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【第一部】国家転覆編
3)グレン・クランストン辺境伯(16歳)※本物 ※成人済み
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グレン・クランストンは辺境伯である。誰が何と言おうと、弱冠16歳の若き辺境伯当主である。いくら愛と性の悪魔・ドーヴィが「嘘だろ」と笑い転げても、辺境伯なのは辺境伯である。
そして、辺境伯であるからには執務というものがあり……。
「おいグレン良い子はもう寝る時間だ」
「んあ……もう少し……この辺の書類の締め切りが、明日までで……ふぁーあ……」
そのあくび混じりの返答にドーヴィは肩を竦めた。当のグレンと言えば、眠い目を擦りながら必死に書類にサインをしている。
「やめとけやめとけ、そんな居眠り状態じゃどうせ明日にはサインも書き直しだ」
「うわっ! 何をする!」
まだ執務机にしがみつこうとするグレンの背後に回ったドーヴィは、器用にグレンの体を椅子から引っ張り上げて俵のように肩へ担ぎ上げた。
「何って、聞き分けのない悪い子を寝かしつけんだよ」
「ドーヴィ! やめろ! 契約主の言う事を聞け!」
「契約主の健康の方が最優先~っとな」
じたばたと肩の上で暴れるグレンを無視して、ドーヴィはグレンの私室に足を踏み入れた。ベッドの上にどさりと落として、そのまま自分も上に――はコンプライアンス違反なのでやらない。本来ならそういう流れだが、残念ながら天使のルール上、まだグレンは未成年なのだ。
代わりに質の良い毛布をグレンの上にかけてやる。そうして、天使に目をつけられない程度の無害な魔法でグレンを強制的に眠らせた。とん、と額を突けば、それまで何とかベッドから逃げ出そうとしていたグレンの目は一瞬でとろんと蕩けて、すぐにまぶたを下ろす。
「いつもありがとうございます、ドーヴィ殿」
「まあ、これぐらいは」
グレンが寝息を立て始めた頃、部屋に顔を出したのは執事の『じいや』ことアーノルドだった。後ろにはメイド長の『ばあや』ことフローレンスと、それに続いてグレンの世話の為にやってきたメイド達がいる。
ドーヴィとアーノルドが連れだって出るのと入れ替わりに、メイド達がグレンの私室に入って行った。グレンが熟睡している間に着替えと身拭いを済ませるのだ。ドーヴィの魔法で眠ったグレンはそう簡単に目覚めたりしない。
すれ違うメイド達の中で数人が、ドーヴィに熱い視線を向ける。それはそうだ、ありとあらゆる人間を虜にする美貌と体躯の持ち主である悪魔。インキュバスの力を使わず、ただの人間として立っていても、やはり見た目の麗しさも纏うカリスマも消せはしない。
が、ドーヴィはそれらの視線に見向きもせずに、静かに歩く執事のアーノルドを追った。
普段なら多少のつまみ食いもしないことはないが、今のドーヴィはグレンに夢中だ。グレンの魔力は美味であるし、エネルギー源としても非常に優秀。精力の方が寂しいと言えば寂しいが、適当なメイドに手を出してグレンがへそを曲げるのは避けたい。
グレンの気持ちを重んじる程度には、ドーヴィはグレンを気に入っていた。少なくとも、ただの食料になる人間としては見ていない。
(全く、俺にしちゃ珍しいもんだぜ……)
心の中でぼやきつつ、アーノルドとの雑談――と言う名の辺境の近況報告や今後のグレンの活動についての打ち合わせをした。
悪魔としての契約の範囲外、だが、契約主の健康を守るためにもドーヴィとしては必要な行動だった。
「では、明日もよろしくお願いします、ドーヴィ殿」
「ああ。そうだ、俺は今夜、少し悪魔絡みで外に出ている。もし誰かから聞かれたら『鍛錬に出かけた』とでも誤魔化しておいてくれ」
その言葉に執事のアーノルドは真っ白な髭を撫でながら頷いた。
