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第二章
第十七話 目覚め
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……ここは……どこだ?
俺はいったい? たしか……魔族と戦って、魔法があたって……死んで……ない?
目を開けると天井が見えた。見覚えのある天井だ。
ここは、砦で俺が使っていた部屋?
体の感覚は戻っていた。ベットの感触もあるし、お腹あたりに重さも感じる。
……重さ?
首を動かして顔を上げようとするが、錆びてしまったのかと思うぐらい動かしづらい。
ゆっくりと首を動かし、時間をかけて見えたのは金色の髪の毛だった。顔は見えない。ただ、誰かはわかる。
「……あ、り……しあ」
体を上手く動かせないだけでなく、言葉もうまく発することができない。
名前を呼ばれたことで気づいたのか、アリシアは顔を上げるとこちらを向いた。かなり眠そうな顔であり、本当に起きているのか少し怪しく思ってしまう。
「ツカサさまぁ? おはよぅ、ございますぅ…………!? ツカサ様?! 目が覚めたんですね! よかったぁ……」
「いま、おきた、とこ。どう、なったの?」
「えっとですね。まず、戦いの日から三日経ってます。それで、ツカサ様が発見されて場所は倒壊した建物の中からでした。救出された時は、たくさんの打撲に胸部の骨折、全身の筋肉が断裂してたりと、結構ひどい状態だったんですよ」
骨折? いくら魔族のダメージが大きかったとはいえ、あの一撃が骨折ですむはずがない。防御も出来ていなかったし、死んでてもおかしくないはずだけど……
いや、それよりも他に確認したいことがある。エランの安否だ。瓦礫に呑まれたように見えたけど、大丈夫だろうか?
「怪我自体は治ってますから、すぐ元どおりに動けるようになりますよ。……でもしばらくは安静にしてくださいね」
「わか、た。あと、えらんは、ぶじ?」
「サングリエ師団長ですよね? 無事ですよ。もう治って動いてますから。……ツカサ様、気づいてますか? 腕輪が無くなってることに」
言われて気づく。たしかに腕輪が無かった。あれはロイドさんがくれた魔道具で、他の装備とは違って常に身につけていたはず。
……そうか、あの魔道具の名前は身代わりの腕輪。効果はたしか、ピンチの時にダメージを減らしてくれる、だったような気がする。つまり、あれのおかげで助かったのか。ロイドさんにはあらためて感謝しないとな……
「あの腕輪を装備して、あれだけの傷を負ったんです。もし、腕輪がなかったら……」
「ありしあ……」
アリシアはうつむいてしまう。目には涙がたまっているようにも見える。
どんな言葉をかければいいのかわからずに戸惑っていると、部屋をノックする音が聞こえ、音とほぼ同時に扉が開いた。
「失礼するぜ。って、おい! ツカサ、てめぇ起きたのか!」
「ああ、さっきおきたとこ。エラン、ぶじでよかった」
「おめぇもな! ん? あー、確かアリシアさんだよな。そうだな……つもる話もあるだろうから、あとで出直すわ」
「いえ! どうぞ! ちょうどツカサ様の食事をとりに行こうと思ってたので、大丈夫です」
「そうか? じゃあ、すまねぇな。報告することもあるし、先に話させてもらう」
顔を上げたアリシアの目には涙はなかった。
