虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ

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【第一部】国家転覆編

33)死ぬより残酷な地獄

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 血の臭いだけが充満する静かな会議室にて。何もない空間からするりと身を現したのは、ドーヴィだった。
 
「ったく、グレンのやつ、派手にやったなぁ」

 アルチェロ側からあれだけ「使い道があるから殺すのは王族だけにしろ」と言われていたにもかかわらず、グレンは無差別に魔法を放っていた。一応、手加減という意識はまだ残っていたらしく、無詠唱かつ威力の低い魔法を選んでいたようだが……それでも、この惨状はなかなか。

 ドーヴィがパチン、と指を鳴らすと、床に転がっていた上位貴族の体が操り人形のように宙に浮かんだ。同時に、時間が巻き戻る様に壊れた椅子や机も元の形を取り戻し、会議室は血の臭いをそのままに以前の様子へと戻っていく。

 わざわざ、ドーヴィは上位貴族たちを椅子に座らせ、貴族会議と同じ光景を作りだした。

「さあさあ、大切な『貴族会議』の始まりだぜ?」

 ドーヴィは大きく両手を打つ。室内に響く破裂音、それに肩を揺らした何人かの貴族がゆるゆると首を振りながら目を開けた。何度か目を瞬かせ、首を揺らめかせ、意識を取り戻す。

「これは……」

 お互いに目があった貴族が口を開き――すぐに、異常な状況であることに気が付いた。

「っ!? 公爵!? ……陛下っ!?」
「そうだ、我々はグレン・クランストンの魔法を受けて……っ!?」

 血の臭いだけだった部屋に、老人たちの騒ぐ声が響く。その合間に、一人の男の声が割って入った。

「ふぅん、生き残りは半分ってところか」

 その声にぎょっと顔を強張らせ、室内の生者全員がぐるりとそちらの方向へ顔を向ける。すぐに気が付いたのは、面識があるドラガド侯爵だった。

「貴様! グレン・クランストンの護衛……っ!!」
「おお、よく覚えてたな。そう、俺はグレン・クランストン辺境伯の護衛であり――」

 ドーヴィは嬉しそうに目を細めて笑った後、目を見開いて口を大きく歪めた。金色の瞳に、ぱちりと光が爆ぜる。背中からは大きな悪魔の翼が音を立てて生え、尻から鞭のようにしなる尻尾が音もなく現れた。

「――貴様らを地獄に落とすためにグレンに召喚された悪魔さ」
「!!」

 突然現れた異形の存在に、咄嗟に魔法を詠唱しようと構えたのはさすが貴族当主と言ったところだろうか。しかし。

「!? 魔法が!?」
「くっ体も動かん!」

 生きている貴族の無駄なあがきをドーヴィは楽しそうに黙って見つめている。床に転がっている死んだ貴族の無様な姿を見ることができないのは実に残念だが、驕り高ぶっていた人間がグレンの手で始末されるのは非常に面白いショーだったのでそれはそれでヨシとしておく。

 グレンの魔法を受けてなぜ彼らが生き残ったのか。それは単に、ドーヴィがケチャとの約定を守るために「一時的に保護してやった」からに過ぎない。ドーヴィが手を出さなければ、この部屋の人間は間違いなく一人残らずグレンに殺されていただろう。さらに、ドーヴィが意識を刈り取っていなければ、グレンの追撃に遭っていたのも予想できる。

「……そろそろいいかな。貴様らには、ガゼッタ王国の為に文字通り身を犠牲にして働いてもらう。今日の貴族会議の議題はそれだ」
「何を言って――」
「異議は? なし! はい決定ー」

 ドーヴィは腹を抱えて笑いながら、一人で勝手に『決議』を取った。そして、現状を掴めず、ぐちゃぐちゃと罵詈雑言を並べるだけの無能な男へと目を向けた。

「お前ら、グレンがいた時もこうやって決議取ってたもんなぁ? グレンの意見も一切聞かずに」

 言いつつ、ドーヴィは会議室内を歩く。床の死体を邪魔そうに蹴り飛ばし、一番、上座に座っていた老公爵の背中へ。何が起きるのかと、貴族たちはドーヴィを視線で追う。

 ドーヴィは鼻歌を歌いながら、老公爵の頭を片手で鷲掴みにした。

「ぐっ、な、なにをっ、ひ、ひぃっ!」
「ハハッ、情けない悲鳴だ。可愛さも足りないし愛らしさもない。……いつまでも汚ねェ声を聞いてたら、耳が腐っちまう」
「ぎ、ぎぃぁぁぁっ!!」

