『性』を取り戻せ!

あかのゆりこ

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 しばらく、ドーヴィはぽろりぽろりと涙を零すグレンを抱きしめていた。その涙が、感動の高まりを抑えられなかったものだとわかっているから、ドーヴィは「泣くな」とは言わず、黙って流すままにさせている。

(グレンのやつ、我慢し続けた時間が長すぎたのか、どうにも感情の発露が下手だよなあ)

 一度火がつけば幼子のようにわあわあと泣き続け、一度堪忍袋の緒が切れれば相手を殺さんとばかりに魔法を放つ。本来ならもう少し段階を踏んで感情を爆発させて欲しいところだが……多感な時期を、敵だらけの孤独な世界で虐げられ続けたグレンには難しいのだろう。

「まあいいさ、そういうところも俺にしてみりゃただのチャームポイントだからな」
「……? ドーヴィ、何の話?」
「ん、お前がどんだけ鼻水垂らしても可愛いって話さ」
「っ!」

 グレンはこれまでとは違う方向で顔を赤くすると、慌てて袖で自分の鼻の下を拭った。それを見て、ドーヴィは堪えきれずに噴き出してしまう。

「ドーヴィ!」
「はっはっは、悪い悪い」
「もう! ドーヴィ、すぐいじわるする!」
「怒んなって……ほら、そんな強く拭くと皮膚を痛めるぞ」

 涙の跡も拭おうとしているグレンの腕を捕まえ、ドーヴィは顔全体にふわりと洗浄の魔法をかけた。

 魔法が顔全体に広がる感触に思わずきゅっと目を瞑ったグレンを見ていると、やはり小動物か何かに見える。

 ドーヴィの地味に高度な魔法が顔をきれいさっぱり様々なものを消し去った後、グレンは目を開いて何度もぱちぱちと瞬きさせていた。

 そのグレンの愛らしさを眺めたドーヴィは非常に満足そうに頷く。歴代契約主からは摂取できなかった、グレン特有の謎エネルギー。それはインキュバスの健康に良い、実に新発見である。

「お前も落ち着いたな? そろそろ寝るか」

 膝の上のグレンを転がそうと腰を持ったところで、ドーヴィの手にグレンの手が重ねられる。

「お?」

 ドーヴィがグレンの顔を覗き込めば……口をもごもごと動かしながら、赤色にその顔を染め上げていた。

「グレン?」
「………………僕も、ドーヴィが気持ちよくなるようなこと、してあげたい。でも、僕は……そういうのわからないから……ド、ドーヴィの好きな、性技術を教えて欲しい」

 そう言い切って、グレンは顔を伏せた。

 耳まで赤くして、頑張って、最後までしっかり言った内容が、これ。これ!

「う゛っっっ」
「!? ドーヴィ!?」

 ドーヴィは胸を抑えてベッドに倒れ込んだ。グレン固有の謎エネルギーは健康に良いが、過剰摂取は健康に悪い。

「ぼ、僕が変なことを言ったから……!?」
「いや全然変じゃないから安心してくれただ俺の心臓が耐えきれなかっただけだ」
「それは大丈夫ではないのでは!?」

 慌ててグレンがドーヴィの胸に手を当てて様子を伺う。

 顔を両手で覆って、グレンのあまりの可愛さに悶えていたドーヴィはグレンが心配そうに眉を寄せているのを見て、復活した。いつまでもグレンに暗い顔をさせるわけにはいかない。

「その申し出はありがてえんだが……あれだな、18歳以上になってからだな……」
「そ、そうなのか……」
「たくさん教えることはあるから期待しててくれ」

 そりゃあもう、ありとあらゆるテクニックを教えこむ気満々だ。純白のようなグレンを自分色に染め上げるのがドーヴィの楽しみ。

 歴代契約者は契約したときからある程度は身につけていたから、教えたことはほとんどない。だからこそ、こうして目新しく『契約者に性技を仕込む』というのがドーヴィにとって楽しくて仕方がない。悪魔にも刺激的な生活は必要だ。