戻ってきたら心配をかけたことをちゃんと謝ろうと思う。
「俺も聞いた話だが、あの子はずっとおめぇのそばを離れずに回復魔法をかけてたらしいぞ。ちゃんと礼をいっとけよ」
「ああ、もちろん」
エランと情報を交換する。俺はエランが瓦礫に埋まったあとの話をし、エランは俺が起きるまでのことを話してくれた。
話の中で嬉しかったことがある。ロイドさんが無事に帰ってきたという報告だ。今日の朝に帰ってきたらしく、今はブークリエ将軍と話しているらしい。
「あとは……ツカサのあの魔法だが、詳しい報告はしてない。というかできなかった。遠目に見ただけじゃ、すげぇってことしかわからなかったからな」
「わかった。あれは、せつめいがむずかしいかも……」
「いた! 師団長こんなところに! 報告書は今日中なのにまだ終わってないですよ! あれ? ツカサ君? 目覚めたんだね。よかった! ごめんね。師団長はちょっと借りてくね」
「ちょっとま、ぐぇ!」
エランは後ろから服をつかまれ、引きずられるように連行されていく。見た限りでは完全に首が絞まっていた。俺には無事を祈ることしかできないが、エランならきっと無事だろう。その連れ去った人物だが、一瞬見えた顔から判断するにエランの隊の副長のはずだ。
副長の人柄はせっかちで、さっきのように一方的に喋り、嵐のように去っていくことが多い。そして、書類関係の仕事はほぼ副長がやっていると聞いたことがある。エランは見た目どおり書類仕事が苦手らしい。おそらくエランは抜け出して俺のようすを見に来てくれたのだろう。
突然一人になってしまった……
アリシアもまだ帰ってこないようだし、返事があるかはわからないけどカルミナを呼んでみるかな。
「かるみな?」
『……ツカサ、無理をしましたね。少し待ってください』
ペンダントから白い光が広がり、体を包んでいく。回復魔法をかけてくれたようだ。
『これで話しやすくなったと思います。……ツカサ、あの魔法は一日に一回と言ったはずです。今回は大丈夫でしたが、最悪の場合は体が機能しなくなるので注意してください』
「回復、ありがとう。……カルミナ。言い返すようで悪いけど、俺は連続であの魔法を使った覚えはないんだけど……」
『魔法を覚えたときに練習として一度使っています。その後、魔族との戦いでも使用したのでしょう? 半日も時間は経っていないはずです』
「あっ……たしかに……ごめんなさい」
練習のあと、一度眠ったせいか完全に忘れていた……
ちなみにカルミナが気づいたのは、二度目の魔法が発動したあとらしい。俺のようすを見たときには、すでに戦闘は終わっていたそうだ。
『謝らなければいけないのは私のほうです。ツカサの危険なときに助けられませんでした。それに、魔族が攻めてきたのも私が原因だと思われます。申し訳ありません』
「カルミナが原因で攻めてきたってどういうこと?」
『あの独自魔法のことを見誤っていたのです。ツカサに授けるさい、私の予想よりもはるかに大きな力を使ってしまいました。魔族にはそれを感知された可能性があります』
「そうだったのか……でも、だとしたら魔族が来たのは俺のせいだよ。俺がカルミナに頼んだ結果なんだから、カルミナのせいじゃない」
突然攻めてきたのはカルミナの存在を感じ取ったからか……
魔族とは直接戦闘もしてるけど、気づかれたかな?
