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第38話 結婚式⑤
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マイラ王女はカルドナンド王国の兵士に捕らえられた。しかしそれでもなお私の方が王太子殿下にふさわしいのにーー! と叫んでいる。
その叫びに呼応するかのように、あちこちから招待客である王女らが近づいてきて、レアード様へなぜ私をお選びにならなかったの?! と叫んだり呟いたりし始める。聞いていてつらいけど同時に契約結婚の必要性が分かった。
これだけレアード様に言い寄る女性が多いとなると大変だ。
そんな中、彼女達の叫びはレアード様は一蹴した。
「俺はメアリーを愛し続ける……!! お前達が何を言っても意味は無い!」
そのレアード様の怒号に王女達は恐れをなしたのか、あとずさりしていく。そしてレアード様は私を勢いよく抱き寄せた。
「このメアリーに傷つける者は誰であろうとも容赦はしない!」
高らかな宣言。これにはマイラ王女も口を閉ざすより他無かった。しかしまだ諦めきれていないのだろうか、待ちなさい……! と口を開いた。
「新たな王太子妃様。浮かれてないでそれ相応努力をして見せなさい。あなたは離婚歴のある子爵令嬢。王太子殿下とは身分違いである事をゆめゆめ忘れない事です……!」
カルドナンド王国の兵士により捕縛されたマイラ王女はそう私に呪いを残し、消えていった。
それから私の記憶と視界かゆっくりと真っ白くなっていったのだった。
「……リー」
「……?」
「メアリー……!」
目を開く。視界に飛び込んできたのは見慣れた自室の扉とレアード様の心配そうな顔だった。
「メアリー、大丈夫か?!」
「レアード様、私は……」
「あの後倒れたんだ。だが、もう大丈夫。あいつらは……」
あいつら。ああ、マイラ王女の事か。
その瞬間、彼女の呪いの言葉が脳内に響き渡る。
「新たな王太子妃様。浮かれてないでそれ相応努力をして見せなさい。あなたは離婚歴のある子爵令嬢。王太子殿下とは身分違いである事をゆめゆめ忘れない事です……!」
やめて。私は女官として、婚約者としてレアード様のお側にいるのに……!
あ、でも……そうか。私は子爵家令嬢。レアード様とは身分違いだ。わかってる。その事はわかってる! でも、やっぱり私とは……。それに私、努力なんてしてたっけ? 女官としての仕事はちゃんとしているつもりだけど……。
「レアード様、すみません……1人にして頂けますか?」
「メアリー?」
「お願いします……」
私がそう懇願すると、レアード様とメイド達は静かに退出していき、部屋には私だけとなる。
正直、私はレアード様からの寵愛を受けるのにふさわしい人物ではないのではないか? その考えで頭の中がいっぱいになっている。
「私は子爵令嬢で、バツイチだものね……」
子爵令嬢で元侯爵夫人。処女だけど離婚歴がある。確かにそれを嫌がる者は多い。
そもそも私は離婚歴があろうがなかろうが、女官であろうが無かろうが子爵令嬢なのだ。身分違いなのだ。
「辞めてしまおうか……」
でも、女官の仕事を辞めるのは金銭的に惜しい。マルクやイーゾルを頼るのも忍びない。どうしようか……。レアード様の顔は今は見たくない気持ちの方が強い。
なら、しばらく休みを取ろうか。ひとりであちこち旅行しよう。今の実家なら両親はおらず、イーゾルだけ。これなら羽を伸ばせそうだ。という気持ちとイーゾルには申し訳無さが込み上げてくる。でも、こうするしかない……。
次の日の朝。簡単な荷造りをした私は食堂にてレアード様にしばらく休みを取りたい。と告げた。
「メアリー、なぜ?」
「すみませんが、今は王宮の事を忘れてゆっくりしたいのです……」
「それは許さない。メアリーはここにいるんだ」
厳しい目を向けられ、思わず私は肩を跳ね上げる。でもここから逃げたいという欲の方が勝ってしまった。
「わ、私は……あなたのそばにいるのにふさわしくないんです……! たとえ契約だとしても! あ、あの……ご、ごめんなさい……!」
「メアリー……!」
私は食堂を飛び出し、馬車のある玄関ホールへと走り出すが途中でレアード様に左手首を捕まえられてしまう。
「離さない」
「……っ!」
「離してやらない。俺はメアリーだから良いんだ」
「……わかってます。でも……今は、1人にしてください」
こらえきれずに涙が両目から溢れ出した。しかもそれをレアード様に見られてしまう。
レアード様の表情は途端に悲しいものになった。
「わかった……だが、必ず戻って来てほしい。待ってる」
ゆっくりと、私の左手首を捕まえていたレアード様の手指が解かれていく。私はそのまま玄関へ走り出した。
「姉ちゃん?」
実家の屋敷のドアを開けると、そこにはイーゾルがいた。
いつも通りのイーゾルに安心感を覚えると、また涙が溢れ出してしまう。
「姉ちゃん?!」
「い、イーゾル……っく……ぅわあああん……!」
イーゾルの胸の辺りにしがみつき、子供のように情けなく泣くしか出来なかった。
