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第40話 マルクの婚約者
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「テレーゼ!」
マルクが女性へと駆け寄った。女性は両手を大きく広げて駆け寄るマルクを抱き締めた。まるで恋人同士の様子に私は驚きを覚える。
「兄貴の知り合い?」
イーゾルも女性については知らないようだ。するとマルクが女性の右肩を抱き締める。
「紹介しよう。僕の婚約者のテレーゼだ」
「テレーゼ・マーキンルーシュと申します。お初にお目にかかります」
彼女はテレーゼ・マーキンルーシュ。マーキンルーシュ家はかつては男爵家だったが、テレーゼが生まれる前に没落し今はガラス細工を売る商人として生活している平民だそうだ。
確かに平民の割には身なりに上品さを感じられる。
「彼女は修道院で僕の看病をしてくれていた人なんだ」
「え、そうなの? 俺初めて見たよ」
イーゾルが初めて見たとなると、タイミングが合わなかったのか、イーゾルを避けていたのか……。
いずれにせよ、そのような女性がいた事が驚きだ。
「ずっと隠してきてすまない。……僕は彼女と結婚するつもりだ」
「兄貴、まじで?」
「そうなの? マルク?」
普通、カルドナンド王国では爵位が低かろうが貴族が平民を妻に迎える事はまずあり得ない。平民が貴族の愛人になる事はあるが、それはただの愛人。正妻じゃない。
「兄貴……本気なのか?」
「ああ、本気だとも。何を言われても受け止める覚悟はあるよ」
「私も覚悟は出来ております。身分違いなのは十分理解しておりますから」
ああ、テレーゼは……。私と同じだ。
しかしテレーゼの表情は自信と幸福に満ち溢れているように見える。
「あの、身分違いとかでご苦労された事は……?」
「あります。この結婚は両親からまだ賛成を貰ったわけではありません。でも私は身分とか関係ないと思っています。愛しているのなら自信を持って愛する人のそばにいれば良いだけですから」
にこりと穏やかに笑いながらそう語るテレーゼ。彼女の笑みを見ていると一瞬だけ、レアード様が笑っている姿が脳裏によぎった。
「そうですか……」
「王太子妃様。あなたも同じではごさいませんか……? 子爵家令嬢で女官だからあなたは王太子殿下にはふさわしくないとマイラ王女からおっしゃられたそうでございますわね」
どうやらテレーゼはあの日起きた出来事を全て知っているようだった。おそらくは新聞で見たのだろう。
「ええ、そうです……それで正直、自信を無くしてしまいまして。私はレアード様のおそばにいるのにふさわしい人間なのかって……」
「そのような事が……それはお辛かったでしょう……。ですが、それをお決めになるのは私達以外の他の人達ではないと私は考えます」
きっぱりと言ったテレーゼが、今は太陽のように眩しく見えている。
「そうではございませんか? 王太子妃様。王太子殿下にふさわしいか否かは、マイラ王女ら他の方が決める事ではありません。そして、あなたが決める事でもございません」
テレーゼの問いかけは、私の心を思いっきり揺らしているのが分かる……。
「……王太子殿下があなたを愛してくださっているなら、そのままお側にいればよろしいのではありませんか? 互いに愛しているならそれで良いのではございませんか? 勿論、相応の努力は必要かと存じますが……」
「テレーゼさん……」
「無礼な真似をお許しください……」
最後にテレーゼは貴族令嬢らしく、服の裾を持ってお辞儀をした。
間違いない。テレーゼは正しい事を言っている。全身がそうひしひしと感じている……!
「ありがとうございます、テレーゼさん……!」
そうだ。私はレアード様から愛されていて、私も愛している。なら、側にいたい……!
「私、目覚めました。レアード様の側にいたい……!」
私の身体の中にあった黒いモヤが全て消えていった。
あれから私はレアード様に手紙を書いた所、次の日には迎えの馬車が来た。そこにはレアード様もいる。
「メアリー……」
「レアード様、私はあなたを愛しています! ずっとあなたの側にいたい!」
「……ああ。俺もお前を愛している。メアリー……!」
馬車の前で硬く抱き締めあい、愛を確かめ合う。彼の暖かな体温は穏やかな春のそれと同じだった。
王宮に戻った私は改めて関係者へお詫びと今後も頑張る旨を意思表明した。女官長らも私を温かく迎え入れてくれた事はとても嬉しかった。
「これからもよろしくな、メアリー」
「はい、レアード様!」
気持ちを新たに、私は職務とレアード様への愛を貫く事を決意できたのだった。
そして王宮に戻った際に聞いた事だが、捕縛されていたアンナとマイラ王女の2人のうち、アンナはクルーディアスキー男爵家の籍を抜かれて平民になり、クルーディアスキー男爵家の屋敷へと送還されたと聞いた。本来は修道院に移送する予定だったが、やはり娘を甘やかしてきたクルーディアスキー男爵とその夫人が頭を下げてきたらしい。
……しかもアンナは捕縛中、焼きを入れられた、とか。
この言葉の意味はあまり知りたくないので、これ以上は聞くのをやめた。
マイラ王女もまた、自国へと送還された。弟である王太子と父親の国王から丁寧な謝罪を受けたとの事。送還されたマイラ王女はすぐさま罰として自国の訳あり侯爵の元へ嫁がされたそうだ。訳あり侯爵はマイラ王女より15歳年上で離婚歴が3回ある、妻への暴力沙汰を何度も起こしている野蛮な男だと聞いている。
