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堕天
〈5話〉 「現実」
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「わざわざ家まで送ってくださるなんて……
本当にありがとうございます……」
「いえいえ、巻き込んでしまったのはこちら
ですし、お礼なんていいですよ」
2階にある自室で制服から着替えていると、
1階のリビングから母さんと充さんの会話が
聞こえてくる。
充さんは魔言をなんと説明するだろうか?
流石に「化け物に襲われていました」とかの
ダイレクトな説明なんてしないだろうけど、
今回の事件で僕の友人が死んでいる。
死者が出ている以上、それについてちゃんと
話さなければならないだろう。
…そんな事を考えていた僕は唐突に、学校で
見た友人の死体を思い出した。
家に帰ったことで少し冷静になれたからか、
今日経験した様々な出来事を、今更になって
脳が整理しているようだ。
夜中の学校という「いかにも」すぎる情景と
友人の肉を貪る化け物、"魔言"。
……思い出すだけでも、僕の心が痛む。
こんな形で友人を亡くすとは思わなかった。
交通事故とかで亡くなってしまうより最悪な
死に方を、彼はしてしまった。
……これが人の死に方なのか?
気付いた時、僕の頬には涙が垂れていた。
友を失った悲しみだけではない。
人とは思えない死に様を晒してしまった友を
救ってあげたかったという後悔も募る。
惨状の余韻が、今になって僕を襲ったのだ。
……夢だったら、良かったのに。
「逹畄~?もう着替えた~?」
母さんに名を呼ばれ、僕は我に帰った。
急いでリビングに戻ろうとすると……
「……待ってください。少し、俺と彼だけで
話をさせていただけませんか?」
「え?…あっ…はい。……逹畄ー!充さんが
2人で話したいことがあるらしいから部屋で
待っててだってー!」
階段の一段目につけかけた足を止めて、僕は
自分の部屋にUターンして戻った。
話……って、一体なんだろう…?
それから数分もしない内、充さんが僕の部屋
へと入ってきた。
「……そろそろ落ち着いたか?」
「まぁ……なんとか」
曖昧な返事に対し、充さんはただ「そうか」
と優しく頷いてくれた。
「人が死ぬってのは、やっぱり辛いか?」
「死に方が死に方でしたから……そうですね」
僕は何も隠さず、ただ正直に心情を話した。
そうでもしないと心が病んでしまうくらいに
胸が苦しかった。
すると、充さんは何を思ったのか、僕に対し
こんな言葉を放った。
「……俺はな、少しだけ安心してるんだ」
「えっ…?」
安心って……
何故この状況で安心していられるのだろう?
「あーゆー現場に出会しちまった人の大抵は
その恐怖の余り、精神が崩壊しちまうんだ。
…中には血迷って、自害する奴も出てきた。
俺はそんな人達を、今まで何度も見てきた。
だから、少し逹畄が心配だったんだよ」
……そっか。
充さんも、僕を心配してくれていたのか。
また迷惑をかけてしまった。
でも………
「……ありがとうございます」
「お前って結構メンタル強いんだな。今まで
魔言に会った一般人の中で、発狂しなかった
奴はそうそういないぞ?」
先程まで冷淡だった充さんの態度と口調が、
今になって柔らかく、暖かくなっているのが
顕著に現れている。
…これも、僕に対する気遣いなのだろうか?
だとしたなら、つくづく申し訳ない。
「あっ、そういえば友人の事は……」
「しっかり伝えた。魔言の事は言ってない。
言ったって、どうせ信じないだろうしな」
「まぁ……そうですよね」
すると、充さんは立て続けに、部屋の本棚に
飾ってある賞状と作品に目をつけた。
「……この賞状は?」
「ああ……それは昔、全国書道コンクールで
最優秀大賞を取った時の賞ですね」
「ふーん……団体?個人?」
「コンクールは個人しかないですよ……」
「ほう……上手いな……」
……何故だろう。
充さんが鑑定士のような目つきで僕の作品を
まじまじと見ている。
「これ、書くのに何分かかった?」
「えっと……2分くらいですかね。準備とか
そうゆう時間を除いたら、ですけど」
「書き直した回数は?」
「いや、書き直してません」
「へぇ~……そいつは良いなぁ………」
……どうしてだろう。
充さんが僕の作品を見てニヤけている。
まるで何か企んでいるかのような……
次に、充さんは僕の方をじっと見つめる。
……なんで、僕を見てるんだ?
「……なぁ、逹畄。俺に提案がある」
「は、はい…?」
提案……?
提案ってなんだろう?