「俺とカルミナが一緒にいるのはバレたと思う?」
『わかりません。しかし、ツカサを怪しんでいたとは思います。ただ、あの魔族はツカサのことを殺したと思っているはずなので、すぐには他の魔族には伝わらないでしょう』
「ひとまずは安心ってことかな。でも、もうカルミナに頼るのは難しいね。今までが頼りすぎだったのかもしれないけど」
『話をするぐらいや先ほど程度の回復魔法が限界になると思います。あとできるのは観察による偵察や知識といった方面になるでしょう』
今までの話を聞いてなんとなく予想はついたが、魔法が勝手に解除されたこと、体の感覚がなくなったことについて一応カルミナに聞いてみた。
回答は思ったとおり、連続で使ったせいで体が魔法に耐えられなかったからとのことだ。そして、好戦的になった理由も確証はないものの、連続使用のせいではないかという話だった。
……改めて一日一回って注意されちゃったし、独自魔法を使うときは気をつけないとな。
その後の話し合いは続き、その結果、カルミナには当面の間は休息してもらうことになった。
理由はもしもカルミナの存在が露呈して魔王にまで伝わった場合、魔王が直接くる可能性が高いと聞いたためだ。
カルミナ曰く、今の俺や砦の人たち全員で戦っても絶対に勝てないらしい。そのため、少しでも存在を隠せるように休息という選択肢をとってもらうことになった。
カルミナとの会話も終わり、一人で考えごとをしているとノックの音とともに扉が開く。
「よお! しばらくぶりだな! 話に聞いてたより元気そうで安心したぜ」
「ロイドさん! ちゃんとツカサ様が返事するまで扉開けずに待ってましょうよ」
「まあ、気にすんな。ツカサも気にしないだろ?」
「えーと……俺はいいですけど、他の人のときは気にしたほうがいいと思いますよ」
二人が部屋に入ってくる。一瞬、エランがまた来たのかと思ってしまった。ロイドさんとエランは少し似ているの気がする。アリシアのほうは食事を運んできてくれたようで、それを食べながらロイドさんの話を聞くことになった。
食事はお粥のように見える。
中心にはみじん切りにされた赤いものが、ちょこんと乗っていた。ルートヴレという名前のくだものらしい。
ある程度回復し、自分で食べれることをアリシアに伝えた。アリシアは半信半疑という感じであったが、腕を動かすところを見せ、何とかスプーンを受け取る。さすがに食べさせてもらうのは恥ずかしかった。
白い湯気が立つ鍋にスプーンを入れ中身を掬うと、少し冷まして一口食べる。見た目どおりお粥ようだが、米ではなく、麦のお粥のようだ。
……おししい。
シンプルな料理だが手が込んで作られている。ただのお湯で煮込んだわけではないようだ。鶏のような味が微かにすることから、麦を鶏ガラで煮込んだと思われる。
赤い果物は梅干しと似ていた。酸味も強いがお粥に混ぜるとちょうど良く、手が止まらないほど食が進む。そのせいか、話を聞きながらでもすぐに食べ終わってしまった。
「――で、何とか脱出できたわけだ。ツカサたちには悪いが俺のほうとしては助かったぜ」
「そんな魔道具もあるんですね。私も少しは詳しいつもりでいたけど知りませんでした」
「お? 食い終わったか? じゃあ、これからのことを相談するか」
ロイドさんの話によると運よく魔族を見つけ、尾行したところ拠点を発見することができたらしい。
拠点は隠蔽されているようで、尾行していた魔族は何の変哲もない空間に波紋を浮かべ、その中に入っていったとのことだ。
発見後はすぐに戻ろうとしたが、周囲の魔物の数が多くなっていたために一時断念。見つからないように丸二日は潜伏していたと言っていた。
状況が変わらず見つかるのを覚悟で強行突破しようか悩んでいたところ、魔族が拠点から出てきて魔物を率いていったという。魔物の数が減ってことでようやく脱出に成功。というのが俺が食べていた間にロイドさんが話していた内容だった。
「まず、おやっさんと話して決まったことを伝えるぞ。三日後、発見した拠点に少数精鋭で攻めることになった。人数は五人以下で俺は数に入ってる」
「ちょっと待ってください! その……俺とアリシアは数に入ってないんですか?」
