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本編
65)それは儀式ではなく、ただの遊びの範囲であって。
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ドーヴィはグレンを膝の間に座らせ、後ろからさきほどのように両腕を回した。あれだ、ドーヴィがグレンの大事なモノを肉眼で確認してしまうと未成年ナントカカントカで天使にしょっぴかれる可能性があるのだ。世の中は実に世知辛い。
念のため、とドーヴィは自分の視界にも例のモザイク魔法をかけておく。グレンの腰回りがぼやけたのを確認して、ドーヴィはよし、と呟いた。
「さあグレン、俺がこれまで教えた通りにやってみろ」
昔、閨教育で教えられた通りにやれとは言わない。そんな古い貴族のやり方は全部忘れて、さっさとドーヴィ色に染まってしまえばいい。
「うん」
素直に頷いたグレンはもぞもぞと尻を動かし、下半身を寛げた。残念ながらドーヴィの目には濃い目のモザイクで何も見えないのだが……見えないところにあると思うと、それはそれでそそられる。最低限、モザイク越しでもそこに肌色があるのはわかるのだ。
(毛も年齢の割には薄いんだよなぁ。肌色多めすぎんだよ)
モザイクの向こうでグレンの手がせっせと動いているのを眺めながら、ドーヴィはぐりぐりとグレンの頭に頬ずりをした。見守るだけなのもやることが無い。とは言え、手を出してしまうのも健全な性教育としては微妙なものだと思いつつ。
「ん……ドーヴィ、その、固くなってはきた、んだが……」
早くも泣きべそをかいて自分にヘルプを求めてくるグレンに少しばかり苦笑して、ドーヴィは手を出した。独り立ちにはまだ早かったようだ。
仕方がない、むしろグレンは守られるべき時に誰にも守って貰えず、孤独に戦ってきたのだから。その分、今はたくさんの人に守って貰えばいい。ドーヴィだってグレンを守ってやりたいうちの一人であり、筆頭だと自負している。
「焦ることはない、すぐに出るやつもいればなかなか出ないやつもいる。その辺も人それぞれなのさ」
ドーヴィとしては早漏でも遅漏でもどちらでもグレンであるなら美味しく頂くだけだ。
ドーヴィはグレンの手を包むようにしながら、一緒に擦る。……忘れられているかもしれないが、これはあくまでも性教育の一環なのだ。保健体育の授業なのだ。そういう建前がないと、明日にでも白い翼を生やした奴らが襲いかかってくる。
「は……ぁ……」
「気持ちいいだろう? 痛くなるほど擦る必要はねえんだ、気持ちいいなぁって思いながら擦りゃあなんでもいい」
「ん……」
「もっと俺に凭れ掛かっていいぞ」
ドーヴィが片手でグレンの肩を抱き込むように強く押す。押されたグレンは、抵抗することもなく素直にドーヴィの胸に完全に頭を預けた。ふぅ、と安堵するような息がグレンの口から漏れたのも、ドーヴィの気のせいではないだろう。
「大丈夫、俺が見守っている。もし体調に問題が出そうなら、ちゃんと止めてやるから」
「うん……」
とにかく、グレンはこれが怖くて怖くて、心の底から怖いことだと思っているのだ。どれだけ言葉で言い聞かせても体と心に染みついた恐怖を消し去ることは難しい。
(だが、ここで一つ乗り越えられれば……)
ドーヴィは片手でグレンのモノを触りながら、もう片手でグレンの前髪を弄ぶ。そのまま、頭を撫でて少しだけ耳をくすぐり。緊張して体が強張っていたグレンから、くすぐったそうな笑い声が上がった。
「おいおい集中しろよ集中」
「ドーヴィがちょっかいをかけてくるからだろ!」
「なんだぁ、俺のせいだって言うのかよ、このやろ」