「……お前、言士になってみるか?」
「……え?」
えっ………ぇええ…!?
本当にありがとうございます……」
「いえいえ、巻き込んでしまったのはこちら
ですし、お礼なんていいですよ」
2階にある自室で制服から着替えていると、
1階のリビングから母さんと充さんの会話が
聞こえてくる。
充さんは魔言をなんと説明するだろうか?
流石に「化け物に襲われていました」とかの
ダイレクトな説明なんてしないだろうけど、
今回の事件で僕の友人が死んでいる。
死者が出ている以上、それについてちゃんと
話さなければならないだろう。
…そんな事を考えていた僕は唐突に、学校で
見た友人の死体を思い出した。
家に帰ったことで少し冷静になれたからか、
今日経験した様々な出来事を、今更になって
脳が整理しているようだ。
夜中の学校という「いかにも」すぎる情景と
友人の肉を貪る化け物、"魔言"。
……思い出すだけでも、僕の心が痛む。
こんな形で友人を亡くすとは思わなかった。
交通事故とかで亡くなってしまうより最悪な
死に方を、彼はしてしまった。
……これが人の死に方なのか?
気付いた時、僕の頬には涙が垂れていた。
友を失った悲しみだけではない。
人とは思えない死に様を晒してしまった友を
救ってあげたかったという後悔も募る。
惨状の余韻が、今になって僕を襲ったのだ。
……夢だったら、良かったのに。
「逹畄~?もう着替えた~?」
母さんに名を呼ばれ、僕は我に帰った。
急いでリビングに戻ろうとすると……
「……待ってください。少し、俺と彼だけで
話をさせていただけませんか?」
「え?…あっ…はい。……逹畄ー!充さんが
2人で話したいことがあるらしいから部屋で
待っててだってー!」
階段の一段目につけかけた足を止めて、僕は
自分の部屋にUターンして戻った。
話……って、一体なんだろう…?
それから数分もしない内、充さんが僕の部屋
へと入ってきた。
「……そろそろ落ち着いたか?」
「まぁ……なんとか」
曖昧な返事に対し、充さんはただ「そうか」
と優しく頷いてくれた。
「人が死ぬってのは、やっぱり辛いか?」
「死に方が死に方でしたから……そうですね」
僕は何も隠さず、ただ正直に心情を話した。
そうでもしないと心が病んでしまうくらいに
胸が苦しかった。
すると、充さんは何を思ったのか、僕に対し
こんな言葉を放った。
「……俺はな、少しだけ安心してるんだ」
「えっ…?」
安心って……
何故この状況で安心していられるのだろう?
「あーゆー現場に出会しちまった人の大抵は
その恐怖の余り、精神が崩壊しちまうんだ。
…中には血迷って、自害する奴も出てきた。
俺はそんな人達を、今まで何度も見てきた。
だから、少し逹畄が心配だったんだよ」
……そっか。
充さんも、僕を心配してくれていたのか。
また迷惑をかけてしまった。
でも………
「……ありがとうございます」
「お前って結構メンタル強いんだな。今まで
魔言に会った一般人の中で、発狂しなかった
奴はそうそういないぞ?」
先程まで冷淡だった充さんの態度と口調が、
今になって柔らかく、暖かくなっているのが
顕著に現れている。
…これも、僕に対する気遣いなのだろうか?
だとしたなら、つくづく申し訳ない。
「あっ、そういえば友人の事は……」
「しっかり伝えた。魔言の事は言ってない。
言ったって、どうせ信じないだろうしな」
「まぁ……そうですよね」
すると、充さんは立て続けに、部屋の本棚に
飾ってある賞状と作品に目をつけた。
「……この賞状は?」
「ああ……それは昔、全国書道コンクールで
最優秀大賞を取った時の賞ですね」
「ふーん……団体?個人?」
「コンクールは個人しかないですよ……」
「ほう……上手いな……」
……何故だろう。
充さんが鑑定士のような目つきで僕の作品を
まじまじと見ている。
「これ、書くのに何分かかった?」
「えっと……2分くらいですかね。準備とか
そうゆう時間を除いたら、ですけど」
「書き直した回数は?」
「いや、書き直してません」
「へぇ~……そいつは良いなぁ………」
……どうしてだろう。
充さんが僕の作品を見てニヤけている。
まるで何か企んでいるかのような……
次に、充さんは僕の方をじっと見つめる。
……なんで、僕を見てるんだ?
「……なぁ、逹畄。俺に提案がある」
「は、はい…?」
提案……?
提案ってなんだろう?
「……お前、言士になってみるか?」
「……え?」
えっ………ぇええ…!?
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