「そうですよ! ツカサ様はもちろん、回復役の私もいると思います!」
「そこが微妙なとこなんだよな。……調査に行く前に考えてたんだが、二人を魔族と戦わせるには早いんじゃないかって思ってたんだ」
どうやら、俺たちでは魔族と戦えないと思われているようだ。
たしかに俺は独自魔法を使わなければ現時点ではアリシアよりも弱いだろう。そのアリシアも近接戦と杖捌きは見事だが、本来は回復要員だ。魔族との戦いについて来れないとロイドさんに思われているのかもしれない。
「でも! ツカサ様は魔族を撃退したって聞きました! 私も杖頼みになっちゃいますけど足手まといにはならないと思います」
「ツカサの話は俺も聞いた。俺は結局、戦ってる魔族を見てないからな。強さも想像でしかないが話が本当ならツカサは戦力になるだろう。嬢ちゃんについては……正直、回復ができてそこそこ戦えるやつってのは貴重だからな。ここで無理しなくてもいいと思ってる」
「話は本当です。新しく覚えた魔法を使えば一時的にですが強くなれます。ただ、使用条件があるのと副作用がきついのが難点ですが……戦力にはなります! 連れて行ってください!」
「私も行きます! 魔族が攻めてきたときも後方で待機でした。それで、戦いが終わったらツカサ様が傷だらけで運ばれてきて……もう、待ってるだけは嫌です!」
ロイドさんは考え込んでいる。
ここは譲るわけにはいかにない。魔族を倒せないなら、この世界にきた意味がなくなってしまう。
「あー、わかった。ただし、条件をつけるぞ。ツカサは二日後に俺と戦ってもらう。そこで俺とおやっさんが納得する強さなら連れていく。嬢ちゃんのほうは同じく二日後に俺の攻撃を一定時間、回避か防御してもらう。できないようなら連れてはいけない。二人ともいいな?」
「わかりました。そこで新しく覚えた魔法を見せますね。驚くと思いますよ」
「魔法は使っていいんですよね? それなら私も大丈夫です」
「二人とも自信ありそうだが、連れていけなくても駄々こねるなよ」
アリシアは何か秘策があるのか余裕そうな表情を見せている。アリシアは体術もできるし、シールドの魔法も使えるはずだ。回避と防御だけなら問題ないのかもしれない。
俺のほうは、あの魔法を使用すれば、強さにおいては問題はないと思っている。むしろ加減できないことが心配だ。体の調子も回復魔法のおかげで明日には普通に動けるだろう。
今回はじめて魔族と戦い、そして負けた。原因は自分のミスによるものだ。次は負けない。そう思うものの、先に二日後の試合に勝たなければ再戦もできなくなってしまう。逸る気持ちを切り替え、俺はまず対ロイドさんとの戦闘を頭の中で考えることにするのだった。
俺はいったい? たしか……魔族と戦って、魔法があたって……死んで……ない?
目を開けると天井が見えた。見覚えのある天井だ。
ここは、砦で俺が使っていた部屋?
体の感覚は戻っていた。ベットの感触もあるし、お腹あたりに重さも感じる。
……重さ?
首を動かして顔を上げようとするが、錆びてしまったのかと思うぐらい動かしづらい。
ゆっくりと首を動かし、時間をかけて見えたのは金色の髪の毛だった。顔は見えない。ただ、誰かはわかる。
「……あ、り……しあ」
体を上手く動かせないだけでなく、言葉もうまく発することができない。
名前を呼ばれたことで気づいたのか、アリシアは顔を上げるとこちらを向いた。かなり眠そうな顔であり、本当に起きているのか少し怪しく思ってしまう。
「ツカサさまぁ? おはよぅ、ございますぅ…………!? ツカサ様?! 目が覚めたんですね! よかったぁ……」
「いま、おきた、とこ。どう、なったの?」
「えっとですね。まず、戦いの日から三日経ってます。それで、ツカサ様が発見されて場所は倒壊した建物の中からでした。救出された時は、たくさんの打撲に胸部の骨折、全身の筋肉が断裂してたりと、結構ひどい状態だったんですよ」
骨折? いくら魔族のダメージが大きかったとはいえ、あの一撃が骨折ですむはずがない。防御も出来ていなかったし、死んでてもおかしくないはずだけど……
いや、それよりも他に確認したいことがある。エランの安否だ。瓦礫に呑まれたように見えたけど、大丈夫だろうか?