「姉ちゃん……屋敷に入ろう。話ならいくらでも聞くよ」
「うん……うん……」
イーゾルは屋敷に入る私の背中を支えてくれた。
その叫びに呼応するかのように、あちこちから招待客である王女らが近づいてきて、レアード様へなぜ私をお選びにならなかったの?! と叫んだり呟いたりし始める。聞いていてつらいけど同時に契約結婚の必要性が分かった。
これだけレアード様に言い寄る女性が多いとなると大変だ。
そんな中、彼女達の叫びはレアード様は一蹴した。
「俺はメアリーを愛し続ける……!! お前達が何を言っても意味は無い!」
そのレアード様の怒号に王女達は恐れをなしたのか、あとずさりしていく。そしてレアード様は私を勢いよく抱き寄せた。
「このメアリーに傷つける者は誰であろうとも容赦はしない!」
高らかな宣言。これにはマイラ王女も口を閉ざすより他無かった。しかしまだ諦めきれていないのだろうか、待ちなさい……! と口を開いた。
「新たな王太子妃様。浮かれてないでそれ相応努力をして見せなさい。あなたは離婚歴のある子爵令嬢。王太子殿下とは身分違いである事をゆめゆめ忘れない事です……!」
カルドナンド王国の兵士により捕縛されたマイラ王女はそう私に呪いを残し、消えていった。
それから私の記憶と視界かゆっくりと真っ白くなっていったのだった。
「……リー」
「……?」
「メアリー……!」
目を開く。視界に飛び込んできたのは見慣れた自室の扉とレアード様の心配そうな顔だった。
「メアリー、大丈夫か?!」
「レアード様、私は……」
「あの後倒れたんだ。だが、もう大丈夫。あいつらは……」
あいつら。ああ、マイラ王女の事か。
その瞬間、彼女の呪いの言葉が脳内に響き渡る。
「新たな王太子妃様。浮かれてないでそれ相応努力をして見せなさい。あなたは離婚歴のある子爵令嬢。王太子殿下とは身分違いである事をゆめゆめ忘れない事です……!」
やめて。私は女官として、婚約者としてレアード様のお側にいるのに……!
あ、でも……そうか。私は子爵家令嬢。レアード様とは身分違いだ。わかってる。その事はわかってる! でも、やっぱり私とは……。それに私、努力なんてしてたっけ? 女官としての仕事はちゃんとしているつもりだけど……。
「レアード様、すみません……1人にして頂けますか?」
「メアリー?」
「お願いします……」
私がそう懇願すると、レアード様とメイド達は静かに退出していき、部屋には私だけとなる。
正直、私はレアード様からの寵愛を受けるのにふさわしい人物ではないのではないか? その考えで頭の中がいっぱいになっている。
「私は子爵令嬢で、バツイチだものね……」
子爵令嬢で元侯爵夫人。処女だけど離婚歴がある。確かにそれを嫌がる者は多い。
そもそも私は離婚歴があろうがなかろうが、女官であろうが無かろうが子爵令嬢なのだ。身分違いなのだ。
「辞めてしまおうか……」
でも、女官の仕事を辞めるのは金銭的に惜しい。マルクやイーゾルを頼るのも忍びない。どうしようか……。レアード様の顔は今は見たくない気持ちの方が強い。
なら、しばらく休みを取ろうか。ひとりであちこち旅行しよう。今の実家なら両親はおらず、イーゾルだけ。これなら羽を伸ばせそうだ。という気持ちとイーゾルには申し訳無さが込み上げてくる。でも、こうするしかない……。
次の日の朝。簡単な荷造りをした私は食堂にてレアード様にしばらく休みを取りたい。と告げた。
「メアリー、なぜ?」
「すみませんが、今は王宮の事を忘れてゆっくりしたいのです……」
「それは許さない。メアリーはここにいるんだ」
厳しい目を向けられ、思わず私は肩を跳ね上げる。でもここから逃げたいという欲の方が勝ってしまった。
「わ、私は……あなたのそばにいるのにふさわしくないんです……! たとえ契約だとしても! あ、あの……ご、ごめんなさい……!」
「メアリー……!」
私は食堂を飛び出し、馬車のある玄関ホールへと走り出すが途中でレアード様に左手首を捕まえられてしまう。
「離さない」
「……っ!」
「離してやらない。俺はメアリーだから良いんだ」
「……わかってます。でも……今は、1人にしてください」
こらえきれずに涙が両目から溢れ出した。しかもそれをレアード様に見られてしまう。
レアード様の表情は途端に悲しいものになった。
「わかった……だが、必ず戻って来てほしい。待ってる」
ゆっくりと、私の左手首を捕まえていたレアード様の手指が解かれていく。私はそのまま玄関へ走り出した。
「姉ちゃん?」
実家の屋敷のドアを開けると、そこにはイーゾルがいた。
いつも通りのイーゾルに安心感を覚えると、また涙が溢れ出してしまう。
「姉ちゃん?!」
「い、イーゾル……っく……ぅわあああん……!」
イーゾルの胸の辺りにしがみつき、子供のように情けなく泣くしか出来なかった。
「姉ちゃん……屋敷に入ろう。話ならいくらでも聞くよ」
「うん……うん……」
イーゾルは屋敷に入る私の背中を支えてくれた。
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