子育ての悪魔……違った、愛と性の悪魔・ドーヴィ。その存在を知るのは、召喚者であるグレン・クランストンと彼が信頼を置く執事のアーノルド、それからメイド長のフローレンスのみ。つまり、グレンにとってのじいやとばあやにだけ、ドーヴィが悪魔であることを説明したのだ。
その他の人間には「ドーヴィはグレンが見つけてきた凄腕の傭兵」としか説明していない。そんな素性の知れない傭兵が執務室に出入りしているのを不審に思う人間もいないことはなかった。
……が、まあ夕食時になっても夜寝る時間になっても執務室で仕事にかかり切りなグレンを荷物のごとく肩に担いで運搬している姿が何度も見られてからはそう言った類の視線は随分と減った。
……一部の使用人からはグレンが見つけた傭兵ではなく、「執事のじいやが見つけてきた凄腕の子守」と言われていることをグレンは知らない。
ドーヴィは知っているが、それを知ったグレンの反応が面白そうだから、と放置している。
☆☆☆
クランストン辺境伯の城館。その隅にある塔の頂上でドーヴィは一匹の悪魔を待っていた。夜に浮かぶ月に照らされて密やかに輝く銀髪は、神秘的な雰囲気を漂わせている。
一人、石の壁にもたれながら待つことしばし。どこからともなく「ニャア」と猫の鳴き声がした。
「よう、呼び出して悪かったな、幸運の悪魔ケチャよ」
「クククッ、面白い話があるそうじゃないか、愛と性の悪魔ドーヴィ」
石壁に空いた物見の為の窓、そこに現れたのは一匹の黒猫だった。月明りを影にして、その口からは人間の言葉が吐き出される。
「よく言うぜ、お前はもうこの世界についても探ってあるんだろ?」
ドーヴィが手をひらひらさせながら煽るように言えば、黒猫――幸運の悪魔・ケチャは猫の丸い瞳をスゥと細めて笑った。
「悪魔召喚を行っているのに、天使が手を出してこない。それどころか口も出さなければ手も出さない。こんな面白い世界におれが遊びに来ないわけがないだろう?」
「だよな。予想以上に天使達がだんまりしてやがる。……で、その辺の話とこの世界……っつーか、この国についていろいろお前に教えて貰いたいわけなんだが」
ケチャは座り直すと前足で顔を洗いながら笑って「ケチャ先生と呼べよ」と言った。対するドーヴィは「これはこれはケチャ大先生、ご足労頂きまして」と大袈裟にお辞儀をする。それで、二人は顔を見合わせたあとに噴き出した。
「まあ遊ぶのもこの辺にしておくか。人間の世界の夜は短すぎる」
黒い尻尾を振りながら、ケチャはドーヴィに語り始めた。
「さて、どこから話し始めたものか……。今、おれ達がいるのはガゼッタ王国だ。そしてここはクランストン辺境伯領」
「ああ。辺境伯って言えば、結構お偉いさんなんだろう? よくもまあ、そんな重要な立場をグレンみたいなガキが担ってるなって」
「うむ」
出来の良い生徒を見守るがごとく、ケチャは鷹揚に頷いた。猫の前足でちょいちょい、と宙を掻くと魔力が文字となって現れる。
上から王家、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵と書かれた魔力の文字列をドーヴィは興味深そうに眺めた。
「まあ真ん中ぐらいか?」
「この国ではそうだな。とは言っても、ややイレギュラーな階位である……その辺の歴史は、今は関係ないから端折るぞ」
「ケチャ、わかりやすくしてくれよ」
「この脳筋め」
と言いながらも、ケチャは楽しそうにクックック、と笑う。
「グレン・クランストンが若干15歳で辺境伯当主になったのは、王家と高位貴族の陰謀が原因だ」
「すごいなあまりにも簡潔すぎる」
「お前がわかりやすくしてくれと言ったからだ」
だから結論から言って何が悪い、とケチャは胸を逸らしてふんすと鼻息を吹いた。猫の髭がそれに合わせて少しばかり自慢げに膨らむ。
「事情を言うとだな。まず、このガゼッタ王国が開発した国全体を覆う結界がある。これは魔物の侵入を阻むものだ」
二人は同時に空を見上げる。もちろん、人の目にはほぼ見えないものであるが、魔力を持った人間が目を凝らして意識をしてみれば、薄っすらとピンク色の靄が渦巻いているのが見えるだろう。
人間とは比べ物にならないほどの魔力を持ち、その使い方も秀でている悪魔にとってはもっとくっきりとその結界が見えていた。
「人間が作ったものにしてはよくできてると思うぜ。で? その結界が?」
「これを維持するのに、大量の魔力が必要となる。以前は小さな国だったガゼッタ王国を覆うのに、そこまで魔力は必要なかった」
ケチャが前足で空中を掻けば、今度は地図が描かれる。黒猫の先生は話を続けた。
結界があるのを良い事に、ガゼッタ王国は領土の拡大を続けた。クランストン辺境領に隣接している魔の森のような魔物たちの住処を開発し、あるいは隣国へ侵略戦争を仕掛け。
そして、広げた領土の分、結界は巨大化していく。巨大化すれば、必要となる魔力も増えていく。
「足りなくなった魔力を貴族たちに納めさせていた。が、それもそのうち頭打ちになる。それがガゼッタ王国拡大の限界……になるはずだった」
ケチャはそこで言葉を区切り、さも面白い小説を読んだ、と言わんばかりに目を輝かせて続きを話すべく口を開いた。
そうして、空中に描いたガゼッタ王国を中心とした世界地図を書き換えていく。ガゼッタ王国を模した赤色が、まるでスライムの様に周辺の違う色を飲み込んでいった。
「現国王は愚かで貪欲な男だ。そこで満足すれば良いものを、結界の限界を超えて領土拡大戦争を周辺国へまき散らした。結界を張る魔力が足りない、かといって魔力を切らして結界を解除すれば今度はガゼッタ王国が復讐のターゲットにされてしまう。」
ガゼッタ王国は詰んでいる。ケチャはそう笑った。
「へえ、そりゃあ最高に面白い話だ。で、その欲をかいたバカな男の尻拭いをしたのは?」
「お前もわかっているだろう? それが、クランストン辺境家だ。厳密には尻拭いをしたのではない、『させられた』が正しい」
インキュバスであるドーヴィが主食とするのは、人間の魔力と精力。それに対して、種族のない、純然たる悪魔のケチャが主食とするのは人間の不幸や絶望。
そんな好物の匂いを嗅ぎつけたケチャが興味を持って調べ上げ、その内容を嬉々としてドーヴィに語るほどに、クランストン辺境家には不幸と絶望が存在していたのだ。
---
すみませんグレンの年齢もしかしたらバラバラになってるかもしれません
16歳で確定です
そして、辺境伯であるからには執務というものがあり……。
「おいグレン良い子はもう寝る時間だ」
「んあ……もう少し……この辺の書類の締め切りが、明日までで……ふぁーあ……」
そのあくび混じりの返答にドーヴィは肩を竦めた。当のグレンと言えば、眠い目を擦りながら必死に書類にサインをしている。
「やめとけやめとけ、そんな居眠り状態じゃどうせ明日にはサインも書き直しだ」
「うわっ! 何をする!」
まだ執務机にしがみつこうとするグレンの背後に回ったドーヴィは、器用にグレンの体を椅子から引っ張り上げて俵のように肩へ担ぎ上げた。
「何って、聞き分けのない悪い子を寝かしつけんだよ」
「ドーヴィ! やめろ! 契約主の言う事を聞け!」
「契約主の健康の方が最優先~っとな」
じたばたと肩の上で暴れるグレンを無視して、ドーヴィはグレンの私室に足を踏み入れた。ベッドの上にどさりと落として、そのまま自分も上に――はコンプライアンス違反なのでやらない。本来ならそういう流れだが、残念ながら天使のルール上、まだグレンは未成年なのだ。
代わりに質の良い毛布をグレンの上にかけてやる。そうして、天使に目をつけられない程度の無害な魔法でグレンを強制的に眠らせた。とん、と額を突けば、それまで何とかベッドから逃げ出そうとしていたグレンの目は一瞬でとろんと蕩けて、すぐにまぶたを下ろす。
「いつもありがとうございます、ドーヴィ殿」
「まあ、これぐらいは」
グレンが寝息を立て始めた頃、部屋に顔を出したのは執事の『じいや』ことアーノルドだった。後ろにはメイド長の『ばあや』ことフローレンスと、それに続いてグレンの世話の為にやってきたメイド達がいる。
