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本編
44)良き夜のため
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グレンの寝室へと足を向け、扉前に立つ護衛騎士から異常がなかった事を聞いてからドーヴィは室内へ足を踏み入れた。ノックも部屋の主の応答を待つでもなく、勝手に入室する。
ドーヴィにだけ許された特権だ。
そして真っ直ぐにグレンが寝ているはずのベッドに目を向ければ。もぞり、と寝返りを打ってドーヴィとばっちり目が合ったグレンがいた。
「なんだ、起きてたのか」
「……寝付けなくて」
ドーヴィは手を伸ばし、グレンの額をチェックする。まあ、チェックするまでも無く、赤らんだ顔と潤んだ瞳を見れば誰にでもわかるものだった。
「熱、出てきたな。待ってろ、主治医の先生を呼んでくる」
「ん……」
「ハハハ、安心しろ、今夜はみんなお前が発熱するだろうと予想して待機しているんだ」
「……うん」
グレンはどこか甘えたような声で頷いた。そんなグレンの頭をドーヴィは優しく撫でて、ベッドから立ち上がる。
扉を開けて、立っていた騎士にかくかくしかじか説明すれば、騎士はすぐにわかったと頷いて足早に主治医を呼びに行った。それを見送り、ドーヴィはグレンの元へと戻る。
ドーヴィは毛布の中にあるグレンの手をそっと握り、全身の魔力回路の状況を調べた。天使ほどではないが、ドーヴィにもある程度はわかる。調子が悪いか、どうかぐらいは。
(やっぱ乱れてんな……)
血管のごとく全身を巡る魔力回路、そこに流れるグレンの魔力がところどころで詰まったり、塊を作ったりしている。心身の健康には魔力回路も含まれるわけで、グレンの体調はどこからどう見ても悪化の一途を辿っていた。
これは日中にはしゃいだから、だけではなく、これまでの反動もある程度は来ているのだろう。
「ドーヴィ、どうだ?」
自分の体のことを診てくれている、とわかっていたグレンはドーヴィに尋ねる。ドーヴィはそんなグレンの手を撫で、少しだけ魔力譲渡をしながら口を開いた。
「魔力回路の方もちょいと乱れがあるから、魔力譲渡で鎮めておく。まあ、今のところは予想の範囲内だな」
「そうか……迷惑をかける」
「いいさ。辺境領でゆっくり体を休めるのも目的の一つなんだ。むしろ目的通り、ってところだろ」
グレンは一つ頷いて、眼を伏せた。ゆったりとリラックスして、大人しくドーヴィの魔力を受け入れる。
ドーヴィはドーヴィで、グレンが魔力酔いしない程度に極小の魔力譲渡に留めておいた。久々の譲渡だから、グレン側も魔力酔いしやすいだろうとの配慮だ。
そうしていると、以前から大変にお世話になっている主治医が訪れてグレンを診察してくれた。厳しい顔ではなく、にこやかな笑顔を浮かべているのは主治医にとってもこの程度のグレンの不調は、予想の範囲内なのだろう。
魔力回路が乱れていることもドーヴィが伝え、それを聞きながら主治医は鞄の中からいくつか丸薬を取り出す。
「こちらが熱を下げる薬で、こちらが魔力回路の乱れを抑える薬です」
「うむ。すまないな、こんな夜中に」
「いえいえ、グレン様のためなら大したことではございません。また何かありましたら、いつでもお呼びください」
主治医は穏やかに笑いながらそう言い、薬を置いてから丁寧にお辞儀をして退室して行った。
「先生にはお世話になりっぱなしだ」
「全くだ。俺もさすがに薬の用意はそう簡単にできねえからな……っと? 次は誰だ?」
主治医と入れ替わりにやってきたのは、飲み水とタオル、それからいつものはちみつホットミルクをお盆に載せたばあやだった。
さすがばあや、水を取りに行く手間が省けた、とドーヴィは感心した。おかげでドーヴィは引き続きグレンへ魔力譲渡を行える。相変わらずグレンの事について何手も先を読んで行動するメイドの鑑だ。
「さあさ、坊ちゃま、お薬のお水ですよ」
「む、ばあや、僕はもう坊ちゃまと言う年齢では……」
「ばあやにとってはいつまでも坊ちゃまです。細かいことはよろしいでしょう」
「む、むう……」
……さすが、ばあやだった。グレンをさっさとあしらい、薬を飲ませてからはちみつホットミルクを渡す。
