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第57話 悲劇
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「きゃああああっ!」
悲鳴に怒号に騒ぎ声にと様々な負の声が入り混じった声を聴いた私の身体には、これまで感じた事が無いくらいの嫌な予感が襲い掛かっていた。
「ちょっと……見てきます!」
「あ、王太子妃様! 私も……!」
部屋から飛び出した時、左から若いメイドが汗まみれの顔をしてやってきた。
「王太子妃様! 大変でございます!」
「何があったの?!」
「王太子殿下が……メイドの女に刺されました!」
「なんですって?!」
レアード様が刺された? どういう事? なんで? なんでそうなるの?
「ねえ、レアード様は無事なの……?」
「今、医者を呼んでいる所で……!」
「案内して!」
「で、でも……危ないですよ」
メイドは顔を真っ青にして拒否する姿勢を見せた。だけど……それくらいで私は止まる訳がない。
「なら、自分で行く!」
「王太子妃様!」
メイドや侍従が止めるのは無視して、私は走った。
「れ、レアード様……!」
メイドが来た方向をたどって廊下を走ると、そこにはわき腹からひどく出血しているレアード様と侍従達に捕縛されているメイド服の女が見えた。
「れ、レアード様……」
「その声は……メアリー」
「レアード様!」
私はレアード様の首に腕を回した。そして彼の顔を抱きしめるようにする。
「お願いです、死なないで!」
そうだ。彼には死んでほしくない。だって私は……あなたの事が本当に心の底から好きなのに!
契約だろうが関係ない。あなたのそばにいたいの!
「ふふふっ……あははははっ」
捕縛されたメイドの声には当然聞き覚えがあったし不快感もあった。アンナだ。
なんでここにいるの……? 捕縛されて監獄へ移送されたんじゃないの?
「なんであなたがここにいるのよ……」
「教えてやらない。私はね、あなたが不幸になればなるほど幸せになるの。それにようやく気が付いちゃったぁ」
「だから、レアード様を……?」
「そうよ。だってそうした方があなたはより不幸になる」
アンナの言葉が私の胸を貫いた。
確かに私が刺されたとしても死ぬか痛いだけ。レアード様へは申し訳ない気持ちが残るけど……レアード様が無事ならそれで良いと考えてしまう。
でもレアード様が死ぬだなんて考えられない。
アンナはそれに気が付いてしまったって訳、だ……。
「あなたはどうしようもないくらい愚かなのね」
「そうよ、メアリー様ぁ。あなたが不幸になればなるほど私、幸せなの!」
「ねえ、どうしてそう思うのか、教えてくださる? 原因が分からないの。私、あなたに何かしたかしら?」
正直会話にはならないだろうし、教えてもくれないかもしれない。でも。
「だって……皆、花嫁であるメアリー様ばっかり見ていて、「可愛い」も「美しい」も全部メアリー様のものだったからよ……! ウィルソン様との結婚式だなんて、今更覚えても無いだろうけど……!」
アンナの低い声が響き渡る。あの子、ウィルソン様との結婚式に来ていたのか。
招待状を直々に送った記憶は無いけど……。
「だから私、あなたが不幸になるべきだと思うのよね」
レアード様は駆けつけた医者の手により止血処置を施されていた。医者が彼をベッドへと連れていくと言うので私は抱きしめていた腕を離した。
「すみません、お願いします。レアード様、意識をしっかり持って……!」
「ああ……アンナ。1つだけ言っておこう」
「……何かしら?」
「お前では、メアリーを不幸には出来ないよ。いや、メアリーは不幸にはならないからな」
「……え?」
レアード様はそのまま侍従や医者達によって引っ張り上げられるようにして移動していった。私は彼の元を追わなければならない。だが、アンナが……。
「誰か! 男の人を連れてきなさい!」
今、アンナは3人ほどの侍従に捕縛されている状態だが、それでも心もとない。なので他にも何人か欲しい。
「メアリー様は何とも思ってないのぅ?」
という声には無視した。もう彼女にかける言葉は何もない。
「彼女を王宮内の牢屋にお願いします。絶対逃がしてはなりませんよ」
「かしこまりました。王太子妃様」
「ちょっと! メアリー様は私を無視するの……?」
無視するも何も、これ以上話しても無駄だと思うだけだ。
「……私、あなたを一生呪うわ」
という悲しいアンナの声が耳に残る。それを払いのけるようにして私はレアード様達を追いかけたのだった。
その後。医者達の必死の処置が続いた。止血に痛み止めの薬をレアード様に飲ませたり。しかしアンナが刺した箇所は脇腹かつ、傷も浅いものだった為幸いにも峠は越えられそうとの医者の見解だった。
「よかったです……!」
「王太子妃様、王太子殿下にたくさん話しかけてください。意識をはっきり保たせるのです」
「わかりました。レアード様。お加減はいかがですか……?」
「ああ、まだ痛いし気を抜いたら意識を手放してしまいそうだ……」
「! あ、あの、よかったら好きな食べ物の話でもしましょうか?!」
「ふむ……いいな。俺はメアリーが好きな話なら何でも聞くぞ」
「あ、ありがとう……ございます!」
頑張らないと……。
悲鳴に怒号に騒ぎ声にと様々な負の声が入り混じった声を聴いた私の身体には、これまで感じた事が無いくらいの嫌な予感が襲い掛かっていた。
「ちょっと……見てきます!」
「あ、王太子妃様! 私も……!」
部屋から飛び出した時、左から若いメイドが汗まみれの顔をしてやってきた。
「王太子妃様! 大変でございます!」
「何があったの?!」
「王太子殿下が……メイドの女に刺されました!」
「なんですって?!」
レアード様が刺された? どういう事? なんで? なんでそうなるの?
