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第54話 お茶会(照天宮)と裏お茶会(朱龍宮)

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「私が10歳の時です。いつものように文字の読み書きを習いにある役人の奥方の家へと向かっていたら、家には入れないと言われ、自宅へと戻ってきたら両親は殺されていたんです」
「桃玉……」
「役人の奥方も同じようにして殺されていました。3人ともあやかしに殺されたんです」

 桃玉の脳裏には当時、両親の遺体を見つけた近所の人達の叫びがこだましていた。

 ――あ、あやかしの仕業じゃ……!
 ――心臓を喰らうあやかしの仕業じゃあ!

 桃玉の話を聞いた龍環は天井を見上げる。そして桃玉へと向き直った。

「俺達は互いに親をあやかしに殺されたのかもしれない。もしかしたら今回の事件は俺達の大事な人を殺した者かもしれないな……」
「龍環様」
「桃玉。もし相手があやかしだったらどうする? これまで戦ってきたあやかし達とは次元が違う強さかもしれないぞ?」

 ここまで人を喰らい、姿を現さないとなるとここまで桃玉が浄化してきたあやかし達とは比べ物にならない程の強敵である可能性は捨てきれない。
 だが、桃玉の決意は決まっていた。

「戦います。その為に私はここにいるものだと理解していますから」
「言い切ったな」
「後宮内にはびこる悪しきあやかしを一掃したいと考えている。とかつて龍環様はおっしゃいました。私もその通りだと思いますし、私の両親や龍環様の母上様、そして他にも犠牲になった人達の事を考えると……戦うしかないと思います」
「良い目をしている」

 じっくり桃玉の目を見る龍環。龍環の目の奥には複雑怪奇な感情が渦巻いていた。

「これは単なる敵討ちではない。俺達華龍国に住む者達の未来を守る為にも俺達は戦う必要がある」
「龍環様。私もあなたの考えに賛同します」

 2人は互いに硬い握手を交わす。

「桃玉、一種に頑張ろう」
「はい、龍環様!」

 決意を新たにした2人の目は、太陽のように輝いていたのだった。

◇ ◇ ◇

 龍環と桃玉のお茶会が行われている裏で、朱龍宮でもお茶会が開かれていた。主催者は皇太后で、招かれている客人のうち女官は朱龍宮で業務に当たる者だ。客人の中には白い長髪の宦官の姿もあり、皇太后は彼を連れて個室へと入る。

「皇太后陛下、この度はお招きいただきありがとうございます」
青力分チン・リーフェン

 力分はうやうやしく皇太后に頭を下げる。皇太后はじっと彼の姿を見た。

「……匂いますね」

 皇太后は力分の耳元に小声で囁く。力分は一瞬だけ目を見開いた。

「申し訳ありません」

 力分は咳ばらいすると首を縦に振り、む、これで良いでしょう。と小さく呟いた。

「ええ……ああ、力分。最近の皇帝陛下のご様子はどうなのですか?」

 皇太后からの問いに、力分はつつがなく。と一言だけ返した。ふたりっきりの状態で交わされる会話には氷のような緊張感が漂っている。

「なら良いわ。それで結構です」
「ですが、私はもっと薬を飲ませるべきだと考えております」
「なぜ?」
「こちらとしては念には念を入れておきたいのですよ。備えあれば憂いなしでしょう?」
「わかりました。では壊れない程度にお願いできますか? 未だ世継ぎのいないあの子が死んだら今度こそ私は用無しになってしまいますから」

 皇太后の懇願するような目つきは珍しい代物だが、力分からすればこれまでもよく見てきた代物でもある。彼は彼女の目を品定めするように見つめた。

「わかりました。そのようにいたしましょう。あなたが息子を想う気持ちはよく伝わってきました」
「ありがとうございます。よかった……」
「その代わり、今晩もあなたの女官を食事として提供させてくださいね?」
「……っ。わかりました……」

 皇太后の苦々しい顔からは、力分の意見は断れないのと、力分にはかなわないという諦めに似た2つの感情が張り付いていた。

「ふふ。よろしい。では私はこれにて失礼いたします」
「もう帰るのですか?」
「宦官として働くのは大変ですからね。ただでさえ病み上がりのこの身体には重労働過ぎます」

 やれやれと笑いながら力分は、空気に溶けていくようにして姿を消した。個室には皇太后だけが残される。

「……これも仕方がない。仕方がないのよ」

 ぽつりとつぶやいた皇太后は別室から皆のいる部屋へと戻ると、お茶会はお開きにすると告げる。

「もうお開きになさるのですか?」
「ええ、もう日没でしょう。早めに切り上げてゆっくり休むべきだと思ってね。皆、無理はよくありませんよ」

 皇太后からの言葉に女官はぱっと笑顔を咲かせる。

「お気遣い感謝いたします」

 女官達は率先して片づけを担う。てきぱきはつらつと働く女官達の姿を皇太后は目に焼き付けるようにして見つめていた。

「皇太后様。こちらお召し上がりになりますか? 先ほど厨房の者がお作りになったお菓子でございます」

 女官の1人から小さな月餅風のお菓子を貰った皇太后は、小さくかじりながら平らげる。

「ごちそうさまでした」

 皇太后の顔には笑顔は無かった。

◇ ◇ ◇

 そして照天宮では龍環とのお茶会を終えた桃玉が女官達からお茶会はどうだったのか? という熱い質問攻めにあっていた。

「何もありませんよ。お話しただけです」
「でもでもお茶会はこれで2度目ですし……我々としても気になって」
「今起きている事件についても意見交換しました」

 と、お茶会で交わされた話を桃玉が一部打ち明けると熱く盛り上がっていた空気は一気に重くなっていく。
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