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第46話 ネズミのあやかしは月へと飛ぶ
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「うわっ」
ネズミのあやかしはその場でぴょんと人間のように跳ねて見せた。軽やかな動きに龍環は驚きながらネズミのあやかしの観察を続ける。
「このあやかし、跳躍力がすごいぞ」
「そうなのですか?!」
「ああ、今もぴょんぴょんと立ったまま後ろ脚だけで跳ねている」
「どこかに行きたいのでしょうか?」
桃玉の言葉を聞いたのか、ネズミのあやかしはぐっと後ろ脚に力を籠めると、夜空に浮かぶ満月に向かって行き王よく飛び上がった。
「飛んだ!」
龍環が叫ぶ。桃玉は満月の方向を見た。
「もしかして、このまま月へと飛ぶ気か?!」
「えっ、そのような事が可能なのですか?!」
「わからない。でも……昔から御伽噺か神話で月にも都があるという話、聞いた事があるだろう?」
華龍国には月にも宮殿があるという神話が存在する。神話を詳しく説明すると、月にある宮殿には不老不死の薬を盗み飲んで月へと逃げた者が暮らしていると言った内容だ。
「もしかしたらこのネズミ、月の宮殿に住んでいるあやかしなのか?」
「こっちに落ちてきたって事、ですか?」
「わからない、でもあのあやかしの姿は消えていった。もしかしたら月に戻ったのかもね」
龍環と桃玉は共に満月を眺めた。
「宮殿では良い暮らしを送れますように」
「ああ……確かにな。長生きしてほしいものだ」
(ずっとこのままでいれたら良いのに)
「どうした? 桃玉」
龍環が桃玉の顔を見つめる。桃玉は心のうちで考えた事をへへ……。と笑いながら語るも、やがて謎の羞恥心を覚えてしまう。
(何を言ってるんだ、自分。いや、龍環様とはそもそも契約の関係であって……)
「そうか、ちょうど俺もそんな気持ちだったかな……なんて」
「え?」
「あれ、聞こえなかった? ならいいや」
龍環は桃玉の肩を右手でそっと抱き寄せるとぽんぽんと桃玉の頭を撫でる。そんな彼の顔はほんの少しだけ照れくさそうに紅潮していたが暗闇によってかき消されていたので桃玉は気づかなかった。
そして2人はずっと満月と星々が煌めく空を東屋から眺めていたのだった。肩を寄せ合い、時折満月や星を指さしながら語らう2人の姿は契約を感じさせないくらい、ほほえましいものだったのである。
◇ ◇ ◇
「ふわあ……」
月宴が終わり、翌朝。自室の架子床で目覚めた桃玉は大きなあくびをする。
(昨日寝るの遅かったから、眠気がまだ残っている……)
「桃玉様、おはようございます」
「皆さんおはようございます……」
「桃玉様、大丈夫ですか……?」
女官から心配の表情で見つめられるも桃玉は何とか大丈夫です……と迫りくるあくびを我慢しながら答える。
(皇太后陛下の挨拶が終わってから二度寝しよ……)
結局眠気が抑えきれなかった桃玉は皇太后への朝の挨拶が終わった後、架子床の上に倒れこむようにして二度寝してしまったのである。
「……はっ」
気が付くとすでに昼過ぎ。桃玉は架子床から四つん這いになって起き上がる。うつぶせで長らく眠っていたせいか身体の節々に痛みを感じていた。
「いたた……」
桃玉がもぞもぞと架子床から椅子へと移動していると、部屋の外から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。
「だっ誰か――!」
ネズミのあやかしはその場でぴょんと人間のように跳ねて見せた。軽やかな動きに龍環は驚きながらネズミのあやかしの観察を続ける。
「このあやかし、跳躍力がすごいぞ」
「そうなのですか?!」
「ああ、今もぴょんぴょんと立ったまま後ろ脚だけで跳ねている」
「どこかに行きたいのでしょうか?」
桃玉の言葉を聞いたのか、ネズミのあやかしはぐっと後ろ脚に力を籠めると、夜空に浮かぶ満月に向かって行き王よく飛び上がった。
「飛んだ!」
龍環が叫ぶ。桃玉は満月の方向を見た。
「もしかして、このまま月へと飛ぶ気か?!」
「えっ、そのような事が可能なのですか?!」
「わからない。でも……昔から御伽噺か神話で月にも都があるという話、聞いた事があるだろう?」
華龍国には月にも宮殿があるという神話が存在する。神話を詳しく説明すると、月にある宮殿には不老不死の薬を盗み飲んで月へと逃げた者が暮らしていると言った内容だ。
「もしかしたらこのネズミ、月の宮殿に住んでいるあやかしなのか?」
「こっちに落ちてきたって事、ですか?」
「わからない、でもあのあやかしの姿は消えていった。もしかしたら月に戻ったのかもね」
龍環と桃玉は共に満月を眺めた。
「宮殿では良い暮らしを送れますように」
「ああ……確かにな。長生きしてほしいものだ」
(ずっとこのままでいれたら良いのに)
「どうした? 桃玉」
龍環が桃玉の顔を見つめる。桃玉は心のうちで考えた事をへへ……。と笑いながら語るも、やがて謎の羞恥心を覚えてしまう。
(何を言ってるんだ、自分。いや、龍環様とはそもそも契約の関係であって……)
「そうか、ちょうど俺もそんな気持ちだったかな……なんて」
「え?」
「あれ、聞こえなかった? ならいいや」
龍環は桃玉の肩を右手でそっと抱き寄せるとぽんぽんと桃玉の頭を撫でる。そんな彼の顔はほんの少しだけ照れくさそうに紅潮していたが暗闇によってかき消されていたので桃玉は気づかなかった。
そして2人はずっと満月と星々が煌めく空を東屋から眺めていたのだった。肩を寄せ合い、時折満月や星を指さしながら語らう2人の姿は契約を感じさせないくらい、ほほえましいものだったのである。
◇ ◇ ◇
「ふわあ……」
月宴が終わり、翌朝。自室の架子床で目覚めた桃玉は大きなあくびをする。
(昨日寝るの遅かったから、眠気がまだ残っている……)
「桃玉様、おはようございます」
「皆さんおはようございます……」
「桃玉様、大丈夫ですか……?」
女官から心配の表情で見つめられるも桃玉は何とか大丈夫です……と迫りくるあくびを我慢しながら答える。
(皇太后陛下の挨拶が終わってから二度寝しよ……)
結局眠気が抑えきれなかった桃玉は皇太后への朝の挨拶が終わった後、架子床の上に倒れこむようにして二度寝してしまったのである。
「……はっ」
気が付くとすでに昼過ぎ。桃玉は架子床から四つん這いになって起き上がる。うつぶせで長らく眠っていたせいか身体の節々に痛みを感じていた。
「いたた……」
桃玉がもぞもぞと架子床から椅子へと移動していると、部屋の外から絹を裂くような悲鳴が聞こえてきた。
「だっ誰か――!」
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