侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん

文字の大きさ
上 下
28 / 61

第28話 冬の動物園

しおりを挟む
 確かに手のひらからほんの少し、じんわりと熱が生まれてきているような感覚があるのが知覚出来る。

「ちょっとマシになってきました……」
「あとは手を握ったり広げたりするとか、とにかく動かしておけ。結構違うぞ」
「ありがとうございます……レアード様は物知りですね」

 ふふっと笑うレアード様。どうやらこのマッサージは自分で考えたものだとか。

「小さい頃からよくやっていたんだ」
「そうだったんですか……ほほう……」
「幼い頃はよくしもやけにもあっていたな。古今東西様々な医者や薬師達からアドバイスを受け、それで今はしもやけとは無縁にはなった」

 しもやけは一度発症すると冬の終わり・春の訪れまで長引く事がある。とにかくかゆくてそして痛い。
 私も弟達もよくしもやけに悩まされて来たが、特にイーゾルはひどくてよくしもやけが出来た箇所を定規で血が出るほど擦って、靴下が血だらけになっていたのを思い出す。

(あの時の母親はイーゾルに過保護になってたなあ……)

 温かくしなきゃ! と私のケープをお構いなくイーゾルに着せてあげてた母親。私にはひどい扱いをしてマルクとイーゾルを溺愛していた母親らしい行動だ。
 でも、イーゾルのしもやけのひどさは、姉の私からしてもなんとかさせてやりたいと考えさせるものだった。

「メアリーはしもやけにはなった事があるか?」
「はい、何度か。弟達もそうですね。特にイーゾルはひどくて」
「野菜の研究に支障が出ないといいが」
「そうですね……」

 馬車の窓から見える景色はほぼ白と言った具合だ。畑も雪に埋もれてしまっている。そんな時は雪かきが必要。これはかなり大変な作業なのだが……。

(イーゾル元気かな)

 馬車は雪に覆われた大地を進み、時折休憩の為に歩を止めながらもゲーモンド侯爵領地へと進み続けた。
 そしてゲーモンド侯爵領地内に到達し、いよいよ動物園へと到着したのだった。

「長旅お疲れ様でございました。王太子殿下」

 動物園の門の前にはゲーモンド侯爵が、使用人や動物園で働く者達を5人ほど引き連れて出迎えてくれている。
 レアード様の手を借りて馬車から降りると、再び挨拶を受けた。

「お久しぶりでございます。王太子殿下。メアリー様」
「久しぶりだな、ゲーモンド侯爵」
「お久しぶりでございます。ゲーモンド侯爵」
「婚約パーティー以来でございますね、こうしてお会い出来ましたのは」

 そう。ゲーモンド侯爵はあの婚約パーティーに出席していた。いとこであるウィルソン様が謹慎中だった為か、他の貴族達とはほとんど会話をせず、ひっそりと目立たないように振る舞っていたのを覚えている。

「そうだな。元気そうで何よりだ」
「はい、皆様もお元気そうでご安心いたしました。ではご案内いたしましょう」

 動物園の門は王宮の門を彷彿とさせる細やかな造りになっている。剪定された木々や建物も美しく、貴族の屋敷とはそこまで変わらない。

(厳しい冬だけど、木々や花々も枯れていない。手入れが行き届いている証拠ね)

 入ってすぐの場所には巨大な木々が植わっており、その周囲には屋根付きの檻が設置されていた。

「ピピピッ」

 檻の中にいたのは鳥。小鳥から鳩くらいの大きさのものまで数種類の鳥が飼育されている。

「こちらにいる鳥達の9割が保護された鳥達です。保護した鳥はここで傷が癒えるまで暮らし、傷が癒えたらまた自然へと放っております。ちなみにここの動物園から少し離れた所には養鶏場がありますよ」
「そうか。冬だがみなにぎやかだな」
「ふふっ……そうですね。鳥達の鳴き声は聞いていると元気が出ます」

 それからも各動物達の紹介をゲーモンド侯爵から受けた。狼や虎などの肉食動物なども飼育されていた事には驚きを隠せない。しかも飼育員に皆懐いていた。

「彼らは皆飼育員に懐いていますよ。でも何かあったら危ないので飼育員には用心するようにと伝えてあります」

 そして海のいけすを利用して作られたプールにはイルカとシャチの姿もあった。彼らを見た時、私は離宮の中庭で飼育され始めたイルカはどうなっているのか? とふと疑問に感じた。

「そういえば……あの離宮の中庭のイルカって」
「ここにいますよ」
「そうなんですか?!」
「ほら、こっちにおいで」

 ゲーモンド様が慣れた手つきで指笛を拭くと、ゆっくりとイルカとシャチ合わせて3頭がやってきた。

「この左にいる子が離宮にいた子ですね」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗
恋愛
ラナリアが仕えるバルドリュー伯爵家では、子爵家の令嬢であるメイドが幅を利かせていた。 彼女は貴族の地位を誇示して、平民のメイドを虐げていた。その毒牙は、平民のメイドを庇ったラナリアにも及んだ。 しかし彼女は知らなかった。ラナリアは事情があって伯爵家に仕えている公爵令嬢だったのである。

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

処理中です...