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本編
閑話5)ドーヴィとグレンのホワイトデー
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※いつもの本編と全く関係のない時系列も謎の季節単発ネタです
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グレンの生きるこの世界に「バレンタインデー」という文化はない。という事は、つまり「ホワイトデー」という文化もないのだ。
「とは言え、バレンタインには美味しいモン食わせて貰ったからな」
バレンタインにグレン本人という大変美味しいプレゼントを頂戴したドーヴィはその時の事を思い出してニマニマとした笑みを浮かべた。悪魔でも思い出しスケベ笑いぐらいすることもある。
さて、そんなドーヴィがお礼に何を準備したかと言えば。
それはもう、甘党のグレンの為に遠い異国の地で購入してきた超高級チョコレートアソートボックスだ。姿を隠してひとっ飛び、現地でさっくり冒険者業で金を荒稼ぎ、そして稼いだ金を全てチョコレートへ。
突如現れた謎の超大型新人冒険者にその国の冒険者ギルドは大いに沸き立ったが……一週間もすれば「じゃ、国に帰るから」と消えてしまい、まるで狐につままれた様な表情のギルドマスターだけが残されたとか。
足取りを追おうにもどこから来たのか、どこへ帰ったのかもわからず。さらに顔だちや背格好を周囲の人間に尋ねても、全員がバラバラな回答をするという始末。
その異様な状況に、その冒険者ギルドはその冒険者について探るのを止めた。そして冒険者としての籍は残しておくものの、いない者として扱い、一切の口外を禁止する事になった。
その空気を察した冒険者たちも恐れをなしたのか、件の男について話す者はほとんどいなくなったと言う。時折、酒場で酔っ払いが口を滑らす程度で――結果として、都市伝説のような存在に昇華されていった。
……などという話はドーヴィには関係のないこと。そもそも悪魔が伝説上の生き物なのだから、都市伝説程度になったところでビクともしないのだ。
そんなことより。
場所は寝室、グレンは仕事を終えて寝る準備も万端だ。そんなグレンをベッドの上に転がし、ドーヴィ自身はベッド端に座った。
「グレン、1か月前にバレンタインをやったの覚えてるか?」
「ばれ……ばれん……ああ! 覚えているぞ!」
そう笑った後、あの時のアレでソレでアダルトな事を思い出したのかグレンは顔を真っ赤にした。具体的にどこの部分を思い出したのか教えて貰いたいものである。
「で、バレンタインデーの一か月後に『ホワイトデー』というものがあってな」
「ホワイトデー?」
バレンタインと違い、耳に馴染む単語だったからかグレンはスムーズに発音した。寝転がっていたグレンは体を起こして、ベッドの上に座る。何やらドーヴィが面白い話をしてくれそうだ、と考えたからだ。つまり寝ている場合ではない。
「おう、ホワイトデーな。これはバレンタインデーにプレゼントを貰った側が、お返しにプレゼントを渡す日なんだ」
「なるほど! 確かにその方が贈り合いになって良いな」
「まあな。で、これが俺からホワイトデーのお返し。開けていいぞ」
綺麗にリボンでラッピングされた小さな箱。それをぽんと渡されたグレンは、嬉しそうに笑ってリボンを解きにかかった。
貴族御用達の高級店で購入したその高級なチョコレートボックスは、ラッピングも丁寧でリボン一つとっても高級な生地が使われている。が、今のグレンはそっちより、箱の中身に夢中だ。
その無邪気な喜びようを見ていると、ドーヴィもぐんぐん元気になるというもの。
「これは……この甘い香りは、まさかチョコレートか!?」
「正解。ちょいとお前が寝ている間に他の国に出かけて、金を稼いで買って来たんだ」
「お、おお……! ありがとうドーヴィ!」
早速食べてもいいだろうか、と我慢しきれずにドーヴィに上目遣いでお伺いを立てるグレン。そんな顔をされてダメだと言える悪魔がいるわけもなく。
