上 下
10 / 61

第10話 契約の婚約

しおりを挟む
「書類が完成しました。では、もう一度王の間へと向かいましょう」

 医者達と共にもう一度、あの王の間へと歩く。さっきはちょっと不安な気持ちもあったけど今はそんな気持ちはなく晴れやかな気持ちだ。

(これでアンナさんの話が否定できる)

 それにしても昨日屋敷を飛び出したばかりなのに、その夜にそのような事が言われるだなんて。今後もこのような事があったら嫌だなあ……。
 王の間へと到着し、医者が紙を国王陛下に見せる。

「検査の結果、メアリー様は処女である事が確認できました」
「そうか。ご苦労だった」

 書類を受け取った国王陛下はじっくりとそれに目を通す。その間、胃の付近がきりきりと小さな針で突っつかれているような痛みを覚えた。

「ふむ、これよりメアリーとレアードの婚約を発表する。勿論この事もだ。用意をせよ」
「ははっ!」
「父上、ありがとうございます!」
「えっと……あ、ありがとうございます!」
「仕事をしっかりとこなせよ、メアリー」

 国王陛下からそう笑顔で告げられた私は深々と礼をした。王妃様も穏やかに笑いながら頑張ってね。と声をかけてくれた。

「はい、女官……いえ、王太子様の婚約者として、職務を全うさせて頂きます……!」
「ああ、しっかりと励めよ。この事は王家だけの機密だ。侍従達にもそう徹底して伝えている。安心するが良い」
「ありがとうございます……!」

 それからすぐさま国王陛下の指示により私とレアード様の婚約が国中に伝えられたのだった。これにより私はレアード様の婚約者・メアリーという役を演じていく事となるのだ。
 
 ここからは女官長や侍従達から聞いた話を振り返る。
 まず、街ではありったけの号外が配られた。号外は飛ぶように無くなっていき、追加で刷る必要があちこちの街で出ているくらいだと言う。国王陛下と王妃様のご結婚の時よりも勢いが激しいとか。
 
 そして貴族達にもこの情報はあっという間に知れ渡った。私はウィルソン様と離婚したばかりだった為に、ウィルソン様と結婚する前からレアード様と関係があったのでは? と疑われる事態も想定していたが、私の処女も発表された為、それは杞憂に終わった。

「貴族令嬢は皆驚いていると聞いております。王太子殿下と結婚したがっていた者もたくさんおりましたから……」
「そうですか、女官長……」
「ですがあなたが務めを果たす事によって虫よけにもなります。正直王太子殿下を狙う貴族令嬢には皆、あまりよろしくない噂が付きまとっている状態でございますからね」
(ええ……)

 例えば異性関係にだらしない令嬢、レアード様と結婚する事で王家の遺産に経済力をあてにしようとしている。つまりは贅沢しようとしている令嬢、単にレアード様の身体と顔目当ての令嬢などがいるそうだ。
 確かにそのようなろくでもない令嬢どもをレアード様に近づけさせる訳にはいかない。

「それと、これは社交場での目撃情報ですけども……フローディアス侯爵は悲しんでおられるそうです」
「え? なぜでしょうか……?」

 あれだけ私と会話しようとせず、ついにはアンナの言う事を信じ切って私を軟禁しようとしたウィルソン様がなぜ今頃になって悲しんでいるのか。理解に苦しむ。

「理由はわかりませんが、どうやらあなたを手放す事になった事を後悔していると、諜報部隊の者が申しておりました」

 諜報部隊。それは王家に仕える軍隊のうちの1つでその名の通り諜報活動をしている者達だ。敵だけではなく、国内の貴族達の動きも見張っている。
 
「そうですか。今更後悔しても遅いです」
「そうでございますね。メアリー様の言う通り。それとアンナ様は不快感を露わにしていたそうだとも聞きました」
「私がレアード様と婚約した事について、ですか?」
「そうですね。あの方、本当はウィルソン様ではなくレアード様が本命だったのかもしれませんね……」

 女官長が呆れながらそう吐いた。意のままにならず悔しがるアンナの姿が脳裏に浮かんで消えた。
 
(あなたはウィルソン様の子を妊娠しているのだから、そのままおとなしくしてくれたらいいのに。本当に妊娠しているのか知らないけど)

 でも反応は上々。このまま私は契約通りに励む日々を送るだけだ。婚約パーティーもあるし、女官としての仕事にも邁進していかなければ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます

柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。 社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。 ※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。 ※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意! ※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

奥様はエリート文官

神田柊子
恋愛
【2024/6/19:完結しました】【2024/11/21:おまけSS追加中】 王太子の筆頭補佐官を務めていたアニエスは、待望の第一子を妊娠中の王太子妃の不安解消のために退官させられ、辺境伯との婚姻の王命を受ける。 辺境伯領では自由に領地経営ができるのではと考えたアニエスは、辺境伯に嫁ぐことにした。 初対面で迎えた結婚式、そして初夜。先に寝ている辺境伯フィリップを見て、アニエスは「これは『君を愛することはない』なのかしら?」と人気の恋愛小説を思い出す。 さらに、辺境伯領には問題も多く・・・。 見た目は可憐なバリキャリ奥様と、片思いをこじらせてきた騎士の旦那様。王命で結婚した夫婦の話。 ----- 西洋風異世界。転移・転生なし。 三人称。視点は予告なく変わります。 ----- ※R15は念のためです。 ※小説家になろう様にも掲載中。 【2024/6/10:HOTランキング女性向け1位にランクインしました!ありがとうございます】

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました

ボタニカルseven
恋愛
HOT1位ありがとうございます!!!!!! 「どうしたら愛してくれましたか」 リュシエンヌ・フロラインが最後に聞いた問いかけ。それの答えは「一生愛すつもりなどなかった。お前がお前である限り」だった。両親に愛されようと必死に頑張ってきたリュシエンヌは愛された妹を嫉妬し、憎み、恨んだ。その果てには妹を殺しかけ、自分が死刑にされた。 そんな令嬢が時を戻り、両親からの愛をもう求めないと誓う物語。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

処理中です...