坊ちゃん扱いに不満のあったグレンも、はちみつホットミルクにあっさり流された。だからいつまでも坊ちゃまなのかもしれない。
「お薬飲んで温まったら、毛布をちゃんと掛けて寝るのですよ」
「わかってる!」
「ほほほ、その元気があれば明日の朝食は食べれそうですね。料理長にも言っておきましょう」
グレンは最後まで軽々とあしらわれ、ばあやの手によって毛布を肩まで掛けられて完璧に寝かしつけられた。
ばあやが退室してから、しばらく。ベッド端で黙って二人のやり取りを眺めていたドーヴィを見上げて、苦笑する。
「ばあやには、何歳になっても敵わん」
「まあ、そんなもんだろ。正直、俺もばあやには敵わねえって思う事あるからな……」
「ドーヴィが!?」
グレンは目を丸くした後に、肩を小さく震わせて笑う。ドーヴィはこの野郎、と笑いながらグレンの頭をぎゅうと抑えた。
と、じゃれているところに、次なる来訪者が。少しだけ騒がしくなった廊下に何事かと二人が扉へと目を向ける。開いた扉から顔を出したのは、グレンの両親だった。
「父上! 母上!」
「グレン、調子はどうだい? ちょうど寝ようかとエリザベスと話をしていたら、グレンが熱を出したと言うじゃないか」
「気になったから様子を見に来たのだけど……」
「だ、大丈夫です! ちょっと熱が出ただけなので……」
慌ててベッドから起き上がろうとするグレンを手で制すどころか、逆にベッドへと戻す父のイーサン。そして母のエリザベスは白くたおやかな手をひらりと翻してグレンの額にあてる。
「まあ、本当に熱いわ。グレン、もうお薬は飲んだのかしら? 寒くはない? じいやに言って毛布を追加しましょうか?」
「は、母上、大丈夫、大丈夫ですから……もう薬も飲みましたし、あとはゆっくり眠れば大丈夫です」
「そう……」
あわあわと言い募る息子を、エリザベスは心配そうに見る。そんなエリザベスの隣でイーサンが面白そうに笑い声をあげた。
「ふふふ、今夜はドーヴィ君がつきっきりで看病してくれるのだろう? エリザベス、安心して良さそうだ」
「あらあら、そうでしたか。ドーヴィさんが一晩、グレンの看病をしてくれのなら安心ですわね、あなた」
……そして二人は、非常に意味深な目でドーヴィを見てきた。意味深な目で。それはもう、とっても意味深な目で。
「病人には手を出せねえしそもそも相手は未成年だぞ!?」
意味深な目の言うところを正確に読み取ったドーヴィは思わず吠えた。まさか親の方がそんなイケナイ夜の看病を勧めてくるだなんて、どうなっているんだクランストン辺境家!
「ハッハッハ」
「あらあらうふふ」
「?? 何の話をしているんだ?」
いつも通りにその手の事になると途端に鈍感になるグレンだけが首を捻っている。
全く、とドーヴィは呆れたため息をついて、ニコニコしている両親の背をぐいぐいと押して退室を促した。仮にも公爵になる身分の人間だが、これぐらいの対応でも構わないだろう。
「ったく、見舞いに来たかと思えば何を言い出すのやら……」
「ドーヴィが看病してくれるか確認しに来たのではないのか?」
「……おう、そうだな」
ピュアな瞳で見つめられ、ドーヴィはぐうの音も出ずにグレンの発言に同意した。あの両親からこのピュアな息子がどうやって誕生したのか、遺伝の力を創造神に聞いてみたいものだ。ほんの数十分前には似た者親子だなぁとある種の感動を覚えていたと言うのに。
無駄に気疲れしたドーヴィは、扉の前に立つ騎士に「グレン様がお休みになられるから、この後の見舞いは控えて貰いたい」と告げて扉を閉めた。
そして、グレンの体をぐいっとベッド端まで押し、空けたスペースに体を滑り込ませる。もちろん、ベッドの主のグレンは何も文句を言わず、それどころか嬉しそうにはにかみながらドーヴィの体に抱き着いた。
「おうおう、今日はずいぶんと甘えん坊じゃねえか」
「ドーヴィが好きなだけ甘えろって言ったんだろ」
「言ったかあ? ……いや、言ったような気がするな」
発熱して真っ赤な顔をしながら、グレンがフフンと胸を張る。そこはドヤるところか? とドーヴィは思ったが甘えん坊の契約主のドヤ顔が想定よりだいぶ可愛かったのでヨシとしておいた。
