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第31話 父親とマルク

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「え? 本当ですか?」

 あれから1週間後。衝撃の情報がレアード様からもたらされた。
 父親がマルクを何度も殴り、大怪我を負わせたらしい。

「な、なんで……? そのような事が」
「今は調査中だから何とも言えない……しかもマルクは今意識を失っているようだ」
「うそでしょ、え、そんな……」

 私の両親はマルクを生まれた時から溺愛してきた。実際跡継ぎの長男が両親から溺愛されて育つという話はよくある。それとは裏腹に私は両親から愛を受けずに育ってきたけれど……。でも父親はマルクの事を単に可愛いだけではなく嫉妬の感情もあったみたいというのも知っている。
 でもそんな、殴って気絶させるだなんて。そんな……言葉が出てこない。

「その、今、マルクは……」
「子爵家の領地からほど近い場所にある修道院に搬送されている。そこなら医療設備が多少あるからな」
「……イーゾルと母親は」
「ラディカル子爵夫人は謹慎しながら警察の事情聴取を受けている。イーゾルはマルクの代わりに何とか当主としての仕事をしつつ、マルクを看病している。ラディカル子爵は収容所に移送中だ」
「そうですか……教えていただきありがとうございます」
「マルクの所へ行くか?」

 レアード様からの提案に、私は迷う事無くはい。と答える。マルクはこれまで両親から溺愛されて育ってきたけどそんな事感じさせないくらいには善人なのだ。そんな出来た弟が死ぬなんてあってはならない。

「では参ろう」
「はい……!」

 飛び乗った馬車はいつも以上のスピードを出してマルクのいる修道院へとひた走る。なので想定よりも早くに到着する事が出来た。
 シスター達に案内されてマルクのいる個室へと入る。そこにはベッドで横たわり目を閉ざしているマルクと側に座るイーゾルの姿があった。
 マルクの顔は目と鼻と口を除き、包帯でぐるぐる巻きにされている。イーゾルの顔には普段のおちゃらけた感じは一切なく、完全に青ざめてしまっていた。

「マルク! イーゾル!」
「姉ちゃん! と王太子殿下……! お忙しい所お越しくださりありがとうございます……!」
「イーゾル、マルクの様子はどうなんだ?」
「こ、このような状態です。事件は昨日の夜遅くに起きて……」

 マルクと父親は領地経営のやり方について話し合い、双方の意見が食い違ってきたのが騒動の発端だったそうだ。
 この時イーゾルは自室で野菜の研究の為のレポートを執筆していた所だとも聞いた。

「それでまたやりあってんなーーと思ってたら、いきなり鈍い音が聞こえてきたのです。これはただ事じゃないぞって思って。そしたらクソ親父が兄貴に馬乗りになって何度も殴り続けていて……見張りの兵士も倒れていました」
「そうだったのか。イーゾル」

 それからはイーゾルらが何とか父親をマルクから引き離し、警察を呼んだりしたと聞いた。マルクだけでなく見張りの兵士にも手を出したとは……これは重い処分は免れないだろう。

「本当にうちのクソ親父がご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません……」
「イーゾルは謝らなくて良い」

 謝るイーゾルをレアード様が手で制した。するとその時だった。

「……ん……」
「兄貴!!」

 マルクがゆっくりと目を開いた。

「マルク! 私よ……!」
「兄貴!」
「マルク! 気がついたか……?」
「あれ……皆さん……目が……」
「兄貴?!」
「左目が、見えにくい……」

 それからレアード様が連れてきていた医者による診察が始まった。父親に殴られたせいかマルクの左目は視力がガクッと落ちていた。
 まだしばらくは修道院での療養が必要と判断されたマルクは、私達の結婚式には参列出来ない事になる。

 見舞いを終え、王宮へと戻った後。侍従から父親の尋問について聞いた。
 動機は簡潔にまとめると、マルクへの嫉妬及び自分の思い通りにならなかったから。そしてかっとなってやってしまったそうだ。

「メアリー、処分は父上や家臣と話し合って決める。決まったらまた伝えるよ」
「はい、お願いします……」

 その後。父親はマルクへの暴力罪により爵位を剥奪され平民となり、カルドナンドの王宮から遠く離れた孤島にある監獄への収容が決定しすぐさま移送された。
 母親は謹慎を解かれたが、代わりにラディカル子爵家所有の古びた別荘に事実上の幽閉となった。母親の実家に送り返す案もあったが、それは母親実家である男爵家から受け入れられないとの申し出があった為白紙となったのだった。
 
 そしてマルクが正式に爵位を継ぎ、新たなラディカル子爵となったが、このような状況の為しばらくはイーゾルが当主代行を務める事も併せて決定した。

(イーゾルには大変だけど、頑張ってもらうしかない)

 レアード様も出来る限りマルクとイーゾルには協力すると約束してくれた。結婚式前にまさかこのようなとんでもない騒動が起きるとは思わなかったが、どうにかしてやっていくしかない……。
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