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第1話 回想・グレゴリアス子爵家での日々
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ソアリス様と結婚する前。私はグレゴリアス子爵家の令嬢として生まれ、過ごしていた。私には子爵家当主の父親と夫人の母親、私の双子の兄でグレゴリアス子爵家の跡継ぎであるバティス兄様、そして末っ子で妹のジュリエッタ。の5人家族であった。
父親は厳格な人間で、特に跡継ぎであるバティス兄様には厳しくあたっていた。時には馬用の鞭でバティス兄様へしつけを施す事もあったくらいだ。
「こんな事もできないのか!」
バティス兄様が何か間違いを犯す度に、父親はバティス兄様を怒鳴りつけていた。それはバティス兄様だけでなく長女である私にも同じだった。
「シュネル! 貴様は令嬢だぞ?! テーブルマナーを間違えるなんてあってはならない事だ! 間違えるごとに食事の品を減らしてやる!」
「申し訳ありません、お父様……!」
「反省するなら態度だけでなく結果でも示せ!」
「は、はい……」
「ねえ、お姉様はなんで怒られているの?」
ジュリエッタはいつも私とバティス兄様が怒られている様子を面白そうに見つめていた。母親と同じ金髪碧眼で美しい容姿をしていたジュリエッタを父親はこれでもかと可愛がっていたのだった。私とバティス兄様は暗い茶髪だからより美しく見えていたのだろう。
母親は私やバティス兄様が父親に叱りつけられた時はそっと飴玉をくれて励ましてくれたり、ジュリエッタが私をからかった時は叱ってくれていたりもした。
しかし、私が7歳になった時。母親は亡くなった。彼女を乗せた馬車が橋の崩落事故に巻き込まれたからである。その時私とバティス、ジュリエッタも同じ馬車に乗っていたが、運良く助かった。
「あいつが死んだのはお前達のせいだ! お前達が盾にならないからああなったんだ!」
母親が亡くなってからは父親はより一層「おかしくなっていった」。母親の死を私とバティス兄様のせいにしたり、ジュリエッタの姿を母親に重ねてますます可愛がるようになった。
母親の葬式が終わって喪が明けた後。私はいつものように父親に理由もわからず叱られて離れに閉じ込められていた時の事だ。
いきなり離れの扉からがたごとという音がしたので、誰ですか? と聞くと僕だよ。とバティス兄様の声がした。
「シュネル。僕、学校に行く事になった」
「え、学校?」
「王立の男子校で全寮制なんだ。そこにはギルテット様もいるらしい」
ギルテット様。この国の王子様。私は彼にまだ会った事が無いけど、遠目からは見た事はある。金髪碧眼の美しい方だったし、素敵な方であるという話はバティス様やメイド、父親から聞いていたのである程度は知っていた。
「だからシュネルとはしばらく会えなくなる。ごめんね」
「しばらくって、どれくらい?」
「わからない。大人になるまで出して貰えないかも。僕はお父様が思っているような優秀な人間じゃあないから」
「そんな、私バティス兄様と離れたらもう……!」
「僕だってシュネルと一緒にいたい。でもお父様の命令だから……」
こうしてバティス兄様は学校へ入学し屋敷から去っていった。
私もゆくゆくは貴族学校へと入学する身とはいえバティス兄様が私の元から去っていったのはあまりにも辛かった。
バティス兄様が屋敷から去った後。案の定父親は私に対してより厳しくなった。
「本当にお前はのろまだな。このような簡単な事も出来ないとは」
「申し訳ございません……」
「お姉様また怒られたのぅ? バカなのね!」
父親から叱られ、ジュリエッタからは馬鹿にされる日が続いた。こんなの耐えられない。
そこで私はある事を考えた。それは修道院に入る事だ。修道院に入れば父親からの干渉も受けずに済む。それに修道院で修行をするという体なら父親も許すだろうという考えからだ。己を甘やかすより厳しく見せた方が父親への心象は良いだろうと考えたのだ。
「お父様」
「なんだ。手短に話すように」
「私を修道院に入れてください」
「……理由は?」
「神に身を捧げ、修行する為です。それに修道院ならお金もかかりません。浮いたお金でジュリエッタに良いドレスを与えてやってくださいませ」
父親はふん、と鼻を鳴らす。
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます……」
こうしてまだ幼い私は修道院に逃げた。修道院に来た時シスター達は私がまだまだ子供だったので驚いてはいたが皆優しく私を受け入れてくれた。
「シュネルさん。よろしくお願いいたしますね」
「はい。こちらこそご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
修道院での日々はそれまでのグレゴリアス家での日々と次元が違うくらいに楽しいものだった。
(このままシスターになるのも良いかもしれない)
私は勉強やお祈りだけでなく、奉仕活動にも参加した。奉仕活動は下層の平民や孤児などを相手する。彼らへ食事を提供したり身体を洗ってあげたりするのだ。
「どうぞ、お食べください」
「まあ、ちっちゃい子が頑張ってるねえ。ありがとう」
彼らの朗らかな笑顔を見るのが私の奉仕活動へのモチベーションに繋がったのは間違いなかった。
