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第2章

何とかリスを寝かしつけて、手のひらをゆりかごのように動かしてあげた。

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 何とかリスを寝かしつけて、手のひらをゆりかごのように動かしてあげた。危ない危ない、リスが騒ぎ出したら面倒なことになるやんか。うちが五右衛門をにらむと、彼は多少申し訳なさそうに刀を鞘に収める。
「申し訳ござらん。」と五右衛門は言う。しゃあないやっちゃ。うちはカンカンに怒る一歩手前で、このリスの寝顔に免じて許してあげる。
「ほんま、夜やねんから静かにしてな。」とうちは言う。なんで大の大人にこんなこと言わなあかんねん、と自分でも思いながら。ま、時代が時代やからしゃあない。うちは仕方なく自分を慰める。
「時代が時代なら、拙者は切腹ものでした。」と五右衛門が言う。そしてまた刀を抜こうとする。
「ちょっとやめてやめて。もうええから。刀を振り回したら、この時代では捕まるんよ。あなただけじゃなくて、うちだってやばいんやから。」とうちは必死でとがめる。
「やばい、とはどういう意味でござる。」と五右衛門は聞いてくる。いちいち面倒くさいやっちゃな、とうちは思うけど一応説明してあげる。
「だからな、逮捕されるってこと。わかる?うちも同じように切腹を言いつけられるかもしれんってこと。」とうちが言うと、五右衛門はうーんと唸った。
「そなたも、町子殿も切腹を。それは困る。幕府に物申す。」とか意気込んではる。だから幕府とか、時代がちゃうんやけどそこはスルーすることにする。
「そうやろ、だからなるべく静かにしててな。」と言いながら、うちは鴨川をさらに上がっていく。もう少しで神社かな。
「そもそもどこへ向かっておいでですか。」と軽口になってきた五右衛門が聞く。
「どこって。言うてへんかったっけ。上賀茂神社。」とうちは後ろを見ずに答える。
「なるほど。」と五右衛門は言うなり、今度は静かに後ろをついてくる。やっと静かになったわ。でもよく考えると一人でこの夜道を歩くのもなんやし、ついてきてもらってよかったかも。月も雲に隠れて暗いし。とうちが考えていると、後ろでまた奇声が聞こえた。
「はいやー。」と五右衛門が再び刀を振り回してるやん。
「ちょっと。」とうちが言おうとすると、今度はそこに黒い影が動くのがわかった。五右衛門がうちの前に立ち、カチンカチンという火花を散らして刀を交差させる。
「おりゃ、とりゃ。町子殿、こちらへ。」と五右衛門はうちを守るように、鴨川を背にして立つ。
「なんなん。」うちは訳が分からずに、ただ言われるままにする。
「幕府の手先。」と五右衛門は言う。手先ってこの黒い人たちが?
「なんで?うち何も悪いことしてへんのに。」うちは怖くなって思わず大声を出す。すると黒い影がひるむのがわかった。そこで雲間から月光が再び顔を出した。
「助かったな。」という声が残像のように反響していく。ふと気がついたら、うちは鴨川の横で倒れていた。

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