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第49話 秋と共に
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秋の季節が深まり、王宮内の植物も葉が色づいたりして変化を見せてきた。朝方は少しだけ気温がひんやりしていてそろそろ冬用の服や羽織などの準備もしていかなければならないなあ……と考えると少しだけ憂鬱になる。
今日も朝はひんやりしていて、肌寒く感じたので手早く寝間着からドレスへと着替える。着替えた後はいつも通りお化粧と髪結いを施してから食堂へと朝食を食べに向かうつもりだ。
「ん?」
お化粧が終わった所で、廊下からばたばたと誰か複数人があわただしく移動する足音が聞こえてきた。
「何かありました?」
「実は……昨日の夜中から王妃様の体調がすぐれぬご様子で」
王妃様は病を発症してからはましになったりひどくなったりを繰り返していた。病は治る気配もないまま、ここまで来たのである。
「そうなのですか……それで今は?」
「私もあちらには行っていないのでわからないですねえ、どうも王妃様のいらっしゃるお部屋には医師と薬師、国王陛下などごく限られた人達しか入室出来ないようで」
王妃様がいる部屋にはそのような措置が取られているのか。それならかなり厳しい状態である可能性がある。
「早く良くなれば良いのですが……」
こういう時、王太子妃ならどのような行動すべきなのだろうか?
王妃様へ薬を送る? それはもう薬師がしているだろうし……医者達に何か振舞う? それは邪魔にならないかしら?
「……」
「王太子妃様……あ、髪結いが終わりました」
「ありがとうございます」
「王太子妃様……!」
ここで別のメイドがどたどたと部屋へ入って来た。
「すみません、今日の朝食はこちらで頂くようにとの、国王陛下からのご要請でございます……それと」
「それと?」
「今日は公務は全て中止。この王宮内に滞在しているようにとも……」
「……王妃様はもう……危篤状態に近いと言う訳でしょうね……」
「そうかもしれません……」
公務を全て中止させ、ここにいるようにとの指示だ。これは王妃様の命がわずかである事を表しているとぴりぴりと感じさせる。
「早く治るように、祈ります……」
朝食はサラダとシチュー、パンとベーコンを焼いたもの。しかし王妃様の様子と廊下から聞こえるあわただしい足音が気になって、完食するのにいつも以上の時間をかけてしまった。
「お待たせしてしまってごめんなさいね」
「いえいえ。お気になさらないでください」
朝食後は公務が全て無くなったので、代わりに部屋から出て書斎にて女官としての書類作業をしに行った。
「おはようございます」
「おはようございます、メアリー様」
「女官長、おはようございます」
「そういえば今日は公務は全て取りやめになられたのですね、メアリー様」
女官の1人がそう言ったので私ははい、そうです。と答える。
「……王妃様が早く良くなれば良いのですが」
女官達は皆心配そうな表情を浮かべながら作業をしている。中には泣きそうな顔をしている女官もいた。
「皆さん、お気を確かに。今は王妃様のご無事を祈りましょう……! それに心配そうな顔をしていたら、王妃様も心配なさるかと……!」
役とはいえ、王太子妃なら多分……こうして言うのだろう。
女官達は口をあけながらも、私の声を聴いてくれたのだった。
「……そうね、王太子妃様の言う通りよ!」
「なんだか気合が入ったわ」
「メアリー様……」
「女官長、変な事言ってたらすみません……」
「謝らなくて大丈夫よ。王太子妃としての振る舞い、見事でしたわ」
女官長の言葉がすっと心の奥底まで染みわたる。よし、私も頑張らなければ……。
作業中。私は王妃様の事を思い出そうとしたが、彼女とはそこまで王妃様との思い出自体が無いので、振り返る事は出来なかった。
王妃様は確かに国王陛下とレアード様以外とはそもそもあまり関わろうとはしていなかったような。
「母上はメアリーを疑うのですか?」
「だって証拠が無ければ否定も肯定も出来ませんわよ。彼女が浮気性という証拠も無いからこの話については私からは何にも言えません」
「あくまで中立という事でしょうか? 母上?」
「そうですわ。そもそもあのアンナという令嬢が流した噂なんて信憑性に乏しいですし、メアリーが処女か否かについても今は判断出来ないのです」
ああ、でも……。最初、アンナが流した噂が広まった時、レアード様とこのような問答をしていたな。やはり冷静で落ち着いた人物であるのは伺える。病が落ち着いたら今度はこちらからお声がけしてみるべきか。
でも王妃様の趣味嗜好はそこまで詳しくないし……それならレアード様に聞いてみようか。
「……リー様?」
「は、はい!」
「メアリー様、どうかなさいましたか? 何か考え事をしているように見受けられましたが」
女官長が不思議そうにこちらを見ている。
「あ、いえ……なんでもありません。あの、女官長」
「は、なんでしょう?」
「王妃様の好きなものは何か、ご存じですか?」
「ああ……食べ物でしょうか? それならホットミルクとか温かいものを好まれる傾向にはありますね」
ホットミルクはレアード様も好む飲み物だ。
今日も朝はひんやりしていて、肌寒く感じたので手早く寝間着からドレスへと着替える。着替えた後はいつも通りお化粧と髪結いを施してから食堂へと朝食を食べに向かうつもりだ。
「ん?」
お化粧が終わった所で、廊下からばたばたと誰か複数人があわただしく移動する足音が聞こえてきた。
「何かありました?」
「実は……昨日の夜中から王妃様の体調がすぐれぬご様子で」
王妃様は病を発症してからはましになったりひどくなったりを繰り返していた。病は治る気配もないまま、ここまで来たのである。
「そうなのですか……それで今は?」
「私もあちらには行っていないのでわからないですねえ、どうも王妃様のいらっしゃるお部屋には医師と薬師、国王陛下などごく限られた人達しか入室出来ないようで」
王妃様がいる部屋にはそのような措置が取られているのか。それならかなり厳しい状態である可能性がある。
「早く良くなれば良いのですが……」
こういう時、王太子妃ならどのような行動すべきなのだろうか?
