54 / 79
第54話 お茶会(照天宮)と裏お茶会(朱龍宮)
しおりを挟む
「私が10歳の時です。いつものように文字の読み書きを習いにある役人の奥方の家へと向かっていたら、家には入れないと言われ、自宅へと戻ってきたら両親は殺されていたんです」
「桃玉……」
「役人の奥方も同じようにして殺されていました。3人ともあやかしに殺されたんです」
桃玉の脳裏には当時、両親の遺体を見つけた近所の人達の叫びがこだましていた。
――あ、あやかしの仕業じゃ……!
――心臓を喰らうあやかしの仕業じゃあ!
桃玉の話を聞いた龍環は天井を見上げる。そして桃玉へと向き直った。
「俺達は互いに親をあやかしに殺されたのかもしれない。もしかしたら今回の事件は俺達の大事な人を殺した者かもしれないな……」
「龍環様」
「桃玉。もし相手があやかしだったらどうする? これまで戦ってきたあやかし達とは次元が違う強さかもしれないぞ?」
ここまで人を喰らい、姿を現さないとなるとここまで桃玉が浄化してきたあやかし達とは比べ物にならない程の強敵である可能性は捨てきれない。
だが、桃玉の決意は決まっていた。
「戦います。その為に私はここにいるものだと理解していますから」
「言い切ったな」
「後宮内にはびこる悪しきあやかしを一掃したいと考えている。とかつて龍環様はおっしゃいました。私もその通りだと思いますし、私の両親や龍環様の母上様、そして他にも犠牲になった人達の事を考えると……戦うしかないと思います」
「良い目をしている」
じっくり桃玉の目を見る龍環。龍環の目の奥には複雑怪奇な感情が渦巻いていた。
「これは単なる敵討ちではない。俺達華龍国に住む者達の未来を守る為にも俺達は戦う必要がある」
「龍環様。私もあなたの考えに賛同します」
2人は互いに硬い握手を交わす。
「桃玉、一種に頑張ろう」
「はい、龍環様!」
決意を新たにした2人の目は、太陽のように輝いていたのだった。
◇ ◇ ◇
龍環と桃玉のお茶会が行われている裏で、朱龍宮でもお茶会が開かれていた。主催者は皇太后で、招かれている客人のうち女官は朱龍宮で業務に当たる者だ。客人の中には白い長髪の宦官の姿もあり、皇太后は彼を連れて個室へと入る。
「皇太后陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」
「青力分」
力分はうやうやしく皇太后に頭を下げる。皇太后はじっと彼の姿を見た。
「……匂いますね」
皇太后は力分の耳元に小声で囁く。力分は一瞬だけ目を見開いた。
「申し訳ありません」
力分は咳ばらいすると首を縦に振り、む、これで良いでしょう。と小さく呟いた。
「ええ……ああ、力分。最近の皇帝陛下のご様子はどうなのですか?」
皇太后からの問いに、力分はつつがなく。と一言だけ返した。ふたりっきりの状態で交わされる会話には氷のような緊張感が漂っている。
「なら良いわ。それで結構です」
「ですが、私はもっと薬を飲ませるべきだと考えております」
「なぜ?」
「こちらとしては念には念を入れておきたいのですよ。備えあれば憂いなしでしょう?」
「わかりました。では壊れない程度にお願いできますか? 未だ世継ぎのいないあの子が死んだら今度こそ私は用無しになってしまいますから」
皇太后の懇願するような目つきは珍しい代物だが、力分からすればこれまでもよく見てきた代物でもある。彼は彼女の目を品定めするように見つめた。
「わかりました。そのようにいたしましょう。あなたが息子を想う気持ちはよく伝わってきました」
「ありがとうございます。よかった……」
「その代わり、今晩もあなたの女官を食事として提供させてくださいね?」
「……っ。わかりました……」
皇太后の苦々しい顔からは、力分の意見は断れないのと、力分にはかなわないという諦めに似た2つの感情が張り付いていた。
「ふふ。よろしい。では私はこれにて失礼いたします」
「もう帰るのですか?」
「宦官として働くのは大変ですからね。ただでさえ病み上がりのこの身体には重労働過ぎます」
やれやれと笑いながら力分は、空気に溶けていくようにして姿を消した。個室には皇太后だけが残される。
「……これも仕方がない。仕方がないのよ」
ぽつりとつぶやいた皇太后は別室から皆のいる部屋へと戻ると、お茶会はお開きにすると告げる。
「もうお開きになさるのですか?」
「ええ、もう日没でしょう。早めに切り上げてゆっくり休むべきだと思ってね。皆、無理はよくありませんよ」
皇太后からの言葉に女官はぱっと笑顔を咲かせる。
「お気遣い感謝いたします」
女官達は率先して片づけを担う。てきぱきはつらつと働く女官達の姿を皇太后は目に焼き付けるようにして見つめていた。
「皇太后様。こちらお召し上がりになりますか? 先ほど厨房の者がお作りになったお菓子でございます」
女官の1人から小さな月餅風のお菓子を貰った皇太后は、小さくかじりながら平らげる。
「ごちそうさまでした」
皇太后の顔には笑顔は無かった。
◇ ◇ ◇
そして照天宮では龍環とのお茶会を終えた桃玉が女官達からお茶会はどうだったのか? という熱い質問攻めにあっていた。
「何もありませんよ。お話しただけです」
「でもでもお茶会はこれで2度目ですし……我々としても気になって」
「今起きている事件についても意見交換しました」
と、お茶会で交わされた話を桃玉が一部打ち明けると熱く盛り上がっていた空気は一気に重くなっていく。
「桃玉……」
「役人の奥方も同じようにして殺されていました。3人ともあやかしに殺されたんです」
桃玉の脳裏には当時、両親の遺体を見つけた近所の人達の叫びがこだましていた。
――あ、あやかしの仕業じゃ……!