 頭を掴まれた老公爵は、断末魔のごとき悲鳴を上げつつ――その体をあっという間に小さく折りたたまれて、姿を失くした。到底あり得ない物理現象に、見ていた貴族たちは絶句するしかない。

 そうして、小さくなった老公爵の体は、ドーヴィの片手の中に。ドーヴィは握り拳を開くと、ころん、と一つの石をテーブルに転がした。

「純度100%の『人間魔晶石』だ。いいだろう、中の人間が完全に死ぬまで、魔力の補充もいらないとても画期的な魔晶石! いやあ、素晴らしいね、これでガゼッタ王国の結界も維持できる。魔力不足に悩まされなくて済む!」

 ドーヴィは大きく笑いながら、朗々と述べた。その言葉を明確に理解した生者たちが、一斉に悲鳴を上げ、逃げようともがき始める。そんな醜い人間達を睥睨し、ドーヴィは口元を吊り上げた。

「言っただろう、貴様らにはその身を犠牲にして、王国の為に役立ってもらうと」
「や、やめろっ、やめろ、いやだ、たすけて――」
「……そうやって命乞いした人間に、お前ら応えたか? 応えなかっただろう? やってきたことが、そのまま返ってきてるだけさ」

 上機嫌にドーヴィは次々と貴族の男たちを人間魔晶石へと作り変えていく。ひとつ、作った魔晶石を灯りに翳してみれば、中には必死の形相で壁を叩く小さな小さな人間が見えた。

「お前らの作った魔力タンク、あれは変換効率が悪すぎンだよ。あんなんじゃあ、中の人間だってそのうち魔力が枯渇して死んじまう」

 ドーヴィは、最後に残ったドラガド侯爵の前に、作ったばかりの人間魔晶石をひらめかせた。ドラガド侯爵は中に入っている侯爵と目が遭ったのか、顔を背けて呻き声を上げた。その顔をドーヴィは力づくで前を向かせて、人間魔晶石を突き付ける。

「ところがどっこい、こっちの魔晶石なら……そうだな、耐久度はわからないが、数十年は余裕で持つんじゃないか? しかも、中の人間は常に意識もあり、周囲も見えるし音も聞こえる! お前らの魔力タンクより、よっぽど優秀なんだよ、な? こんなに小さいのに、従来の魔晶石より、魔力タンクより、何より出力もあるしメンテナンス性も高い。いいことづくめじゃないか!」

 ドーヴィは実に面白げに解説した。ここにいる人間に、さらなる絶望を与えるために。既に魔晶石の中に閉じ込められたに貴族たちにも、ドーヴィの声は届いているはずだ。そして理解する。

 今後、数十年、石の牢に囚われて延々と魔力を吸い上げられるだけの存在に、自らが成り果ててしまった事実に。

「さて、ドラガド侯爵」
「ひ……ひぃぃっ!」
「アンタには、俺のグレンが随分と世話になった。だから、交渉の余地がある。他のやつらと同じ、人間魔晶石になるか、それとも、別の道を選ぶか」
「!?」

 ぎしり、とドーヴィは木製のテーブルを軋ませながら腰かけた。それを見上げ、ドラガド侯爵はまるで一筋の光明を見出したかのように目を輝かせる。ドーヴィはそれに対して、にっこりと笑顔を返した。

「か……金ならある! 女か!? 魔力か!? な、なんでも、なんでもお前の望むものを用意しよう!」
「へえー……」
「そ、そうだ、グレン・クランストンのような少年が好きなら、それも用意しよう! 年頃の男を、捕まえて――」

 グレンの名前を口にした瞬間、ドーヴィはドラガド侯爵の首を手で掴んだ。それなりに大柄なはずのドラガド侯爵の体を、腕一本で掴み上げる。

「ぐ、ぁ……がはっ……」
「てめえの口からグレンの名前が出るだけで虫唾が走る。交渉は決裂だ」
「!!!」

 ドーヴィは息苦しさに顔を赤く染めるドラガド侯爵を射殺さんばかりに睨みつけていたが、その顔をふっと崩してクックックと笑い声をあげた。そのうち、その笑い声は大きくなり、ドーヴィは天を仰いで大きく嘲笑した。