「お前のものなんだから好きに食えよ」
ドーヴィに笑いかけられ、グレンは目をきらきらと輝かせて6個入りの中から1つを選び、口に入れた。
「~~~~! あまいっ! おいしいっ!!」
「そうかそうか、そりゃ良かった。チョコレートなら甘くない飲み物の方がいいだろ」
うっとりとした顔で頬を左右交互に膨らませてチョコレートを味わうグレンに、はちみつ無しの普通のホットミルクを手渡す。
ドーヴィから受け取ったグレンは、それを一口だけ口に入れてホットミルクチョコレートを楽しんでいる様だった。
(いやあこれだけ嬉しがってくれると、多少遠出をしたかいがあったな)
グレンがあまりにも嬉しそうに、膨らんだ頬をピンク色に染めてチョコレートを食べるものだから。ドーヴィとしても非常に大満足なのだ。やはり契約主の幸せいっぱいの姿は悪魔の健康に非常に良い。
そうしてグレンは2個目に手を伸ばし、これまたコロコロと口の中で転がして存分に味わう。次に手を出したのは……箱の蓋だった。
「お? 残りは?」
「一度に食べたらもったいないだろう! これは残しておいて、明日以降に1日1粒食べるのだ!」
そう言ってグレンはいそいそとチョコレートボックスを寝室にある机の引き出しへとしまい込んだ。
(……溶けるな、あれ)
日中の室温を考えたら、間違いなく溶ける。明日の夜にぐちゃぐちゃになったチョコレートを前に、グレンが絶望する姿が目に浮かぶようだ。
ここでサディストならそのまま黙っておくだろうが、ドーヴィにその気はない。性の方で苛め抜くなら興味はあるが、それ以外ではグレンにはいつもにこにこ笑顔でいて欲しいのだ。
と言うわけで、ドーヴィはひっそりとグレンの大切な宝箱に状態保存の魔法をかけておいた。グレンに気づかれないように、かなり高度な方の状態保存魔法を。
これで明日以降もグレンのにこにこも保存されるはず。明日も幸せそうな顔でチョコレートを頬張る姿が目に浮かぶようで、ドーヴィは思わず笑いを零した。
……ドーヴィは、チョコレートの保存に少しばかり気が向いていた。故に、ベッドの上でグレンが妙にもじもじしている事に、気づかなかった。
「なあ、ドーヴィ」
「あン?」
ちょいちょい、と裾を引かれてドーヴィはグレンの方を見た。頬がほんのり上気しているグレンが、潤んだ瞳でドーヴィを見ている。
これをチョコレートに興奮したから、と勘違いするのだから、ドーヴィもグレンの天然を笑えない。全く笑えない、それでもインキュバスか!
「お、お、お礼の、お礼、も変だけど………………今夜は、エッチな事、してもいいぞ」
小さな声で、グレンがそう囁く。
その言葉はドーヴィの耳に入り、脳に伝わり、脳の中で言葉を理解し――だいぶ時間がかかった。
「ぶふぉぉぉっ!!!!!」
「ドーヴィ!?」
そう来るとは全く構えてなかったドーヴィは、今日も盛大に噴き出した。お礼のお礼にエッチな事! してもいいと!! グレンから!
いやそれはどういうつもりで、と言い返しそうになったが、ふとグレンを見れば……まるで先ほど、チョコレートを目の前にした時のように、期待の光で目をきらめかせている。
と言っても、その色合いはずいぶんとセクシーなものだったが。チョコレートとはまた違う、期待した眼差し。
(ってなったら、期待に応えないと男が廃るな!)
ドーヴィは手早く判断して、無言でグレンを押し倒した。グレンも大人しくベッドに倒れこんで、ドーヴィのシャツを両手で掴む。
ホワイトデーの夜、二人の影が重なった。
☆☆☆
……どうやらグレンは、バレンタインデーでそうしたのだから、ホワイトデーなるものも当然そうするものだと思っていたようだ。
後日やんわりとその話を聞いたドーヴィはそれを全力で肯定し、一切修正しなかった。
ホワイトデーという文化が無いこの世界に逆に感謝である。おかげさまでドーヴィは今後も美味しい思いができそうだ。
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R15なのでエッチシーンはありません!
閑話なので濃厚ないちゃえちもありません!
