12 / 116
第一章
第十一話 戦いのあと
しおりを挟む
「――サ、――ツサ、――きろ」
……なにか、きこえる……だれだろう……
「ツカサ、そろそろ起きろ。今日中にはこの村をでるんだぞ」
ゆっくりと目を開いていく。
視界の中にいたのはロイドさんだった。
ここは……? あぁ、そうだ、昨日は村に帰ってすぐに寝ちゃったんだ。簡単に討伐したことだけは伝えて、詳しい話は今日にしたんだっけ?
「お? 目が覚めたか? 俺は先にセリューズの旦那のとこに行って話をまとめておくから、ツカサも飯食って準備ができたら来てくれ」
そう言うとロイドさんは部屋を出ていく。
そういえば携帯食料だけしか食べていない。そのせいかだいぶお腹が空いていた。
着替えようとしてズボンが無いことを思い出す。ヴァルドウォルフに噛みつかれ、今まで装備していたズボンは見るも無残なありさまとなっていた。
とりあえず予備の普通の服に着替え、新たな装備を考えるのは後回しとする。
……装備についてはロイドさんとセリューズさんに聞いてみよう。
外へ出ると、すでに日が高かった。お昼前ぐらいだろうか。こんな時間まで寝ていたとは思わず、少し戸惑ってしまう。
この時間だとセリューズさんは施設を巡回してるって聞いた気がするけど、どこにいるのだろうか?
セリューズさんの居場所とお腹を満たすために、まずは食堂へ行ってみる。村長であるセリューズさんの居場所なら、誰かしら居場所を知っているだろうとの考えだった。
「あ! ツカサ様! おはようございます! 怪我の調子はどうですか? まだ痛みますか?」
「おはよう。おかげさまで怪我は大丈夫だよ、痛みもない。アリシアは朝食?」
「いえ、どちらかというと早めのお昼ごはんです! ロイドさんが今日この村を出るって言ってたので、食べておかないと!」
食堂に着くと先にアリシアがいた。どうやら、俺以外は普通に朝から起きていたようだ。
ロイドさんは朝から物資の確認など、出発の準備をしてくれていて、アリシアはシュセットの世話と、怪我人に回復魔法をかけていたらしい。
なんだかずっと寝てて申し訳ない……代わりになるかわからないけど、御者と野営の準備を頑張ろう。
アリシアと二人でご飯を食べ、ロイドさんたちのもとへ向かう。
場所はアリシアが知っていた。村の入り口にいるとのことだ。
村の入り口に近づくと、セリューズさんの姿が見えてくる。
「セリューズさん! 昨日は迷惑をかけてしまってすみませんでした」
「いやいや、あれくらいなんでもない。それより、ツカサ君が元気になったみたいでよかったよ」
昨日、村に着いたとき、傷を見たセリューズさんが部屋まで運んでくれたのだ。少しだけ恥ずかしさもあったが、それ以上に感謝している。
「そういえば、ロイドさんはどこにいるんですか? セリューズさんのところにいると思ってたんですけど」
「ロイドなら……ああ、ちょうど戻ってきたようだ。あそこにいる」
セリューズさんが指したほうには、馬車を引いているシュセットとその御者をしているロイドさんがいた。
「おう! 二人とも来たな。セリューズの旦那への報告はしといたぞ。で、これはその旦那から二人にだ。」
「急遽用意したものなので、気に入ってもらえるかはわからないが、よければ使ってほしい」
「二人に必要なものだと思うぜ。特にツカサはちょうど欲しかったはずだ」
俺とアリシアに袋が渡される。
なんだろう? これは……靴とズボン? たしかにちょうど必要だった。これは嬉しいな。
アリシアのほうを見てみると、同じく靴を持っている。ただ、俺のとは形が違う。アリシアのは脛まで覆うロングブーツのようだった。
「セリューズさん、ありがとうございます!」
「ありがとうございます! ツカサ様、さっそく装備してみましょう!」
「装備品については、簡単な説明書きを袋の中に入れてある。時間があるときにでも確認してほしい」
さすがセリューズさんだ。気が利いている。
