よるのまちのメヌエット、植物園襲撃~

ふし文人

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第5章

アニメや絵本やらで見たことはあったけど、本物は初めて。誰だってそうか。

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 月明かりに照らされた岩の上に立っているのは、天狗や。アニメや絵本やらで見たことはあったけど、本物は初めて。誰だってそうか。
「それ本物のお面?」とうちは第一声で聞いた。
「本物の大天狗やで。」と関西弁で言うてはるけど、どうもこれは信じられへん。あの鼻の長い赤い顔は、お面にしか見えへん。
「じゃあ証拠見せて。」とうちは強気に言った。ここまで色々なことがあると、あらゆることに耐性が出来てくるもんや。
「ええぞ。」と答えると、天狗は葉っぱの団扇を取り出した。そしてヒュっと一仰ぎすると、風が巻き起こった。
「わかった。わかったからやめて。」うちは近くの岩にしがみつきながら、飛ばされへんように必死にしがみつく。
「わしがホンマもんやとわかってくれたか?」と天狗は言う。
「わかった。本物や、認める。認めます。」とうちは答える。
「そうやろ。せっかく待ってたんやから。」と天狗は言うと、下駄をカタカタと鳴らす。
「うちのこと待っててくれたん?なんで。」とうちは尋ねた。
「そなたが選ばれし者やから。」と天狗は答えた。
「はぁ。」としかうちは答えられへん。リスは喋るし、侍は出てくるし、巫女さんは裸で踊るし、天狗はうちのこと選ばれたもんや言うてくれるし。
「迎えに来たんや。」と天狗は言うと、うちの前に飛び降りた。目の前で見ると、たしかに天狗の顔はやけにリアルや。
「ありがとう。」って言うておけば大概のもんはうまくいく、の法則に乗っ取ってうちはそう答えた。
「では、行こか。」と天狗は言うと、うちをあっという間に背負った。天狗の背中は大きくて、意外にも温かい。そして懐かしささえ感じる。
「どっかで会ったことあります?」と天狗の背中で聞いたけど、天狗はそれに答えることはない。
「よし。」という掛け声とともに、空中に舞いあがった。そして突風がうちの周りで駆け巡る。風が舞っているのか、うちらが動いているのかわからん。木々がゴーっていう揺れ動く音がするから、そのどちらともかもしれん。
「ちょっと見えへんねんけど。」とうちは風が強すぎて目をつむる。手元のリスだけは落とさへんように、しっかりと抱きしめながら。
「着いたで。」あっけなく天狗は言った。うちが目を開くと、そこは鞍馬寺の階段のとこやった。
「あ、鞍馬寺。」うちは少し見上げながら、上にある寺を見た。月光に赤い寺が鈍い光を放ってる。
「もちろん。」と天狗は言うと、うちの手を引いた。どっかで触ったことある感覚。
「あれ、上に行かへんの?」とうちは聞いたけど、天狗は首を振るばかりで下に降りて行く。
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