「怪我自体は治ってますから、すぐ元どおりに動けるようになりますよ。……でもしばらくは安静にしてくださいね」
「わか、た。あと、えらんは、ぶじ?」
「サングリエ師団長ですよね? 無事ですよ。もう治って動いてますから。……ツカサ様、気づいてますか? 腕輪が無くなってることに」
言われて気づく。たしかに腕輪が無かった。あれはロイドさんがくれた魔道具で、他の装備とは違って常に身につけていたはず。
……そうか、あの魔道具の名前は身代わりの腕輪。効果はたしか、ピンチの時にダメージを減らしてくれる、だったような気がする。つまり、あれのおかげで助かったのか。ロイドさんにはあらためて感謝しないとな……
「あの腕輪を装備して、あれだけの傷を負ったんです。もし、腕輪がなかったら……」
「ありしあ……」
アリシアはうつむいてしまう。目には涙がたまっているようにも見える。
どんな言葉をかければいいのかわからずに戸惑っていると、部屋をノックする音が聞こえ、音とほぼ同時に扉が開いた。
「失礼するぜ。って、おい! ツカサ、てめぇ起きたのか!」
「ああ、さっきおきたとこ。エラン、ぶじでよかった」
「おめぇもな! ん? あー、確かアリシアさんだよな。そうだな……つもる話もあるだろうから、あとで出直すわ」
「いえ! どうぞ! ちょうどツカサ様の食事をとりに行こうと思ってたので、大丈夫です」
「そうか? じゃあ、すまねぇな。報告することもあるし、先に話させてもらう」
顔を上げたアリシアの目には涙はなかった。
戻ってきたら心配をかけたことをちゃんと謝ろうと思う。
「俺も聞いた話だが、あの子はずっとおめぇのそばを離れずに回復魔法をかけてたらしいぞ。ちゃんと礼をいっとけよ」
「ああ、もちろん」
エランと情報を交換する。俺はエランが瓦礫に埋まったあとの話をし、エランは俺が起きるまでのことを話してくれた。
話の中で嬉しかったことがある。ロイドさんが無事に帰ってきたという報告だ。今日の朝に帰ってきたらしく、今はブークリエ将軍と話しているらしい。
「あとは……ツカサのあの魔法だが、詳しい報告はしてない。というかできなかった。遠目に見ただけじゃ、すげぇってことしかわからなかったからな」
「わかった。あれは、せつめいがむずかしいかも……」
「いた! 師団長こんなところに! 報告書は今日中なのにまだ終わってないですよ! あれ? ツカサ君? 目覚めたんだね。よかった! ごめんね。師団長はちょっと借りてくね」
「ちょっとま、ぐぇ!」
エランは後ろから服をつかまれ、引きずられるように連行されていく。見た限りでは完全に首が絞まっていた。俺には無事を祈ることしかできないが、エランならきっと無事だろう。その連れ去った人物だが、一瞬見えた顔から判断するにエランの隊の副長のはずだ。
副長の人柄はせっかちで、さっきのように一方的に喋り、嵐のように去っていくことが多い。そして、書類関係の仕事はほぼ副長がやっていると聞いたことがある。エランは見た目どおり書類仕事が苦手らしい。おそらくエランは抜け出して俺のようすを見に来てくれたのだろう。
突然一人になってしまった……
アリシアもまだ帰ってこないようだし、返事があるかはわからないけどカルミナを呼んでみるかな。
「かるみな?」
『……ツカサ、無理をしましたね。少し待ってください』
ペンダントから白い光が広がり、体を包んでいく。回復魔法をかけてくれたようだ。
『これで話しやすくなったと思います。……ツカサ、あの魔法は一日に一回と言ったはずです。今回は大丈夫でしたが、最悪の場合は体が機能しなくなるので注意してください』
「回復、ありがとう。……カルミナ。言い返すようで悪いけど、俺は連続であの魔法を使った覚えはないんだけど……」
『魔法を覚えたときに練習として一度使っています。その後、魔族との戦いでも使用したのでしょう? 半日も時間は経っていないはずです』
「あっ……たしかに……ごめんなさい」
練習のあと、一度眠ったせいか完全に忘れていた……
ちなみにカルミナが気づいたのは、二度目の魔法が発動したあとらしい。俺のようすを見たときには、すでに戦闘は終わっていたそうだ。
『謝らなければいけないのは私のほうです。ツカサの危険なときに助けられませんでした。それに、魔族が攻めてきたのも私が原因だと思われます。申し訳ありません』
「カルミナが原因で攻めてきたってどういうこと?」
『あの独自魔法のことを見誤っていたのです。ツカサに授けるさい、私の予想よりもはるかに大きな力を使ってしまいました。魔族にはそれを感知された可能性があります』
「そうだったのか……でも、だとしたら魔族が来たのは俺のせいだよ。俺がカルミナに頼んだ結果なんだから、カルミナのせいじゃない」
突然攻めてきたのはカルミナの存在を感じ取ったからか……
魔族とは直接戦闘もしてるけど、気づかれたかな?
