よるのまちのメヌエット、植物園襲撃~

ふし文人

文字の大きさ
43 / 80
第4章

「動く鉄。」と五右衛門は言った。

しおりを挟む

 うちらが駅に着くと、ほぼ最後と思わしき電車が向こうからやってくるではありゃしませんか。
「五右衛門、あれや。あれに乗ろ。」とうちは必死に走る。路面の上をカタコトと電車がやってくる。
「動く鉄。」と五右衛門は言った。そういえばさっきから車や信号を物珍しそうに眺めてはったな。
「そう、あれに乗るねん。馬より速いで。」うちは言った。
「馬より。」と五右衛門は感心しながら駆けて行く。
「そりゃそうや。」と言って、うちらは駅にたどり着く。うちの足も捨てたもんちゃうやろ。息は切れてるけど。
「これが最終です。」と優しそうな駅員さんが言う。
「乗ります。二人。」とうちはお金を払う。五右衛門を見て、駅員さんは少し笑った気がした。おそらく太秦の役者さんやと思ってるんちゃうかな。それにしてはすごい負傷してるけど。
「これに乗るのでござるな。」と五右衛門が言うのを聞いて、うちは答えた。
「そうやよ、お侍さん。」と同時に出発のベルが鳴る。うちは五右衛門の手を引っ張る。それにしても誰もお客さんおらへんな。さすがにこんな深夜に鞍馬に行く人なんておらんのやろうか。
「お腹がすき申した。」と五右衛門は言った。それはうちが言うセリフや、とうちは思ったけどさっき買ったおにぎりを取り出す。
「さ、食べよ。」とうちはリスにもあげようとしたら、小リスは再び眠りに落ちてはる。ま、夜やから動物は眠るもんかもしれん。
「いただき申す。」と五右衛門は言って、おにぎりをむしゃむしゃと食べた。しかし、この五右衛門は霊なのかな。それにしてはやけにリアルやん。うちは五右衛門の負傷した腕を見る。
「痛いん?」と聞いて、うちはそれが無用な質問やと気づいた。
「大丈夫でござる。」案の定、五右衛門はそのように答える。お侍さんが「痛い。」なんて答えるはずなかった。うちは自分の愚問を恥じ入る。
「霊っていうか、タイムスリップやんな。」とうちは言ってみる。時空の狭間から巨人も出てくるような時代やねんから、お侍さんがやってきてもおかしくはないやん。
「タイム…」と五右衛門はおにぎりを頬張りながら聞いてくる。
「もうええから。」うちはそんな五右衛門を見ながら、これが仲条さんやったらなぁとか思ってしまった。深夜の電車デートなんて。この電車のガタゴトいう音、心地いいし。月明かりもゆるやかに、お腹も満たされうちを夢の世界へと誘う。きっとそこでは幼きうちが、静と一緒に飛び跳ねてるんかもしれへん。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...