我慢できなかったのでいちゃいちゃさせた
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グレンの生きるこの世界に「バレンタインデー」という文化はない。という事は、つまり「ホワイトデー」という文化もないのだ。
「とは言え、バレンタインには美味しいモン食わせて貰ったからな」
バレンタインにグレン本人という大変美味しいプレゼントを頂戴したドーヴィはその時の事を思い出してニマニマとした笑みを浮かべた。悪魔でも思い出しスケベ笑いぐらいすることもある。
さて、そんなドーヴィがお礼に何を準備したかと言えば。
それはもう、甘党のグレンの為に遠い異国の地で購入してきた超高級チョコレートアソートボックスだ。姿を隠してひとっ飛び、現地でさっくり冒険者業で金を荒稼ぎ、そして稼いだ金を全てチョコレートへ。
突如現れた謎の超大型新人冒険者にその国の冒険者ギルドは大いに沸き立ったが……一週間もすれば「じゃ、国に帰るから」と消えてしまい、まるで狐につままれた様な表情のギルドマスターだけが残されたとか。
足取りを追おうにもどこから来たのか、どこへ帰ったのかもわからず。さらに顔だちや背格好を周囲の人間に尋ねても、全員がバラバラな回答をするという始末。
その異様な状況に、その冒険者ギルドはその冒険者について探るのを止めた。そして冒険者としての籍は残しておくものの、いない者として扱い、一切の口外を禁止する事になった。
その空気を察した冒険者たちも恐れをなしたのか、件の男について話す者はほとんどいなくなったと言う。時折、酒場で酔っ払いが口を滑らす程度で――結果として、都市伝説のような存在に昇華されていった。
……などという話はドーヴィには関係のないこと。そもそも悪魔が伝説上の生き物なのだから、都市伝説程度になったところでビクともしないのだ。
そんなことより。
場所は寝室、グレンは仕事を終えて寝る準備も万端だ。そんなグレンをベッドの上に転がし、ドーヴィ自身はベッド端に座った。
「グレン、1か月前にバレンタインをやったの覚えてるか?」
「ばれ……ばれん……ああ! 覚えているぞ!」
そう笑った後、あの時のアレでソレでアダルトな事を思い出したのかグレンは顔を真っ赤にした。具体的にどこの部分を思い出したのか教えて貰いたいものである。
「で、バレンタインデーの一か月後に『ホワイトデー』というものがあってな」
「ホワイトデー?」
バレンタインと違い、耳に馴染む単語だったからかグレンはスムーズに発音した。寝転がっていたグレンは体を起こして、ベッドの上に座る。何やらドーヴィが面白い話をしてくれそうだ、と考えたからだ。つまり寝ている場合ではない。
「おう、ホワイトデーな。これはバレンタインデーにプレゼントを貰った側が、お返しにプレゼントを渡す日なんだ」
「なるほど! 確かにその方が贈り合いになって良いな」
「まあな。で、これが俺からホワイトデーのお返し。開けていいぞ」
綺麗にリボンでラッピングされた小さな箱。それをぽんと渡されたグレンは、嬉しそうに笑ってリボンを解きにかかった。
貴族御用達の高級店で購入したその高級なチョコレートボックスは、ラッピングも丁寧でリボン一つとっても高級な生地が使われている。が、今のグレンはそっちより、箱の中身に夢中だ。
その無邪気な喜びようを見ていると、ドーヴィもぐんぐん元気になるというもの。
「これは……この甘い香りは、まさかチョコレートか!?」
「正解。ちょいとお前が寝ている間に他の国に出かけて、金を稼いで買って来たんだ」
「お、おお……! ありがとうドーヴィ!」
早速食べてもいいだろうか、と我慢しきれずにドーヴィに上目遣いでお伺いを立てるグレン。そんな顔をされてダメだと言える悪魔がいるわけもなく。
「お前のものなんだから好きに食えよ」
ドーヴィに笑いかけられ、グレンは目をきらきらと輝かせて6個入りの中から1つを選び、口に入れた。
「~~~~! あまいっ! おいしいっ!!」