そう笑いつつ、ドーヴィは手の動きを早くする。さきほどまで笑いながらドーヴィに文句を言っていたグレンの肩が、またびくりと跳ねた。
リラックスさせて、楽しい気持にさせて。そこから、追い立てる。ドーヴィがこれまでグレンに何回も使って来た手だ。歴代の召喚者たちには使った事のない手法だったが、グレンの場合はよく使う。それもまた、物珍しくてドーヴィにとっては楽しいものであった。
(……っても、こりゃあちょいと厳しいかな……)
気持ちよさそうに鼻を鳴らしながら頬を桃色に染めて感じ入っているグレンだが、ドーヴィがインキュバスとしての固有能力で確認する限り、今回も出すまでには至らなさそうだ。
ふーむ、とドーヴィは手を動かしながら考え込む。
まず、スケジュール的にも辺境でがっつり致せるのは今夜がラストチャンスになる可能性がある。明日のグレンは執務室でデスクワークの予定だから多少の夜更かしは良いが、それ以降は視察や備品監査などであちこちで歩く予定だ。
そして何より。せっかく、グレンがやる気になったと言うのに……そこで、また失敗を重ねて、グレンの自尊心に傷をつけるのは避けたい。何よりも避けたい。
何回も何回も、グレンをゆっくりとトラウマから解放してきたドーヴィの努力が泡となる可能性がある。とにかく、性行為は悪い事ではないし、楽しい事だと教えてきたのに……またこれで「出せなかった」と落胆と重圧に苛まれる日々になってしまっては、グレンがあまりにもかわいそうだ。
「ふぁ……ドーヴィ?」
「ん……そろそろ出そうだな?」
「ぁっ、そう、なのか?」
「何だか熱い物が溜まってきてるし、腰が落ち着かなくなってきただろう」
グレンは熱に潤んだ目をぱちぱちと瞬かせて、そう言われてみれば、というような驚いた顔をした。そこを笑いそうになってドーヴィはぐっと我慢する。魔法に関して大天才なグレンは、こういうところでもどうにも頭でっかちなところがあるのだ。言葉にしてみて、ようやく実感できたのだろう。
そこで。
ドーヴィは、悩んでいたことに結論を出し、こっそりとグレンの体に細工をする。そう、インキュバスの固有能力を使って、グレンがスムーズに射精できるように。
グレンには教えないし、今後も言う事はない。ドーヴィだけの秘密だ。ただ、グレンが一歩を踏み出すために。きっとこの一歩を踏み出せれば……グレンも、グレンが望んでいる大人の男に近づくのだろう。他の人間には小さな一歩でも、グレンには大きな一歩だ。
力を使ってからすぐに。グレンの声が変わり始めた。ドーヴィの手の動きに合わせ、我慢できないと言ったように時折、大きな声を漏らすようになり。また、グレン自身の手も、自分が気持ち良いところを重点的に触るような動きに変わって行った。
(おーいいぞいいぞ)
ドーヴィとしても、そうして自ら快楽に耽るグレンから立ち昇る性の香りは実に芳醇で香しいもの。思わず、眼下の首筋に噛みつき、きつく吸い上げる。
「ひあっ! あっ、ドーヴィ、そこはっ……!」
文句を言うグレンを無視して、ドーヴィは首筋から鎖骨まで、シャツの下に鼻先を潜り込ませて好き勝手に舐め回し、キスマークを散らした。大丈夫、明日の朝にはさくっと魔法で痕跡はかき消す予定だ。
「グレン、出しちまえよ」
耳もとで熱っぽく囁く。グレンが呻き声と共に背筋をぶるりと震わせた。
その瞬間を見逃さず、ドーヴィは一気にグレンを責めて立てる。
「あっ、やっ、ドーヴィ、へん、へんっ!」
「変じゃなくて、出る、だな」
前にもこんな会話したなぁと思いながら、ドーヴィはグレンの発言を訂正する。今のグレンは性知識が乏しすぎて、何が起きても全部「変」としか言い表せないのだ。そこがまた、可愛いと言えば可愛いポイントなのだが。