王妃様へ薬を送る? それはもう薬師がしているだろうし……医者達に何か振舞う? それは邪魔にならないかしら?
「……」
「王太子妃様……あ、髪結いが終わりました」
「ありがとうございます」
「王太子妃様……!」
ここで別のメイドがどたどたと部屋へ入って来た。
「すみません、今日の朝食はこちらで頂くようにとの、国王陛下からのご要請でございます……それと」
「それと?」
「今日は公務は全て中止。この王宮内に滞在しているようにとも……」
「……王妃様はもう……危篤状態に近いと言う訳でしょうね……」
「そうかもしれません……」
公務を全て中止させ、ここにいるようにとの指示だ。これは王妃様の命がわずかである事を表しているとぴりぴりと感じさせる。
「早く治るように、祈ります……」
朝食はサラダとシチュー、パンとベーコンを焼いたもの。しかし王妃様の様子と廊下から聞こえるあわただしい足音が気になって、完食するのにいつも以上の時間をかけてしまった。
「お待たせしてしまってごめんなさいね」
「いえいえ。お気になさらないでください」
朝食後は公務が全て無くなったので、代わりに部屋から出て書斎にて女官としての書類作業をしに行った。
「おはようございます」
「おはようございます、メアリー様」
「女官長、おはようございます」
「そういえば今日は公務は全て取りやめになられたのですね、メアリー様」
女官の1人がそう言ったので私ははい、そうです。と答える。
「……王妃様が早く良くなれば良いのですが」
女官達は皆心配そうな表情を浮かべながら作業をしている。中には泣きそうな顔をしている女官もいた。
「皆さん、お気を確かに。今は王妃様のご無事を祈りましょう……! それに心配そうな顔をしていたら、王妃様も心配なさるかと……!」
役とはいえ、王太子妃なら多分……こうして言うのだろう。
女官達は口をあけながらも、私の声を聴いてくれたのだった。
「……そうね、王太子妃様の言う通りよ!」
「なんだか気合が入ったわ」
「メアリー様……」
「女官長、変な事言ってたらすみません……」
「謝らなくて大丈夫よ。王太子妃としての振る舞い、見事でしたわ」
女官長の言葉がすっと心の奥底まで染みわたる。よし、私も頑張らなければ……。
作業中。私は王妃様の事を思い出そうとしたが、彼女とはそこまで王妃様との思い出自体が無いので、振り返る事は出来なかった。
王妃様は確かに国王陛下とレアード様以外とはそもそもあまり関わろうとはしていなかったような。
「母上はメアリーを疑うのですか?」
「だって証拠が無ければ否定も肯定も出来ませんわよ。彼女が浮気性という証拠も無いからこの話については私からは何にも言えません」
「あくまで中立という事でしょうか? 母上?」
「そうですわ。そもそもあのアンナという令嬢が流した噂なんて信憑性に乏しいですし、メアリーが処女か否かについても今は判断出来ないのです」
ああ、でも……。最初、アンナが流した噂が広まった時、レアード様とこのような問答をしていたな。やはり冷静で落ち着いた人物であるのは伺える。病が落ち着いたら今度はこちらからお声がけしてみるべきか。
でも王妃様の趣味嗜好はそこまで詳しくないし……それならレアード様に聞いてみようか。
「……リー様?」
「は、はい!」
「メアリー様、どうかなさいましたか? 何か考え事をしているように見受けられましたが」
女官長が不思議そうにこちらを見ている。
「あ、いえ……なんでもありません。あの、女官長」
「は、なんでしょう?」
「王妃様の好きなものは何か、ご存じですか?」
「ああ……食べ物でしょうか? それならホットミルクとか温かいものを好まれる傾向にはありますね」
ホットミルクはレアード様も好む飲み物だ。
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