アリシアに馬車を譲られてので先に入り、まずはズボンを着替えていく。
着替えていると話にあった説明書きを見つけた。あとにしようかとも思ったが、つい気になって読んでしまう。
森大狼の服・下。
大型のヴァルドウォルフの革で作られた服。軽く、伸縮性に優れており、少しだが土魔法に耐性を持つ。染色により、黒く染まっている。
必要そうなところだけ目を通してみた。他にも納入日や品質の評価なども書いてあったが、そこらへんはあとで確認しようと思う。
あのヴァルドウォルフがズボンになるとは……なんだか不思議な気分だ。
履いてみると説明書きのとおりで、よく伸びて動きやすい。これなら戦闘でも問題なさそうだ。
ついでに靴も履き替える。真っ黒な靴だ。これもつい説明書きを読んでしまった。
黒馬の堅靴。
シュバルツアングストの革から作られた靴。
足首まで覆われ、堅く防御力に優れている。染色はなし。また、靴底には魔物シュテルケブーゼを加工したものが使用されている。
歩いた感触は元の世界の靴と比べても変わらないような気がした。靴底の魔物を加工したものがゴムのような役割をしているようだ。
着替え終わり、アリシアと交代するために馬車を出る。
「おお! 似合ってるじゃねえか」
「以前の不思議な靴も悪くなかったが、こちらも似合っている。靴の大きさはどうかな? 目測なので合わなければ取り換えよう」
「ありがとうございます。ちょうどいい大きさです」
実際に靴のサイズはぴったりだった。目測でわかるセリューズさんに内心驚くが、それ以上に驚いたのはアリシアだ。いつの間にか着替え終わっている。どうやら外で着替えてしまったらしい。
「ツカサ様、どうですか! かっこいいと思いませんか!」
「うん、似合ってる。恰好いいよ」
よほど嬉しかったのか、アリシアは靴全体が見えるようにスカートの裾を持ち上げていた。ちなみに、スカートの下にはちゃんとズボンを履いている。おそらくスカートの下に履くだけだから外で着替えてしまったのだろう。
「よし! じゃあ、そろそろ行くか。とりあえず御者はツカサだ。地図は嬢ちゃんに渡しとくから、隣で道を教えてやってくれ」
「わかりました! 道順は任せてください! セリューズさん、頂いたこの靴、大切に使います。ありがとうございました!」
「お世話になりっぱなしですみません。ありがとうございました。また機会あったら、手合わせしてください」
セリューズさんに別れの挨拶をして、それぞれが馬車に乗り込む。
短い間だったが、濃い体験をした場所だった。別れが寂しく感じてしまう。
まだまだセリューズさんに聞きたいことも、教えてもらいたいこともある。……また、いつか必ず来よう。
「何かあったらいつでも訪ねてきてくれ、力になろう。三人の旅の無事を祈っている。……ロイド、頼んだぞ」
「おう! セリューズの旦那には会うたびに世話になってるからな。任せといてくれ!」
最後にロイドさんが会話を交わし終えたところで、馬車を走らせていく。
次の目的地はパタゴ砦だ。
そこでは魔族との戦いになるだろう。今のままで勝てるのか、少し不安ではある。
魔族は積極的に攻めてきていないという話で、いまだに何をしているのか不明だという。前線で戦う将軍たちの考えでは戦力を集めているという予想になっているが、あくまでも予想だ。真偽のほどはわからない。
攻める前にカルミナから情報を貰えればいいんだけどな。まぁまだ、パタゴ砦まで時間はあるし、きっと何とかなるだろう。
「ツカサ様、地図によるとしばらくは道があるみたいです。途中で森の中を進まないといけないみたいなので、今のうちに距離を稼いでおきましょう」
「了解、途中で道はなくなるんだね。村から物資を送るって話だったから、道ができてるのかと思ってたよ」
「たぶんですけど、砦が落ちたときに時間を稼いだり、森に潜んで奇襲を仕掛けるためだと思います」
「なるほど、たしかにそれはありそうだね」
森か……やっぱり魔物はいるんだろうか?
