上 下
38 / 79

第38話 商徳妃に取り憑いたあやかし

しおりを挟む
 一旦屋外に出た2人は商徳妃のいる建物へと早歩きで移動していく。

「商徳妃が終われば、美人才人達だな……さて、どれくらいの数に及んでいるか」
「そうですね……」

 2人は商徳妃のいる建物へと到着すると、彼女の部屋へと入室し女官達に避難するようにと指示した。
 女官達が全員商徳妃のいる部屋から避難したのを確認した2人は、改めて彼女の様子を見る。

「さっきとおなじあやかしだな……だが、数が多い」

 架子床の上であおむけになっている商徳妃の額には、佳賢妃と同じ文様が浮かび上がっていた。そして彼女の身体を取り巻くようにして黒い狐のあやかしがくつろいでいたり、龍環へ威嚇行動を見せたりしている。

「どれくらいいますか?」
「ふむ……ざっと数えてみた所10はいるな」
「え、そんなに……?」
「ああ、佳賢妃にいたのは1匹だけだったが……」
「数の暴力って事にならなければいいのですが……」

 試しに桃玉は右手を商徳妃の右わき腹付近に伸ばしてみた。すると、近くにいた黒い狐のあやかしは桃玉の右手の甲にほおずりをし始める。

「おい、なんか懐かれているみたいだぞ。君の手の甲にほおずりしている」
「えっ……? な、なんでまた……」
「おそらくは、生まれたばっかりなんじゃあないか? このあやかし達。だから敵意をほとんど見せてこない」
「ああ、生まれてきたばかりだからまだ善悪がよくわかっていないって事でしょうか」
「多分な。だが情けは不要。商徳妃がこうなっている以上彼らが悪しきあやかしである事には変わらない。桃玉、頼む」
「そうですよね……わかりました……!」

 首を縦に振り、覚悟を決めたのち両手を伸ばした桃玉。両手から放たれる浄化の光によって、黒い狐のあやかし達は続々と浄化されていく。
 しかし残された1匹が全身の毛を逆立て、桃玉の元へと飛び込んできた。

「桃玉! あやかしが君に!」

 桃玉はそのまま後ろ向きに倒れてしまう。が、彼女の手は黒い狐のあやかしを抱きしめるようにして捕えていた。
 桃玉が起き上がるべく手を放そうとした瞬間、龍環はまった! と声をあげる。

「桃玉、その手を放すなよ。今、その中に黒い狐のあやかしがいる!」
「という事は、私が抱きしめてるって感じですか?!」
「そういう事だ! よし、今から俺が指示するからその通りに手を動かすんだ!」
「はいっ」

 龍環はしゃがみこみ、じっと桃玉と黒い狐のあやかしを見つめる。

「まずは右手の肘から下を天井に向けて」
「……こうですね?」
「ああ、合ってる。でもって左手はそのまま動かさないで」
「はい」

 桃玉の腕の中にいる黒い狐のあやかしは、じたばたと身体を動かし、その場から離れようとしている。

「左手はもっと力をこめるんだ! あやかしが逃げようとしている!」
「わかりました!」
「よし、浄化の力を右手から放て!」
「了解です!」

 桃玉は龍環から言われた通りに右手から浄化の力を放出させる。放たれた青白い光の球は、桃玉の腕を噛もうとしていた黒い狐のあやかしの身体にまとわりつき、そのまま浄化へと至らしめた。

「よし、完全に浄化された。ほら、腕につかまって」
「よかった……よいしょっと」

 龍環に引っ張られるようにして身を起こした桃玉。架子床からはん……。と商徳妃の小さな声が聞こえる。

「あ、私、は……」
「商徳妃様……!」
「あ、あなたは……李昭容。なぜ、ここに? あ、皇帝陛下も……!」
「見舞いに訪れていたのだ。そして桃玉は君を看病していたという訳だな。ああ、そうだ。佳賢妃もさっき目覚めたぞ」

 架子床から上半身を起こし、ぽかんとした表情で桃玉を見る商徳妃。えへへ……とその場しのぎの作り笑いを浮かべる桃玉に対し、商徳妃は笑顔を見せた。

「ありがとう。桃玉。あなたがこんなに優しい子だったなんて知らなかったわ」
「あ、いや……その、言われた事をしたまでですので。佳賢妃様も商徳妃様もお元気になられて本当によかったです」
「そう……」
「桃玉、次へ行くぞ」
「わかりました……!」

 部屋から出ようと踵を返す2人を、商徳妃が待って! と声をかけた。

「桃玉、よかったら今度みんなでお茶会しましょう。快気祝いって事で。佳賢妃も呼ぶから」
「ええ! ありがとうございます!」

 部屋から早歩きで去っていく商徳妃は、2人の背中が視界から消えていくまでじっと見つめていた。

「なんだか……不思議な子ね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~

束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。 八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。 けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。 ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。 神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。 薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。 何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。 鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。 とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

マンドラゴラの王様

ミドリ
キャラ文芸
覇気のない若者、秋野美空(23)は、人付き合いが苦手。 再婚した母が出ていった実家(ど田舎)でひとり暮らしをしていた。 そんなある日、裏山を散策中に見慣れぬ植物を踏んづけてしまい、葉をめくるとそこにあったのは人間の頭。驚いた美空だったが、どうやらそれが人間ではなく根っこで出来た植物だと気付き、観察日記をつけることに。 日々成長していく植物は、やがてエキゾチックな若い男性に育っていく。無垢な子供の様な彼を庇護しようと、日々奮闘する美空。 とうとう地面から解放された彼と共に暮らし始めた美空に、事件が次々と襲いかかる。 何故彼はこの場所に生えてきたのか。 何故美空はこの場所から離れたくないのか。 この地に古くから伝わる伝承と、海外から尋ねてきた怪しげな祈祷師ウドさんと関わることで、次第に全ての謎が解き明かされていく。 完結済作品です。 気弱だった美空が段々と成長していく姿を是非応援していただければと思います。

フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました

あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。 明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。 明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!? 悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく! *ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

処理中です...