「アーッハッハッハ!! てめえと交渉なんて最初からする気はねえんだよばーか!!」

 持っていたドラガド侯爵の体を、ドーヴィはぽいと床へ投げ捨てた。人形のように手足を投げ出したドラガド侯爵を、テーブルから降りたドーヴィが顔を近づけて覗き込む。

「お前は、人間魔晶石になる価値すらねえ。お前が蔑んだ、豚がお似合いさ」
「なっ……ひぃぃっ!!」

 ドラガド侯爵の情けない悲鳴は、すぐに豚の鼻息に取って代わった。

「ふがっふがっ!」
「いいだろう、お前の命の形を豚に変えてやった。どうだドラガド侯爵、本当の豚になった気分は? 良かったなぁ、お前がグレンに食べさせた残飯を、お前もこれから毎日たんまりと食えるぜ?」
「ぶひっ、ぶひぃぃっ!!」
「ハハハハ! 特別サービスで、見た目以外は全部人間の五感を残してやった! 人間の味覚で、しっかりと残飯味わえよ!」

 巨大な豚は首を大きく振って、四本足で歩こうとする。しかし、まだ『豚の形』に慣れていないのか、上手く歩けずに転び、起き上がることもできずに足で宙を必死にかいている。
 
 それを見下ろしていたドーヴィは、元ドラガド侯爵という人間だった豚に、最後通告を渡した。

「豚は豚らしく、豚小屋で、だったな、ドラガド侯爵。今すぐにこの城の豚小屋へ送ってやるよ。……そこで、いつ屠殺されるか恐怖に怯えながら日々を過ごすと良い」

 パチン、とドーヴィが指を鳴らせば豚は姿を消した。

 ……豚の代わりに、黒猫が現れてひょい、とテーブルに乗った。その黒猫は、ドーヴィが作った人間魔晶石を前足でちょいちょいと突いて転がして遊ぶ。

「……お前は、本当にエグいことをするな、ドーヴィ」
「んー? 別にいいだろう、これぐらい。俺の愛しい愛しい契約主様が受けたものを考えりゃ、これでも足りないぐらいだ」
「そうか。まあ、おれはこの魔晶石が手に入れば別にそれでいい」

 量、足りてるだろ? とドーヴィが問えば、黒猫はにゃあと答えた。それに頷いたドーヴィはテーブルに転がっている人間魔晶石を風の魔法で集めて、一つの革袋に押し込んだ。

「じゃあこれを持って行って、早く魔力タンクの人間を解放してやらねえとな」

 ドーヴィはうっとりとした顔で「両親や兄に会えると知れば、グレンのやつ喜ぶだろうなぁ」と優し気に微笑む。ケチャはそれを見て、はぁ、とため息だけついておく。

「……ところでドーヴィ」
「なんだ?」
「最後の男、豚にしたようだが……命の形自体も、豚にしていたな? それもかなり強く固めていたように見えたぞ?」

 ケチャの質問に、ドーヴィはニヤリと笑って答えた。

 命の形を豚に作り変えられたドラガド侯爵は。実際に豚としての生命を終えた後……天使に命を回収されたとしても、豚の形から元に戻ることはないだろう。ドラガド侯爵としての意識も、かなり深くまで埋めた。

 ドラガド侯爵という意識を持った命は、今後、天使によって他の世界に導かれるかもしれないし、そのまま「使用不可」とされて廃棄処分になるかもしれない。

 他の世界に導かれたとしたら――ドラガド侯爵は、命がすり減って無くなるその時まで、永遠に豚として生きることになる。ドラガド侯爵、という人間の意識を抱えたまま。

「あとどうするかは天使次第だからなー」
「……天使にどやされても知らないぞ」
「いいだろ、一人ぐらい。豚の形にしただけで、命自体を欠損させたわけじゃねえし」
「まあ、量が減ってなければいいか、それぐらい」

 確かに、とケチャはドーヴィの言い訳に納得したように髭を前足で撫でた。何より、ケチャにとって、あの男は盤面にない駒だ。だとすれば、その豚になった男の行く末にこれ以上興味はない。

 ドーヴィとケチャはくだらない会話をしながら、血に満ちた会議室を後にした。

 会議室に残ったのは、地獄を免れた死体ばかり。床に転がる死体を壇上から睥睨するのは、王冠と共に首を失くした愚王の体だけだった。
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