「ツカサ様? どうしましたか?」
「いや、森に入るって聞いたから、もしかしたらまた魔物がいるのかなって」
「可能性はあるとは思います。けど、一応は物資が通るので、定期的に見回りはしてるんじゃないでしょうか」
確かにそのとおりだ。もう一度魔物と戦う機会があると思ったが、しばらくないのかもしれない。
次に戦うことがあるならば、大きな怪我をしないで勝ちたいと思っていた。そのせいか少し残念な気持ちだ。
戦いといえば、練習したいことがある。
剣と魔法、両方を同時に使うことだ。俺は動きながら魔力の操作がうまくできず、接近戦をしながら魔法を構築できない。アリシアならできるのだろうか。
「アリシアに聞きたいんだけど、接近戦をしながら魔法って使える?」
「うーん、できなくはないです。ただ、私の場合は杖を持ってないと無理です。動きながらだと魔力制御がぎこちないので、杖の補助ありでなんとかって感じです」
「アリシアでそうなら俺にはまだ無理かな。剣の代わりに杖を持つわけにもいかないし」
「じゃあ、魔剣を手に入れるっていうのはどうでしょう? 魔剣なら魔杖と同じように、魔力制御の補助をしてくれるのはあると思います」
そういえば、ロイドさんがいろいろな魔剣の話をしてくれてた。その話の中にも魔力制御を補助してくれるのもあった気がする。ただ、問題はどうやって手に入れるかだ。
……もしかしたら、カルミナなら魔剣の場所も知ってるかもしれない。また頼ってしまうが、これも今度聞いておこう。
アリシアと話しながら馬車を進ませる。
少し速度を上げているが、シュセットは余裕そうだ。久しぶりに走るから元気が有り余っているのかもしれない。
村までを一度目の旅だとするなら、これは二度目となる。
一度目の旅は怪我をしてしまったが、目標の日数でたどり着けた。順調に終わったと言ってもいいだろう。
二度目の旅がどうなるかはわからないが、最終的には順調だった言えることを願っている。そのためにも強さは必要だ。
仮にも勇者と呼ばれるなら、みんなを守れるようにならなきゃいけない。微かな頭痛を感じながらも、俺はそう強く決意するのであった。
◆◆◆◆◆◆◆
デメル村から近い森の上空。
地上からは確認できない高さに男が浮いていた。
「反応があったのはこのあたりだが……すでに移動しているようだな」
男は空中に床があるかのように、空を歩いて移動していく。
少し歩いては周囲に視線を走らせる。
それを何度か繰り返すようすは、何かを探しているようにも見えた。
しばらくすると立ち止まり、腕を組んで動かなくなる。
「見つからないか……まあいい。たしか、この近くにはシルビアがいたはず、念のため顔だしておくか」
男が呟いた後、その姿は初めからいなかったように消えていた。
……なにか、きこえる……だれだろう……
「ツカサ、そろそろ起きろ。今日中にはこの村をでるんだぞ」
ゆっくりと目を開いていく。
視界の中にいたのはロイドさんだった。
ここは……? あぁ、そうだ、昨日は村に帰ってすぐに寝ちゃったんだ。簡単に討伐したことだけは伝えて、詳しい話は今日にしたんだっけ?
「お? 目が覚めたか? 俺は先にセリューズの旦那のとこに行って話をまとめておくから、ツカサも飯食って準備ができたら来てくれ」
そう言うとロイドさんは部屋を出ていく。
そういえば携帯食料だけしか食べていない。そのせいかだいぶお腹が空いていた。
着替えようとしてズボンが無いことを思い出す。ヴァルドウォルフに噛みつかれ、今まで装備していたズボンは見るも無残なありさまとなっていた。
とりあえず予備の普通の服に着替え、新たな装備を考えるのは後回しとする。
……装備についてはロイドさんとセリューズさんに聞いてみよう。
外へ出ると、すでに日が高かった。お昼前ぐらいだろうか。こんな時間まで寝ていたとは思わず、少し戸惑ってしまう。
この時間だとセリューズさんは施設を巡回してるって聞いた気がするけど、どこにいるのだろうか?