「まあでも、お前の気持ちを無下にするのもなぁ、悪いよナァ」

 にやり、と笑うドーヴィに、グレンは嫌そうな顔をする。ドーヴィのためにいろいろやってあげたいのは事実だが、ドーヴィに揶揄われるのは我慢ならない、複雑な少年心だ。

「……難しいのは、嫌だぞ」
「なーに簡単だ簡単。『エッチなことしたい』って言ってくれよ」
「!! え、えっ……それは! はしたない平民の言葉だろう!」
「そうだ、そういう、下衆な言葉をお前の口から聞きてえって事。面白そうだ」

 顔を真っ赤にしたグレンを宥めるように、ドーヴィは前髪を掬って口づけする。金色と赤紫の瞳が動いてドーヴィの手を追った。

「なあ、言ってくれよ。何なら今後もそうやってお誘いしてくれていいんだぜ?」
「っ! っ!!」
「俺の好きな性技術教えて欲しいって言ったのはお前だろ~?」
「……ドーヴィの、変態っ!」

 ついに怒ったグレンが、そう言って顔を横に背けた。ドーヴィの目の前に、赤く染まった形の良い耳が見える。思わずしゃぶりつきそうになったが、今日はやらないと決めたのだからぐっと我慢した。

 ドーヴィから顔を背けているグレンだが、ちらちら、と横目がドーヴィに飛んでいる。それを笑わないように必死に堪え、ドーヴィはグレンの頭を撫でた。そのまま、ほとんど力を入れないで顔をこちらへ向かせる。何だかんだ言って、本気で反抗していないのだ、グレンも。

「ま、平民の言葉なんて嫌だって言うなら、諦めるけどな。俺はなぁ、お前の口から『エッチ』って単語が聞きたいんだよ」
「……変態」
「変態じゃなくて悪魔、な」
「変態悪魔」

 ぷうと頬を膨らませて言うグレンにドーヴィは「インキュバスだからだいたい合ってるな」とからから笑った。人間からしてみれば、インキュバスの性行為に対する執着や造詣の深さは十分に変態の範囲だろう。

 ちゅ、ちゅ、と膝の上に乗せたグレンの顔を啄みつつ、ドーヴィはそっとグレンの背中へ手を伸ばして撫で上げた。途端、グレンが背筋を粟立たせて体を震わせる。少しだけ、口の端から艶のある吐息が漏れたのは、ドーヴィの気のせいではないだろう。

「……ドーヴィ」
「お、言ってくれるか?」

 喉奥で笑いながら、ドーヴィはグレンの瞳を覗き込んだ。相変わらず、欲情の火は小さくちらついていて。大きな手で、グレンの頬を包み込み、唇を親指でなぞる。

 グレンの、小さな喉仏がこくりと動いた。ぎゅ、と目を瞑ってゆっくりと口を開く。

「う……ドーヴィ……その……エ、エッチなこと、して、欲しい……」

 ドーヴィの服をきゅ、と手で握りグレンはついに言った。言ってしまった……!

 しかも、ドーヴィがお願いしたのは「エッチなことしたい」というセリフだったのに、グレンの隠された願望が反映されたのか「エッチなことして欲しい」と、可愛らしいグレンの小さな口から、零れてきたのだ。

 これにドーヴィが耐えきれるわけもなく。だから過剰摂取は危険だとあれほど。

「う゛っっっっっ」
「ドーヴィ!? またか!?」
「気にしないでくれ破壊力が予想以上だった」

 目を瞑って、キス待ち顔のようになりながら、頬を羞恥に染めて言うのだからそれはもう破壊力は抜群だ。恐ろしいほどの破壊力である。歴戦の猛者であるインキュバスのハートを一撃必殺してきた。

 ……いやいや、必殺されている場合ではない。契約主がして欲しいと願ったのだから、悪魔はそれに応えなければ。しかもついでに報酬の精力も頂けるから一石二鳥の契約だ。

 ドーヴィはグレンをひょいと抱え上げ、ベッドボードに背を預けさせた。グレンはドーヴィの行動を不思議そうに見ながらも、されるがままにしている。

(……これからエッチな事されるってわかってんのかこいつ)

