは違うみたい。
「俺はあいつを躾けなければならない」
「虐めたいって事?」
「そうかもしれんな……とにかく、あいつは俺が躾けなければならない存在なんだ」
「私はそうじゃないのね?」
「ああ、可愛いお前は躾けなくても大丈夫な存在だからな」
お父様はそう言って私を抱きしめて頭をなでてくれた。お母様が死ぬ前はよくお母様にこれをしてもらってたけどお母様が死んでからはお父様が代わりにしてくれるようになったっけ。それにしてもお父様はお母様が亡くなってからは変わったと言うか、何を考えてるか分からないと言うか、不安定になったと言うか、そんな風に思える。
でも、お父様はソアリス様とお姉様の結婚は許したのよね?
「なんでお父様はお姉様の結婚を許したのかしら」
「あちらの方が爵位は上だから断れなかった。それにソアリス様からは結婚したらこちらの経済事情を少し支えてくれると言われたからな。彼はシュネルを愛していたようだし、断れなかったんだ……」
というのは過去の話。
今、お姉様は行方知れずとなりソアリス様は必死にお姉様を探している。私はもう正直諦めた方がいいんじゃないかって思ってる。それはソアリス様にも話したわ。けど彼は諦めたくないと言って私の話を聞いてくれない。
(何よ。さっさと私と結婚してくれたらいいのに)
私はお姉様が行方知れずになる前から、ソアリス様と関係を持っていた。ソアリス様からはぜひ子供を産んでほしいと熱望されていた。もし子供を産んだら私を正妻にしてくれるんじゃないかって思ってたけど……まだ私はそういう扱いはなされていない。
時間は残酷に過ぎていき、お姉様はまだ見つからないまま。
(もう死んでるでしょ。あんなに躍起になって探し回らなくても良いのに)
ある日。ソアリス様が謹慎処分になったという知らせが入って来た。自宅の屋敷でしばらくは謹慎処分を受けるらしい。期間は多分数日か1週間くらいと言う話も入って来た。
どうやら彼はお姉様を捜索しにデリアの町を訪れた際、お姉様によく似た看護婦の女を見つけたそうだ。お姉様だと思ったソアリス様は彼女を連れて帰ろうとした所ギルテット王子に見つかり阻止されたという。そしてこの事は王家にも伝えられ、ギルテット王子の関係者に対する罪として自宅謹慎を言い渡されたそうだった。
私は最初それを聞いた時、看護婦がお姉様じゃなくて良かった。と思った。いや、今でもそう思っているわ。だってその看護婦がお姉様だったら私はずっとソアリス様と「穏便に」結婚できないじゃない。お姉様がいないから穏便に結婚できるのもあるからお姉様はいない方が私にとっては都合が良いのだし。
ソアリス様が謹慎処分になっている時。私は王都にある侯爵家のお屋敷に招かれてそこで令嬢達とお茶会を楽しみながら話していた。
「あなたのお姉様であるシュネル夫人はまだ見つからないのね」
「ええ、そうなのぅ。お姉様はまだ見つからないんですぅ」
「かわいそうにね。ソアリス様ももうお諦めになったら良いのに」
本当にそうだわ。さっさと諦めてほしいのに。
「ソアリス様はお姉様の事をまだぁ、諦めきれないみたいでぇ……」
「前に夜会で結婚したばかりの2人を見た事あるけど、会話もろくにしていなかったからてっきり不仲なんだと思っていたわ。もしかしたらシュネル夫人が逃げ出しちゃったんじゃないかって」
「ああ! それ私もその時夜会にいたわ! 確かにシュネル夫人が逃げ出したというのはあり得そうね!」
お茶会は次第に私を置いてきぼりにして主催である侯爵夫人をメインに進んでいく。私の事なんてほとんど話題に上がらないので次第に飽きてしまった。なのでお茶会を抜け出したのだった。
(面白くないわね。さっさとお屋敷に戻りましょう)
侯爵家の屋敷を後にしようと馬車に乗り込んだ時だった。
「おい、勝手に抜け出したらまずいんじゃないのか?」
「お兄様……」
何よ。お茶会にバティスお兄様もいたの? はあ、面倒だわ。
「いいじゃない。私の話にはならないんだから」
「侯爵夫人がお前をお呼びだ。早く行かなければ嫌われてしまうぞ?」
「ちっ」
つい下品に舌打ちが出てしまった。だがバティス兄様がそう言うなら仕方ない。私は致し方なくお屋敷へと戻ったのだった。
ちなみにバティス兄様は国王陛下から特別に許可を取り謹慎中のソアリス様に会いに行っていたらしい。もうシュネルは見つからないので諦めたらどうだ。その方がシュネルも望んでいる事だ。と伝えたがソアリス様は諦めない。と一言告げただけだったらしい。
鞭で身体を叩く音がこっちまで聞こえてくる。うーーんお姉様がいなくなった辺りの頃だったかしら? もしくは最近? 詳しい時期は覚えてなくてもまあいっか。お父様は鞭で廊下にいるメイドを無差別に叩くようになった。それだけじゃなくて……例えばいきなり大声を上げたり癇癪の度合いも増えた。まあ、最初におかしくなったのはお母様が亡くなってからなんだけど。
なんでお姉様を虐めるのか、かつてお父様にそう聞いた事がある。お姉様がぐずでのろまだから? それともお姉様が嫌いだから? 私はそのどれかだと思っていた。けどどうも答えは違うみたい。
「俺はあいつを躾けなければならない」
「虐めたいって事?」
「そうかもしれんな……とにかく、あいつは俺が躾けなければならない存在なんだ」
「私はそうじゃないのね?」
「ああ、可愛いお前は躾けなくても大丈夫な存在だからな」
お父様はそう言って私を抱きしめて頭をなでてくれた。お母様が死ぬ前はよくお母様にこれをしてもらってたけどお母様が死んでからはお父様が代わりにしてくれるようになったっけ。それにしてもお父様はお母様が亡くなってからは変わったと言うか、何を考えてるか分からないと言うか、不安定になったと言うか、そんな風に思える。
でも、お父様はソアリス様とお姉様の結婚は許したのよね?
