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第10話 契約の婚約
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「書類が完成しました。では、もう一度王の間へと向かいましょう」
医者達と共にもう一度、あの王の間へと歩く。さっきはちょっと不安な気持ちもあったけど今はそんな気持ちはなく晴れやかな気持ちだ。
(これでアンナさんの話が否定できる)
それにしても昨日屋敷を飛び出したばかりなのに、その夜にそのような事が言われるだなんて。今後もこのような事があったら嫌だなあ……。
王の間へと到着し、医者が紙を国王陛下に見せる。
「検査の結果、メアリー様は処女である事が確認できました」
「そうか。ご苦労だった」
書類を受け取った国王陛下はじっくりとそれに目を通す。その間、胃の付近がきりきりと小さな針で突っつかれているような痛みを覚えた。
「ふむ、これよりメアリーとレアードの婚約を発表する。勿論この事もだ。用意をせよ」
「ははっ!」
「父上、ありがとうございます!」
「えっと……あ、ありがとうございます!」
「仕事をしっかりとこなせよ、メアリー」
国王陛下からそう笑顔で告げられた私は深々と礼をした。王妃様も穏やかに笑いながら頑張ってね。と声をかけてくれた。
「はい、女官……いえ、王太子様の婚約者として、職務を全うさせて頂きます……!」
「ああ、しっかりと励めよ。この事は王家だけの機密だ。侍従達にもそう徹底して伝えている。安心するが良い」
「ありがとうございます……!」
それからすぐさま国王陛下の指示により私とレアード様の婚約が国中に伝えられたのだった。これにより私はレアード様の婚約者・メアリーという役を演じていく事となるのだ。
ここからは女官長や侍従達から聞いた話を振り返る。
まず、街ではありったけの号外が配られた。号外は飛ぶように無くなっていき、追加で刷る必要があちこちの街で出ているくらいだと言う。国王陛下と王妃様のご結婚の時よりも勢いが激しいとか。
そして貴族達にもこの情報はあっという間に知れ渡った。私はウィルソン様と離婚したばかりだった為に、ウィルソン様と結婚する前からレアード様と関係があったのでは? と疑われる事態も想定していたが、私の処女も発表された為、それは杞憂に終わった。
「貴族令嬢は皆驚いていると聞いております。王太子殿下と結婚したがっていた者もたくさんおりましたから……」
「そうですか、女官長……」
「ですがあなたが務めを果たす事によって虫よけにもなります。正直王太子殿下を狙う貴族令嬢には皆、あまりよろしくない噂が付きまとっている状態でございますからね」
(ええ……)
例えば異性関係にだらしない令嬢、レアード様と結婚する事で王家の遺産に経済力をあてにしようとしている。つまりは贅沢しようとしている令嬢、単にレアード様の身体と顔目当ての令嬢などがいるそうだ。
確かにそのようなろくでもない令嬢どもをレアード様に近づけさせる訳にはいかない。
「それと、これは社交場での目撃情報ですけども……フローディアス侯爵は悲しんでおられるそうです」
「え? なぜでしょうか……?」
あれだけ私と会話しようとせず、ついにはアンナの言う事を信じ切って私を軟禁しようとしたウィルソン様がなぜ今頃になって悲しんでいるのか。理解に苦しむ。
「理由はわかりませんが、どうやらあなたを手放す事になった事を後悔していると、諜報部隊の者が申しておりました」
諜報部隊。それは王家に仕える軍隊のうちの1つでその名の通り諜報活動をしている者達だ。敵だけではなく、国内の貴族達の動きも見張っている。
「そうですか。今更後悔しても遅いです」
「そうでございますね。メアリー様の言う通り。それとアンナ様は不快感を露わにしていたそうだとも聞きました」
「私がレアード様と婚約した事について、ですか?」
「そうですね。あの方、本当はウィルソン様ではなくレアード様が本命だったのかもしれませんね……」
女官長が呆れながらそう吐いた。意のままにならず悔しがるアンナの姿が脳裏に浮かんで消えた。
(あなたはウィルソン様の子を妊娠しているのだから、そのままおとなしくしてくれたらいいのに。本当に妊娠しているのか知らないけど)
