上 下
51 / 56

第51話 ゼントVSセバスチャン①

しおりを挟む
 俺はゼント・ラージェント。

 ゲルドン杯格闘トーナメント決勝戦──最後の闘い。試合開始3分前だ。

 15時30分、俺はライザーン中央スタジアムの武闘ぶとうリングに立っていた。目の前には、最強最大の敵、セバスチャンがいる。

 スタジアムは超満員、すさまじい熱気だ。俺のセコンドはエルサだ。

 俺はエルサがつけれくれた、手にはめた武闘ぶとうグローブを、確認する。よし、いいぞ、手になじんでいる。

「素晴らしい試合になりそうだね」

 セバスチャンは俺に近づいてきて、言った。

「試合後は、どちらかが必ず倒れている。僕の予想では、それは君だがね」

 俺はふと、最前列のアシュリーの席を見た。……いない。ローフェンもいない。ゲルドンやゼボールの姿も見られない。ミランダさんはいるが、少し困惑した表情だ。

「おい、お前、何かしたか?」

 俺はセバスチャンに聞いた。

「アシュリーに、何かしたのか?」

 くそ、想定内といえば想定内だが……、まさかこいつ、本当に?

「フフッ」

 セバスチャンは笑った。

「言っただろう? 私はアシュリーの実の父親だ。彼女に何をしようが、私の勝手だろう、と」
「お前っ!」

 俺は声を上げた。

 ミランダさんが厳しい顔をしている。
 俺は直感的に分かった。こいつら、アシュリーを監禁している! 護衛ごえいのゲルドンやローフェンたちは、セバスチャンの手下たちに、倒されてしまったのか!

 ──その時!



 カーン!

 試合開始のゴングが響いた。

 ドオオオオッ

 観客たちが声を上げる。

 シュッ

 セバスチャンは左ジャブを軽く放つ。

 俺は軽く、右手で受け止める。

提案ていあんしよう。私が勝てば、アシュリーは私のものだ」

 セバスチャンが言った。

「ゼント君、君が勝てば、アシュリーは君のもとに返す。この取り決めはどうかな? シンプルで良いだろう?」
「セバスチャン、お前! 本当にアシュリーに手をかけやがったな!」

 ──その瞬間、俺はハッとした。アシュリーはエルサの娘だ。エルサはセコンドをしている場合じゃない。俺はエルサをチラリと見やった。
  
 するとエルサは気丈きじょうにも、声を張り上げた。

「ゼント、集中! アシュリ―は大丈夫! そんなヤワな子じゃないわ!」
「だ、そうだ」

 セバスチャンはクスクス笑っている。

「ゼント君、楽しもうじゃないか。我々の闘いのうたげを……」

 セバスチャンはフットワークを使い始めた。

 シュッ

 セバスチャンは薄ら笑いを浮かべ、再び左ジャブ。

(こ、この野郎……、セバスチャン! どこまでねじ曲がったヤツなんだ!)

 エルサ! お前がアシュリーをどんなに心配しているか、よく分かる。

 俺は、絶対に勝たなければならない!

 俺はセバスチャンのジャブを右手で払い、左アッパー! セバスチャンはそれをかわし、右ストレート。俺は頭を下げて、パンチをけ、右アッパー! セバスチャンは笑って、スウェー。しかし俺は追撃!

 踏み込んで──右ストレートパンチ!

 パシイッ

 セバスチャンが俺の拳をつかむ!

(危ねえっ!)

 セバスチャンはつかんでから、組ついてくる! 投げも得意だ。

 俺はすぐに拳を引っ込め、中断前蹴り! セバスチャンは後退して、ける。俺はそれにすきができたと見て、すぐに左フック! セバスチャンはそれをも、上体だけでけてしまう。

(セバスチャンのヤツ……! 防御の時に、ほとんど手を使っていない! 何てヤツだ?)

 ヒュッ

 セバスチャンが俺の後ろに回り込む! 来たな、この動き!

 セバスチャンが俺の背後を取る! そして手で俺の鼻をふざぐ!

 しかし──!

(ここだっ!)

 俺はくるりと前を向き、セバスチャンと正面から組み合った!

「な、何!」

 さすがのセバスチャンも、声を上げた。セバスチャンは俺を転ばせるつもりだったはずだ。しかし、俺がそれに感づき、正面から組みついたので、面食らったようだ。

 俺はコーナーポストにセバスチャンを押し込む。俺とセバスチャンは組み合ったままだ。

 ガスッ

「くっ」

 俺の膝蹴ひざげりが、セバスチャンのももの痛点にめり込む。

 ガスッ 
 ガスッ
 ゴスッ

 俺の膝蹴ひざげりが何発も、セバスチャンのももに入る。
 しかし、セバスチャンも負けてはいなかった。
 力任せに、俺を横に投げようとする。

 俺は倒れようとするのをふんばった。

 セバスチャンは、身長177センチ、体重73キロ。
 俺は身長162センチ、体重54キロ。

 この体格差をどう埋めるか? 勝たなければ、アシュリーが危ないのだ!