マルクが女性へと駆け寄った。女性は両手を大きく広げて駆け寄るマルクを抱き締めた。まるで恋人同士の様子に私は驚きを覚える。
「兄貴の知り合い?」
イーゾルも女性については知らないようだ。するとマルクが女性の右肩を抱き締める。
「紹介しよう。僕の婚約者のテレーゼだ」
「テレーゼ・マーキンルーシュと申します。お初にお目にかかります」
彼女はテレーゼ・マーキンルーシュ。マーキンルーシュ家はかつては男爵家だったが、テレーゼが生まれる前に没落し今はガラス細工を売る商人として生活している平民だそうだ。
確かに平民の割には身なりに上品さを感じられる。
「彼女は修道院で僕の看病をしてくれていた人なんだ」
「え、そうなの? 俺初めて見たよ」
イーゾルが初めて見たとなると、タイミングが合わなかったのか、イーゾルを避けていたのか……。
いずれにせよ、そのような女性がいた事が驚きだ。
「ずっと隠してきてすまない。……僕は彼女と結婚するつもりだ」
「兄貴、まじで?」
「そうなの? マルク?」
普通、カルドナンド王国では爵位が低かろうが貴族が平民を妻に迎える事はまずあり得ない。平民が貴族の愛人になる事はあるが、それはただの愛人。正妻じゃない。
「兄貴……本気なのか?」
「ああ、本気だとも。何を言われても受け止める覚悟はあるよ」
「私も覚悟は出来ております。身分違いなのは十分理解しておりますから」
ああ、テレーゼは……。私と同じだ。
しかしテレーゼの表情は自信と幸福に満ち溢れているように見える。
「あの、身分違いとかでご苦労された事は……?」
「あります。この結婚は両親からまだ賛成を貰ったわけではありません。でも私は身分とか関係ないと思っています。愛しているのなら自信を持って愛する人のそばにいれば良いだけですから」
にこりと穏やかに笑いながらそう語るテレーゼ。彼女の笑みを見ていると一瞬だけ、レアード様が笑っている姿が脳裏によぎった。
「そうですか……」
「王太子妃様。あなたも同じではごさいませんか……? 子爵家令嬢で女官だからあなたは王太子殿下にはふさわしくないとマイラ王女からおっしゃられたそうでございますわね」
どうやらテレーゼはあの日起きた出来事を全て知っているようだった。おそらくは新聞で見たのだろう。
「ええ、そうです……それで正直、自信を無くしてしまいまして。私はレアード様のおそばにいるのにふさわしい人間なのかって……」
「そのような事が……それはお辛かったでしょう……。ですが、それをお決めになるのは私達以外の他の人達ではないと私は考えます」
きっぱりと言ったテレーゼが、今は太陽のように眩しく見えている。
「そうではございませんか? 王太子妃様。王太子殿下にふさわしいか否かは、マイラ王女ら他の方が決める事ではありません。そして、あなたが決める事でもございません」
テレーゼの問いかけは、私の心を思いっきり揺らしているのが分かる……。
「……王太子殿下があなたを愛してくださっているなら、そのままお側にいればよろしいのではありませんか? 互いに愛しているならそれで良いのではございませんか? 勿論、相応の努力は必要かと存じますが……」
「テレーゼさん……」
「無礼な真似をお許しください……」
最後にテレーゼは貴族令嬢らしく、服の裾を持ってお辞儀をした。
間違いない。テレーゼは正しい事を言っている。全身がそうひしひしと感じている……!
「ありがとうございます、テレーゼさん……!」
そうだ。私はレアード様から愛されていて、私も愛している。なら、側にいたい……!
「私、目覚めました。レアード様の側にいたい……!」
私の身体の中にあった黒いモヤが全て消えていった。
あれから私はレアード様に手紙を書いた所、次の日には迎えの馬車が来た。そこにはレアード様もいる。
「メアリー……」
「レアード様、私はあなたを愛しています! ずっとあなたの側にいたい!」
「……ああ。俺もお前を愛している。メアリー……!」
馬車の前で硬く抱き締めあい、愛を確かめ合う。彼の暖かな体温は穏やかな春のそれと同じだった。
王宮に戻った私は改めて関係者へお詫びと今後も頑張る旨を意思表明した。女官長らも私を温かく迎え入れてくれた事はとても嬉しかった。
「これからもよろしくな、メアリー」
「はい、レアード様!」
気持ちを新たに、私は職務とレアード様への愛を貫く事を決意できたのだった。
そして王宮に戻った際に聞いた事だが、捕縛されていたアンナとマイラ王女の2人のうち、アンナはクルーディアスキー男爵家の籍を抜かれて平民になり、クルーディアスキー男爵家の屋敷へと送還されたと聞いた。本来は修道院に移送する予定だったが、やはり娘を甘やかしてきたクルーディアスキー男爵とその夫人が頭を下げてきたらしい。
……しかもアンナは捕縛中、焼きを入れられた、とか。
この言葉の意味はあまり知りたくないので、これ以上は聞くのをやめた。
マイラ王女もまた、自国へと送還された。弟である王太子と父親の国王から丁寧な謝罪を受けたとの事。送還されたマイラ王女はすぐさま罰として自国の訳あり侯爵の元へ嫁がされたそうだ。訳あり侯爵はマイラ王女より15歳年上で離婚歴が3回ある、妻への暴力沙汰を何度も起こしている野蛮な男だと聞いている。
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