上 下
9 / 79

第9話 契約関係

しおりを挟む
「これが、あやかしを浄化し祓う力……」

 桃玉が壺から手を抜くと、手のひらをじっと見つめる。龍環はもう壺の中のあやかしはすべて浄化されたと桃玉に教えると、桃玉はよかったです。と安堵した表情をうかべた。

「そうだよ、桃玉。その様子だと多分手ごたえを感じたようだね」
「はい。なんとなくコツを掴めたような気がします。しかしながら……どうして龍環様は、私にこのような力があるとわかったのですか?」

 桃玉からの問いに龍環はよく聞いてくれた。と答える。

「実は占いをした所、君の姿が浮かんだんだ」
「龍環様が占いをなされたのですか?」
「そうだ。こう見えて占いは得意でね。卜占とか易とか色々と」

 占いが得意だと語る龍環は、まるで自慢をするかのような表情を浮かべる。

(占いには自信があるみたいね)
「それで、君の名前が出たわけさ。李桃玉」
「そうだったのですか……すごい、占いの力って」
「そうだろう? 俺は幼い頃からあやかしと接してきたせいか占いやおまじないの類が好きでね」

 くすっと笑いながら語る龍環に、桃玉はかわいいな……。と心の中でつぶやく。

「で、だ。俺はこれから君と共に後宮内にはびこる悪しきあやかしを一掃したいと考えている」
「あやかし……後宮内にはそんなにいるのですか?」
「ああ。ここは魑魅魍魎が跋扈する後宮。俺からの寵愛を得ようと日々努力し誰かを陥れたりする女達の裏側では人心をもてあそび、恐怖に陥れるあやかしどもがいる」
「そ、そんなに……」
「俺にはあやかしを視る目はあっても、祓う力はない。だが、君には祓う力がある。足りない部分を補える構図だという訳だ。だから君を後宮に迎えた」
「なるほど」

 自身を後宮に迎えた理由を知った桃玉はうんうん。と首を小さく縦に降った。

「これから君は、表向きは後宮の妃・李昭容として活動し、裏ではあやかし祓いに協力してもらう。この契約に同意してくれるね?」
「契約を交わす形なんですね?」
「ああ。ここに署名をよろしく頼む」

 龍環が懐から小さく折り畳まれた紙を取り出し、広げると桃玉の目の前に突き出した。

「桃玉は文字書ける?」
「はい」
「では、どうぞ」

 龍環が筆と墨と硯一式を桃玉に用意した。桃玉は契約書に書かれた内容に目を通してからさらさらと自身の名前を書く。

(内容は……龍環様がさっき言った事と同じね)
「出来ました」
「ありがとう。では受け取ろう」

 桃玉の名前が記された契約書を龍環は優しく受け取った。

「では、よろしく頼むよ。桃玉。あと、この事は内密にな」
「よろしくお願いします。龍環様」

 2人は硬い握手を交わしたのだった。

「そういえば私はなぜ昭容に?」

 桃玉からの質問に龍環はよく気がついた。と反応を示す。

「昭容が1番都合が良いからだよ。下女に女官に二十七世婦となると位が低いから妃達の目に悪い意味で留まりやすい。しかし四夫人はすでに満席。となると真ん中の九嬪が1番良さそうだろう? それに昭容は空位だったからね」
「な、なるほど……!」

 実際、後宮内では、皇帝からの寵愛を受けている対象の位が低ければ低いほどいじめが起こりやすい。

「だが、気をつけてほしい。ここは何が起こるかはわからないからね」
「は、はい」
(だよね、後宮だもんね)
「じゃあ、そういう事で。続きは夜に話そう。夜伽の場なら人払いが出来るから」
「わ、わかりました。えっ、よ、夜伽!?」

 桃玉は処女である。そういった行為の経験は勿論ない。

「そういうのはしないよ。作戦会議だ」
「あ……良かった……」
「……なに? してほしかった?」

 いたずらっぽくにやりと笑う龍環。桃玉は顔を赤らめながら違います! と否定するのがやっとだった。
 ひとしきり話を終えた龍環は、執務に戻ると言って照天宮から去っていく。龍環と入れ替わるように、桃玉付きの女官達が照天宮に入ってきた。

「桃玉様。わからない事がございましたらいつでもお申し付けくださいね」

 女官の1人からの声かけに、桃玉はわかりました……! と返事した。

「桃玉様。お腹は空いてませんか?」
「あ……お昼まだ食べてないや……」
「お食事お持ちいたします」

 女官のうち3人くらいが一旦桃玉のいる部屋から離れていった。しばらくすると彼女達はお膳を持って桃玉のいる部屋へと戻って来る。

「お待たせいたしました」

 桃玉はそのお膳の上に盛られた食事の量を見るや否や、えっ?! と驚きの声を発する。

「そんなに量あるの?!」
「ええ、そうでございます。妃達は位が高ければ高くなる程、お召し上がりになるお食事の質も量も豪華になっていきます。桃玉様は昭容の位にでございますのでこれくらいにはなりますね……」
(ええ……! た、食べきれるかなあ……)

 お膳に並べられた料理はエビの唐揚げに鳥肉と卵のスープ、葉野菜の黒コショウ炒めなどと様々なおかずが美しいお皿に盛られて並べられている。もちろん主食であるごはんもあった。ごはんの粒はどれを取って見ても真っ白く輝いている。

(いやでも美味しそうだなあ……ほんと、贅沢って感じで……! あ、でも……毒とか入ってないよね?)
「あの、これって毒見してます?」

 桃玉はおそるおそる、左隣にいた中年くらいの女官に尋ねたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~

束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。 八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。 けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。 ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。 神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。 薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。 何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。 鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。 とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。

マンドラゴラの王様

ミドリ
キャラ文芸
覇気のない若者、秋野美空(23)は、人付き合いが苦手。 再婚した母が出ていった実家(ど田舎)でひとり暮らしをしていた。 そんなある日、裏山を散策中に見慣れぬ植物を踏んづけてしまい、葉をめくるとそこにあったのは人間の頭。驚いた美空だったが、どうやらそれが人間ではなく根っこで出来た植物だと気付き、観察日記をつけることに。 日々成長していく植物は、やがてエキゾチックな若い男性に育っていく。無垢な子供の様な彼を庇護しようと、日々奮闘する美空。 とうとう地面から解放された彼と共に暮らし始めた美空に、事件が次々と襲いかかる。 何故彼はこの場所に生えてきたのか。 何故美空はこの場所から離れたくないのか。 この地に古くから伝わる伝承と、海外から尋ねてきた怪しげな祈祷師ウドさんと関わることで、次第に全ての謎が解き明かされていく。 完結済作品です。 気弱だった美空が段々と成長していく姿を是非応援していただければと思います。

太陽と月の終わらない恋の歌

泉野ジュール
キャラ文芸
ルザーンの街には怪盗がいる── 『黒の怪盗』と呼ばれる義賊は、商業都市ルザーンにはびこる悪人を狙うことで有名だった。 夜な夜な悪を狩り、盗んだ財産を貧しい家に届けるといわれる黒の怪盗は、ルザーンの光であり、影だ。しかし彼の正体を知るものはどこにもいない。 ただひとり、若き富豪ダヴィッド・サイデンに拾われた少女・マノンをのぞいては……。 夜を駆ける義賊と、彼に拾われた少女の、禁断の年の差純愛活劇!

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

処理中です...