「ねえ、レアード様は無事なの……?」
「今、医者を呼んでいる所で……!」
「案内して!」
「で、でも……危ないですよ」
メイドは顔を真っ青にして拒否する姿勢を見せた。だけど……それくらいで私は止まる訳がない。
「なら、自分で行く!」
「王太子妃様!」
メイドや侍従が止めるのは無視して、私は走った。
「れ、レアード様……!」
メイドが来た方向をたどって廊下を走ると、そこにはわき腹からひどく出血しているレアード様と侍従達に捕縛されているメイド服の女が見えた。
「れ、レアード様……」
「その声は……メアリー」
「レアード様!」
私はレアード様の首に腕を回した。そして彼の顔を抱きしめるようにする。
「お願いです、死なないで!」
そうだ。彼には死んでほしくない。だって私は……あなたの事が本当に心の底から好きなのに!
契約だろうが関係ない。あなたのそばにいたいの!
「ふふふっ……あははははっ」
捕縛されたメイドの声には当然聞き覚えがあったし不快感もあった。アンナだ。
なんでここにいるの……? 捕縛されて監獄へ移送されたんじゃないの?
「なんであなたがここにいるのよ……」
「教えてやらない。私はね、あなたが不幸になればなるほど幸せになるの。それにようやく気が付いちゃったぁ」
「だから、レアード様を……?」
「そうよ。だってそうした方があなたはより不幸になる」
アンナの言葉が私の胸を貫いた。
確かに私が刺されたとしても死ぬか痛いだけ。レアード様へは申し訳ない気持ちが残るけど……レアード様が無事ならそれで良いと考えてしまう。
でもレアード様が死ぬだなんて考えられない。
アンナはそれに気が付いてしまったって訳、だ……。
「あなたはどうしようもないくらい愚かなのね」
「そうよ、メアリー様ぁ。あなたが不幸になればなるほど私、幸せなの!」
「ねえ、どうしてそう思うのか、教えてくださる? 原因が分からないの。私、あなたに何かしたかしら?」
正直会話にはならないだろうし、教えてもくれないかもしれない。でも。
「だって……皆、花嫁であるメアリー様ばっかり見ていて、「可愛い」も「美しい」も全部メアリー様のものだったからよ……! ウィルソン様との結婚式だなんて、今更覚えても無いだろうけど……!」
アンナの低い声が響き渡る。あの子、ウィルソン様との結婚式に来ていたのか。
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「だから私、あなたが不幸になるべきだと思うのよね」
レアード様は駆けつけた医者の手により止血処置を施されていた。医者が彼をベッドへと連れていくと言うので私は抱きしめていた腕を離した。
「すみません、お願いします。レアード様、意識をしっかり持って……!」
「ああ……アンナ。1つだけ言っておこう」
「……何かしら?」
「お前では、メアリーを不幸には出来ないよ。いや、メアリーは不幸にはならないからな」
「……え?」
レアード様はそのまま侍従や医者達によって引っ張り上げられるようにして移動していった。私は彼の元を追わなければならない。だが、アンナが……。
「誰か! 男の人を連れてきなさい!」
今、アンナは3人ほどの侍従に捕縛されている状態だが、それでも心もとない。なので他にも何人か欲しい。
「メアリー様は何とも思ってないのぅ?」
という声には無視した。もう彼女にかける言葉は何もない。
「彼女を王宮内の牢屋にお願いします。絶対逃がしてはなりませんよ」
「かしこまりました。王太子妃様」
「ちょっと! メアリー様は私を無視するの……?」
無視するも何も、これ以上話しても無駄だと思うだけだ。
「……私、あなたを一生呪うわ」
という悲しいアンナの声が耳に残る。それを払いのけるようにして私はレアード様達を追いかけたのだった。
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「よかったです……!」
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「わかりました。レアード様。お加減はいかがですか……?」
「ああ、まだ痛いし気を抜いたら意識を手放してしまいそうだ……」
「! あ、あの、よかったら好きな食べ物の話でもしましょうか?!」
「ふむ……いいな。俺はメアリーが好きな話なら何でも聞くぞ」
「あ、ありがとう……ございます!」
頑張らないと……。
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