 どこまでもドーヴィに対する信頼が厚いと言うべきか、それともやはり性的行為に全くの知識が無くて予想が働かないのか。

「さて、お前の願い通りにエッチな事してやるよ」
「!? セ、セリフを言うだけではないのか!?」
「俺、そんな事言ってねえし」

 ドーヴィの言葉に目を丸くしたグレンだったが、しばらく止まった後に記憶を掘り返したようで、あっ! と口を開いて目をまん丸に見開いていた。

 どうやら、エッチな事されるとはわかっていなかったらしい。ドーヴィに対する信頼が勝ったようだ。

「まあまあ、いつもとやる事は変わんねえから安心してくれ」
「う……ドーヴィが、そう言うのなら……」

 そう言って、グレンは恥ずかしそうに口元を手で覆った。絶対に、貴族として口に出す事はないだろう単語を言ってしまった事が恥ずかしく、今にも顔を隠して穴に入りたい。

 ……それと同時に、何をして貰えるのかと言う興味、あるいは興奮もグレンの中に渦巻いている。ドーヴィがしてくれる「エッチな事」が気になってしまう。

 ドーヴィは絶対に自分を傷つけないし、嫌な事の一線は超えない。いつもいつも、もたらしてくれるのは甘くて優しい愛情であり、そして、グレンの知らない快楽ばかりだ。

「いやあ、期待してるところ悪いんだけどな。最初は、そんなに気持ちよくはならないんだよなぁ」

 そう言いながらドーヴィが手のを伸ばしたのは――グレンの胸、だった。

 胸にある小さな飾りを服の上から探り当て、ドーヴィは指先でちょんと摘まむ。

「そ、そんなところ……っ!」

 誰にも触られたことが無い場所を、触られグレンは恥ずかしそうに眉を寄せる。その表情をたっぷりと堪能しつつ、ドーヴィは指先でその小さな小さな膨らみをくりくりと転がした。

「最初は、ここで何にも感じないんだがな」

 グレンは黙って自分の胸を見下ろしている。ドーヴィの大きな指が、自分の薄い胸の上で踊っているのに目が釘付けだ。

「何回も触っていると、そのうちここで気持ちよくなる」
「こ、ここで?」
「ああ。やばいぐらい気持ちよくなる」

 ドーヴィの言葉に、ごくり、とグレンが唾を飲み込んだ。

 中途半端どころか、貴族然とした「子供を作るための性行為」しか知らないグレンには初耳の事だった。そんな事は閨の教科書に書いてなかったし、教育係も教えてくれなかった。

 ドーヴィの指先は止まらず、時に先端部分を爪で引っ掻く。服の生地越しでも、その妙なくすぐったさを感じて、グレンは少しだけ身じろぎした。

 それを見ていたドーヴィはにやりと笑う。どうやら、契約主の感度はそれなりに良い方らしい。よくもまあ、こんなピュアで綺麗な体のままにここまで生きて来れたものだ。とっくに、王族や上位貴族に手籠めにされていてもおかしくない。

「グレン、どうだ、ぞわぞわするか?」
「ん、しない……けど、変な感じがする」

 恐らく、視界の刺激の方が大きいのだろう。自分の胸を他人に触られ、しかも明確に「性行為」という意識を持って刺激されているのだから。医療行為であると思えば、きっとグレンは何も思わなかっただろう。

 それに気を良くしたドーヴィは、グレンの胸へ口を近づける。そして、服ごと胸の飾りを口に含んだ。

「あっ!? ドーヴィ!?」

 グレンの驚きを無視して、ドーヴィは唇で突起を挟み込み、むにむにと柔らかく締め付ける。同時に、もう片方は指先で刺激を続けた。

「うっ、ドーヴィ、何をっ……!」

 何って、甘噛みだよ、とは口が塞がっているから言えず。代わりに、ドーヴィは歯を立てて柔らかく噛みついた。刺激が変わったことで、グレンの体がびくりと跳ねる。

 シーツを握っているグレンの両手に力が入る。ドーヴィの口から逃げようと本能なのか体を逃がすが、後ろはベッドボードだ、逃げ場はない。

 それを確認し、グレンが倒れこまないという確信を得てからついにドーヴィはもう片方の手をグレンの股間へと伸ばした。

---

忘れた頃に出てくるコメディ(?
R15でギリギリできる範囲の羞恥言葉責めができて良かったです
次もグレンくんのtkbを可愛がりたいと思います
何も感じなかったただのtkbが攻めによってねっとり開発されて敏感になるっていうのが大好きでしてね……

あとグレンくんの可愛いエネルギーは健康に良い
実に良い
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