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第36話 結婚式③
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「私も結婚式を挙げた時には、ものすごく緊張したものでございますわ」
髪結い担当のメイドが、当時を懐かしみながらそう語りほほほ……と笑う。
「私は今から大体40年前に結婚式を挙げましたわ。村唯一の小さな教会に村人皆が駆けつけてくださって……ぎゅうぎゅう詰めだったのは今でもはっきり覚えていますとも」
「まあ……! お相手はどのような方だったのですか?」
「私と同じく王宮で働く者でございます。彼は木々の剪定人でございまして、今も王宮で働いておりますわ」
聞けば出会いの場も王宮だったようだ。彼女の一目惚れから関係が始まったそう。
「結婚してからは楽しい思い出ばかり。子供達も皆立派に育っていきました……」
彼女以外からも結婚式についての話を聞いた。教会ではなく家でひっそりと式を挙げた者や、駆け落ちしてそのまま2人で式を挙げた者もいた。
「出来上がりましてございます」
「ありがとうございます……!」
鏡で己の姿を確認する。美しすぎてまるで自分では無いような感覚さえ覚えてしまった。
白いドレスに綺麗に結われた髪。そしてはっきりさせた色合いのお化粧にキラキラ輝くアクセサリー。今、私はこれでもかと言うくらいに輝いている。
「すごい……」
「美しく輝いておいででごさいますよ。メアリー様」
「皆さんありがとうございました……!」
気がついたら窓から朝の太陽の日差しが差し込んでいた。
もうそのような時間か……。結婚式が近づいてきている。
「では、移動するまでこちらでお待ちくださいませ」
「はい」
メイド達がお辞儀をしながらぞろぞろと部屋から退出していった。さあ、まだ時間がある。何をして時間を潰そうか。
本でも読もうかな……。と考えた私は本棚から本を取り出し、ぺらぺらとめくる。
この本は100年前の古本。当時のカルドナンドの歴史書である。今読んでいるページには当時の王子が妃を迎え結婚式を挙げたと記載がある。
妃はその後王太子妃となった。しかし子供が出来ず離縁し実家に戻った直後に妊娠が判明。妃は王太子へ再婚を要求するも、別の女性との再婚を決意した上に妾も大勢いた王太子はその願いを聞き入れなかった。妃はその後謎の死を遂げたとこの本には書かれている。おそらくは跡継ぎ問題を面倒な事にはしたくなかった思惑が働いていたのだろうと推察する。
「メアリー様、そろそろパレードのお時間でございます」
「わかりました、では向かいます」
ここで結婚式と披露宴の日程を脳内で確認の為に振り返る。まずはここ王宮から馬車で教会に向かう1回目のパレードが行われ、教会に到着すると結婚式が執り行われる。結婚式が終わった後、教会から王宮へと馬車で戻る2回目のパレードが行われた後、披露宴が王宮内で執り行われる。という流れだったはず。
そして結婚式で私が入場する際はイーゾルと共に入場する事にもなっている。本来花嫁は父親に腕を引かれて式場へと入って来るのだが、うちは父親があんなだし新たなラディカル子爵となったマルクも結婚式には来れない為代わりに当主代行を務める弟のイーゾルに決定したのだった。
そろそろ教会には既に大勢の招待客が訪れているだろう。契約結婚ではあるが式自体は本物だ。
「では、向かいましょう」
「はい、お願いします」
メイドに付き添われて部屋から出て、玄関ホールまで歩いていく。するとそこには赤い軍服姿に身を包んだレアード様が侍従らと共に立っていた。
「メアリー……!」
「レアード様! おはようございます……! きょ、今日はよろしくお願いします……!」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。それにしてもメアリー、とてもきれいだな」
「は、はい……ありがとうございます」
だめだ、そんな事言われたら顔が赤くなる。両頬から熱がぽおっと放出されていくのが分かる。身体のほかは寒さが勝っているのに、顔だけが熱い。
「メアリー、こっちにこい」
「れ、レアード様……」
彼に手を引かれ、馬車の出入り口まで歩み寄る。すると彼は私を軽やかに抱き寄せ、顔を近づけさせる。
あと少しで唇が触れそうな距離。でも互いの唇は重ならない。
「……やっぱり、誓いのキスまで取っておこう。本当は今すぐにでも口づけを交わしたい所なのだが」
ふふっと笑うレアード様に私は適わないな。と感じながら一緒に馬車に乗り込んだのだった。
馬車がゆっくりと進み始め、王宮の正門に到達した瞬間、王宮前の道で待ち構えている群衆から歓喜の声がこれでもかという大音量であがった。
「王太子様! メアリー様!」
「おめでとうございます!」
「メアリー様お美しい!」
「メアリー様ーー!」
私とレアード様の名前が大歓声となって湧き上がっているのが、身体中に響くようにして伝わってくる。それ程までに私達の結婚を祝福してくれているのがよくわかる。
「メアリー、俺の声は聞こえるか?」
レアード様が耳元で囁く。勿論彼の声はちゃんと聞こえている。
「はい、聞こえております」
「ありがとう。これ程の大歓声となると、俺達の声がかき消されてしまいそうだ」
「そうですね……すごい歓声です……!」
契約結婚である事を彼らは知らないはず。だからあんなに歓声をあげて喜んでいるのか。
「レアード様。私は今すごく幸せです」
「俺もだ。メアリー」
ウィルソン様とは違う。本当に心の底から幸せに満ち溢れている……!
「はじめてです。こんなの……こんな気持ち……」
幸せに包まれた私達は、教会へと到着した。レアード様の手を借りながら馬車を降りると教会からも歓声があがる。
「姉ちゃん、王太子殿下。お待ちしておりました」
「イーゾル……お待たせ。エスコートよろしくね」
「ああ、姉ちゃん任せてよ」
先にレアード様が教会内の式場に入場し、少し間をおいてから私はイーゾルと式場に入りヴァージンロードをゆっくりと歩く。
荘厳なパイプオルガンの演奏に、周囲の雰囲気。でも今の私からは緊張は消えて幸せに包まれている。
結婚式は粛々と進み、いよいよあの瞬間が訪れる。
「新郎新婦よ、健やかなる時も病める時も、互いを思いやり愛すると誓いますか?」
私とレアード様は一緒に力強く、誓います! と答える。
「では、誓いのキスをここに」
互いに向き直り、ヴェールがレアード様の手により持ち上げられる。そして唇がそっと重なった。
髪結い担当のメイドが、当時を懐かしみながらそう語りほほほ……と笑う。
「私は今から大体40年前に結婚式を挙げましたわ。村唯一の小さな教会に村人皆が駆けつけてくださって……ぎゅうぎゅう詰めだったのは今でもはっきり覚えていますとも」
「まあ……! お相手はどのような方だったのですか?」
「私と同じく王宮で働く者でございます。彼は木々の剪定人でございまして、今も王宮で働いておりますわ」
聞けば出会いの場も王宮だったようだ。彼女の一目惚れから関係が始まったそう。
「結婚してからは楽しい思い出ばかり。子供達も皆立派に育っていきました……」
彼女以外からも結婚式についての話を聞いた。教会ではなく家でひっそりと式を挙げた者や、駆け落ちしてそのまま2人で式を挙げた者もいた。
「出来上がりましてございます」
「ありがとうございます……!」
鏡で己の姿を確認する。美しすぎてまるで自分では無いような感覚さえ覚えてしまった。
白いドレスに綺麗に結われた髪。そしてはっきりさせた色合いのお化粧にキラキラ輝くアクセサリー。今、私はこれでもかと言うくらいに輝いている。
「すごい……」
「美しく輝いておいででごさいますよ。メアリー様」
「皆さんありがとうございました……!」
気がついたら窓から朝の太陽の日差しが差し込んでいた。
もうそのような時間か……。結婚式が近づいてきている。
「では、移動するまでこちらでお待ちくださいませ」
「はい」
メイド達がお辞儀をしながらぞろぞろと部屋から退出していった。さあ、まだ時間がある。何をして時間を潰そうか。
本でも読もうかな……。と考えた私は本棚から本を取り出し、ぺらぺらとめくる。
この本は100年前の古本。当時のカルドナンドの歴史書である。今読んでいるページには当時の王子が妃を迎え結婚式を挙げたと記載がある。
妃はその後王太子妃となった。しかし子供が出来ず離縁し実家に戻った直後に妊娠が判明。妃は王太子へ再婚を要求するも、別の女性との再婚を決意した上に妾も大勢いた王太子はその願いを聞き入れなかった。妃はその後謎の死を遂げたとこの本には書かれている。おそらくは跡継ぎ問題を面倒な事にはしたくなかった思惑が働いていたのだろうと推察する。
「メアリー様、そろそろパレードのお時間でございます」
「わかりました、では向かいます」
ここで結婚式と披露宴の日程を脳内で確認の為に振り返る。まずはここ王宮から馬車で教会に向かう1回目のパレードが行われ、教会に到着すると結婚式が執り行われる。結婚式が終わった後、教会から王宮へと馬車で戻る2回目のパレードが行われた後、披露宴が王宮内で執り行われる。という流れだったはず。
そして結婚式で私が入場する際はイーゾルと共に入場する事にもなっている。本来花嫁は父親に腕を引かれて式場へと入って来るのだが、うちは父親があんなだし新たなラディカル子爵となったマルクも結婚式には来れない為代わりに当主代行を務める弟のイーゾルに決定したのだった。
そろそろ教会には既に大勢の招待客が訪れているだろう。契約結婚ではあるが式自体は本物だ。
「では、向かいましょう」
「はい、お願いします」
メイドに付き添われて部屋から出て、玄関ホールまで歩いていく。するとそこには赤い軍服姿に身を包んだレアード様が侍従らと共に立っていた。
「メアリー……!」
「レアード様! おはようございます……! きょ、今日はよろしくお願いします……!」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。それにしてもメアリー、とてもきれいだな」
「は、はい……ありがとうございます」
だめだ、そんな事言われたら顔が赤くなる。両頬から熱がぽおっと放出されていくのが分かる。身体のほかは寒さが勝っているのに、顔だけが熱い。
「メアリー、こっちにこい」
「れ、レアード様……」
彼に手を引かれ、馬車の出入り口まで歩み寄る。すると彼は私を軽やかに抱き寄せ、顔を近づけさせる。
あと少しで唇が触れそうな距離。でも互いの唇は重ならない。
「……やっぱり、誓いのキスまで取っておこう。本当は今すぐにでも口づけを交わしたい所なのだが」
ふふっと笑うレアード様に私は適わないな。と感じながら一緒に馬車に乗り込んだのだった。
馬車がゆっくりと進み始め、王宮の正門に到達した瞬間、王宮前の道で待ち構えている群衆から歓喜の声がこれでもかという大音量であがった。
「王太子様! メアリー様!」
「おめでとうございます!」
「メアリー様お美しい!」
「メアリー様ーー!」
私とレアード様の名前が大歓声となって湧き上がっているのが、身体中に響くようにして伝わってくる。それ程までに私達の結婚を祝福してくれているのがよくわかる。
「メアリー、俺の声は聞こえるか?」
レアード様が耳元で囁く。勿論彼の声はちゃんと聞こえている。
「はい、聞こえております」
「ありがとう。これ程の大歓声となると、俺達の声がかき消されてしまいそうだ」
「そうですね……すごい歓声です……!」
契約結婚である事を彼らは知らないはず。だからあんなに歓声をあげて喜んでいるのか。
「レアード様。私は今すごく幸せです」
「俺もだ。メアリー」
ウィルソン様とは違う。本当に心の底から幸せに満ち溢れている……!
「はじめてです。こんなの……こんな気持ち……」
幸せに包まれた私達は、教会へと到着した。レアード様の手を借りながら馬車を降りると教会からも歓声があがる。
「姉ちゃん、王太子殿下。お待ちしておりました」
「イーゾル……お待たせ。エスコートよろしくね」
「ああ、姉ちゃん任せてよ」
先にレアード様が教会内の式場に入場し、少し間をおいてから私はイーゾルと式場に入りヴァージンロードをゆっくりと歩く。
荘厳なパイプオルガンの演奏に、周囲の雰囲気。でも今の私からは緊張は消えて幸せに包まれている。
結婚式は粛々と進み、いよいよあの瞬間が訪れる。
「新郎新婦よ、健やかなる時も病める時も、互いを思いやり愛すると誓いますか?」
私とレアード様は一緒に力強く、誓います! と答える。
「では、誓いのキスをここに」
互いに向き直り、ヴェールがレアード様の手により持ち上げられる。そして唇がそっと重なった。
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