――心臓を喰らうあやかしの仕業じゃあ!
桃玉の話を聞いた龍環は天井を見上げる。そして桃玉へと向き直った。
「俺達は互いに親をあやかしに殺されたのかもしれない。もしかしたら今回の事件は俺達の大事な人を殺した者かもしれないな……」
「龍環様」
「桃玉。もし相手があやかしだったらどうする? これまで戦ってきたあやかし達とは次元が違う強さかもしれないぞ?」
ここまで人を喰らい、姿を現さないとなるとここまで桃玉が浄化してきたあやかし達とは比べ物にならない程の強敵である可能性は捨てきれない。
だが、桃玉の決意は決まっていた。
「戦います。その為に私はここにいるものだと理解していますから」
「言い切ったな」
「後宮内にはびこる悪しきあやかしを一掃したいと考えている。とかつて龍環様はおっしゃいました。私もその通りだと思いますし、私の両親や龍環様の母上様、そして他にも犠牲になった人達の事を考えると……戦うしかないと思います」
「良い目をしている」
じっくり桃玉の目を見る龍環。龍環の目の奥には複雑怪奇な感情が渦巻いていた。
「これは単なる敵討ちではない。俺達華龍国に住む者達の未来を守る為にも俺達は戦う必要がある」
「龍環様。私もあなたの考えに賛同します」
2人は互いに硬い握手を交わす。
「桃玉、一種に頑張ろう」
「はい、龍環様!」
決意を新たにした2人の目は、太陽のように輝いていたのだった。
◇ ◇ ◇
龍環と桃玉のお茶会が行われている裏で、朱龍宮でもお茶会が開かれていた。主催者は皇太后で、招かれている客人のうち女官は朱龍宮で業務に当たる者だ。客人の中には白い長髪の宦官の姿もあり、皇太后は彼を連れて個室へと入る。
「皇太后陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」
「青力分」
力分はうやうやしく皇太后に頭を下げる。皇太后はじっと彼の姿を見た。
「……匂いますね」
皇太后は力分の耳元に小声で囁く。力分は一瞬だけ目を見開いた。
「申し訳ありません」
力分は咳ばらいすると首を縦に振り、む、これで良いでしょう。と小さく呟いた。
「ええ……ああ、力分。最近の皇帝陛下のご様子はどうなのですか?」
皇太后からの問いに、力分はつつがなく。と一言だけ返した。ふたりっきりの状態で交わされる会話には氷のような緊張感が漂っている。
「なら良いわ。それで結構です」
「ですが、私はもっと薬を飲ませるべきだと考えております」
「なぜ?」
「こちらとしては念には念を入れておきたいのですよ。備えあれば憂いなしでしょう?」
「わかりました。では壊れない程度にお願いできますか? 未だ世継ぎのいないあの子が死んだら今度こそ私は用無しになってしまいますから」
皇太后の懇願するような目つきは珍しい代物だが、力分からすればこれまでもよく見てきた代物でもある。彼は彼女の目を品定めするように見つめた。
「わかりました。そのようにいたしましょう。あなたが息子を想う気持ちはよく伝わってきました」
「ありがとうございます。よかった……」
「その代わり、今晩もあなたの女官を食事として提供させてくださいね?」
「……っ。わかりました……」
皇太后の苦々しい顔からは、力分の意見は断れないのと、力分にはかなわないという諦めに似た2つの感情が張り付いていた。
「ふふ。よろしい。では私はこれにて失礼いたします」
「もう帰るのですか?」
「宦官として働くのは大変ですからね。ただでさえ病み上がりのこの身体には重労働過ぎます」
やれやれと笑いながら力分は、空気に溶けていくようにして姿を消した。個室には皇太后だけが残される。
「……これも仕方がない。仕方がないのよ」
ぽつりとつぶやいた皇太后は別室から皆のいる部屋へと戻ると、お茶会はお開きにすると告げる。
「もうお開きになさるのですか?」
「ええ、もう日没でしょう。早めに切り上げてゆっくり休むべきだと思ってね。皆、無理はよくありませんよ」
皇太后からの言葉に女官はぱっと笑顔を咲かせる。
「お気遣い感謝いたします」
女官達は率先して片づけを担う。てきぱきはつらつと働く女官達の姿を皇太后は目に焼き付けるようにして見つめていた。
「皇太后様。こちらお召し上がりになりますか? 先ほど厨房の者がお作りになったお菓子でございます」
