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平和からの惨死

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 人間と亜人の二種類が共存する世界に私は産まれた。
 見た目が違うだけで亜人も人間に代わりない。それがこの世界の常識だった。
 だけど私がまだこの世に誕生してないかった頃は違ったらしい。
 これは父に聞いた逸話のような真実だ。
 人間と亜人は長い間対立していた。
 亜人と人間の間には境界線が引かれ領土関係で戦争も絶え間なく勃発していた。
 人間は亜人を醜い下等生物と蔑み、亜人は人間を傲慢で卑劣な種族と妬んでいた。
 もちろん全ての人間が亜人をそのように酷評していた訳ではない。中には亜人も人間も何ら代わりのない人という生物だ、境界線が引かれることは間違っていると考える者もいたが、そういった者は反逆者として世界から消された。亜人の世界でも同じようなことが起きていた。
 だが1人の男の存在によって世界は変わる。
 私の父、ゼナ・マキナだ。
 父もまた反逆者と呼ばれる人間の1人だった。
 幾度となく人間の手によって殺されかけたらしい。
 だが父はそれでも自分の考えを改めなかった。
 自分が正しいと思ったから、自分の考えは間違っていないと信じていたからこそ父は信念を貫き通せたのだ。
 しかし、父の決死の努力は無意味に終わる。
 人間国の王の独裁によって父を除いた全ての人間に亜人は害と叩き込まれていたのだ。
 1人の平民が何をしたところで変わるようなことではなかった。
 それでもだ、それでも父は諦めなかった。私なら、いや普通の人間ならとっくに諦めて考えを改めてもおかしくはない。いやそれが普通だ。
 父は人間国から外に出た。中から帰ることを断念し外から帰ることにしたらしい。
 人間国の外すなわち亜人国、そう父は亜人国へと赴いたのだ。
 父は亜人を恐れなかった。亜人も人間も変わらないと考えていた父だからこそなせたことだ。
 だが亜人の方は違った。人間である父を妬み殺そうともした。
 しかし父は死ななかった。それは何故か、簡単なことだ。思いが届いたのだ。父の亜人を受け入れるその心が亜人の人間への考えを少しずつ改めさせた。
 亜人は人間国への侵略を止めた。死以外生み出さない意味の無い行為と父のおかげで気づいたのだ。
 亜人が人間を受け入れ始めると人間も亜人を受け入れ始めた。
 人間は次第に何故、亜人を蔑んでいたのか分からなくなっていた。
 人間も亜人も同じ人じゃないか。
 父の考えが世界の常識と化した。
 戦争は瞬く間におさまり、亜人国と人間国という境界線が消え人界デュアルが始まった。
 そしてその新しい世界の代表者となったのが察しの通り私の父だ。
 これは全て私の父から聞いた話だ。盛っているところもあるかもしれない。だけどこれは真実なのだろう。だって、皆が皆父に好意をもって接していたのだから。
 父のおかげで世界に平和が訪れた。
 しかし、その平和も20年という短い時間で終わりを向かえることとなる。
 これからが私がこの地球という星に亡命することとなった理由だ。
 人には個性というものがある。例えば私、髪の色が燃えるように赤い。これは父と炎系統の亜人イフリートの母の遺伝子が原因だ。
 特に私はこの髪を気にしてはいない。人間と亜人のハーフだけどそれも今となっては珍しくない。それにこの髪の色は好きだ。親愛なる父の燃えるようにそして穏やかなら心の象徴のようで誇らしい。
 だが自分の個性を嫌う者もいた。オーク種は特に自分の容姿を気にしていた。
 周りは特に気にもしていないのだが彼らからするとそれはコンプレックス以外の何物でもないのだ。
 そしてそうした者の中に平和が崩壊する主因となった者がいた。
 悪魔種だ。
 奴らの容姿は極めて異型だ。禍々しい角と翼を見たものは誰もが顔をしかめる。
 悪魔種はその酷い見た目を隠すため人間と瓜二つの容姿になる人間フォームへと変身する力が備わっているのだが体力の消耗が激しいらしくストレスの原因となっていた。
 そしてついに限界がきたのか……人の虐殺を始めた。容姿の良い人間からだ。
 平和になれ戦い方を忘れていた人界の民は次々悪魔の攻撃によって命を散らした。
 父は何度と交渉を試みたが悪魔には世界を変えたその声も届かず父は無残にも首を裂かれ死んだ。
 英雄の最後は呆気なかった。
 私は執事と共に逃げた。物も食わず水も飲まずただひたすらに生きるためだけに逃げた。
 しかし空を飛べる奴らから逃げることは不可能だ。
 隣を走っていた執事の胸元に穴があき血が飛び散ったのを覚えている。
 死ぬ直前に執事が私に渡したものは転送装置だった。どこに繋がっているか分からない。ただ選択の余地はない。私は装置を起動させた。
 


 

 
 
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