「また、変な……嫌な夢を見たら起こしてくれ」
「わかった。病人は安心して朝まで寝てな」
なお、年齢制限が付きそうなドーヴィ的に大変美味しい夢だったら起こさない気満々だ。悪夢なら起こす、ムフフな夢なら起こさない。
「……ドーヴィ、何か企んでないか?」
「失礼だな、何を企むっつーんだよ、この状態で」
妙な勘の鋭さを見せるグレンを宥めるように抱き寄せ、クスクスと笑っているグレンの鼻先を甘噛みする。グレンはより一層笑いを深めて、肩を震わせていた。
(このテンションの高さじゃあ、明日も丸一日寝込みそうだな……)
こればかりはばあやよりもドーヴィの予想の方が当たりそうだ。いや、ばあやの事だから、それを見越して料理長に朝食の準備を頼んでいるかもしれない。
まあとにかく。
「さあいつまでもはしゃいでないで、寝ろよグレン」
「むぅ……わかった。また魔法をかけてくれないか。なんだか……みんなに甘やかされてたら、楽しくなってしまって。寝付けそうにない」
素直にそう言うグレンに、ドーヴィは思わず苦笑を零す。どうやら自覚があったようだ。
「そのうち薬も効いてくるだろ……弱めのやつにしておくぞ」
「ああ。おやすみ、ドーヴィ」
「おやすみ、グレン。良い夢を」
目を閉じたグレンにふわりと睡眠魔法をかける。赤らんだ顔はそのままに、グレンはすぐに寝息を立て始めた。
いつもの発熱であれば、夜中に悪夢を見て飛び起きることも魘されることもあった。
だが、今日は違う。大好きな辺境に戻ってきて、大好きな人たちに囲まれて。
それで、楽しくなりすぎたから熱が出ただけだ。だから、きっと今夜のグレンは楽しい夢を見て、ぐっすりよく眠れるだろう。
その確信がドーヴィにはあった。そして、それは契約主の幸せの為にとても大切な事だとも、しっかり理解している。
---
ご両親的にはもはや「早く手を出して貰って責任取って貰わなきゃ!」的なノリですノリ
まだ修正していませんが、騎士団長の名前を
マルス→フレッド
に変更します
天使のマルコと似てる事に今さら気づいてしまった
→修正完了しました。残ってたらごめんね
ドーヴィにだけ許された特権だ。
そして真っ直ぐにグレンが寝ているはずのベッドに目を向ければ。もぞり、と寝返りを打ってドーヴィとばっちり目が合ったグレンがいた。
「なんだ、起きてたのか」
「……寝付けなくて」
ドーヴィは手を伸ばし、グレンの額をチェックする。まあ、チェックするまでも無く、赤らんだ顔と潤んだ瞳を見れば誰にでもわかるものだった。
「熱、出てきたな。待ってろ、主治医の先生を呼んでくる」
「ん……」
「ハハハ、安心しろ、今夜はみんなお前が発熱するだろうと予想して待機しているんだ」
「……うん」
グレンはどこか甘えたような声で頷いた。そんなグレンの頭をドーヴィは優しく撫でて、ベッドから立ち上がる。
扉を開けて、立っていた騎士にかくかくしかじか説明すれば、騎士はすぐにわかったと頷いて足早に主治医を呼びに行った。それを見送り、ドーヴィはグレンの元へと戻る。
ドーヴィは毛布の中にあるグレンの手をそっと握り、全身の魔力回路の状況を調べた。天使ほどではないが、ドーヴィにもある程度はわかる。調子が悪いか、どうかぐらいは。
(やっぱ乱れてんな……)
血管のごとく全身を巡る魔力回路、そこに流れるグレンの魔力がところどころで詰まったり、塊を作ったりしている。心身の健康には魔力回路も含まれるわけで、グレンの体調はどこからどう見ても悪化の一途を辿っていた。
これは日中にはしゃいだから、だけではなく、これまでの反動もある程度は来ているのだろう。
「ドーヴィ、どうだ?」
自分の体のことを診てくれている、とわかっていたグレンはドーヴィに尋ねる。ドーヴィはそんなグレンの手を撫で、少しだけ魔力譲渡をしながら口を開いた。
「魔力回路の方もちょいと乱れがあるから、魔力譲渡で鎮めておく。まあ、今のところは予想の範囲内だな」
「そうか……迷惑をかける」
「いいさ。辺境領でゆっくり体を休めるのも目的の一つなんだ。むしろ目的通り、ってところだろ」
グレンは一つ頷いて、眼を伏せた。ゆったりとリラックスして、大人しくドーヴィの魔力を受け入れる。