性教育の一環なのだから正しい単語を教えてやらねばならぬ。……と、ドーヴィはニヤニヤしながらどこかに向けて言い訳をしている。どんどん、グレンがドーヴィ色に染められていく……。
「うっ……ううっ、でる……っ!」
教えて貰ったばかりの単語でアピールするグレンに、ドーヴィは目を細める。そうっと最後の一押しを、インキュバスの固有能力でサポートしてやった。
「っ!」
グレンが言葉にならない悲鳴をあげ、全身をびくつかせた。ぴゅるり、とどこか情けなさがあるささやかな水音と共に、ドーヴィの手に吐き出されたのは……間違いなく、グレンの精液だった。ずいぶん、少量だが。
「っは……はぁ……はぁ……で、でた?」
肩で息をしながら目を瞬かせるグレンに、ドーヴィは無言で自らの手を差し出す。褐色の肌色に、その白い液体は妙に映えた。
それをしばらくまじまじと見ていたグレンだが、急に我に返ったのか顔を真っ赤にして唸っている。まあ、普通はそうだ。目の前に自分の出した白濁液を突き付けられて、平然としている人間の方が少ない。
とは言え、ここで『できた嬉しさ』よりも『出した恥ずかしさ』が勝ってしまっては意味がない。ドーヴィは用意してあったタオルを手繰り寄せ、グレンの目の前で自らの手をしっかりと拭いた。
「ほらグレン、出したら後始末をしなけりゃな?」
「はっ! そうだ!」
ドーヴィに指摘されたグレンは慌てたようにその汚れたタオルを掴み、わたわたと自らの股間も拭ってから下着とズボンを履き直し、そしてやっぱりわたわたと慌てふためきながら部屋の隅にある鉄の桶、貴族が使う証拠隠滅用の桶にタオルを突っ込んだ。
そして、右手を桶の上へ翳し、無詠唱で火を放つ。……ベッドの上であぐらをかいて見守っていたドーヴィがこっそりと魔法の威力を抑えておいた。そうでなかったら今頃、桶の中どころかこの部屋が火の海になっていただろう。
(……こりゃしばらく俺がいるときにしかやらせないようにした方が良いな)
自慰だけならとにかく、その後の始末を失敗して大怪我でもされたら目も当てられない。それほど、グレンにとっては驚きの出来事で、動揺を隠せないほどの事なのだ、射精というのは。
「で、どうだ、感想は。何か体がすっきりしたんじゃないか?」
おずおずとベッドに戻ってきて、当然のようにあぐらをかいていたドーヴィの膝に潜り込もうとする大きな幼児ことグレンを抱え上げ、ドーヴィは優しく尋ねた。決して、揶揄うようには言わない。グレンの行いを肯定する為に、聞いているだけ。
「うーん……たぶん、すっきり、したと思う」
グレンは首を捻りながらそう言った。さすがにその反応には笑いそうになるドーヴィだが、ぐっと堪えておく。
……結局のところ、グレンは例のトラウマのせいで、怖くて苦しいものだと信じ込んでいたからこそ、逆にあっけなさ過ぎて実感がわいてこないのだろう。
「はっは、まあ何にせよ、苦しい事もなんにもないだろう?」
「うん、それは本当にそうだった。苦しくないし、どこも痛くない」
グレンは自らの体をぺたぺたと障って確かめた後に、ドーヴィを見上げた。そしてその時にようやく、ふわりと笑顔を見せる。
「ドーヴィ、ありがとう。ドーヴィのおかげで……僕も、ちゃんとした大人になれたんだと思う」
「クックック、思う、じゃなくて、お前はちゃんとした大人の男になったんだよ。なんだ、いつも『僕は成人している!』が口癖のくせに」
「……それとこれは話が別だ」
ドーヴィに揶揄われて、グレンは頬をぷくりと膨らませて抗議の意を示した。最近、ドーヴィ相手に頬を膨らませて抗議するのがグレンのやり方になりつつある。そうするとドーヴィが早々に折れると学んだらしい。仕方がないだろう、あのぷくぅと膨れたもちもちほっぺを見ていたら虐めたくなる心も浄化されてしまうのだから!
