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第39話 サユリの決意

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 セバスチャンとローフェンの試合の後、サユリは自分の師、セバスチャンに言った。

「傷ついた相手を叩きのめすのは、武闘家ぶとうかの精神に反すると思います。私がそれを身をもって示すために、私は、先生と──いえ、セバスチャン、あなたと闘います」

 それがサユリの決意だった。

 ◇ ◇ ◇

 次の日、俺は、「ミランダ武闘家ぶとうか養成所・ライザーン本部」に戻った。

 ローフェンのことは心配だが、グランバーン大学白魔法病院に入院しており、骨の検査に2日かかる。
 今は見舞いにいけない。

「ゼントさん、覚悟してください」

 俺の目の前──武闘ぶとうリング上には、サユリがいる。

 俺はサユリの練習相手をつとめることにした。

「はああっ!」

 サユリのパンチ──左直突ちょくづき! 右直突ちょくづき! 左! 左! 右!

 うおおっ……サユリは、こんなコンビネーション──連撃れんげきもできるのか!

 俺は手を使って受ける。とにかく速い。正確だ。

「でやああっ! 受け身、とって下さいね!」

 サユリは俺の腰に手を回し、俺の片足を取った。

 ドタン!

 まるで俺を転ばせるように、俺を後方に投げつけた。あ、あぶねえっ!
 俺は素早く体勢を横にして、後頭部を打つのをまぬがれた。

「これは『朽木倒くちきたおし』という投げです。『踵返きびすがえし』という投げ技もあります」
「わ、わかったわかった。練習はこれくらいにしよう」

 サユリの投げは速くてキツい。

 ローフェンが入院してなかったら、ローフェンを投げてもらうんだがなあ……。

「うーん……まだやり足りない……」とサユリ。
「あのな~! もう2時間、君の相手をやってるんだけど!」

 俺は冷や汗をかきながら言った。これ以上、投げられちゃたまらない。

「分かりました」

 サユリは残念そうな顔だが、納得したようだ。
 練習を終え、俺とサユリは、ミランダ先生と話すために会議室へ向かった。



 会議室には、ミランダさんとエルサが待っていた。

「はーい、ゼント、サユリさん、ご苦労様」

 エルサが俺たちに冷たい、ポーション・ドリンクを渡してくれた。

 ポーションは怪我の特効薬として有名だが、それを10倍薄めて飲みやすくしたものだ。

 何と、エルサは屋内ではもう杖は使用していない。

 杖の使用は、屋外に出るときだけだ。

 どんどん、昔の元気なエルサに戻ってきている。

「準決勝の日程が決まったようね」

 ミランダさんは言った。

「サユリとセバスチャンの対戦は、3週間後。ゼントとゲルドンの息子、ゼボールの対戦は4週間後」

 そうか、サユリとセバスチャンの試合が先か。俺は、その試合の後、ゼボールと闘う。
 俺をマール村の森で襲ってきた不良だ……。
 くそ、嫌な気持ちがよみがえってきた。

「それにしても、あなた、本当にセバスチャンと闘う気?」

 ミランダさんは椅子に座りながら、サユリを見ていった。サユリはうなずいた。

「はい……。最近、セバスチャン先生の考え方は、私の武闘家ぶとうかとしての考え方と違うなと思えてきたんです」
「うーん……。具体的ぐたいてきには?」
「セバスチャン先生の教えは、怪我をした相手でも、容赦ようしゃなく叩きのめすこと。追撃ついげきを加え、二度と逆らえないようにすることです。これは、私がギスタンさんやドリューンさんにやってしまったことでした」
「冷静に試合を振り返ることができているわね」
「それに、あまり知られていませんが、『G&Sトライアード』では、日常的に指導者から選手への暴力が行われているのです」
「えっ、何それ?」

 エルサは声を上げた。

「サユリさん、それ、どういうこと? くわしく説明して」
「セバスチャン先生は、対戦練習でも、相手を失神するまで闘わせようとするのです。でも、それを練習生たちが躊躇ちゅうちょすると、セバスチャン先生か指導者の拳がとんできます」

 サユリは決心したように言った。エルサは目を丸くしてまた聞いた。

「一方的な暴力ってこと? あなたもやられたの?」
「私はセバスチャン先生からはやられてはいませんが、他の指導者からはたまに平手で」
「だ、だめだよ、そんなの許しちゃ!」

 エルサは、サユリを抱きしめた。

「今まで、誰にも相談しなかったの?」
「はい……『G&Sトライアード』の練習生たちは、セバスチャン先生……いえ、セバスチャンが怖いんです。セバスチャンに逆らうと、武闘家ぶとうかの資格が剥奪はくだつされてしまうから。セバスチャンは、それくらい権力を持っています」
「なんで……ひどい」

 エルサが泣いている?

 あっ、そうか……。エルサもギルドの登録から抹消まっしょうされた経験があるんだったな。
 サユリたちの気持ちが分かるのか。
 
「ちょっと冷静になりなさい」

 ミランダさんがパン、と手をうった。

「サユリ、このままセバスチャンと対戦しても、何も残らないと思うけど。棄権きけんした方がいいわよ」
「お気持ちはありがたいけど、私は闘います。だって私は武闘家ぶとうかだから。試合があれば、闘うのです。──ゼントさん、お願いがあります」

 サユリは俺の方を見た。

「私とセバスチャンの試合から、セバスチャンの攻略法を見つけて欲しいのです。セバスチャンは、私の考えでは、グランバーン王国で最も強い武闘家ぶとうかの一人だと思います」
「サ、サユリでもそう思うのか?」
「はい、間違いないです。打撃、組み技、関節技、戦術、すべてレベルが高いと思います。ゼントさん……決勝で、どうかセバスチャンを倒してください」
「わ、分かった」

 つまりだ、サユリはセバスチャンに勝つ気がないということ。
 俺にセバスチャンを倒すことを、たくしているのか。

 俺はうなずいた。しかし、その前にゼボールに勝たなきゃいけない。

「では、私はこれで」

 サユリが行こうとすると──。

「お待ちなさい」

 ミランダさんが言った。

「あなたの今後の所属は『ミランダ武闘家ぶとうか養成所』。つまりここです。あなた、戻る場所がないんでしょう。だから、今日はここに泊まりなさい」
「そうだよ、サユリさん」

 エルサが笑顔で言った。

「辛いことがあるなら、私、何時間でも話を聞くから。娘もいるし、遊んであげて」
「……皆さん親切なんですね」

 サユリはさみしそうに言った。

「私、『G&Sトライアード』では、しゃべる人が一人もいなくって……」
「とにかく一緒に行こ?」

 エルサはサユリの手を引っ張って、廊下に出ていった。

 すると、ミランダさんは俺に言った。

「ゼント君、君はゲルドンの息子、ゼボールと闘うことになるけどね」
「はい」
「何か嫌な予感がするわ。これは私の占いの結果から言うけど」

 嫌な予感? 一体それは──?

「私が気にしているのは、大勇者ゲルドンよ。何か、仕掛けてくるかもね」

 ゲルドン? ゲルドンが何かしてくるのか?
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