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堕天
〈22話〉「癒し」
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数十分後。
僕らは山から下山し、最初に研修をおこなった
交番の裏庭のテントへと戻って来た。
「さて……これで印についての大雑把な説明は
終わりだね。本当ならこれからもっと詳しい事
を説明しなきゃいけないんだけど……もうすぐ
お昼だし、鈴里ちゃんの字属の発表もあるから
それはまた午後ってことで」
「はーい!」
忍野先輩に元気の良い相槌を打つ鈴里さん。
一方、僕にはある疑問を充さんに聞いていた。
「……あの、充さん」
「……ん?」
「鈴里さんの字属って、僕らがもう山の方へと
向かう時には判明してたんですよね?」
「おう……それが?」
「なんであの時墓柳さんから連絡があったって
言ってたんですか?」
「忍野が知らねえから」
「………え、それだけ?」
「おう、それだけ」
えぇ……意味わかんねぇ………
「俺が一々細けえことするのが面倒臭いタイプ
なの知ってるだろ?」
「…さては充さん、諸々の説明を端折るために
わざと連絡が来たばかりの設定に…?」
「そうゆうこと」
いくらなんでもせっかち過ぎるだろ、充さん。
今回は忍野先輩と鈴里さんが気にしてないから
良かったとはいえ……そうゆう大事なことは、
ちゃんと詳しく説明してほしいものだ。
「それで、充くん。鈴里ちゃんの字属は?」
「あぁ……それなら、ほれ」
充さんは墓柳さんから送られてきたであろう紙
を一枚ほど懐から取り出し、忍野先輩のところ
へと近づいていった。
僕もそれを追いかけようとした、その時。
「………痛っ…!?」
「ん?」
僕は右手の甲に、一瞬の小さな痛みを覚えた。
手の方を見てみると、テントのポールにできた
鉄のささくれに引っ掛かったらしい。
僕の手の皮膚は小さく裂けて、ちょっと多めに
血が出ている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ…いやいや……そんな大袈裟になるほど
の怪我じゃないよ」
鈴里さんが僕の方へと駆け寄ってきた。
すると充さんと忍野先輩もスクープに駆け寄る
記者達のように僕のところへと集まってくる。
「ありゃ、怪我しちゃったか」
「えっと……消毒液とか絆創膏ってあります?
もしくは赤チンとか」
「随分と懐かしい単語が出てきたなぁオイ」
すると。
「……ねえ充くん、これ丁度良くない?」
「……?」
……?
「何?……あぁ、なるほど。確かに良いな」
「「え、何がですか?」」
僕と鈴里さんが疑問に思う中、忍野先輩が先程
充さんから渡された紙を僕たちに見せた。
そこには小さい文字でとてつもなく長い文章が
ズラーッと並んでおり、意味がわからない。
それを察したのか、文の内容を忍野先輩が要約
して説明してくれた。
「鈴里ちゃんの字属、『治療』なんだって」
「治療…?」
「……あっ、もしかしてそうゆう事ですか?」
どうやら鈴里さんは気付いたらしいが、僕の方
はと言うと全然理解できてない。
……ん?待てよ………治療………
そして、僕が怪我している今の状況……
「……そうゆうことか」
「逹畄も理解したみたいだな」
そう言いながら、どこからともなく黒印と筆、
血液パックを取り出し、鈴里さんに渡す。
「木江。なんでもいいから、字属にまつわって
そうな文字を黒印に書け」
「はい…!」
鈴里さんは早速、素早い手つきで文字を書く。
「これでどうですか?」
「……なるほどな。これなら良さそうだ。じゃ
逹畄の手に発動してみろ」
「わかりました!」
彼女は黒印を持ったまま、僕の手を両手でしっかりと掴みながら唱えた。
「………『治』れ…!!」
刹那、指の隙間から僅かに緑色の光が漏れる。
怪我をしていた手のひらが一層暖かくなって、
ズキズキとした痛みが次第に引いていく。
光がなくなり、鈴里さんが手を離してみると、
僕の怪我も無くなり治っていた。
「………傷が消えたな」
「これはサポート向けの字属だねぇ。あんまり
前線に出ることはなさそうかな」
「鈴里さん……すごい……」
「…とにかく、怪我が治って良かったです!」
傷の消えた手をさすりながら、彼女はニコッと
いう擬音が聞こえそうな風に優しく微笑んだ。
……もちろん、僕も微笑んだ。
「よし、それじゃあ午前の部はここで終わり!