セリューズさんの居場所とお腹を満たすために、まずは食堂へ行ってみる。村長であるセリューズさんの居場所なら、誰かしら居場所を知っているだろうとの考えだった。
「あ! ツカサ様! おはようございます! 怪我の調子はどうですか? まだ痛みますか?」
「おはよう。おかげさまで怪我は大丈夫だよ、痛みもない。アリシアは朝食?」
「いえ、どちらかというと早めのお昼ごはんです! ロイドさんが今日この村を出るって言ってたので、食べておかないと!」
食堂に着くと先にアリシアがいた。どうやら、俺以外は普通に朝から起きていたようだ。
ロイドさんは朝から物資の確認など、出発の準備をしてくれていて、アリシアはシュセットの世話と、怪我人に回復魔法をかけていたらしい。
なんだかずっと寝てて申し訳ない……代わりになるかわからないけど、御者と野営の準備を頑張ろう。
アリシアと二人でご飯を食べ、ロイドさんたちのもとへ向かう。
場所はアリシアが知っていた。村の入り口にいるとのことだ。
村の入り口に近づくと、セリューズさんの姿が見えてくる。
「セリューズさん! 昨日は迷惑をかけてしまってすみませんでした」
「いやいや、あれくらいなんでもない。それより、ツカサ君が元気になったみたいでよかったよ」
昨日、村に着いたとき、傷を見たセリューズさんが部屋まで運んでくれたのだ。少しだけ恥ずかしさもあったが、それ以上に感謝している。
「そういえば、ロイドさんはどこにいるんですか? セリューズさんのところにいると思ってたんですけど」
「ロイドなら……ああ、ちょうど戻ってきたようだ。あそこにいる」
セリューズさんが指したほうには、馬車を引いているシュセットとその御者をしているロイドさんがいた。
「おう! 二人とも来たな。セリューズの旦那への報告はしといたぞ。で、これはその旦那から二人にだ。」
「急遽用意したものなので、気に入ってもらえるかはわからないが、よければ使ってほしい」
「二人に必要なものだと思うぜ。特にツカサはちょうど欲しかったはずだ」
俺とアリシアに袋が渡される。
なんだろう? これは……靴とズボン? たしかにちょうど必要だった。これは嬉しいな。
アリシアのほうを見てみると、同じく靴を持っている。ただ、俺のとは形が違う。アリシアのは脛まで覆うロングブーツのようだった。
「セリューズさん、ありがとうございます!」
「ありがとうございます! ツカサ様、さっそく装備してみましょう!」
「装備品については、簡単な説明書きを袋の中に入れてある。時間があるときにでも確認してほしい」
さすがセリューズさんだ。気が利いている。
アリシアに馬車を譲られてので先に入り、まずはズボンを着替えていく。
着替えていると話にあった説明書きを見つけた。あとにしようかとも思ったが、つい気になって読んでしまう。
森大狼の服・下。
大型のヴァルドウォルフの革で作られた服。軽く、伸縮性に優れており、少しだが土魔法に耐性を持つ。染色により、黒く染まっている。
必要そうなところだけ目を通してみた。他にも納入日や品質の評価なども書いてあったが、そこらへんはあとで確認しようと思う。
あのヴァルドウォルフがズボンになるとは……なんだか不思議な気分だ。
履いてみると説明書きのとおりで、よく伸びて動きやすい。これなら戦闘でも問題なさそうだ。
ついでに靴も履き替える。真っ黒な靴だ。これもつい説明書きを読んでしまった。
黒馬の堅靴。
シュバルツアングストの革から作られた靴。
足首まで覆われ、堅く防御力に優れている。染色はなし。また、靴底には魔物シュテルケブーゼを加工したものが使用されている。
歩いた感触は元の世界の靴と比べても変わらないような気がした。靴底の魔物を加工したものがゴムのような役割をしているようだ。
着替え終わり、アリシアと交代するために馬車を出る。
「おお! 似合ってるじゃねえか」
「以前の不思議な靴も悪くなかったが、こちらも似合っている。靴の大きさはどうかな? 目測なので合わなければ取り換えよう」
「ありがとうございます。ちょうどいい大きさです」
実際に靴のサイズはぴったりだった。目測でわかるセリューズさんに内心驚くが、それ以上に驚いたのはアリシアだ。いつの間にか着替え終わっている。どうやら外で着替えてしまったらしい。
「ツカサ様、どうですか! かっこいいと思いませんか!」
「うん、似合ってる。恰好いいよ」
よほど嬉しかったのか、アリシアは靴全体が見えるようにスカートの裾を持ち上げていた。ちなみに、スカートの下にはちゃんとズボンを履いている。おそらくスカートの下に履くだけだから外で着替えてしまったのだろう。
「よし! じゃあ、そろそろ行くか。とりあえず御者はツカサだ。地図は嬢ちゃんに渡しとくから、隣で道を教えてやってくれ」
「わかりました! 道順は任せてください! セリューズさん、頂いたこの靴、大切に使います。ありがとうございました!」
「お世話になりっぱなしですみません。ありがとうございました。また機会あったら、手合わせしてください」
