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第7話 後宮へ
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「いや、その……桃玉はだな……われらの村をあやかしから守るべく生贄として……」
村長が声を震わせながら若い男へと声を発する。
「それがどうした? 俺は皇帝ぞ。我が命令が聞けぬと申すか?」
若い男……この華龍国の皇帝・龍環はにやりと口角をあげた笑みを浮かべると、村長は慌てふためきながら手をじたばたと動かすという挙動不審な動きを見せる。
「こ、皇帝陛下?! ど、どうしてこの地に訪れ……!」
「それは内緒。ほら、桃玉。こっちに飛び込んでおいで」
「へっ?!」
(こ、皇帝陛下がなんでここに来て私の名前も知ってるのかわからないけど……! で、でもこれは死なずに済む良い機会かもっ……!)
桃玉は困惑した表情を浮かべながらも、御輿から立ち上がって、いつの間にかすぐ隣まで馬に跨ったまま駆け寄って来た龍環に抱き着くようにして飛び込んだ。龍環は桃玉をお姫様抱っこで受け止める。
長く艶々とした黒髪にきらめく翡翠のような瞳。長身美形の龍環の顔がすぐ近くに見えた事で、桃玉の心臓がどきっと跳ねる。
(わっすごい……美形でかっこいい……!)
「良い子だ。桃玉。じゃあ後宮へと行こうか。君を妃として迎えよう」
(きっ妃?……今、妃っていった?)
「へ、へいか……! え、えっとその……!」
「理由は後宮に到着したら聞かせてあげる。ああ、君に一目惚れとかそう言うのではないんだけどね。ほら、しっかり捕まって」
(一目惚れじゃないんだ……じゃあ、なぜ?)
桃玉は龍環の前に跨る。桃玉を抱きしめるようにして馬の手綱を握る龍環は引き連れていた部下達に、宮廷へと戻るように指示を出した。
「はっ!」
馬が勢いよく疾駆していく。その様子を村長達は口をぽかんと開けたまま見つめるより他なかった。
しかし、桃玉のおじだけはしっかりとした目つきで遠ざかっていく桃玉の背中を目に焼き付けている。
「桃玉……幸せになるんだよ」
桃玉のおじは担いでいた御輿から手を離し、合掌をして桃玉の幸せを祈ったのだった。
◇ ◇ ◇
「あ、あの……私、本当に後宮入りするんですか? 皇帝陛下の妃になるのですか?」
桃玉は自分が後宮入りするという事に対して驚きとちょっとした恐怖心を抱いていた。
(後宮ってあれよね? 皇帝陛下の妃や女官達がいるところよね? 一度後宮入りしたら二度と戻ってこれなくて、妃達が皇帝陛下からのご寵愛を得ようとばちばちしてるって噂の……!)
ぐるぐると思案している桃玉を、後ろから龍環がにこやかな顔をしながら「そうだよ」と語る。
「そうなのですね……私、本当に後宮入りするんだあ……妃になるんだ……わわわ」
「実感が無いようだな。でも決まった事だ。あのまま生贄に捧げられて死ぬよりかはましだろう?」
「そっそれは確かに……そうですけどね……でも、自分が後宮入りするだなんて思った事無かったので。ましてや妃だなんて」
後宮で妃又は女官として働く女達は、大体は家柄が良い者だ。下女なら庶民でも農民でもなれるが、農民から妃として迎え入れられた者はこれまで一度も存在しない。
「安心しろ。君には俺がいる。いくらでも頼れば良いさ」
「こ、皇帝陛下……」
「桃玉。2人でいる時は龍環と呼んでくれ。その方が親しみやすいだろう?」
「わ、わっわかりました……龍環様……」
「よろしい。それにしてもかわいい声をしているじゃないか」
「そ、そうでしか?」
(か、噛んでしまった)
桃玉の頭をぽんと後ろから撫でる龍環。彼の顔には穏やかさと何かを企んだようなあくどい表情の2つが入り混じっていた。
◇ ◇ ◇
桃玉達が華龍国の宮廷へと到着したのは、昼過ぎの事だった。目の前に現れた朱塗りの巨大な扉と壁は、人の5倍の高さはあるだろうか。
「すごい……これが、宮廷……!」
桃玉は口と目をぱっと開き、驚いた。巨大な扉がぎぎ……と開かれると、目の前には扉と壁と同じ朱塗りに絢爛豪華な瓦屋根や装飾に彩られた建物群が現れる。
「桃玉、ここからが後宮だ」
「ここが、後宮……!」
「ここからは徒歩になる。歩けるか?」
「はい、龍環様」
「では、共に行こうか」
桃玉は龍環に手を引かれ、門を潜ると後宮の中へ歩いていく。
「あの建物が照天宮。今日から君はそこで暮らしてもらう」
「照天宮?」
「あの左側に見える建物がそう。君は今日から九嬪のひとつである、昭容だ」
華龍国の妃の位は最高位が皇后。次に貴妃、淑妃、徳妃、賢妃の四夫人。その次に昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛の九嬪。更にその次には倢伃、美人、才人の二十七世婦がいる。そしてこの二十七世婦の下にも宮官達の位があったりするのだ。
(昭容って……! 私、そんな高い位につくの!?)
