後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

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第26話 再びの検死と被害者

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「じゃあ、そういう事で。明日の朝起床後すぐに検死に入る。それでいいかな?」
「はい、よろしくお願いします……!」
「決まりね。明日はいつもより早めに起床する。桃玉、もう寝よう」
「は、はい……! そうですね……、ではおやすみなさい」
「おやすみ。良い夢を」

 2人はこうして布団をかぶり、目をつむったのだった。
 翌朝。夜明け前に起床した龍環は、まだ熟睡中の桃玉の右肩をゆすって彼女を起こす。

「桃玉。桃玉――」
「ん――むにゃむにゃ……」
「桃玉! 時間だ!」
「はっ! あ、おはようございます!」

 飛び起きた桃玉はその場ですみません……! と座礼すると龍環はそこまで謝るほどでもない。とたしなめた。

「という訳で……すぐに検死を行わねば」

 龍環は閨から出ると、宦官らを呼びすぐに再び花の遺体の検死を行うと告げる。

「準備を頼む!」
「かしこまりました……!」
「俺達は花の遺体が収容されている建物へ向かおう。その前に桃玉と俺の分の着替えを用意してくれ」
「はっ!」

 寝間着からそれぞれ着替えた2人は、宦官に付き添われて花の遺体が収容されている建物に移動した。

「皇帝陛下、李昭容様。どうぞこちらに」
「わかった」

 宦官により案内された先にあったのは小さな個室。個室内にある巨大な台の上に横たわる花の遺体の周囲には、氷が入った袋があちこちに置かれている。

「医者達は?」
「はっ、陛下。今来ております」
「了解した。引き続き準備を進めよ」
「はっ」
「桃玉、左手を見てくれないか?」
「かしこまりました……あれ?」

 何かに気がついた桃玉に対し、龍環はどうした? と声を掛ける。

「中指の爪の中に、何やら光るものが……」
「! これは……!」

 花の左手の中指の爪には、小さな小さな銀色に光る鱗のようなものが挟まっていた。

「水龍表演で見たものと同じやつだ……!」
「! ま、まさか……」
「……あやかしか?」
「人魚……!」
「お待たせしました……!」

 ようやく医者が駆けつけた所で、検死が始まった。

「あの、この左中指の爪に入っているものですが……」
「おや? このようなものは今気が付きましたな。李昭容様ご指摘ありがとうございます」
「いえ、この鱗のようなものですが……池に住まう魚にはこのような鱗を持つものはいるのでしょうか?」
(少しでも可能性を潰しておきたい……)
「皇帝陛下、お調べしてはいかがでしょうか?」

 宦官からの提案に、龍環は大きく首を縦に振った。しかしその直後、龍環は顔を大きくしかめる。

「! 皇帝陛下!」
「案ずるな桃玉。ただの頭痛だ……」
「あまり無理はしない方が……」
「慣れている。心配するな」

 気遣う桃玉へ、龍環は作り笑いをしながら手で静止した。

「桃玉の言う通り、厨房でこのような鱗を持つ魚が龍羽池にいないか調べてほしい」

 龍環が宦官に指示を出すと、宦官はかしこまりました。と深々と礼をした。

「あとは医者達よ、前回から新たな発見があるか否か調査してほしい」
「はっ!」

 医者達へ指示をした後、建物から出た桃玉と龍環、そして宦官達の前に、1人の30代くらいの小柄で痩せ気味な下女が血相を変えて飛び込んできた。

「陛下! 大変でございます!」
「どうした、申してみよ」
「龍羽池に、私の友人が……! 友人が、死んでるのがっ見つかって……!」
「なんだと?! すぐに向かう!」

 その場に崩れ落ち泣き出した下女を宦官が抱えあげながら桃玉達は現場へと走った。

「! あれは!」

 桃玉達の目の前には、1人の女性の遺体が漂着しているのが見えた。宦官に抱えあげられている下女と同じくらいの年頃に、華奢で右口元にやや大きめのほくろがあるが、身体のあちこちに花の遺体同様縄か何かで締め付けられた跡がある。
 更にこの女性の遺体は、右膝から下が何者かによって食いちぎられ欠損していた。欠損部位からはまだ血が止まる事なく流れ続けている。

「この者か……ひどいな。……しかも花の遺体よりも損傷具合が激しい」
「ええ、陛下。これは……」
「あやかしのせいかもしれない。この川に人の足を食いちぎるような魚がいるとは……俺には思えない」
(やはり、あやかしのせい……でも、そうだとしたら前回の蜘蛛のようなあやかしよりも手強い気がしてきた……)

 宦官の手により死亡確認がなされ、彼女を弔う姿勢を見せた桃玉達。その後彼女はギュッと服の裾を右手で掴んで、迫り上がってくる不安から耐えた。



 
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