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第16話 ジュリエッタ視点②
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バシッ!
鞭で身体を叩く音がこっちまで聞こえてくる。うーーんお姉様がいなくなった辺りの頃だったかしら? もしくは最近? 詳しい時期は覚えてなくてもまあいっか。お父様は鞭で廊下にいるメイドを無差別に叩くようになった。それだけじゃなくて……例えばいきなり大声を上げたり癇癪の度合いも増えた。まあ、最初におかしくなったのはお母様が亡くなってからなんだけど。
なんでお姉様を虐めるのか、かつてお父様にそう聞いた事がある。お姉様がぐずでのろまだから? それともお姉様が嫌いだから? 私はそのどれかだと思っていた。けどどうも答えは違うみたい。
「俺はあいつを躾けなければならない」
「虐めたいって事?」
「そうかもしれんな……とにかく、あいつは俺が躾けなければならない存在なんだ」
「私はそうじゃないのね?」
「ああ、可愛いお前は躾けなくても大丈夫な存在だからな」
お父様はそう言って私を抱きしめて頭をなでてくれた。お母様が死ぬ前はよくお母様にこれをしてもらってたけどお母様が死んでからはお父様が代わりにしてくれるようになったっけ。それにしてもお父様はお母様が亡くなってからは変わったと言うか、何を考えてるか分からないと言うか、不安定になったと言うか、そんな風に思える。
でも、お父様はソアリス様とお姉様の結婚は許したのよね?
「なんでお父様はお姉様の結婚を許したのかしら」
「あちらの方が爵位は上だから断れなかった。それにソアリス様からは結婚したらこちらの経済事情を少し支えてくれると言われたからな。彼はシュネルを愛していたようだし、断れなかったんだ……」
というのは過去の話。
今、お姉様は行方知れずとなりソアリス様は必死にお姉様を探している。私はもう正直諦めた方がいいんじゃないかって思ってる。それはソアリス様にも話したわ。けど彼は諦めたくないと言って私の話を聞いてくれない。
(何よ。さっさと私と結婚してくれたらいいのに)
私はお姉様が行方知れずになる前から、ソアリス様と関係を持っていた。ソアリス様からはぜひ子供を産んでほしいと熱望されていた。もし子供を産んだら私を正妻にしてくれるんじゃないかって思ってたけど……まだ私はそういう扱いはなされていない。
時間は残酷に過ぎていき、お姉様はまだ見つからないまま。
(もう死んでるでしょ。あんなに躍起になって探し回らなくても良いのに)
ある日。ソアリス様が謹慎処分になったという知らせが入って来た。自宅の屋敷でしばらくは謹慎処分を受けるらしい。期間は多分数日か1週間くらいと言う話も入って来た。
どうやら彼はお姉様を捜索しにデリアの町を訪れた際、お姉様によく似た看護婦の女を見つけたそうだ。お姉様だと思ったソアリス様は彼女を連れて帰ろうとした所ギルテット王子に見つかり阻止されたという。そしてこの事は王家にも伝えられ、ギルテット王子の関係者に対する罪として自宅謹慎を言い渡されたそうだった。
私は最初それを聞いた時、看護婦がお姉様じゃなくて良かった。と思った。いや、今でもそう思っているわ。だってその看護婦がお姉様だったら私はずっとソアリス様と「穏便に」結婚できないじゃない。お姉様がいないから穏便に結婚できるのもあるからお姉様はいない方が私にとっては都合が良いのだし。
ソアリス様が謹慎処分になっている時。私は王都にある侯爵家のお屋敷に招かれてそこで令嬢達とお茶会を楽しみながら話していた。
「あなたのお姉様であるシュネル夫人はまだ見つからないのね」
「ええ、そうなのぅ。お姉様はまだ見つからないんですぅ」
「かわいそうにね。ソアリス様ももうお諦めになったら良いのに」
本当にそうだわ。さっさと諦めてほしいのに。
「ソアリス様はお姉様の事をまだぁ、諦めきれないみたいでぇ……」
「前に夜会で結婚したばかりの2人を見た事あるけど、会話もろくにしていなかったからてっきり不仲なんだと思っていたわ。もしかしたらシュネル夫人が逃げ出しちゃったんじゃないかって」
「ああ! それ私もその時夜会にいたわ! 確かにシュネル夫人が逃げ出したというのはあり得そうね!」
お茶会は次第に私を置いてきぼりにして主催である侯爵夫人をメインに進んでいく。私の事なんてほとんど話題に上がらないので次第に飽きてしまった。なのでお茶会を抜け出したのだった。
(面白くないわね。さっさとお屋敷に戻りましょう)
侯爵家の屋敷を後にしようと馬車に乗り込んだ時だった。
「おい、勝手に抜け出したらまずいんじゃないのか?」
「お兄様……」
何よ。お茶会にバティスお兄様もいたの? はあ、面倒だわ。
「いいじゃない。私の話にはならないんだから」
「侯爵夫人がお前をお呼びだ。早く行かなければ嫌われてしまうぞ?」
「ちっ」
つい下品に舌打ちが出てしまった。だがバティス兄様がそう言うなら仕方ない。私は致し方なくお屋敷へと戻ったのだった。
ちなみにバティス兄様は国王陛下から特別に許可を取り謹慎中のソアリス様に会いに行っていたらしい。もうシュネルは見つからないので諦めたらどうだ。その方がシュネルも望んでいる事だ。と伝えたがソアリス様は諦めない。と一言告げただけだったらしい。
鞭で身体を叩く音がこっちまで聞こえてくる。うーーんお姉様がいなくなった辺りの頃だったかしら? もしくは最近? 詳しい時期は覚えてなくてもまあいっか。お父様は鞭で廊下にいるメイドを無差別に叩くようになった。それだけじゃなくて……例えばいきなり大声を上げたり癇癪の度合いも増えた。まあ、最初におかしくなったのはお母様が亡くなってからなんだけど。
なんでお姉様を虐めるのか、かつてお父様にそう聞いた事がある。お姉様がぐずでのろまだから? それともお姉様が嫌いだから? 私はそのどれかだと思っていた。けどどうも答えは違うみたい。
「俺はあいつを躾けなければならない」
「虐めたいって事?」
「そうかもしれんな……とにかく、あいつは俺が躾けなければならない存在なんだ」
「私はそうじゃないのね?」
「ああ、可愛いお前は躾けなくても大丈夫な存在だからな」
お父様はそう言って私を抱きしめて頭をなでてくれた。お母様が死ぬ前はよくお母様にこれをしてもらってたけどお母様が死んでからはお父様が代わりにしてくれるようになったっけ。それにしてもお父様はお母様が亡くなってからは変わったと言うか、何を考えてるか分からないと言うか、不安定になったと言うか、そんな風に思える。
でも、お父様はソアリス様とお姉様の結婚は許したのよね?