驚きを隠しきれないまま照天宮に入った桃玉を待ち構えていたのは、左右に列を成した十数人もの女官達だった。
「李昭容様。お待ちしておりました」
「わっ、あっ、その……!」
「桃玉、怖がらなくて良いぞ。彼女達は今日から君に仕える忠実な女官達だ」
「そ、そうなのですね。は、はじめまして。李桃玉とも、申します」
桃玉がおどおどと挨拶すると、女官達は一斉によろしくお願いします。と返事したのだった。
「じゃあ、中に入ろうか」
龍環に促されるまま照天宮に入る桃玉。照天宮に入り、桃玉の部屋となる区画へと向かうと金銀財宝によって彩られた内装と家具があった。
龍環は朱塗りの椅子にどかっと座り足を組むと、人払いをしてからふうっと息を吐く。
「桃玉。君を後宮に迎えた理由……それは君が持っている能力にあるんだよ」
「能力……ですか?」
龍環は棒立ち状態の桃玉をじっと見つめていた。
村長が声を震わせながら若い男へと声を発する。
「それがどうした? 俺は皇帝ぞ。我が命令が聞けぬと申すか?」
若い男……この華龍国の皇帝・龍環はにやりと口角をあげた笑みを浮かべると、村長は慌てふためきながら手をじたばたと動かすという挙動不審な動きを見せる。
「こ、皇帝陛下?! ど、どうしてこの地に訪れ……!」
「それは内緒。ほら、桃玉。こっちに飛び込んでおいで」
「へっ?!」
(こ、皇帝陛下がなんでここに来て私の名前も知ってるのかわからないけど……! で、でもこれは死なずに済む良い機会かもっ……!)
桃玉は困惑した表情を浮かべながらも、御輿から立ち上がって、いつの間にかすぐ隣まで馬に跨ったまま駆け寄って来た龍環に抱き着くようにして飛び込んだ。龍環は桃玉をお姫様抱っこで受け止める。
長く艶々とした黒髪にきらめく翡翠のような瞳。長身美形の龍環の顔がすぐ近くに見えた事で、桃玉の心臓がどきっと跳ねる。
(わっすごい……美形でかっこいい……!)
「良い子だ。桃玉。じゃあ後宮へと行こうか。君を妃として迎えよう」
(きっ妃?……今、妃っていった?)
「へ、へいか……! え、えっとその……!」
「理由は後宮に到着したら聞かせてあげる。ああ、君に一目惚れとかそう言うのではないんだけどね。ほら、しっかり捕まって」
(一目惚れじゃないんだ……じゃあ、なぜ?)