「俺とカルミナが一緒にいるのはバレたと思う?」
『わかりません。しかし、ツカサを怪しんでいたとは思います。ただ、あの魔族はツカサのことを殺したと思っているはずなので、すぐには他の魔族には伝わらないでしょう』
「ひとまずは安心ってことかな。でも、もうカルミナに頼るのは難しいね。今までが頼りすぎだったのかもしれないけど」
『話をするぐらいや先ほど程度の回復魔法が限界になると思います。あとできるのは観察による偵察や知識といった方面になるでしょう』
今までの話を聞いてなんとなく予想はついたが、魔法が勝手に解除されたこと、体の感覚がなくなったことについて一応カルミナに聞いてみた。
回答は思ったとおり、連続で使ったせいで体が魔法に耐えられなかったからとのことだ。そして、好戦的になった理由も確証はないものの、連続使用のせいではないかという話だった。
……改めて一日一回って注意されちゃったし、独自魔法を使うときは気をつけないとな。
その後の話し合いは続き、その結果、カルミナには当面の間は休息してもらうことになった。
理由はもしもカルミナの存在が露呈して魔王にまで伝わった場合、魔王が直接くる可能性が高いと聞いたためだ。
カルミナ曰く、今の俺や砦の人たち全員で戦っても絶対に勝てないらしい。そのため、少しでも存在を隠せるように休息という選択肢をとってもらうことになった。
カルミナとの会話も終わり、一人で考えごとをしているとノックの音とともに扉が開く。
「よお! しばらくぶりだな! 話に聞いてたより元気そうで安心したぜ」
「ロイドさん! ちゃんとツカサ様が返事するまで扉開けずに待ってましょうよ」
「まあ、気にすんな。ツカサも気にしないだろ?」
「えーと……俺はいいですけど、他の人のときは気にしたほうがいいと思いますよ」
二人が部屋に入ってくる。一瞬、エランがまた来たのかと思ってしまった。ロイドさんとエランは少し似ているの気がする。アリシアのほうは食事を運んできてくれたようで、それを食べながらロイドさんの話を聞くことになった。
食事はお粥のように見える。
中心にはみじん切りにされた赤いものが、ちょこんと乗っていた。ルートヴレという名前のくだものらしい。
ある程度回復し、自分で食べれることをアリシアに伝えた。アリシアは半信半疑という感じであったが、腕を動かすところを見せ、何とかスプーンを受け取る。さすがに食べさせてもらうのは恥ずかしかった。
白い湯気が立つ鍋にスプーンを入れ中身を掬うと、少し冷まして一口食べる。見た目どおりお粥ようだが、米ではなく、麦のお粥のようだ。
……おししい。
シンプルな料理だが手が込んで作られている。ただのお湯で煮込んだわけではないようだ。鶏のような味が微かにすることから、麦を鶏ガラで煮込んだと思われる。
赤い果物は梅干しと似ていた。酸味も強いがお粥に混ぜるとちょうど良く、手が止まらないほど食が進む。そのせいか、話を聞きながらでもすぐに食べ終わってしまった。
「――で、何とか脱出できたわけだ。ツカサたちには悪いが俺のほうとしては助かったぜ」
「そんな魔道具もあるんですね。私も少しは詳しいつもりでいたけど知りませんでした」
「お? 食い終わったか? じゃあ、これからのことを相談するか」
ロイドさんの話によると運よく魔族を見つけ、尾行したところ拠点を発見することができたらしい。
拠点は隠蔽されているようで、尾行していた魔族は何の変哲もない空間に波紋を浮かべ、その中に入っていったとのことだ。