ふわぁ、とグレンは大きな欠伸をする。男は出したら賢者タイムがある、とはよく言ったものだが、グレンは眠くなる方が早いらしい。健康的で良いことだ。
ドーヴィはころりとグレンを膝から落としてベッドに転がす。そのまま毛布を肩までかけて、寝かしつけの体制に入った。
「んん……なんだか、急に眠くなってきた……」
「そりゃ出すモン出したらそうなるんだよ」
「そうなのか……? ドーヴィが言うから、そうなのか……」
後半は半分ほど眠りながらむにゃむにゃと。換気のために窓を開けに行く元気もなさそうだとドーヴィは、眠たげに目をこするグレンを見て苦笑する。閨教育ではそこまでやるように言われていたはずだが。
「まあいいさ。さあグレン、眠くなったのなら眠るといい。きっと、今日はいい夢を見れる」
「うん……うん、おやすみ、ドーヴィ……ぼくはもう、ねむくて……」
「おう、寝てろ寝てろ」
残念ながら、お祝いの二次会イチャイチャは中止のようだ。ドーヴィは残念に思いつつも、早くも健やかな寝息を立て始めた契約主の頭をそっと優しく撫でる。
「よく頑張ったな、グレン」
後押しをしたのは確かにドーヴィの能力だが、トラウマと戦うと決めたのも、勝つために一生懸命頑張ったのも、それはグレン自身だ。グレンが前向きでなかったら、ドーヴィも何もせずに放置していただろう。
契約主が願わない限り、余計な手は出さない。それがドーヴィも含めた悪魔たちのスタンスだ。多少の誘導こそすれ、最後に決心するのはいつだって人間だ。
グレンがすっかり深い眠りに入ったのを確認して、ドーヴィはゆっくりとベッドから立ち上がった。換気の為に窓を開ければ、空には満月が輝いている。
契約主がトラウマを克服し、新たな一歩を踏み出すにはとても良い夜だった。
---
というわけであっさり目ですが!
祝・グレンくん精通です!おめでとう!!!
ドーヴィが「重々しくなくていい、形式ばらずに楽しんでくれればいい」と念じていたのであっさりです
グレンくんはいくつもたくさんのトラウマや心の傷を抱えているのですが、それを何とか癒そうと守り抜こうとするドーヴィの包容力の高さが素晴らしいですね
本当によくグレンくんにホイホイされてくれました…
予約投稿ミスってました!8月24日公開になってた!
念のため、とドーヴィは自分の視界にも例のモザイク魔法をかけておく。グレンの腰回りがぼやけたのを確認して、ドーヴィはよし、と呟いた。
「さあグレン、俺がこれまで教えた通りにやってみろ」
昔、閨教育で教えられた通りにやれとは言わない。そんな古い貴族のやり方は全部忘れて、さっさとドーヴィ色に染まってしまえばいい。
「うん」
素直に頷いたグレンはもぞもぞと尻を動かし、下半身を寛げた。残念ながらドーヴィの目には濃い目のモザイクで何も見えないのだが……見えないところにあると思うと、それはそれでそそられる。最低限、モザイク越しでもそこに肌色があるのはわかるのだ。
(毛も年齢の割には薄いんだよなぁ。肌色多めすぎんだよ)
モザイクの向こうでグレンの手がせっせと動いているのを眺めながら、ドーヴィはぐりぐりとグレンの頭に頬ずりをした。見守るだけなのもやることが無い。とは言え、手を出してしまうのも健全な性教育としては微妙なものだと思いつつ。
「ん……ドーヴィ、その、固くなってはきた、んだが……」
早くも泣きべそをかいて自分にヘルプを求めてくるグレンに少しばかり苦笑して、ドーヴィは手を出した。独り立ちにはまだ早かったようだ。
仕方がない、むしろグレンは守られるべき時に誰にも守って貰えず、孤独に戦ってきたのだから。その分、今はたくさんの人に守って貰えばいい。ドーヴィだってグレンを守ってやりたいうちの一人であり、筆頭だと自負している。