桃玉は龍環の前に跨る。桃玉を抱きしめるようにして馬の手綱を握る龍環は引き連れていた部下達に、宮廷へと戻るように指示を出した。
「はっ!」
馬が勢いよく疾駆していく。その様子を村長達は口をぽかんと開けたまま見つめるより他なかった。
しかし、桃玉のおじだけはしっかりとした目つきで遠ざかっていく桃玉の背中を目に焼き付けている。
「桃玉……幸せになるんだよ」
桃玉のおじは担いでいた御輿から手を離し、合掌をして桃玉の幸せを祈ったのだった。
◇ ◇ ◇
「あ、あの……私、本当に後宮入りするんですか? 皇帝陛下の妃になるのですか?」
桃玉は自分が後宮入りするという事に対して驚きとちょっとした恐怖心を抱いていた。
(後宮ってあれよね? 皇帝陛下の妃や女官達がいるところよね? 一度後宮入りしたら二度と戻ってこれなくて、妃達が皇帝陛下からのご寵愛を得ようとばちばちしてるって噂の……!)
ぐるぐると思案している桃玉を、後ろから龍環がにこやかな顔をしながら「そうだよ」と語る。
「そうなのですね……私、本当に後宮入りするんだあ……妃になるんだ……わわわ」
「実感が無いようだな。でも決まった事だ。あのまま生贄に捧げられて死ぬよりかはましだろう?」
「そっそれは確かに……そうですけどね……でも、自分が後宮入りするだなんて思った事無かったので。ましてや妃だなんて」
後宮で妃又は女官として働く女達は、大体は家柄が良い者だ。下女なら庶民でも農民でもなれるが、農民から妃として迎え入れられた者はこれまで一度も存在しない。
「安心しろ。君には俺がいる。いくらでも頼れば良いさ」
「こ、皇帝陛下……」
「桃玉。2人でいる時は龍環と呼んでくれ。その方が親しみやすいだろう?」
「わ、わっわかりました……龍環様……」
「よろしい。それにしてもかわいい声をしているじゃないか」
「そ、そうでしか?」
(か、噛んでしまった)
桃玉の頭をぽんと後ろから撫でる龍環。彼の顔には穏やかさと何かを企んだようなあくどい表情の2つが入り混じっていた。
◇ ◇ ◇
桃玉達が華龍国の宮廷へと到着したのは、昼過ぎの事だった。目の前に現れた朱塗りの巨大な扉と壁は、人の5倍の高さはあるだろうか。
「すごい……これが、宮廷……!」
桃玉は口と目をぱっと開き、驚いた。巨大な扉がぎぎ……と開かれると、目の前には扉と壁と同じ朱塗りに絢爛豪華な瓦屋根や装飾に彩られた建物群が現れる。
「桃玉、ここからが後宮だ」
「ここが、後宮……!」
「ここからは徒歩になる。歩けるか?」
「はい、龍環様」
「では、共に行こうか」
桃玉は龍環に手を引かれ、門を潜ると後宮の中へ歩いていく。
「あの建物が照天宮。今日から君はそこで暮らしてもらう」
「照天宮?」
「あの左側に見える建物がそう。君は今日から九嬪のひとつである、昭容だ」
華龍国の妃の位は最高位が皇后。次に貴妃、淑妃、徳妃、賢妃の四夫人。その次に昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛の九嬪。更にその次には倢伃、美人、才人の二十七世婦がいる。そしてこの二十七世婦の下にも宮官達の位があったりするのだ。
(昭容って……! 私、そんな高い位につくの!?)
驚きを隠しきれないまま照天宮に入った桃玉を待ち構えていたのは、左右に列を成した十数人もの女官達だった。
「李昭容様。お待ちしておりました」
「わっ、あっ、その……!」
「桃玉、怖がらなくて良いぞ。彼女達は今日から君に仕える忠実な女官達だ」
「そ、そうなのですね。は、はじめまして。李桃玉とも、申します」
桃玉がおどおどと挨拶すると、女官達は一斉によろしくお願いします。と返事したのだった。
「じゃあ、中に入ろうか」
龍環に促されるまま照天宮に入る桃玉。照天宮に入り、桃玉の部屋となる区画へと向かうと金銀財宝によって彩られた内装と家具があった。
龍環は朱塗りの椅子にどかっと座り足を組むと、人払いをしてからふうっと息を吐く。
「桃玉。君を後宮に迎えた理由……それは君が持っている能力にあるんだよ」
「能力……ですか?」
龍環は棒立ち状態の桃玉をじっと見つめていた。
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