でも反応は上々。このまま私は契約通りに励む日々を送るだけだ。婚約パーティーもあるし、女官としての仕事にも邁進していかなければ。
医者達と共にもう一度、あの王の間へと歩く。さっきはちょっと不安な気持ちもあったけど今はそんな気持ちはなく晴れやかな気持ちだ。
(これでアンナさんの話が否定できる)
それにしても昨日屋敷を飛び出したばかりなのに、その夜にそのような事が言われるだなんて。今後もこのような事があったら嫌だなあ……。
王の間へと到着し、医者が紙を国王陛下に見せる。
「検査の結果、メアリー様は処女である事が確認できました」
「そうか。ご苦労だった」
書類を受け取った国王陛下はじっくりとそれに目を通す。その間、胃の付近がきりきりと小さな針で突っつかれているような痛みを覚えた。
「ふむ、これよりメアリーとレアードの婚約を発表する。勿論この事もだ。用意をせよ」
「ははっ!」
「父上、ありがとうございます!」
「えっと……あ、ありがとうございます!」
「仕事をしっかりとこなせよ、メアリー」
国王陛下からそう笑顔で告げられた私は深々と礼をした。王妃様も穏やかに笑いながら頑張ってね。と声をかけてくれた。
「はい、女官……いえ、王太子様の婚約者として、職務を全うさせて頂きます……!」
「ああ、しっかりと励めよ。この事は王家だけの機密だ。侍従達にもそう徹底して伝えている。安心するが良い」
「ありがとうございます……!」
それからすぐさま国王陛下の指示により私とレアード様の婚約が国中に伝えられたのだった。これにより私はレアード様の婚約者・メアリーという役を演じていく事となるのだ。
ここからは女官長や侍従達から聞いた話を振り返る。
まず、街ではありったけの号外が配られた。号外は飛ぶように無くなっていき、追加で刷る必要があちこちの街で出ているくらいだと言う。国王陛下と王妃様のご結婚の時よりも勢いが激しいとか。
そして貴族達にもこの情報はあっという間に知れ渡った。私はウィルソン様と離婚したばかりだった為に、ウィルソン様と結婚する前からレアード様と関係があったのでは? と疑われる事態も想定していたが、私の処女も発表された為、それは杞憂に終わった。
「貴族令嬢は皆驚いていると聞いております。王太子殿下と結婚したがっていた者もたくさんおりましたから……」
「そうですか、女官長……」
「ですがあなたが務めを果たす事によって虫よけにもなります。正直王太子殿下を狙う貴族令嬢には皆、あまりよろしくない噂が付きまとっている状態でございますからね」
(ええ……)
例えば異性関係にだらしない令嬢、レアード様と結婚する事で王家の遺産に経済力をあてにしようとしている。つまりは贅沢しようとしている令嬢、単にレアード様の身体と顔目当ての令嬢などがいるそうだ。
確かにそのようなろくでもない令嬢どもをレアード様に近づけさせる訳にはいかない。
「それと、これは社交場での目撃情報ですけども……フローディアス侯爵は悲しんでおられるそうです」
「え? なぜでしょうか……?」
あれだけ私と会話しようとせず、ついにはアンナの言う事を信じ切って私を軟禁しようとしたウィルソン様がなぜ今頃になって悲しんでいるのか。理解に苦しむ。
「理由はわかりませんが、どうやらあなたを手放す事になった事を後悔していると、諜報部隊の者が申しておりました」
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「そうですか。今更後悔しても遅いです」
「そうでございますね。メアリー様の言う通り。それとアンナ様は不快感を露わにしていたそうだとも聞きました」
「私がレアード様と婚約した事について、ですか?」
「そうですね。あの方、本当はウィルソン様ではなくレアード様が本命だったのかもしれませんね……」
女官長が呆れながらそう吐いた。意のままにならず悔しがるアンナの姿が脳裏に浮かんで消えた。
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でも反応は上々。このまま私は契約通りに励む日々を送るだけだ。婚約パーティーもあるし、女官としての仕事にも邁進していかなければ。
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