お昼ご飯食べて少し休憩したら、また再会ね」
「お前ら、弁当は持って来てるよな?」
「「はーい」」
「じゃ、僕たちはどうしよっか?」
「近所のガストでテキトーにすませるか」
「おっいいねぇ」
「「えっ、ずるぅ」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……成程。
研修生のもう1人は木江 鈴里というのか。
字属は『治療』……厄介な能力ではないな。
やはり問題は………古紙 逹畄か。
僕らは山から下山し、最初に研修をおこなった
交番の裏庭のテントへと戻って来た。
「さて……これで印についての大雑把な説明は
終わりだね。本当ならこれからもっと詳しい事
を説明しなきゃいけないんだけど……もうすぐ
お昼だし、鈴里ちゃんの字属の発表もあるから
それはまた午後ってことで」
「はーい!」
忍野先輩に元気の良い相槌を打つ鈴里さん。
一方、僕にはある疑問を充さんに聞いていた。
「……あの、充さん」
「……ん?」
「鈴里さんの字属って、僕らがもう山の方へと
向かう時には判明してたんですよね?」
「おう……それが?」
「なんであの時墓柳さんから連絡があったって
言ってたんですか?」
「忍野が知らねえから」
「………え、それだけ?」
「おう、それだけ」
えぇ……意味わかんねぇ………
「俺が一々細けえことするのが面倒臭いタイプ
なの知ってるだろ?」
「…さては充さん、諸々の説明を端折るために
わざと連絡が来たばかりの設定に…?」
「そうゆうこと」
いくらなんでもせっかち過ぎるだろ、充さん。
今回は忍野先輩と鈴里さんが気にしてないから
良かったとはいえ……そうゆう大事なことは、
ちゃんと詳しく説明してほしいものだ。
「それで、充くん。鈴里ちゃんの字属は?」
「あぁ……それなら、ほれ」
充さんは墓柳さんから送られてきたであろう紙
を一枚ほど懐から取り出し、忍野先輩のところ
へと近づいていった。
僕もそれを追いかけようとした、その時。
「………痛っ…!?」
「ん?」
僕は右手の甲に、一瞬の小さな痛みを覚えた。
手の方を見てみると、テントのポールにできた
鉄のささくれに引っ掛かったらしい。
僕の手の皮膚は小さく裂けて、ちょっと多めに
血が出ている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ…いやいや……そんな大袈裟になるほど
の怪我じゃないよ」
鈴里さんが僕の方へと駆け寄ってきた。
すると充さんと忍野先輩もスクープに駆け寄る
記者達のように僕のところへと集まってくる。
「ありゃ、怪我しちゃったか」
「えっと……消毒液とか絆創膏ってあります?
もしくは赤チンとか」
「随分と懐かしい単語が出てきたなぁオイ」
すると。
「……ねえ充くん、これ丁度良くない?」
「……?」
……?
「何?……あぁ、なるほど。確かに良いな」
「「え、何がですか?」」
僕と鈴里さんが疑問に思う中、忍野先輩が先程
充さんから渡された紙を僕たちに見せた。
そこには小さい文字でとてつもなく長い文章が
ズラーッと並んでおり、意味がわからない。
それを察したのか、文の内容を忍野先輩が要約
して説明してくれた。
「鈴里ちゃんの字属、『治療』なんだって」
「治療…?」
「……あっ、もしかしてそうゆう事ですか?」
どうやら鈴里さんは気付いたらしいが、僕の方
はと言うと全然理解できてない。
……ん?待てよ………治療………
そして、僕が怪我している今の状況……
「……そうゆうことか」
「逹畄も理解したみたいだな」
そう言いながら、どこからともなく黒印と筆、
血液パックを取り出し、鈴里さんに渡す。
「木江。なんでもいいから、字属にまつわって
そうな文字を黒印に書け」
「はい…!」
鈴里さんは早速、素早い手つきで文字を書く。
「これでどうですか?」
「……なるほどな。これなら良さそうだ。じゃ
逹畄の手に発動してみろ」
「わかりました!」
彼女は黒印を持ったまま、僕の手を両手でしっかりと掴みながら唱えた。
「………『治』れ…!!」
刹那、指の隙間から僅かに緑色の光が漏れる。
怪我をしていた手のひらが一層暖かくなって、
ズキズキとした痛みが次第に引いていく。
光がなくなり、鈴里さんが手を離してみると、
僕の怪我も無くなり治っていた。
「………傷が消えたな」
「これはサポート向けの字属だねぇ。あんまり
前線に出ることはなさそうかな」
「鈴里さん……すごい……」
「…とにかく、怪我が治って良かったです!」
傷の消えた手をさすりながら、彼女はニコッと
いう擬音が聞こえそうな風に優しく微笑んだ。
……もちろん、僕も微笑んだ。
「よし、それじゃあ午前の部はここで終わり!
お昼ご飯食べて少し休憩したら、また再会ね」
「お前ら、弁当は持って来てるよな?」
「「はーい」」
「じゃ、僕たちはどうしよっか?」
「近所のガストでテキトーにすませるか」
「おっいいねぇ」
「「えっ、ずるぅ」」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……成程。
研修生のもう1人は木江 鈴里というのか。
字属は『治療』……厄介な能力ではないな。
やはり問題は………古紙 逹畄か。
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