 今度は、俺がセバスチャンを横に投げようとする。しかし、セバスチャンも踏んばる。

「うおおおおっ……寝技、ねらってるぞ!」
「セバスチャン有利か?」
「バカ、ゼントだって組み技は使えるぞ」

 観客たちが騒然としている。

 そんなことをやっているうちに、組み合いつつ、俺たちはリングの中央にきてしまった。

 ボスッ

 セバスチャンの右ボディーブロー!

 ガスッ

 俺の右膝蹴ひざげり!

 セバスチャンの左ボディー!
 
 俺の左膝蹴ひざげり!

 ガスッ
 ゴスッ
 ボスッ

 俺もセバスチャンも組み合いながら、もう何回、細かい攻撃を繰り出しただろうか?

「ふ、二人とも倒れねええ~」
「意地の張り合いだぜ、こりゃ」
「もう組み合いの状態で、三分は経ったんじゃないか?」

 観客たちも、声を上げている。

 その時、俺はスッと力を抜いた。

 セバスチャンの目がギラリと光る。彼は俺の首に腕を巻き、俺の腰を抱えた。

 この体勢は──!

「気を付けて! セバスチャンの得意技──裏投げが来る!」

 セコンドのエルサが叫んだ。
 
 ローフェンのアバラを破壊した投げ技だ! しかし、俺はこの投げを待っていた。

 俺はセバスチャンの膝裏ひざうらを、自分の膝裏ひざうらった!

「なにいっ?」

 セバスチャンはバランスを崩しながら、声を上げた。

 俺は重心を前に──! 自分も倒れ込むように、逆にセバスチャンの首に腕を巻き付けて、前方に投げた!

 ドスウッ

「あ、ぐ!」

 セバスチャンは後頭部と背中を、したたか打った。リング上に倒れ込んで、目を丸くしている。セバスチャンは立ち上がろうとしたが、フラついてロープにもたれかかって、片膝かたひざをついた。

 後頭部を打ったのが、相当効いている!

「審判! ──これはセバスチャンのダウンでしょう?」

 エルサがリングサイドに座っている審判団に向かって、声を上げた。

『ダ、ダウン! 1……2……3……!』

 あわてた審判団長のダウンカウントが、スタジアムに響く。

 ドオオオオオッ

 スタジアム内は騒然とした。

「マジかよ!」
「セバスチャンのダウン、きたー!」
「変形の大外刈おおそとがりだ!」
「ゼントのヤツ、裏投げを返しやがったああああ!」

 観客が声を上げる。

『4……5……6……』

「フ……フフッ、ゼ、ゼント君。……君が……ここまで……やるとは思わなかった」

 セバスチャンはゆっくりと膝に手をやり、立ち上がる。そして両手を体の前にやり──ギチリと構えた。

「……す、すばらしい戦術、技術だ」

 立ったか……!

「私の得意技を、変形の大外刈おおそとがりで返してしまうとは……」

 セバスチャンは笑いながらつぶやいている。

「強い……強いぞ、君は! ……ゼント君、君は一体何者なんだ?」

 俺は身構える。

(セバスチャンに大したダメージはない)

 俺はそう考えた方が良い、と思った。

「ゆるさん……! 徹底的てっていてきに叩きのめしてくれる!」

 セバスチャンがえた!

 おっ……! セバスチャンの体に、不気味なもやが漂い始めている。やがて、灰色のもやが、セバスチャンの全身をおおい始めていた。

 ──悪魔手的闘気とうき──亡霊を味方につけた、邪悪なオーラだ!

 悪魔に魂を売ったか……。そういうヤツには、絶対に勝つ! アシュリ―を取り戻す!

 俺は決意し、身構えた!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら魔王を復活させてしまったようです。

神部 大
ファンタジー
ここは最強の元冒険者がひっそりと暮らす村。 ブラコンの少年リタは、友人に連れら偶然にも伝承の魔王を復活させてしまった。 自分の尻拭い、魔王とその配下討伐の為。 そして妹のお使いの為、村を飛び出すリタだったが次から次へとおかしな事件に巻き込まれながら気づけばポンコツパーティが出来上がった。 世界に出て周りがあまりに弱すぎる事に気づき始めるリタ。 その足を引っ張りまくるポンコツパーティの行方とは。 頼む、巻きで行かせてくれ。 これは最強と気づかぬ青年と、ポンコツパーティがひっそりと世界を救済する話である。 ※一話5000文字程度となっております。

魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾
ファンタジー
魔王の娘を助けたことにより、俺は人間を辞めることになってしまった! これは【鑑定】【剥奪】【リメイク】の3つのスキルを使い、農民出身の元人間の俺が魔族の救世主になっていくまでの物語である。※ダークファンタジー&ラブコメ。 エンタメ作品として楽しんでいただけたら幸いです。 三幕八場構成になっています。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載中です。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

処理中です...