「焦ることはない、すぐに出るやつもいればなかなか出ないやつもいる。その辺も人それぞれなのさ」
ドーヴィとしては早漏でも遅漏でもどちらでもグレンであるなら美味しく頂くだけだ。
ドーヴィはグレンの手を包むようにしながら、一緒に擦る。……忘れられているかもしれないが、これはあくまでも性教育の一環なのだ。保健体育の授業なのだ。そういう建前がないと、明日にでも白い翼を生やした奴らが襲いかかってくる。
「は……ぁ……」
「気持ちいいだろう? 痛くなるほど擦る必要はねえんだ、気持ちいいなぁって思いながら擦りゃあなんでもいい」
「ん……」
「もっと俺に凭れ掛かっていいぞ」
ドーヴィが片手でグレンの肩を抱き込むように強く押す。押されたグレンは、抵抗することもなく素直にドーヴィの胸に完全に頭を預けた。ふぅ、と安堵するような息がグレンの口から漏れたのも、ドーヴィの気のせいではないだろう。
「大丈夫、俺が見守っている。もし体調に問題が出そうなら、ちゃんと止めてやるから」
「うん……」
とにかく、グレンはこれが怖くて怖くて、心の底から怖いことだと思っているのだ。どれだけ言葉で言い聞かせても体と心に染みついた恐怖を消し去ることは難しい。
(だが、ここで一つ乗り越えられれば……)
ドーヴィは片手でグレンのモノを触りながら、もう片手でグレンの前髪を弄ぶ。そのまま、頭を撫でて少しだけ耳をくすぐり。緊張して体が強張っていたグレンから、くすぐったそうな笑い声が上がった。
「おいおい集中しろよ集中」
「ドーヴィがちょっかいをかけてくるからだろ!」
「なんだぁ、俺のせいだって言うのかよ、このやろ」
そう笑いつつ、ドーヴィは手の動きを早くする。さきほどまで笑いながらドーヴィに文句を言っていたグレンの肩が、またびくりと跳ねた。
リラックスさせて、楽しい気持にさせて。そこから、追い立てる。ドーヴィがこれまでグレンに何回も使って来た手だ。歴代の召喚者たちには使った事のない手法だったが、グレンの場合はよく使う。それもまた、物珍しくてドーヴィにとっては楽しいものであった。
(……っても、こりゃあちょいと厳しいかな……)
気持ちよさそうに鼻を鳴らしながら頬を桃色に染めて感じ入っているグレンだが、ドーヴィがインキュバスとしての固有能力で確認する限り、今回も出すまでには至らなさそうだ。
ふーむ、とドーヴィは手を動かしながら考え込む。
まず、スケジュール的にも辺境でがっつり致せるのは今夜がラストチャンスになる可能性がある。明日のグレンは執務室でデスクワークの予定だから多少の夜更かしは良いが、それ以降は視察や備品監査などであちこちで歩く予定だ。
そして何より。せっかく、グレンがやる気になったと言うのに……そこで、また失敗を重ねて、グレンの自尊心に傷をつけるのは避けたい。何よりも避けたい。
何回も何回も、グレンをゆっくりとトラウマから解放してきたドーヴィの努力が泡となる可能性がある。とにかく、性行為は悪い事ではないし、楽しい事だと教えてきたのに……またこれで「出せなかった」と落胆と重圧に苛まれる日々になってしまっては、グレンがあまりにもかわいそうだ。
「ふぁ……ドーヴィ?」
「ん……そろそろ出そうだな?」
「ぁっ、そう、なのか?」
「何だか熱い物が溜まってきてるし、腰が落ち着かなくなってきただろう」
グレンは熱に潤んだ目をぱちぱちと瞬かせて、そう言われてみれば、というような驚いた顔をした。そこを笑いそうになってドーヴィはぐっと我慢する。魔法に関して大天才なグレンは、こういうところでもどうにも頭でっかちなところがあるのだ。言葉にしてみて、ようやく実感できたのだろう。
そこで。
ドーヴィは、悩んでいたことに結論を出し、こっそりとグレンの体に細工をする。そう、インキュバスの固有能力を使って、グレンがスムーズに射精できるように。