ドーヴィはドーヴィで、グレンが魔力酔いしない程度に極小の魔力譲渡に留めておいた。久々の譲渡だから、グレン側も魔力酔いしやすいだろうとの配慮だ。
そうしていると、以前から大変にお世話になっている主治医が訪れてグレンを診察してくれた。厳しい顔ではなく、にこやかな笑顔を浮かべているのは主治医にとってもこの程度のグレンの不調は、予想の範囲内なのだろう。
魔力回路が乱れていることもドーヴィが伝え、それを聞きながら主治医は鞄の中からいくつか丸薬を取り出す。
「こちらが熱を下げる薬で、こちらが魔力回路の乱れを抑える薬です」
「うむ。すまないな、こんな夜中に」
「いえいえ、グレン様のためなら大したことではございません。また何かありましたら、いつでもお呼びください」
主治医は穏やかに笑いながらそう言い、薬を置いてから丁寧にお辞儀をして退室して行った。
「先生にはお世話になりっぱなしだ」
「全くだ。俺もさすがに薬の用意はそう簡単にできねえからな……っと? 次は誰だ?」
主治医と入れ替わりにやってきたのは、飲み水とタオル、それからいつものはちみつホットミルクをお盆に載せたばあやだった。
さすがばあや、水を取りに行く手間が省けた、とドーヴィは感心した。おかげでドーヴィは引き続きグレンへ魔力譲渡を行える。相変わらずグレンの事について何手も先を読んで行動するメイドの鑑だ。
「さあさ、坊ちゃま、お薬のお水ですよ」
「む、ばあや、僕はもう坊ちゃまと言う年齢では……」
「ばあやにとってはいつまでも坊ちゃまです。細かいことはよろしいでしょう」
「む、むう……」
……さすが、ばあやだった。グレンをさっさとあしらい、薬を飲ませてからはちみつホットミルクを渡す。
坊ちゃん扱いに不満のあったグレンも、はちみつホットミルクにあっさり流された。だからいつまでも坊ちゃまなのかもしれない。
「お薬飲んで温まったら、毛布をちゃんと掛けて寝るのですよ」
「わかってる!」
「ほほほ、その元気があれば明日の朝食は食べれそうですね。料理長にも言っておきましょう」
グレンは最後まで軽々とあしらわれ、ばあやの手によって毛布を肩まで掛けられて完璧に寝かしつけられた。
ばあやが退室してから、しばらく。ベッド端で黙って二人のやり取りを眺めていたドーヴィを見上げて、苦笑する。
「ばあやには、何歳になっても敵わん」
「まあ、そんなもんだろ。正直、俺もばあやには敵わねえって思う事あるからな……」
「ドーヴィが!?」
グレンは目を丸くした後に、肩を小さく震わせて笑う。ドーヴィはこの野郎、と笑いながらグレンの頭をぎゅうと抑えた。
と、じゃれているところに、次なる来訪者が。少しだけ騒がしくなった廊下に何事かと二人が扉へと目を向ける。開いた扉から顔を出したのは、グレンの両親だった。
「父上! 母上!」
「グレン、調子はどうだい? ちょうど寝ようかとエリザベスと話をしていたら、グレンが熱を出したと言うじゃないか」
「気になったから様子を見に来たのだけど……」
「だ、大丈夫です! ちょっと熱が出ただけなので……」
慌ててベッドから起き上がろうとするグレンを手で制すどころか、逆にベッドへと戻す父のイーサン。そして母のエリザベスは白くたおやかな手をひらりと翻してグレンの額にあてる。
「まあ、本当に熱いわ。グレン、もうお薬は飲んだのかしら? 寒くはない? じいやに言って毛布を追加しましょうか?」
「は、母上、大丈夫、大丈夫ですから……もう薬も飲みましたし、あとはゆっくり眠れば大丈夫です」
「そう……」
あわあわと言い募る息子を、エリザベスは心配そうに見る。そんなエリザベスの隣でイーサンが面白そうに笑い声をあげた。
「ふふふ、今夜はドーヴィ君がつきっきりで看病してくれるのだろう? エリザベス、安心して良さそうだ」
「あらあら、そうでしたか。ドーヴィさんが一晩、グレンの看病をしてくれのなら安心ですわね、あなた」
……そして二人は、非常に意味深な目でドーヴィを見てきた。意味深な目で。それはもう、とっても意味深な目で。
「病人には手を出せねえしそもそも相手は未成年だぞ!?」
意味深な目の言うところを正確に読み取ったドーヴィは思わず吠えた。まさか親の方がそんなイケナイ夜の看病を勧めてくるだなんて、どうなっているんだクランストン辺境家!