「私、シスターになります」
12歳の時。私はシスター長にそう告げた。シスター長は受け入れてくれたがそれと同時に父親が修道院にやってきたのだった。
「シュネル。屋敷に戻るぞ」
父親は厳格な人間で、特に跡継ぎであるバティス兄様には厳しくあたっていた。時には馬用の鞭でバティス兄様へしつけを施す事もあったくらいだ。
「こんな事もできないのか!」
バティス兄様が何か間違いを犯す度に、父親はバティス兄様を怒鳴りつけていた。それはバティス兄様だけでなく長女である私にも同じだった。
「シュネル! 貴様は令嬢だぞ?! テーブルマナーを間違えるなんてあってはならない事だ! 間違えるごとに食事の品を減らしてやる!」
「申し訳ありません、お父様……!」
「反省するなら態度だけでなく結果でも示せ!」
「は、はい……」
「ねえ、お姉様はなんで怒られているの?」
ジュリエッタはいつも私とバティス兄様が怒られている様子を面白そうに見つめていた。母親と同じ金髪碧眼で美しい容姿をしていたジュリエッタを父親はこれでもかと可愛がっていたのだった。私とバティス兄様は暗い茶髪だからより美しく見えていたのだろう。
母親は私やバティス兄様が父親に叱りつけられた時はそっと飴玉をくれて励ましてくれたり、ジュリエッタが私をからかった時は叱ってくれていたりもした。
しかし、私が7歳になった時。母親は亡くなった。彼女を乗せた馬車が橋の崩落事故に巻き込まれたからである。その時私とバティス、ジュリエッタも同じ馬車に乗っていたが、運良く助かった。
「あいつが死んだのはお前達のせいだ! お前達が盾にならないからああなったんだ!」
母親が亡くなってからは父親はより一層「おかしくなっていった」。母親の死を私とバティス兄様のせいにしたり、ジュリエッタの姿を母親に重ねてますます可愛がるようになった。
母親の葬式が終わって喪が明けた後。私はいつものように父親に理由もわからず叱られて離れに閉じ込められていた時の事だ。
いきなり離れの扉からがたごとという音がしたので、誰ですか? と聞くと僕だよ。とバティス兄様の声がした。
「シュネル。僕、学校に行く事になった」
「え、学校?」
「王立の男子校で全寮制なんだ。そこにはギルテット様もいるらしい」
ギルテット様。この国の王子様。私は彼にまだ会った事が無いけど、遠目からは見た事はある。金髪碧眼の美しい方だったし、素敵な方であるという話はバティス様やメイド、父親から聞いていたのである程度は知っていた。
「だからシュネルとはしばらく会えなくなる。ごめんね」
「しばらくって、どれくらい?」
「わからない。大人になるまで出して貰えないかも。僕はお父様が思っているような優秀な人間じゃあないから」
「そんな、私バティス兄様と離れたらもう……!」
「僕だってシュネルと一緒にいたい。でもお父様の命令だから……」
こうしてバティス兄様は学校へ入学し屋敷から去っていった。
私もゆくゆくは貴族学校へと入学する身とはいえバティス兄様が私の元から去っていったのはあまりにも辛かった。
バティス兄様が屋敷から去った後。案の定父親は私に対してより厳しくなった。
「本当にお前はのろまだな。このような簡単な事も出来ないとは」
「申し訳ございません……」
「お姉様また怒られたのぅ? バカなのね!」
父親から叱られ、ジュリエッタからは馬鹿にされる日が続いた。こんなの耐えられない。
そこで私はある事を考えた。それは修道院に入る事だ。修道院に入れば父親からの干渉も受けずに済む。それに修道院で修行をするという体なら父親も許すだろうという考えからだ。己を甘やかすより厳しく見せた方が父親への心象は良いだろうと考えたのだ。
「お父様」
「なんだ。手短に話すように」
「私を修道院に入れてください」
「……理由は?」
「神に身を捧げ、修行する為です。それに修道院ならお金もかかりません。浮いたお金でジュリエッタに良いドレスを与えてやってくださいませ」
父親はふん、と鼻を鳴らす。
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます……」
こうしてまだ幼い私は修道院に逃げた。修道院に来た時シスター達は私がまだまだ子供だったので驚いてはいたが皆優しく私を受け入れてくれた。
「シュネルさん。よろしくお願いいたしますね」
「はい。こちらこそご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」
修道院での日々はそれまでのグレゴリアス家での日々と次元が違うくらいに楽しいものだった。
(このままシスターになるのも良いかもしれない)
私は勉強やお祈りだけでなく、奉仕活動にも参加した。奉仕活動は下層の平民や孤児などを相手する。彼らへ食事を提供したり身体を洗ってあげたりするのだ。
「どうぞ、お食べください」
「まあ、ちっちゃい子が頑張ってるねえ。ありがとう」
彼らの朗らかな笑顔を見るのが私の奉仕活動へのモチベーションに繋がったのは間違いなかった。
「私、シスターになります」
12歳の時。私はシスター長にそう告げた。シスター長は受け入れてくれたがそれと同時に父親が修道院にやってきたのだった。
「シュネル。屋敷に戻るぞ」
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