ドーヴィとアーノルドが連れだって出るのと入れ替わりに、メイド達がグレンの私室に入って行った。グレンが熟睡している間に着替えと身拭いを済ませるのだ。ドーヴィの魔法で眠ったグレンはそう簡単に目覚めたりしない。
すれ違うメイド達の中で数人が、ドーヴィに熱い視線を向ける。それはそうだ、ありとあらゆる人間を虜にする美貌と体躯の持ち主である悪魔。インキュバスの力を使わず、ただの人間として立っていても、やはり見た目の麗しさも纏うカリスマも消せはしない。
が、ドーヴィはそれらの視線に見向きもせずに、静かに歩く執事のアーノルドを追った。
普段なら多少のつまみ食いもしないことはないが、今のドーヴィはグレンに夢中だ。グレンの魔力は美味であるし、エネルギー源としても非常に優秀。精力の方が寂しいと言えば寂しいが、適当なメイドに手を出してグレンがへそを曲げるのは避けたい。
グレンの気持ちを重んじる程度には、ドーヴィはグレンを気に入っていた。少なくとも、ただの食料になる人間としては見ていない。
(全く、俺にしちゃ珍しいもんだぜ……)
心の中でぼやきつつ、アーノルドとの雑談――と言う名の辺境の近況報告や今後のグレンの活動についての打ち合わせをした。
悪魔としての契約の範囲外、だが、契約主の健康を守るためにもドーヴィとしては必要な行動だった。
「では、明日もよろしくお願いします、ドーヴィ殿」
「ああ。そうだ、俺は今夜、少し悪魔絡みで外に出ている。もし誰かから聞かれたら『鍛錬に出かけた』とでも誤魔化しておいてくれ」
その言葉に執事のアーノルドは真っ白な髭を撫でながら頷いた。
子育ての悪魔……違った、愛と性の悪魔・ドーヴィ。その存在を知るのは、召喚者であるグレン・クランストンと彼が信頼を置く執事のアーノルド、それからメイド長のフローレンスのみ。つまり、グレンにとってのじいやとばあやにだけ、ドーヴィが悪魔であることを説明したのだ。
その他の人間には「ドーヴィはグレンが見つけてきた凄腕の傭兵」としか説明していない。そんな素性の知れない傭兵が執務室に出入りしているのを不審に思う人間もいないことはなかった。
……が、まあ夕食時になっても夜寝る時間になっても執務室で仕事にかかり切りなグレンを荷物のごとく肩に担いで運搬している姿が何度も見られてからはそう言った類の視線は随分と減った。
……一部の使用人からはグレンが見つけた傭兵ではなく、「執事のじいやが見つけてきた凄腕の子守」と言われていることをグレンは知らない。
ドーヴィは知っているが、それを知ったグレンの反応が面白そうだから、と放置している。
☆☆☆
クランストン辺境伯の城館。その隅にある塔の頂上でドーヴィは一匹の悪魔を待っていた。夜に浮かぶ月に照らされて密やかに輝く銀髪は、神秘的な雰囲気を漂わせている。
一人、石の壁にもたれながら待つことしばし。どこからともなく「ニャア」と猫の鳴き声がした。
「よう、呼び出して悪かったな、幸運の悪魔ケチャよ」
「クククッ、面白い話があるそうじゃないか、愛と性の悪魔ドーヴィ」
石壁に空いた物見の為の窓、そこに現れたのは一匹の黒猫だった。月明りを影にして、その口からは人間の言葉が吐き出される。
「よく言うぜ、お前はもうこの世界についても探ってあるんだろ?」
ドーヴィが手をひらひらさせながら煽るように言えば、黒猫――幸運の悪魔・ケチャは猫の丸い瞳をスゥと細めて笑った。
「悪魔召喚を行っているのに、天使が手を出してこない。それどころか口も出さなければ手も出さない。こんな面白い世界におれが遊びに来ないわけがないだろう?」
「だよな。予想以上に天使達がだんまりしてやがる。……で、その辺の話とこの世界……っつーか、この国についていろいろお前に教えて貰いたいわけなんだが」
ケチャは座り直すと前足で顔を洗いながら笑って「ケチャ先生と呼べよ」と言った。対するドーヴィは「これはこれはケチャ大先生、ご足労頂きまして」と大袈裟にお辞儀をする。それで、二人は顔を見合わせたあとに噴き出した。
「まあ遊ぶのもこの辺にしておくか。人間の世界の夜は短すぎる」
黒い尻尾を振りながら、ケチャはドーヴィに語り始めた。
「さて、どこから話し始めたものか……。今、おれ達がいるのはガゼッタ王国だ。そしてここはクランストン辺境伯領」
「ああ。辺境伯って言えば、結構お偉いさんなんだろう? よくもまあ、そんな重要な立場をグレンみたいなガキが担ってるなって」
「うむ」
出来の良い生徒を見守るがごとく、ケチャは鷹揚に頷いた。猫の前足でちょいちょい、と宙を掻くと魔力が文字となって現れる。
上から王家、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵と書かれた魔力の文字列をドーヴィは興味深そうに眺めた。
「まあ真ん中ぐらいか?」
「この国ではそうだな。とは言っても、ややイレギュラーな階位である……その辺の歴史は、今は関係ないから端折るぞ」
「ケチャ、わかりやすくしてくれよ」
「この脳筋め」
と言いながらも、ケチャは楽しそうにクックック、と笑う。
「グレン・クランストンが若干15歳で辺境伯当主になったのは、王家と高位貴族の陰謀が原因だ」
「すごいなあまりにも簡潔すぎる」
「お前がわかりやすくしてくれと言ったからだ」
だから結論から言って何が悪い、とケチャは胸を逸らしてふんすと鼻息を吹いた。猫の髭がそれに合わせて少しばかり自慢げに膨らむ。
「事情を言うとだな。まず、このガゼッタ王国が開発した国全体を覆う結界がある。これは魔物の侵入を阻むものだ」
二人は同時に空を見上げる。もちろん、人の目にはほぼ見えないものであるが、魔力を持った人間が目を凝らして意識をしてみれば、薄っすらとピンク色の靄が渦巻いているのが見えるだろう。
人間とは比べ物にならないほどの魔力を持ち、その使い方も秀でている悪魔にとってはもっとくっきりとその結界が見えていた。
「人間が作ったものにしてはよくできてると思うぜ。で? その結界が?」
「これを維持するのに、大量の魔力が必要となる。以前は小さな国だったガゼッタ王国を覆うのに、そこまで魔力は必要なかった」
ケチャが前足で空中を掻けば、今度は地図が描かれる。黒猫の先生は話を続けた。
結界があるのを良い事に、ガゼッタ王国は領土の拡大を続けた。クランストン辺境領に隣接している魔の森のような魔物たちの住処を開発し、あるいは隣国へ侵略戦争を仕掛け。
そして、広げた領土の分、結界は巨大化していく。巨大化すれば、必要となる魔力も増えていく。
「足りなくなった魔力を貴族たちに納めさせていた。が、それもそのうち頭打ちになる。それがガゼッタ王国拡大の限界……になるはずだった」
ケチャはそこで言葉を区切り、さも面白い小説を読んだ、と言わんばかりに目を輝かせて続きを話すべく口を開いた。
そうして、空中に描いたガゼッタ王国を中心とした世界地図を書き換えていく。ガゼッタ王国を模した赤色が、まるでスライムの様に周辺の違う色を飲み込んでいった。
「現国王は愚かで貪欲な男だ。そこで満足すれば良いものを、結界の限界を超えて領土拡大戦争を周辺国へまき散らした。結界を張る魔力が足りない、かといって魔力を切らして結界を解除すれば今度はガゼッタ王国が復讐のターゲットにされてしまう。」
ガゼッタ王国は詰んでいる。ケチャはそう笑った。
「へえ、そりゃあ最高に面白い話だ。で、その欲をかいたバカな男の尻拭いをしたのは?」
「お前もわかっているだろう? それが、クランストン辺境家だ。厳密には尻拭いをしたのではない、『させられた』が正しい」
インキュバスであるドーヴィが主食とするのは、人間の魔力と精力。それに対して、種族のない、純然たる悪魔のケチャが主食とするのは人間の不幸や絶望。
そんな好物の匂いを嗅ぎつけたケチャが興味を持って調べ上げ、その内容を嬉々としてドーヴィに語るほどに、クランストン辺境家には不幸と絶望が存在していたのだ。
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