発見後はすぐに戻ろうとしたが、周囲の魔物の数が多くなっていたために一時断念。見つからないように丸二日は潜伏していたと言っていた。
状況が変わらず見つかるのを覚悟で強行突破しようか悩んでいたところ、魔族が拠点から出てきて魔物を率いていったという。魔物の数が減ってことでようやく脱出に成功。というのが俺が食べていた間にロイドさんが話していた内容だった。
「まず、おやっさんと話して決まったことを伝えるぞ。三日後、発見した拠点に少数精鋭で攻めることになった。人数は五人以下で俺は数に入ってる」
「ちょっと待ってください! その……俺とアリシアは数に入ってないんですか?」
「そうですよ! ツカサ様はもちろん、回復役の私もいると思います!」
「そこが微妙なとこなんだよな。……調査に行く前に考えてたんだが、二人を魔族と戦わせるには早いんじゃないかって思ってたんだ」
どうやら、俺たちでは魔族と戦えないと思われているようだ。
たしかに俺は独自魔法を使わなければ現時点ではアリシアよりも弱いだろう。そのアリシアも近接戦と杖捌きは見事だが、本来は回復要員だ。魔族との戦いについて来れないとロイドさんに思われているのかもしれない。
「でも! ツカサ様は魔族を撃退したって聞きました! 私も杖頼みになっちゃいますけど足手まといにはならないと思います」
「ツカサの話は俺も聞いた。俺は結局、戦ってる魔族を見てないからな。強さも想像でしかないが話が本当ならツカサは戦力になるだろう。嬢ちゃんについては……正直、回復ができてそこそこ戦えるやつってのは貴重だからな。ここで無理しなくてもいいと思ってる」
「話は本当です。新しく覚えた魔法を使えば一時的にですが強くなれます。ただ、使用条件があるのと副作用がきついのが難点ですが……戦力にはなります! 連れて行ってください!」
「私も行きます! 魔族が攻めてきたときも後方で待機でした。それで、戦いが終わったらツカサ様が傷だらけで運ばれてきて……もう、待ってるだけは嫌です!」
ロイドさんは考え込んでいる。
ここは譲るわけにはいかにない。魔族を倒せないなら、この世界にきた意味がなくなってしまう。
「あー、わかった。ただし、条件をつけるぞ。ツカサは二日後に俺と戦ってもらう。そこで俺とおやっさんが納得する強さなら連れていく。嬢ちゃんのほうは同じく二日後に俺の攻撃を一定時間、回避か防御してもらう。できないようなら連れてはいけない。二人ともいいな?」
「わかりました。そこで新しく覚えた魔法を見せますね。驚くと思いますよ」
「魔法は使っていいんですよね? それなら私も大丈夫です」
「二人とも自信ありそうだが、連れていけなくても駄々こねるなよ」
アリシアは何か秘策があるのか余裕そうな表情を見せている。アリシアは体術もできるし、シールドの魔法も使えるはずだ。回避と防御だけなら問題ないのかもしれない。
俺のほうは、あの魔法を使用すれば、強さにおいては問題はないと思っている。むしろ加減できないことが心配だ。体の調子も回復魔法のおかげで明日には普通に動けるだろう。
今回はじめて魔族と戦い、そして負けた。原因は自分のミスによるものだ。次は負けない。そう思うものの、先に二日後の試合に勝たなければ再戦もできなくなってしまう。逸る気持ちを切り替え、俺はまず対ロイドさんとの戦闘を頭の中で考えることにするのだった。
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