女官の1人から小さな月餅風のお菓子を貰った皇太后は、小さくかじりながら平らげる。
「ごちそうさまでした」
皇太后の顔には笑顔は無かった。
◇ ◇ ◇
そして照天宮では龍環とのお茶会を終えた桃玉が女官達からお茶会はどうだったのか? という熱い質問攻めにあっていた。
「何もありませんよ。お話しただけです」
「でもでもお茶会はこれで2度目ですし……我々としても気になって」
「今起きている事件についても意見交換しました」
と、お茶会で交わされた話を桃玉が一部打ち明けると熱く盛り上がっていた空気は一気に重くなっていく。
1
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
マンドラゴラの王様
ミドリ
キャラ文芸
覇気のない若者、秋野美空(23)は、人付き合いが苦手。
再婚した母が出ていった実家(ど田舎)でひとり暮らしをしていた。
そんなある日、裏山を散策中に見慣れぬ植物を踏んづけてしまい、葉をめくるとそこにあったのは人間の頭。驚いた美空だったが、どうやらそれが人間ではなく根っこで出来た植物だと気付き、観察日記をつけることに。
日々成長していく植物は、やがてエキゾチックな若い男性に育っていく。無垢な子供の様な彼を庇護しようと、日々奮闘する美空。
とうとう地面から解放された彼と共に暮らし始めた美空に、事件が次々と襲いかかる。
何故彼はこの場所に生えてきたのか。
何故美空はこの場所から離れたくないのか。
この地に古くから伝わる伝承と、海外から尋ねてきた怪しげな祈祷師ウドさんと関わることで、次第に全ての謎が解き明かされていく。
完結済作品です。
気弱だった美空が段々と成長していく姿を是非応援していただければと思います。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
花嫁ゲーム
八木愛里
ホラー
ある日、探偵事務所を営む九条アカネに舞い込んできた依頼は、「花嫁ゲーム」で死んだ妹の無念を晴らしてほしいという依頼だった。
聞けば、そのゲームは花嫁選別のためのゲームで、花嫁として選ばれた場合は結婚支度金10億円を受け取ることができるらしい。
九条アカネが調査を進めると、そのゲームは過去にも行われており、生存者はゼロであることが判明した。
依頼人の恨みを晴らすため、九条アカネはゲームに潜入して真相を解き明かす決意をする。
ゲームの勝者と結婚できるとされるモナークさまとは一体どんな人なのか? 果たして、九条アカネはモナークさまの正体を突き止め、依頼人の無念を晴らすことができるのか?
生き残りを賭けた女性たちのデスゲームが始まる。
結婚したくない腐女子が結婚しました
折原さゆみ
キャラ文芸
倉敷紗々(30歳)、独身。両親に結婚をせがまれて、嫌気がさしていた。
仕方なく、結婚相談所で登録を行うことにした。
本当は、結婚なんてしたくない、子供なんてもってのほか、どうしたものかと考えた彼女が出した結論とは?
※BL(ボーイズラブ)という表現が出てきますが、BL好きには物足りないかもしれません。
主人公の独断と偏見がかなり多いです。そこのところを考慮に入れてお読みください。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体などとは関係ありません。
※番外編を随時更新中。
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
たこ焼き屋さかなしのあやかし日和
山いい奈
キャラ文芸
坂梨渚沙(さかなしなぎさ)は父方の祖母の跡を継ぎ、大阪市南部のあびこで「たこ焼き屋 さかなし」を営んでいる。
そんな渚沙には同居人がいた。カピバラのあやかし、竹子である。
堺市のハーベストの丘で天寿を迎え、だが死にたくないと強く願った竹子は、あやかしであるカピ又となり、大仙陵古墳を住処にしていた。
そこで渚沙と出会ったのである。
「さかなし」に竹子を迎えたことにより、「さかなし」は閉店後、妖怪の溜まり場、駆け込み寺のような場所になった。
お昼は人間のご常連との触れ合い、夜はあやかしとの交流に、渚沙は奮闘するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる