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第35話 結婚式②

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 それから瞬く間に時間は過ぎ、夕食の時間になった。
 明日のこの時間は披露宴が終わりつつある頃だろう。そう考えると時間が過ぎていくのはあっという間に感じてしまう。
 食堂に入室し、席に着いた瞬間レアード様が食堂へと足を踏み入れた。

「お疲れ様でございます。レアード様」
「お疲れ、メアリー。夕食が楽しみだ」
「ええ、私も楽しみでございます」

 ほがらかな笑顔が出ては来たが、少し心の中で引っかかっているものがある。それはアンナの存在だ。
 アンナはあれからまだ、見つかったとは聞いていない。もしかしたらウィルソン様関係ではないところにいるのだろうか?
 彼女の事が胸の中に引っかかっていて、そこには不穏な感覚も感じさせられる。

「メアリー、どうした。心気臭い顔をして」

 机に並べられた前菜の冬野菜の煮込み料理を食べるレアード様にそう尋ねられる。それと同時に私はまだその前菜に手を付けていないのに気が付いた。

「あ、その……」
「言ってみろ」

 隠してもレアード様が心配するだけだ。私は心の中を包み隠さずレアード様に伝えたのだった。

「そうだな……彼女の存在は確かに不気味だ」
「レアード様も同じ考えでいらっしゃいましたか……」
「ああ、メアリーの言う通りだ。なるべく考えないようにはしているがな」

 レアード様の目が厳しい目つきに変化する。その目には殺気を孕んでいるのが見ただけでわかった。

「いずれにせよ、メアリーを陥れる者は誰であろうとも許さない」
「……レアード様」
「俺がお前を守る。俺のそばから離れるな」
「はい、あなたのそばにおります」
「俺はお前が傷つく所は見たくない。良い結婚式にしよう」
「はいっ……!」

 メインディッシュのお肉の煮込みが机の上に並べられる。煮込みはお肉から出ただしがしっかりしみ込んでいてとても美味しかった。
 夕食後は自室でのんびりとベッドの上で足を伸ばす。結婚式で履く靴を試し履きしていたせいか、両足の親指の付け根が少しだけ痛い。

「いたい……」

 はだしになって足の指をぐっと開いて閉じるのを繰り返す。ちょっとだけ痛みがましになったような気はするけどやっぱり痛みは残る。
 お風呂でマッサージでもしようか。

「あの、お風呂の準備お願いします」

 廊下をたまたま通りがかったメイドにお風呂の準備をお願いした。準備が出来た後はすぐに服を脱ぐと身体にお湯をかけて温度が適温かどうかを確認してから湯船につかる。

「ああーー……」

 生き返る。やっぱり湯船のお湯につかるのは気持ちいい。

「よいしょっと……」

 足の指を手で広げてマッサージを施す。念入りにほぐすと痛みが少しましになってきた。ほぐす前は固まっているような感覚もあったがほぐす事でそれらも無くなっていった。

「よし、こんなもんかな」

 それからはゆっくりと浴槽で身体のあちこちに溜まった疲れを癒していくのに専念したのだった。
 
「よし、今日はサッサと寝よう」

 浴槽から出て身体をタオルで拭き、分厚い寝間着と毛糸で作られたカーディガンに着替えた後はそのままベッドに向かい就寝する事に決めた。明日は長丁場。少しでも体力を回復させておきたいからだ。
 それに遅寝してたら目にくまが出来てしまう。くまが出来たらお化粧しっかりしないと目立ってしまうし、抱けたい所。私はそのまま冬用のもこもこした分厚い布団をかぶって目を閉じたのだった。

 そして目が覚めたのは夜明け前の早朝だった。

「ふわあ……」

 まだ周りは薄暗い。しかし部屋の中にある時計は朝である事を指し示している。準備もあるしそろそろ起床した方が良いだろう。

「おはようございます。メアリー様」

 ちょうど良いタイミングでベテランの高齢メイド達がぞろぞろと部屋に入室してきた。彼女達の顔をよく見るといつもよりもお化粧が派手になっているような気がする。

「皆さんおはようございます」
「メアリー様。これより結婚式に向けてのご準備に取り掛かりたいと思います。よろしいでしょうか?」
「はい、よろしくお願いします」

 こうしてドレスへの着替えとお化粧に髪結いが始まった。
 ちなみに結婚式は王宮近くの教会で、披露宴は王宮にて行われる。この教会はウィルソン様との結婚式を行った場所でもある。まさに因縁の場所だ。
 でも、私にはレアード様がいる。契約とか関係なく彼は私を愛してくれている。ウィルソン様とは違うのだ。

「メアリー様、朝食はいかがなさいますか? 各種ご用意致しております」
「片手で食べられそうなもの、ありますか?」
「ああ、それならばサンドイッチがございますよ。数種類ご用意致しております」
「ではサンドイッチをお願いします」

 合間でハムとチーズのサンドイッチをつまんだ。お白湯も飲んで身体を温める。
 今頃レアード様も準備を進めているのだろうか? そう考えると胸がドキドキとしてきた……。

「緊張なさっておいでですか? メアリー様」
「あ……正直に言いますと、少し……」

 どうやら私の緊張はメイド達にはお見通しだったらしい。
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