印ノ印

球天 コア

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堕天

〈9話〉「『断』」

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「……ここだ」



昼過ぎ、僕が充さんに連れてこられたのは、
人気ひとけの多い渋谷のスクランブル交差点。








……の近くにある居酒屋のテナントの路地裏、
人の気配がまったく無い、ザ・路地裏だった。


「……えっと……どうしてこんな場所に?」



疑問に思う僕のことなど見ず知らず、充さんは
テナントのシャッターを上げようとする。

が、長年使われずに錆びついていたのだろう。
シャッターは思うように上がらなかった。



僕も充さんを手伝い、「せーのっ」の掛け声と
共にシャッターを一気に開いた。だがその先は
電気も、人の気配も何もない暗闇だけがあり、
人の気に溢れていた交差点のある僕の中の渋谷
とは到底かけ離れていた。


すると、こうゆう風景に慣れている充さんが、
淡々と説明を始めた。


「元々ここには居酒屋があったんだけどな。
数ヶ月前に閉業されたにも関わらず、ろくに
整備や片付けがされてない状態なんだよ」




よく店内を見てみると、動かそうと思えば割と
営業できるんじゃ無いかと言うくらいの設備は
そこに残っていた。

(もっとも殆ど錆び付いてたり、汚れたりと、
扱おうにもどうにもならない状態なのだが)


机の上にはこの店のお品書きであろう紙が未だ
残っており、僅かに黄ばんでいる。

壁にかけられているメニュー札も虫に喰われて
ボロボロになっている。

人だけがぽっかりと消えてしまったようだ。



「なんでここの店の人は、店内を片付けないで
テナントをこのままにしてたんですか…?」

「多分だが、ただサボってただけだろうな。
実際、その件で何回か警察に通報があってな。
こっちからもさっさと片付けるようこの店の奴
には言ってたんだが……数週間前に、その人は
音信不通になっちまった」



音信不通……


「それからしばらくして、この居酒屋を中心に
周辺での魔言の目撃情報が相次いで発生した」

「魔言が……」

「まぁアイツらにも知性はある。人の行き来が
盛んな渋谷だ。簡単に人前に出てきやしない。
おかげさんで今のところ、被害者の報告はまだ
来てない」


僕は内心ホッとすると共に、一抹の不安をその
心に覚えた。

















………その時だった。




突如として店の奥からシュルルと舌を巻く様な
音……もとい鳴き声のようなものが聞こえた。

僕と充さんは咄嗟に警戒する。


店の影から現れたのは、巨大な蛇の頭だった。
しかし、その舌の先端は四方向に裂けてたり、
左目は赤い隻眼だったりと、とても蛇と言うに
ふさわしくない姿だった。


「充さん、これって……!」

「ああ……コイツが今回の目標だ」


そう言うと充さんは警戒を解き、一歩下がる。
僕だけでも倒せると判断したのだろう。


つまり………コイツが僕の試験官。

この魔言を倒せば、僕は言士になる。




直後、蛇の魔言が牙を向けて飛びかかった。
バケモノとはいえ、決して避けれないスピード
ではなかった。
僕はそれを横に躱すと、再び魔言は僕の方へと
飛びかかってくる。
僕はもう一度、それを躱す。

とても単調な攻撃方法で避けやすい。
だが、ずっと避けていてもどうにもならない。

目的はただ生き延びることではない。
このバケモノの"討伐"だ。




……今こそ、それを使うべき………

僕は、充さんから受けた説明を思い返す。





『黒い札に筆と己の血を用いて、自身の字属に
まつわる文字を書き、放つ』

後の事は五感と"第六感"で覚えろとのこと。


僕は咄嗟に、前回「仮印」を使った際に現れた
ブワッとした感覚を思い出す。


あの時の感覚に近付けば……きっと…!


支給された黒い札…「黒印」と筆を取り出し、
筆は腰に携えていた血液の入った筒に付けて
染み込ませる。


魔言の攻撃を躱しつつ、素早く黒印に文字を
書き込む。


そして、魔言が次に飛びかかってきた瞬間を
見計らって、僕は魔言の額から長い胴体に擦る
ように黒印を向ける。



そして、先刻のブワッとした感覚をイメージ。






……黒印にこめた言霊を放つ。















「……「印」…『タツ』…ッ!!」





刹那、火花のように舞う青い血飛沫と共に出た
その斬撃は、魔言の顔を上下真っ二つに裂く。

魔言の眼光は消え、血を流しながら力尽きると
青い血もろとも白い灰になって消滅した。




「ハァ………ハァ………」






……文字通り、それは一瞬で終わった。




生まれて初めて、化け物を倒した。

その感覚は、わずかに悪い気味ではあったが、
気分自体はそこまで下がる事はなかった。



すると、一部始終を後ろで見届けてた充さんが
軽い拍手をしながら僕の隣へとやってくる。



「……上出来だったな」

「充さん…!」

「まぁそう急かすなよ」





そして、充さんから次に受けた言葉は一言。





















「……合格だ」







「……!」


その瞬間、僕の心は思いっきり舞い上がった。












「これからは、お前も言士の仲間入りだな」

「はい…!よろしくお願いします!!」



僕は、充さんと強めの握手を交わした。
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