セリューズさんに別れの挨拶をして、それぞれが馬車に乗り込む。
短い間だったが、濃い体験をした場所だった。別れが寂しく感じてしまう。
まだまだセリューズさんに聞きたいことも、教えてもらいたいこともある。……また、いつか必ず来よう。
「何かあったらいつでも訪ねてきてくれ、力になろう。三人の旅の無事を祈っている。……ロイド、頼んだぞ」
「おう! セリューズの旦那には会うたびに世話になってるからな。任せといてくれ!」
最後にロイドさんが会話を交わし終えたところで、馬車を走らせていく。
次の目的地はパタゴ砦だ。
そこでは魔族との戦いになるだろう。今のままで勝てるのか、少し不安ではある。
魔族は積極的に攻めてきていないという話で、いまだに何をしているのか不明だという。前線で戦う将軍たちの考えでは戦力を集めているという予想になっているが、あくまでも予想だ。真偽のほどはわからない。
攻める前にカルミナから情報を貰えればいいんだけどな。まぁまだ、パタゴ砦まで時間はあるし、きっと何とかなるだろう。
「ツカサ様、地図によるとしばらくは道があるみたいです。途中で森の中を進まないといけないみたいなので、今のうちに距離を稼いでおきましょう」
「了解、途中で道はなくなるんだね。村から物資を送るって話だったから、道ができてるのかと思ってたよ」
「たぶんですけど、砦が落ちたときに時間を稼いだり、森に潜んで奇襲を仕掛けるためだと思います」
「なるほど、たしかにそれはありそうだね」
森か……やっぱり魔物はいるんだろうか?
「ツカサ様? どうしましたか?」
「いや、森に入るって聞いたから、もしかしたらまた魔物がいるのかなって」
「可能性はあるとは思います。けど、一応は物資が通るので、定期的に見回りはしてるんじゃないでしょうか」
確かにそのとおりだ。もう一度魔物と戦う機会があると思ったが、しばらくないのかもしれない。
次に戦うことがあるならば、大きな怪我をしないで勝ちたいと思っていた。そのせいか少し残念な気持ちだ。
戦いといえば、練習したいことがある。
剣と魔法、両方を同時に使うことだ。俺は動きながら魔力の操作がうまくできず、接近戦をしながら魔法を構築できない。アリシアならできるのだろうか。
「アリシアに聞きたいんだけど、接近戦をしながら魔法って使える?」
「うーん、できなくはないです。ただ、私の場合は杖を持ってないと無理です。動きながらだと魔力制御がぎこちないので、杖の補助ありでなんとかって感じです」
「アリシアでそうなら俺にはまだ無理かな。剣の代わりに杖を持つわけにもいかないし」
「じゃあ、魔剣を手に入れるっていうのはどうでしょう? 魔剣なら魔杖と同じように、魔力制御の補助をしてくれるのはあると思います」
そういえば、ロイドさんがいろいろな魔剣の話をしてくれてた。その話の中にも魔力制御を補助してくれるのもあった気がする。ただ、問題はどうやって手に入れるかだ。
……もしかしたら、カルミナなら魔剣の場所も知ってるかもしれない。また頼ってしまうが、これも今度聞いておこう。
アリシアと話しながら馬車を進ませる。
少し速度を上げているが、シュセットは余裕そうだ。久しぶりに走るから元気が有り余っているのかもしれない。
村までを一度目の旅だとするなら、これは二度目となる。
一度目の旅は怪我をしてしまったが、目標の日数でたどり着けた。順調に終わったと言ってもいいだろう。
二度目の旅がどうなるかはわからないが、最終的には順調だった言えることを願っている。そのためにも強さは必要だ。
仮にも勇者と呼ばれるなら、みんなを守れるようにならなきゃいけない。微かな頭痛を感じながらも、俺はそう強く決意するのであった。
◆◆◆◆◆◆◆
デメル村から近い森の上空。
地上からは確認できない高さに男が浮いていた。
「反応があったのはこのあたりだが……すでに移動しているようだな」
男は空中に床があるかのように、空を歩いて移動していく。
少し歩いては周囲に視線を走らせる。
それを何度か繰り返すようすは、何かを探しているようにも見えた。
しばらくすると立ち止まり、腕を組んで動かなくなる。
「見つからないか……まあいい。たしか、この近くにはシルビアがいたはず、念のため顔だしておくか」
男が呟いた後、その姿は初めからいなかったように消えていた。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
異世界ネット通販物語
Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。
最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。
そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。
※話のストックが少ないため不定期更新です。
ズボラ通販生活
ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる