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第43話 夏の始まり
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あっという間に夏が訪れ、今年も避暑地へ旅立つ日がやって来た。今回もまた、ゲーモンド侯爵の鯨類調査に同行する公務が組み込まれている。
前回は船から落ちて死にかけただけに、今回はそうならないように気を付けたい所。
だが今から約1週間前、王宮を揺るがす事件が起きた。それは王妃様が病に倒れた事である。熱と咳が酷く、肺に炎症が起きているのだとか……。
「母上は大丈夫だろうか……」
今、私達は避暑地へ向かう馬車に乗り込んだ所だ。レアード様の心配そうな呟きを聞いたら胸が痛くなる。
「早く良くなれば良いのですが……」
「そうだな、あとは医者と薬師に任せるより他ない」
国王陛下も王宮に待機する事を決め、他にも侍従や使用人の多くが避暑地へはいかず王宮で勤務する事を選んだ。その為去年よりも同行する使用人らの数は大幅に少なくなっている。
「心配ですね……」
「ああ……」
王妃様への心配が消えぬまま、馬車はごとごとと避暑地へ向けて歩を進めるのだった。
「ようこそお越しくださいました」
避暑地の離宮に到着すると、正門の手前付近でゲーモンド侯爵が彼付きの使用人3名を引き連れて出迎えてくれた。
「お久しぶりでございます。ゲーモンド侯爵様」
「久しぶりだな、ゲーモンド侯爵」
「おふたりともお元気そうで何よりでございます」
馬車を降り、にこりと笑うゲーモンド侯爵と互いに硬い握手を交わす。
「では、明日の鯨類調査を楽しみにしております」
「ああ、よろしく頼む」
「いえ、こちらこそ」
ゲーモンド侯爵は一礼して離宮を去っていく。どうやら挨拶と出迎えの為だけにわざわざ離宮まで来てくれていたようだ。
「真面目な男だな」
「……ええ、そうですね」
離宮に到着した後は早速近くの漁港で漁師からの話を聞く懇談会が行われる。これも立派な公務だ。
「今年の漁獲量はどのような感じだ?」
漁港内でレアード様が、それぞれ海と漁師に目線を向けながら質問した。
「今のところ、全体的には去年より漁獲量は多いです。しかしながら……」
「しかしながら?」
「以前よりも採れる種類に格差が生じているな、と……」
「ふむ、詳しくお聞かせ願いたい」
「例えば今、エビが大量に採れています。あとは……」
質問に答える漁師の話を聞く限り、ある種の魚介類は漁獲量が減り、エビ含めある種の魚介類は漁獲量が一気に増えたのだとか。
「あとは鯨類による被害もよく起きております。網を食いちぎられたり……」
「それは大変だな……」
「鯨類による被害についてはゲーモンド侯爵様とも協議しながら、対策案を考えております」
「そうか。引き続き進めてほしい」
どうやらレアード様は深入りしないようだ。
「レアード様は介入なさらないのですね」
「ああ、あくまでこの領地はゲーモンド侯爵の領地。それならゲーモンド侯爵を頼るべきだろう」
「そうですね……レアード様のおっしゃる通りでございますね」
「早く解決すれば良いのだが。まあ、ゲーモンド侯爵は良き領主だ。鯨類にも詳しいし、必ずや解決に導いてくれるだろう」
レアード様のゲーモンド侯爵への信頼が伺えたのだった。
懇談会終了後の夜。離宮では領地内で採れた魚や野菜をふんだんに使ってディナーが並ぶ。
「どれも美味しそうですね……!」
白身魚のソテーには、野菜から作られたソースがたっぷりとかかっている。シチューにも野菜がたくさん煮込まれていた。前菜のサラダも新鮮なのが伺える。
「では頂こう」
「はいっ……!」
前菜のサラダから頂く。パクっと葉野菜を口にするとしゃきっとした食感に酸味の効いたドレッシングの風味がふんわりと口の中で広がった。
「んーー、美味しい……!」
「これは美味しい。領地内の野菜はとても美味しいな」
シチューもコクが出ていて濃厚な味わいだ。白身魚のソテーは小骨が取り除かれていて食べやすい上に、ソースの味わいもしっかりとしていて、ナイフとフォークが止まらない!
「どれも美味しいです……!」
「メアリーは幸せそうに食べるな。見ていて美味しさが伝わって来るよ」
「えっ、そ、そうですか……?」
「ああ、そうとも」
私を見つめながらにこりと笑うレアード様に思わず魅入ってしまう……。
「そんなメアリーが俺は好きだ。愛している」
愛していると言われただけで、顔が赤くなり熱を放つ。
「わ、私も……あなたを愛しています」
「ふふっありがとう」
こうして、ディナーの時間は瞬く間に過ぎていったのだった。
「ふわあ……」
次の日。今日はゲーモンド侯爵の屋敷に向かう日だ。いつもより早めに目が覚めた私は身支度を終えると、朝食が振る舞われる食堂へと向かう。
すると食堂にはレアード様とゲーモンド侯爵が2人で話をしているのが見えた。
「そうなのか? ゲーモンド侯爵」
「そうなのです。了承があればお入り頂くという形に……」
一体何の話をしているのだろうか?
「分かった。メアリーに聞いてみよう」
「お願いします」
レアード様が両手を机について椅子から立ち上がり、こちらへと歩いてきた。
前回は船から落ちて死にかけただけに、今回はそうならないように気を付けたい所。
だが今から約1週間前、王宮を揺るがす事件が起きた。それは王妃様が病に倒れた事である。熱と咳が酷く、肺に炎症が起きているのだとか……。
「母上は大丈夫だろうか……」
今、私達は避暑地へ向かう馬車に乗り込んだ所だ。レアード様の心配そうな呟きを聞いたら胸が痛くなる。
「早く良くなれば良いのですが……」
「そうだな、あとは医者と薬師に任せるより他ない」
国王陛下も王宮に待機する事を決め、他にも侍従や使用人の多くが避暑地へはいかず王宮で勤務する事を選んだ。その為去年よりも同行する使用人らの数は大幅に少なくなっている。
「心配ですね……」
「ああ……」
王妃様への心配が消えぬまま、馬車はごとごとと避暑地へ向けて歩を進めるのだった。
「ようこそお越しくださいました」
避暑地の離宮に到着すると、正門の手前付近でゲーモンド侯爵が彼付きの使用人3名を引き連れて出迎えてくれた。
「お久しぶりでございます。ゲーモンド侯爵様」
「久しぶりだな、ゲーモンド侯爵」
「おふたりともお元気そうで何よりでございます」
馬車を降り、にこりと笑うゲーモンド侯爵と互いに硬い握手を交わす。
「では、明日の鯨類調査を楽しみにしております」
「ああ、よろしく頼む」
「いえ、こちらこそ」
ゲーモンド侯爵は一礼して離宮を去っていく。どうやら挨拶と出迎えの為だけにわざわざ離宮まで来てくれていたようだ。
「真面目な男だな」
「……ええ、そうですね」
離宮に到着した後は早速近くの漁港で漁師からの話を聞く懇談会が行われる。これも立派な公務だ。
「今年の漁獲量はどのような感じだ?」
漁港内でレアード様が、それぞれ海と漁師に目線を向けながら質問した。
「今のところ、全体的には去年より漁獲量は多いです。しかしながら……」
「しかしながら?」
「以前よりも採れる種類に格差が生じているな、と……」
「ふむ、詳しくお聞かせ願いたい」
「例えば今、エビが大量に採れています。あとは……」
質問に答える漁師の話を聞く限り、ある種の魚介類は漁獲量が減り、エビ含めある種の魚介類は漁獲量が一気に増えたのだとか。
「あとは鯨類による被害もよく起きております。網を食いちぎられたり……」
「それは大変だな……」
「鯨類による被害についてはゲーモンド侯爵様とも協議しながら、対策案を考えております」
「そうか。引き続き進めてほしい」
どうやらレアード様は深入りしないようだ。
「レアード様は介入なさらないのですね」
「ああ、あくまでこの領地はゲーモンド侯爵の領地。それならゲーモンド侯爵を頼るべきだろう」
「そうですね……レアード様のおっしゃる通りでございますね」
「早く解決すれば良いのだが。まあ、ゲーモンド侯爵は良き領主だ。鯨類にも詳しいし、必ずや解決に導いてくれるだろう」
レアード様のゲーモンド侯爵への信頼が伺えたのだった。
懇談会終了後の夜。離宮では領地内で採れた魚や野菜をふんだんに使ってディナーが並ぶ。
「どれも美味しそうですね……!」
白身魚のソテーには、野菜から作られたソースがたっぷりとかかっている。シチューにも野菜がたくさん煮込まれていた。前菜のサラダも新鮮なのが伺える。
「では頂こう」
「はいっ……!」
前菜のサラダから頂く。パクっと葉野菜を口にするとしゃきっとした食感に酸味の効いたドレッシングの風味がふんわりと口の中で広がった。
「んーー、美味しい……!」
「これは美味しい。領地内の野菜はとても美味しいな」
シチューもコクが出ていて濃厚な味わいだ。白身魚のソテーは小骨が取り除かれていて食べやすい上に、ソースの味わいもしっかりとしていて、ナイフとフォークが止まらない!
「どれも美味しいです……!」
「メアリーは幸せそうに食べるな。見ていて美味しさが伝わって来るよ」
「えっ、そ、そうですか……?」
「ああ、そうとも」
私を見つめながらにこりと笑うレアード様に思わず魅入ってしまう……。
「そんなメアリーが俺は好きだ。愛している」
愛していると言われただけで、顔が赤くなり熱を放つ。
「わ、私も……あなたを愛しています」
「ふふっありがとう」
こうして、ディナーの時間は瞬く間に過ぎていったのだった。
「ふわあ……」
次の日。今日はゲーモンド侯爵の屋敷に向かう日だ。いつもより早めに目が覚めた私は身支度を終えると、朝食が振る舞われる食堂へと向かう。
すると食堂にはレアード様とゲーモンド侯爵が2人で話をしているのが見えた。
「そうなのか? ゲーモンド侯爵」
「そうなのです。了承があればお入り頂くという形に……」
一体何の話をしているのだろうか?
「分かった。メアリーに聞いてみよう」
「お願いします」
レアード様が両手を机について椅子から立ち上がり、こちらへと歩いてきた。
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