「なんでお父様はお姉様の結婚を許したのかしら」
「あちらの方が爵位は上だから断れなかった。それにソアリス様からは結婚したらこちらの経済事情を少し支えてくれると言われたからな。彼はシュネルを愛していたようだし、断れなかったんだ……」
というのは過去の話。
今、お姉様は行方知れずとなりソアリス様は必死にお姉様を探している。私はもう正直諦めた方がいいんじゃないかって思ってる。それはソアリス様にも話したわ。けど彼は諦めたくないと言って私の話を聞いてくれない。
(何よ。さっさと私と結婚してくれたらいいのに)
私はお姉様が行方知れずになる前から、ソアリス様と関係を持っていた。ソアリス様からはぜひ子供を産んでほしいと熱望されていた。もし子供を産んだら私を正妻にしてくれるんじゃないかって思ってたけど……まだ私はそういう扱いはなされていない。
時間は残酷に過ぎていき、お姉様はまだ見つからないまま。
(もう死んでるでしょ。あんなに躍起になって探し回らなくても良いのに)
ある日。ソアリス様が謹慎処分になったという知らせが入って来た。自宅の屋敷でしばらくは謹慎処分を受けるらしい。期間は多分数日か1週間くらいと言う話も入って来た。
どうやら彼はお姉様を捜索しにデリアの町を訪れた際、お姉様によく似た看護婦の女を見つけたそうだ。お姉様だと思ったソアリス様は彼女を連れて帰ろうとした所ギルテット王子に見つかり阻止されたという。そしてこの事は王家にも伝えられ、ギルテット王子の関係者に対する罪として自宅謹慎を言い渡されたそうだった。
私は最初それを聞いた時、看護婦がお姉様じゃなくて良かった。と思った。いや、今でもそう思っているわ。だってその看護婦がお姉様だったら私はずっとソアリス様と「穏便に」結婚できないじゃない。お姉様がいないから穏便に結婚できるのもあるからお姉様はいない方が私にとっては都合が良いのだし。
ソアリス様が謹慎処分になっている時。私は王都にある侯爵家のお屋敷に招かれてそこで令嬢達とお茶会を楽しみながら話していた。
「あなたのお姉様であるシュネル夫人はまだ見つからないのね」
「ええ、そうなのぅ。お姉様はまだ見つからないんですぅ」
「かわいそうにね。ソアリス様ももうお諦めになったら良いのに」
本当にそうだわ。さっさと諦めてほしいのに。
「ソアリス様はお姉様の事をまだぁ、諦めきれないみたいでぇ……」
「前に夜会で結婚したばかりの2人を見た事あるけど、会話もろくにしていなかったからてっきり不仲なんだと思っていたわ。もしかしたらシュネル夫人が逃げ出しちゃったんじゃないかって」
「ああ! それ私もその時夜会にいたわ! 確かにシュネル夫人が逃げ出したというのはあり得そうね!」
お茶会は次第に私を置いてきぼりにして主催である侯爵夫人をメインに進んでいく。私の事なんてほとんど話題に上がらないので次第に飽きてしまった。なのでお茶会を抜け出したのだった。
(面白くないわね。さっさとお屋敷に戻りましょう)
侯爵家の屋敷を後にしようと馬車に乗り込んだ時だった。
「おい、勝手に抜け出したらまずいんじゃないのか?」
「お兄様……」
何よ。お茶会にバティスお兄様もいたの? はあ、面倒だわ。
「いいじゃない。私の話にはならないんだから」
「侯爵夫人がお前をお呼びだ。早く行かなければ嫌われてしまうぞ?」
「ちっ」
つい下品に舌打ちが出てしまった。だがバティス兄様がそう言うなら仕方ない。私は致し方なくお屋敷へと戻ったのだった。
ちなみにバティス兄様は国王陛下から特別に許可を取り謹慎中のソアリス様に会いに行っていたらしい。もうシュネルは見つからないので諦めたらどうだ。その方がシュネルも望んでいる事だ。と伝えたがソアリス様は諦めない。と一言告げただけだったらしい。
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