グレンには教えないし、今後も言う事はない。ドーヴィだけの秘密だ。ただ、グレンが一歩を踏み出すために。きっとこの一歩を踏み出せれば……グレンも、グレンが望んでいる大人の男に近づくのだろう。他の人間には小さな一歩でも、グレンには大きな一歩だ。
力を使ってからすぐに。グレンの声が変わり始めた。ドーヴィの手の動きに合わせ、我慢できないと言ったように時折、大きな声を漏らすようになり。また、グレン自身の手も、自分が気持ち良いところを重点的に触るような動きに変わって行った。
(おーいいぞいいぞ)
ドーヴィとしても、そうして自ら快楽に耽るグレンから立ち昇る性の香りは実に芳醇で香しいもの。思わず、眼下の首筋に噛みつき、きつく吸い上げる。
「ひあっ! あっ、ドーヴィ、そこはっ……!」
文句を言うグレンを無視して、ドーヴィは首筋から鎖骨まで、シャツの下に鼻先を潜り込ませて好き勝手に舐め回し、キスマークを散らした。大丈夫、明日の朝にはさくっと魔法で痕跡はかき消す予定だ。
「グレン、出しちまえよ」
耳もとで熱っぽく囁く。グレンが呻き声と共に背筋をぶるりと震わせた。
その瞬間を見逃さず、ドーヴィは一気にグレンを責めて立てる。
「あっ、やっ、ドーヴィ、へん、へんっ!」
「変じゃなくて、出る、だな」
前にもこんな会話したなぁと思いながら、ドーヴィはグレンの発言を訂正する。今のグレンは性知識が乏しすぎて、何が起きても全部「変」としか言い表せないのだ。そこがまた、可愛いと言えば可愛いポイントなのだが。
性教育の一環なのだから正しい単語を教えてやらねばならぬ。……と、ドーヴィはニヤニヤしながらどこかに向けて言い訳をしている。どんどん、グレンがドーヴィ色に染められていく……。
「うっ……ううっ、でる……っ!」
教えて貰ったばかりの単語でアピールするグレンに、ドーヴィは目を細める。そうっと最後の一押しを、インキュバスの固有能力でサポートしてやった。
「っ!」
グレンが言葉にならない悲鳴をあげ、全身をびくつかせた。ぴゅるり、とどこか情けなさがあるささやかな水音と共に、ドーヴィの手に吐き出されたのは……間違いなく、グレンの精液だった。ずいぶん、少量だが。
「っは……はぁ……はぁ……で、でた?」
肩で息をしながら目を瞬かせるグレンに、ドーヴィは無言で自らの手を差し出す。褐色の肌色に、その白い液体は妙に映えた。
それをしばらくまじまじと見ていたグレンだが、急に我に返ったのか顔を真っ赤にして唸っている。まあ、普通はそうだ。目の前に自分の出した白濁液を突き付けられて、平然としている人間の方が少ない。
とは言え、ここで『できた嬉しさ』よりも『出した恥ずかしさ』が勝ってしまっては意味がない。ドーヴィは用意してあったタオルを手繰り寄せ、グレンの目の前で自らの手をしっかりと拭いた。
「ほらグレン、出したら後始末をしなけりゃな?」
「はっ! そうだ!」
ドーヴィに指摘されたグレンは慌てたようにその汚れたタオルを掴み、わたわたと自らの股間も拭ってから下着とズボンを履き直し、そしてやっぱりわたわたと慌てふためきながら部屋の隅にある鉄の桶、貴族が使う証拠隠滅用の桶にタオルを突っ込んだ。
そして、右手を桶の上へ翳し、無詠唱で火を放つ。……ベッドの上であぐらをかいて見守っていたドーヴィがこっそりと魔法の威力を抑えておいた。そうでなかったら今頃、桶の中どころかこの部屋が火の海になっていただろう。
(……こりゃしばらく俺がいるときにしかやらせないようにした方が良いな)
自慰だけならとにかく、その後の始末を失敗して大怪我でもされたら目も当てられない。それほど、グレンにとっては驚きの出来事で、動揺を隠せないほどの事なのだ、射精というのは。
「で、どうだ、感想は。何か体がすっきりしたんじゃないか?」
