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第56話 目撃
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「あれだ!」
部屋に入った龍環が指さした先にいたのは、黒い小さい狼のようなあやかしだった。空き部屋の右隅に潜むあやかしはすくっと立ち上がると龍環と桃玉を睨みつける。
「どんな見た目をしていますか?」
「黒くて小さい狼のような見た目をしている。だが……なんだかぼけて視えるな。視力が悪くなった気は無いのだが」
「疲れ目でしょうか?」
「いや、違うな……あやかしだけぼけて視える。とにかく浄化させよう」
「はい!」
いつものように右手の手のひらをめいっぱい広げて浄化の力を放出させる桃玉。何度もこの力を使ってきたおかげで力の放出にはだいぶ慣れてきていた。
あやかしは牙を剥き威嚇の姿勢を見せたが、浄化の光の球に身体を包まれると一瞬で消滅する。
「消えたな。呆気ない」
「……確か、小さいとおっしゃってましたよね? このあやかしは……例えるなら食べ残しを狙いに来ていたのでしょうか?」
「なるほど、確かにその可能性は高そうだな。小さいしあっけなく浄化されたからあれだけの人数を食い殺してきたものとは思えない」
(なら、今回の事件とは関係なさそうね)
部屋から退出しようとすると、陛下! と力分が勢い良く部屋に入ってきた。
「なんだ?」
「客人がお見えでございます」
「わかった、今行く。という訳で桃玉、また何かあれば文を渡す」
「かしこまりました、陛下」
力分と共に龍環は、朱龍宮を早歩きで後にする。
「陛下、あのお方とは……」
「桃玉とは話していただけだ。問題ない」
「桃玉……李昭容様でございますね」
「ああ、そうだがどうかしたか?」
「いえ、何も……」
力分は一瞬唇をギュッと結び、困ったかのような顔を見せたのだった。
「これはまずい……」
「力分、何か言ったか?」
「いえ、何も言ってませんよ。空耳でしょう」
力分の作り笑いを見た龍環は一瞬疑いの眼を向けるが、それ以上力分を追求する事はしなかった。
部屋に入った龍環が指さした先にいたのは、黒い小さい狼のようなあやかしだった。空き部屋の右隅に潜むあやかしはすくっと立ち上がると龍環と桃玉を睨みつける。
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「疲れ目でしょうか?」
「いや、違うな……あやかしだけぼけて視える。とにかく浄化させよう」
「はい!」
いつものように右手の手のひらをめいっぱい広げて浄化の力を放出させる桃玉。何度もこの力を使ってきたおかげで力の放出にはだいぶ慣れてきていた。
あやかしは牙を剥き威嚇の姿勢を見せたが、浄化の光の球に身体を包まれると一瞬で消滅する。
「消えたな。呆気ない」
「……確か、小さいとおっしゃってましたよね? このあやかしは……例えるなら食べ残しを狙いに来ていたのでしょうか?」
「なるほど、確かにその可能性は高そうだな。小さいしあっけなく浄化されたからあれだけの人数を食い殺してきたものとは思えない」
(なら、今回の事件とは関係なさそうね)
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「いえ、何も……」
力分は一瞬唇をギュッと結び、困ったかのような顔を見せたのだった。
「これはまずい……」
「力分、何か言ったか?」
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