「そうかそうか、そりゃ良かった。チョコレートなら甘くない飲み物の方がいいだろ」
うっとりとした顔で頬を左右交互に膨らませてチョコレートを味わうグレンに、はちみつ無しの普通のホットミルクを手渡す。
ドーヴィから受け取ったグレンは、それを一口だけ口に入れてホットミルクチョコレートを楽しんでいる様だった。
(いやあこれだけ嬉しがってくれると、多少遠出をしたかいがあったな)
グレンがあまりにも嬉しそうに、膨らんだ頬をピンク色に染めてチョコレートを食べるものだから。ドーヴィとしても非常に大満足なのだ。やはり契約主の幸せいっぱいの姿は悪魔の健康に非常に良い。
そうしてグレンは2個目に手を伸ばし、これまたコロコロと口の中で転がして存分に味わう。次に手を出したのは……箱の蓋だった。
「お? 残りは?」
「一度に食べたらもったいないだろう! これは残しておいて、明日以降に1日1粒食べるのだ!」
そう言ってグレンはいそいそとチョコレートボックスを寝室にある机の引き出しへとしまい込んだ。
(……溶けるな、あれ)
日中の室温を考えたら、間違いなく溶ける。明日の夜にぐちゃぐちゃになったチョコレートを前に、グレンが絶望する姿が目に浮かぶようだ。
ここでサディストならそのまま黙っておくだろうが、ドーヴィにその気はない。性の方で苛め抜くなら興味はあるが、それ以外ではグレンにはいつもにこにこ笑顔でいて欲しいのだ。
と言うわけで、ドーヴィはひっそりとグレンの大切な宝箱に状態保存の魔法をかけておいた。グレンに気づかれないように、かなり高度な方の状態保存魔法を。
これで明日以降もグレンのにこにこも保存されるはず。明日も幸せそうな顔でチョコレートを頬張る姿が目に浮かぶようで、ドーヴィは思わず笑いを零した。
……ドーヴィは、チョコレートの保存に少しばかり気が向いていた。故に、ベッドの上でグレンが妙にもじもじしている事に、気づかなかった。
「なあ、ドーヴィ」
「あン?」
ちょいちょい、と裾を引かれてドーヴィはグレンの方を見た。頬がほんのり上気しているグレンが、潤んだ瞳でドーヴィを見ている。
これをチョコレートに興奮したから、と勘違いするのだから、ドーヴィもグレンの天然を笑えない。全く笑えない、それでもインキュバスか!
「お、お、お礼の、お礼、も変だけど………………今夜は、エッチな事、してもいいぞ」
小さな声で、グレンがそう囁く。
その言葉はドーヴィの耳に入り、脳に伝わり、脳の中で言葉を理解し――だいぶ時間がかかった。
「ぶふぉぉぉっ!!!!!」
「ドーヴィ!?」
そう来るとは全く構えてなかったドーヴィは、今日も盛大に噴き出した。お礼のお礼にエッチな事! してもいいと!! グレンから!
いやそれはどういうつもりで、と言い返しそうになったが、ふとグレンを見れば……まるで先ほど、チョコレートを目の前にした時のように、期待の光で目をきらめかせている。
と言っても、その色合いはずいぶんとセクシーなものだったが。チョコレートとはまた違う、期待した眼差し。
(ってなったら、期待に応えないと男が廃るな!)
ドーヴィは手早く判断して、無言でグレンを押し倒した。グレンも大人しくベッドに倒れこんで、ドーヴィのシャツを両手で掴む。
ホワイトデーの夜、二人の影が重なった。
☆☆☆
……どうやらグレンは、バレンタインデーでそうしたのだから、ホワイトデーなるものも当然そうするものだと思っていたようだ。
後日やんわりとその話を聞いたドーヴィはそれを全力で肯定し、一切修正しなかった。
ホワイトデーという文化が無いこの世界に逆に感謝である。おかげさまでドーヴィは今後も美味しい思いができそうだ。
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R15なのでエッチシーンはありません!
閑話なので濃厚ないちゃえちもありません!
我慢できなかったのでいちゃいちゃさせた
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