おずおずとベッドに戻ってきて、当然のようにあぐらをかいていたドーヴィの膝に潜り込もうとする大きな幼児ことグレンを抱え上げ、ドーヴィは優しく尋ねた。決して、揶揄うようには言わない。グレンの行いを肯定する為に、聞いているだけ。
「うーん……たぶん、すっきり、したと思う」
グレンは首を捻りながらそう言った。さすがにその反応には笑いそうになるドーヴィだが、ぐっと堪えておく。
……結局のところ、グレンは例のトラウマのせいで、怖くて苦しいものだと信じ込んでいたからこそ、逆にあっけなさ過ぎて実感がわいてこないのだろう。
「はっは、まあ何にせよ、苦しい事もなんにもないだろう?」
「うん、それは本当にそうだった。苦しくないし、どこも痛くない」
グレンは自らの体をぺたぺたと障って確かめた後に、ドーヴィを見上げた。そしてその時にようやく、ふわりと笑顔を見せる。
「ドーヴィ、ありがとう。ドーヴィのおかげで……僕も、ちゃんとした大人になれたんだと思う」
「クックック、思う、じゃなくて、お前はちゃんとした大人の男になったんだよ。なんだ、いつも『僕は成人している!』が口癖のくせに」
「……それとこれは話が別だ」
ドーヴィに揶揄われて、グレンは頬をぷくりと膨らませて抗議の意を示した。最近、ドーヴィ相手に頬を膨らませて抗議するのがグレンのやり方になりつつある。そうするとドーヴィが早々に折れると学んだらしい。仕方がないだろう、あのぷくぅと膨れたもちもちほっぺを見ていたら虐めたくなる心も浄化されてしまうのだから!
ふわぁ、とグレンは大きな欠伸をする。男は出したら賢者タイムがある、とはよく言ったものだが、グレンは眠くなる方が早いらしい。健康的で良いことだ。
ドーヴィはころりとグレンを膝から落としてベッドに転がす。そのまま毛布を肩までかけて、寝かしつけの体制に入った。
「んん……なんだか、急に眠くなってきた……」
「そりゃ出すモン出したらそうなるんだよ」
「そうなのか……? ドーヴィが言うから、そうなのか……」
後半は半分ほど眠りながらむにゃむにゃと。換気のために窓を開けに行く元気もなさそうだとドーヴィは、眠たげに目をこするグレンを見て苦笑する。閨教育ではそこまでやるように言われていたはずだが。
「まあいいさ。さあグレン、眠くなったのなら眠るといい。きっと、今日はいい夢を見れる」
「うん……うん、おやすみ、ドーヴィ……ぼくはもう、ねむくて……」
「おう、寝てろ寝てろ」
残念ながら、お祝いの二次会イチャイチャは中止のようだ。ドーヴィは残念に思いつつも、早くも健やかな寝息を立て始めた契約主の頭をそっと優しく撫でる。
「よく頑張ったな、グレン」
後押しをしたのは確かにドーヴィの能力だが、トラウマと戦うと決めたのも、勝つために一生懸命頑張ったのも、それはグレン自身だ。グレンが前向きでなかったら、ドーヴィも何もせずに放置していただろう。
契約主が願わない限り、余計な手は出さない。それがドーヴィも含めた悪魔たちのスタンスだ。多少の誘導こそすれ、最後に決心するのはいつだって人間だ。
グレンがすっかり深い眠りに入ったのを確認して、ドーヴィはゆっくりとベッドから立ち上がった。換気の為に窓を開ければ、空には満月が輝いている。
契約主がトラウマを克服し、新たな一歩を踏み出すにはとても良い夜だった。
---
というわけであっさり目ですが!
祝・グレンくん精通です!おめでとう!!!
ドーヴィが「重々しくなくていい、形式ばらずに楽しんでくれればいい」と念じていたのであっさりです
グレンくんはいくつもたくさんのトラウマや心の傷を抱えているのですが、それを何とか癒そうと守り抜こうとするドーヴィの包容力の高さが素晴らしいですね
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