侯爵家のお飾り妻をやめたら、王太子様からの溺愛が始まりました。

二位関りをん

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第12話 春の終わり

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 婚約パーティーへの準備が本格的に始まった。婚約パーティーが行われるのはこの王宮内にある大広間である。
 貴族や商人達も招いて大規模に執り行われるこの婚約パーティー、離婚後初めてウィルソン様と顔を合わせる機会にもなる。

(ウィルソン様はともかく、アンナさんとはお会いしたくないのだけれど)

 季節は春が終わり、そろそろ夏が来ようとしている。中庭や王宮の周りなどで咲き誇る花々も入れ替えが始まっていた。花ではなく草を見せるようになったり、侍従やメイドらが苗の植え替えをしたりしているのを時々見かけたりしているし、私が手伝う事もあった。
 そして今日は朝から雨。しとしとと降り続いていて、時折ざざざっと雨脚が強くなっている。

「雨か……」

 朝食を取っている時にレアード様に公務へ同行してほしいと言われ、今は雨の中馬車に乗り移動している所だ。

「今日はやむ気配はないな」
「そうですね、レアード様……」
「まあ、雨が降らなければ水源が朽ちてしまうからな。水が無ければ大変な事になってしまう」

 かつて、カルドナンド国の領土は何度か渇水に見舞われた事があった。その度に民は儀式をし、時には生贄を泉や海に投げ入れたりして雨が降るのを祈った……という記録が残されている。
 もし魔法があったら雨が定期的に降って水源の水量をコントロールする事が出来たりするかもしれないけど、そんな都合の良いものなんてこの世界には無い。

「雨は無くてはならないもの、ですね」
「ああ、そうだ。そうとも」

 今回の公務先は孤児院。この孤児院は修道院が運営している。
 運営先の修道院は国の中でも最古級の建造物がある場所として有名で、国内外でも有数な観光地となっている。
 更には重要な巡礼地としても有名で、巡礼者と観光客とでごった返しになっている場所だ。

(観光客と巡礼者がもたらしたお金で孤児院が経営されているのよね)

 ごとごとと馬車が進む。次第に人の数が多くなっていく。雨が降っていると言うのに彼らは濡れた状態で修道院へと進んでいる。

(今は寒くはないけど……このままだと風邪ひいたりしないのかな)

 そして馬車は修道院へと到着した。周囲は雨が降っているのにも関わらず大勢の観光客と巡礼者で大いににぎわっている。
 修道院の前には屋台が並んでおり、それぞれ軽食やお祈りの時に使うグッズなどを販売していて、列が出来ている所もあった。

(すんごい……人気なんだなあ)
「メアリー、あとで屋台の軽食買って皆で食べようか」
「いいですね」
「孤児の子達にも振舞おう」

 孤児院へ移動すると入り口でシスターからの挨拶を受けた。彼女達は私とレアード様の婚約を知っており、婚約おめでとうございます! と温かく出迎えてくれた。
 そんなシスター達の足元には数人の子供達がひっついている。じっと見上げる彼らに私は手を振った。

「はじめまして、よろしくね」
「皆、メアリーさんよ。挨拶なさい」
「はじめまして……」
「よろしくお願いします」

 ややおびえている子もいれば、じっと目を輝かせながら私を見ている子もいる。まさに十人十色と言った具合の反応だ。
 孤児院では子供達と手をつないだりして遊んだり、シスター達からの話も聞いたりした。経営面には問題も無く食料や日用品も困っていないとの事だった。

「ただ、最近は養子縁組希望の中に怪しい者が紛れていたりするのでそこが怖い所ですね」

 孤児院の子達と養子縁組を希望する者達の中には人身売買を企んでいたり、メイドや使用人として酷使しようとしている……なんて話もあると聞いた。

「そんな事があるのですか……」
「そうなんです。なのでこちらとしても対策を考えている所です」
「そうか。ならこうしよう。身分証明書の提示を義務化し、面談も義務化。そして2、3カ月に一度こちらへ顔を出し報告をする事も義務化させる。これでどうだ?」
「……ありがとうございます。その案、利用させていただきます」

 公務の終わり、レアード様は屋台で販売している軽食を孤児院にいる子達へと振舞った。私にも軽食を買ってくれたレアード様はどうぞ。と渡してくれたのだった。
 軽食は小麦粉を練って作ったパンみたいな生地に焼いた肉を入れたもの。お肉が香ばしくてパンとの相性も良くとても美味しかった。

「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」
「口に合ったようで良かったよ」

 公務を終えて馬車に乗り、王宮へと帰る。帰り際孤児の子達から手を振って見送られたのだった。

「お姉ちゃん! また来てね!」
「おうたいしさまーーまたきてーーねーー」

 彼らのにぎやかな姿に心を癒されながら、王宮への道を移動するのだった。
 人気の少ない郊外に差し掛かった時だった。

「おい! 止まれ!」

 馬車の周囲にはいつの間にか盗賊が取り囲んでいた。
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