「ハッハッハ」
「あらあらうふふ」
「?? 何の話をしているんだ?」
いつも通りにその手の事になると途端に鈍感になるグレンだけが首を捻っている。
全く、とドーヴィは呆れたため息をついて、ニコニコしている両親の背をぐいぐいと押して退室を促した。仮にも公爵になる身分の人間だが、これぐらいの対応でも構わないだろう。
「ったく、見舞いに来たかと思えば何を言い出すのやら……」
「ドーヴィが看病してくれるか確認しに来たのではないのか?」
「……おう、そうだな」
ピュアな瞳で見つめられ、ドーヴィはぐうの音も出ずにグレンの発言に同意した。あの両親からこのピュアな息子がどうやって誕生したのか、遺伝の力を創造神に聞いてみたいものだ。ほんの数十分前には似た者親子だなぁとある種の感動を覚えていたと言うのに。
無駄に気疲れしたドーヴィは、扉の前に立つ騎士に「グレン様がお休みになられるから、この後の見舞いは控えて貰いたい」と告げて扉を閉めた。
そして、グレンの体をぐいっとベッド端まで押し、空けたスペースに体を滑り込ませる。もちろん、ベッドの主のグレンは何も文句を言わず、それどころか嬉しそうにはにかみながらドーヴィの体に抱き着いた。
「おうおう、今日はずいぶんと甘えん坊じゃねえか」
「ドーヴィが好きなだけ甘えろって言ったんだろ」
「言ったかあ? ……いや、言ったような気がするな」
発熱して真っ赤な顔をしながら、グレンがフフンと胸を張る。そこはドヤるところか? とドーヴィは思ったが甘えん坊の契約主のドヤ顔が想定よりだいぶ可愛かったのでヨシとしておいた。
「また、変な……嫌な夢を見たら起こしてくれ」
「わかった。病人は安心して朝まで寝てな」
なお、年齢制限が付きそうなドーヴィ的に大変美味しい夢だったら起こさない気満々だ。悪夢なら起こす、ムフフな夢なら起こさない。
「……ドーヴィ、何か企んでないか?」
「失礼だな、何を企むっつーんだよ、この状態で」
妙な勘の鋭さを見せるグレンを宥めるように抱き寄せ、クスクスと笑っているグレンの鼻先を甘噛みする。グレンはより一層笑いを深めて、肩を震わせていた。
(このテンションの高さじゃあ、明日も丸一日寝込みそうだな……)
こればかりはばあやよりもドーヴィの予想の方が当たりそうだ。いや、ばあやの事だから、それを見越して料理長に朝食の準備を頼んでいるかもしれない。
まあとにかく。
「さあいつまでもはしゃいでないで、寝ろよグレン」
「むぅ……わかった。また魔法をかけてくれないか。なんだか……みんなに甘やかされてたら、楽しくなってしまって。寝付けそうにない」
素直にそう言うグレンに、ドーヴィは思わず苦笑を零す。どうやら自覚があったようだ。
「そのうち薬も効いてくるだろ……弱めのやつにしておくぞ」
「ああ。おやすみ、ドーヴィ」
「おやすみ、グレン。良い夢を」
目を閉じたグレンにふわりと睡眠魔法をかける。赤らんだ顔はそのままに、グレンはすぐに寝息を立て始めた。
いつもの発熱であれば、夜中に悪夢を見て飛び起きることも魘されることもあった。
だが、今日は違う。大好きな辺境に戻ってきて、大好きな人たちに囲まれて。
それで、楽しくなりすぎたから熱が出ただけだ。だから、きっと今夜のグレンは楽しい夢を見て、ぐっすりよく眠れるだろう。
その確信がドーヴィにはあった。そして、それは契約主の幸せの為にとても大切な事だとも、しっかり理解している。
---
ご両親的にはもはや「早く手を出して貰って責任取って貰わなきゃ!」的なノリですノリ
まだ修正していませんが、騎士団長の名前を
マルス→フレッド
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天使のマルコと似てる事に今さら気づいてしまった
→修正完了しました。残ってたらごめんね
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