「なんでお父様はお姉様の結婚を許したのかしら」
「あちらの方が爵位は上だから断れなかった。それにソアリス様からは結婚したらこちらの経済事情を少し支えてくれると言われたからな。彼はシュネルを愛していたようだし、断れなかったんだ……」
というのは過去の話。
今、お姉様は行方知れずとなりソアリス様は必死にお姉様を探している。私はもう正直諦めた方がいいんじゃないかって思ってる。それはソアリス様にも話したわ。けど彼は諦めたくないと言って私の話を聞いてくれない。
(何よ。さっさと私と結婚してくれたらいいのに)
私はお姉様が行方知れずになる前から、ソアリス様と関係を持っていた。ソアリス様からはぜひ子供を産んでほしいと熱望されていた。もし子供を産んだら私を正妻にしてくれるんじゃないかって思ってたけど……まだ私はそういう扱いはなされていない。
時間は残酷に過ぎていき、お姉様はまだ見つからないまま。
(もう死んでるでしょ。あんなに躍起になって探し回らなくても良いのに)
ある日。ソアリス様が謹慎処分になったという知らせが入って来た。自宅の屋敷でしばらくは謹慎処分を受けるらしい。期間は多分数日か1週間くらいと言う話も入って来た。
どうやら彼はお姉様を捜索しにデリアの町を訪れた際、お姉様によく似た看護婦の女を見つけたそうだ。お姉様だと思ったソアリス様は彼女を連れて帰ろうとした所ギルテット王子に見つかり阻止されたという。そしてこの事は王家にも伝えられ、ギルテット王子の関係者に対する罪として自宅謹慎を言い渡されたそうだった。
私は最初それを聞いた時、看護婦がお姉様じゃなくて良かった。と思った。いや、今でもそう思っているわ。だってその看護婦がお姉様だったら私はずっとソアリス様と「穏便に」結婚できないじゃない。お姉様がいないから穏便に結婚できるのもあるからお姉様はいない方が私にとっては都合が良いのだし。
ソアリス様が謹慎処分になっている時。私は王都にある侯爵家のお屋敷に招かれてそこで令嬢達とお茶会を楽しみながら話していた。
「あなたのお姉様であるシュネル夫人はまだ見つからないのね」
「ええ、そうなのぅ。お姉様はまだ見つからないんですぅ」
「かわいそうにね。ソアリス様ももうお諦めになったら良いのに」
本当にそうだわ。さっさと諦めてほしいのに。
「ソアリス様はお姉様の事をまだぁ、諦めきれないみたいでぇ……」
「前に夜会で結婚したばかりの2人を見た事あるけど、会話もろくにしていなかったからてっきり不仲なんだと思っていたわ。もしかしたらシュネル夫人が逃げ出しちゃったんじゃないかって」
「ああ! それ私もその時夜会にいたわ! 確かにシュネル夫人が逃げ出したというのはあり得そうね!」
お茶会は次第に私を置いてきぼりにして主催である侯爵夫人をメインに進んでいく。私の事なんてほとんど話題に上がらないので次第に飽きてしまった。なのでお茶会を抜け出したのだった。
(面白くないわね。さっさとお屋敷に戻りましょう)
侯爵家の屋敷を後にしようと馬車に乗り込んだ時だった。
「おい、勝手に抜け出したらまずいんじゃないのか?」
「お兄様……」
何よ。お茶会にバティスお兄様もいたの? はあ、面倒だわ。
「いいじゃない。私の話にはならないんだから」
「侯爵夫人がお前をお呼びだ。早く行かなければ嫌われてしまうぞ?」
「ちっ」
つい下品に舌打ちが出てしまった。だがバティス兄様がそう言うなら仕方ない。私は致し方なくお屋敷へと戻ったのだった。
ちなみにバティス兄様は国王陛下から特別に許可を取り謹慎中のソアリス様に会いに行っていたらしい。もうシュネルは見つからないので諦めたらどうだ。その方がシュネルも望んでいる事だ。と伝えたがソアリス様は諦めない。と一言告げただけだったらしい。
1,322
お気に入りに追加
2,543
あなたにおすすめの小説
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
(完結)2度目の浮気は許しません。
ちゃむふー
恋愛
「すまなかった…!!俺が悪かった…!!もう2度としないから…!!許してくれっ…!!」
貴方が泣きながらそう言ったので、私は許して差し上げたのに…。
2度目は…容赦しませんよ??
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
舞台装置は壊れました。
ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。
婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。
『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』
全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り───
※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます
2020/10/30
お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o)))
2020/11/08
舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。
目を覚ました気弱な彼女は腹黒令嬢になり復讐する
音爽(ネソウ)
恋愛
家族と婚約者に虐げられてきた伯爵令嬢ジーン・ベンスは日々のストレスが重なり、高熱を出して寝込んだ。彼女は悪夢にうなされ続けた、夢の中でまで冷遇される理不尽さに激怒する。そして、目覚めた時彼女は気弱な自分を払拭して復讐に燃えるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる