子づくり婚は幼馴染の御曹司と

葉嶋ナノハ

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1巻

1-3

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「さすが八雲……じゃなくて、寺島先生が選んだ素敵な旦那さまですね。ギターに興味がおありでしたら、ぜひ僕のところへいらしてください」
「ギターを教えていらっしゃるんですか。ぜひそのうち、お願いします」

 理生は余裕の笑みを吉田に返して、牽制けんせいした。
 こいつは危ない。小百合に近づけてはダメだと本能が警鐘けいしょうを鳴らす。
 では、と去っていく吉田の背中を見ながら、理生は小百合に耳打ちした。

「すっげぇイケメンの先生じゃん」
「女性に一番人気の講師なのよ。結構有名なバンドのライブツアーに参加したり、自分の動画サイトの登録者も十万人以上いるみたい。もちろんギターの腕前も抜群」
「……ふうん」
「理生、ギター習いたいの?」

 人の気も知らないで、小百合はトンチンカンな質問をしてきた。首をかしげる仕草が可愛すぎて困る。

「……別に」
「別にって、変な答え」
「まぁまぁ興味あるから習うかもしれないし、習わないかもしれないってこと」
「じゃあ、その気になったら言ってね。私が紹介するから」
「ああ、頼むよ」

 小百合は理生がギターを習うなんて意外、などとのんに笑っていた。
 ギターなんぞ一ミリも興味はないが、彼女に近い男は気にかかる。

(小百合の様子からして心配はなさそうだが……。ああいう、いかにもチャラいモテ男は警戒したほうがいい)

 理生は小百合に気づかれないよう小さく息を吐いて、気持ちを落ち着かせた。


 披露宴後、みんなで写真を撮り、親戚や両親たちと挨拶あいさつをし、友人たちと語り合う。二次会は行わないので、その場で解散となった。
 理生と小百合は着替えをしたあと、宿泊先のホテルへ移動する。両親や親戚は都内在住のため、友人らと同じく帰宅した。
 ホテルのロビーで軽食をとり、少し休んでから部屋に入る。理生の希望したスイートルームだ。

「綺麗ね~! 東京の夜景が一望できる……!」

 部屋について早々、窓辺に駆け寄った小百合が感嘆の声を上げた。だいぶ日が延びたとはいえ、まだ春先だ。空はすっかり夜の群青ぐんじょうに変わり、ビル群やタワーなどの明かりが街をきらめかせていた。

「気に入った?」
「こんなに素敵なところ、気に入らない人なんているの?」

 無邪気な笑顔で小百合が振り向く。

「それなら嬉しいよ」

 このまま抱きしめたい衝動に駆られながら、理生は笑顔でうなずいた。

「慣れないヒール履いたから、ふくらはぎがパンパン」
「風呂のお湯、溜めてくる。先に入って足をやせばいい」
「ありがとう。寝る前に足にジェルシート貼ろうっと」
「持ってきたのか?」
「ジェルシートは私だけなんだけど、理生用に背中とか腰の湿布を持ってきたよ。疲れたでしょう?」

 ソファに座った小百合がバッグをゴソゴソと探り始めた。心配性な彼女らしいのだが、思わずため息が出る。

「お前なぁ……、俺のことどれだけオッサンだと思ってんだよ、同い年だろ」
「あはは、ごめん、ごめん。必要な時はあげるから言ってね」
「ハイハイ、ありがとうな」

 背中に湿布を貼って初夜を過ごすのかよ、と心の内であきれながら、理生はバスルームに向かった。
 バスタブの横には窓があり、ここからも夜景が見える。大画面のテレビもついていた。
 理生はバスタブに溜まっていく湯を見つめながら、悶々もんもんと考える。

(あいつまさか、ああ疲れたおやすみなさい~って、そのまま寝る気じゃないだろうな?)

 友人らに子どもの人数について聞かれた時、小百合の顔は赤くなっていた。その様子から、今夜について期待していたのだが……

(いや、有り得る。この二年間、俺の気持ちにまったく気づかないほどの鈍感さだったんだ。小百合は男女のうとすぎる。俺がヤル気に満ちているのもわかっていなそうだ。ということは、もしかしてすでに寝てるかもしれない!?)

 理生はバスルームを飛び出し、リビングに駆け足で戻る。

「どうしたの?」
「べ、別に」

 小百合はソファに座っており、あせる理生を見つめた。

「急ぎの仕事でも思い出した?」
「ああ、そう、そうなんだよ」
「大変よね。あ、お風呂のお湯、ありがとう」
「……どういたしまして」

 返事をした手前、見たくもないノートパソコンをひらくハメになる。仕方なく、小百合がお風呂に入っている間、新商品開発についての資料を確認した。
 理生は父が経営する「テラシマ・ベイビー株式会社」の営業部で働いている。いずれ会社を継ぐ彼は営業だけではなく、全体について把握をしていなければならない。数年以内に、父を補佐する立場になりそうなのだ。
 この時代、いつ経営が傾いてもおかしくはない。二代目などという甘えに乗っかっていてはすぐに足元をすくわれる。
 そんなふうに常に気を張っている理生にとって、唯一のやしが小百合だったのは言うまでもなかった。
 しばらく仕事をしていると小百合が部屋に戻ってくる。

「お先に、ありがとう」
「ああ、じゃあ俺も入ってくる」
「ごゆっくり」

 ニコッと微笑ほほえんだ小百合の体から、ボディソープの香りがただよう。瞬間的に本能が頭をもたげたが、ここであせる必要はない。時間はたっぷりあるのだ。
 バスルームに入り、湯船にかる。彼女が使ったお湯……などと、中学生じみた妄想をして興奮している場合ではない。

(このあとどう攻めようか。あの様子じゃ強引に迫らないと、いつまで経っても小百合がその気にならなそうだ。でもそれで嫌われたら、生きていけない)

 湯の中で真剣に考える。心の内だけでは留まらず、いつの間にかぶつぶつとひとりごとを言っていた。

「強引に迫ってから、うんと優しいモードでいこう。しかし今さら照れるな、そういうのも」

 しかし照れていたら前には進めない。
 今夜、必ず小百合を抱く。
 理生は手をグッと握りしめ、窓から見える夜景に誓った。


   ◇ ◇ ◇


 バスローブを羽織はおって出てきた理生を、小百合は正視できなかった。

(私もバスローブを着てるけど、この雰囲気はいかにも『これからやることやります』って感じよね。……ドキドキしてきた)
「何か飲んでる?」

 尋ねられて顔を上げると、髪が濡れて妙に色っぽい理生がソファに座る小百合を見下ろしていた。

「えっ、あ……、お水飲んでるよ」
「シャンパンけようぜ」
「ちょっ、高いんじゃないの? このお部屋だって――」
「これはサービスのシャンパンだから大丈夫。今日一日、お疲れさまってことで乾杯しよう」

 明るく笑った理生が、テーブルの上で冷やされているシャンパンを手にした。栓を抜く手際の良さがさまになっている。
 ふたりはシャンパングラスで乾杯をした。

「ん、美味おいしいね……!」
美味うまいな」

 ふう、と息を吐いた理生がソファに背を預けてくつろぐ。
 バスローブだけだと、彼のスタイルの良さが如実にょじつにわかる。小百合はこのあとのことをまた考え始めた。

(……いやいや、結婚式当日は『疲れてるからしない』カップルが大半だって話だし、私たちもそうに決まってるわよ、きっと)

 そう思って、心も体も準備はできていない。新居に帰ってゆっくりしてから初夜……というのが小百合の認識だ。
 シャンパンを飲みつつ、挙式や披露宴についてしゃべり出す。小百合は理生に伝えなければいけないことがあった。

「理生、さっきはありがとう」
「ん? 何が?」
「披露宴でみんながそばに来た時、理生はそんなつもりなかったかもしれないけど、かばってくれたでしょ? 私たちが並ぶと迫力があるって言われて、ちょっとイヤだったの。だから理生の言葉に救われた」

 ヒールを履いたせいで余計に大きく見えたのは仕方がない。そう思いつつ、傷ついた小百合の心は、とっさに繋いでくれた理生の言葉により、軽傷で済んだのだ。

「ああ、あいつな。縁切ってやろうかと思った」
「悪気はないのよ。私が身長を気にしてるなんて知らないんだろうし」

 笑って見せたが、理生は不快感をあらわにしている。優しい彼のことだから、小百合の気持ちをおもんぱかってくれているのだろう。

「悪気がないのが、一番タチが悪い」
「ありがと」

 小百合は苦笑してシャンパンをもうひとくち飲んだ。柔らかな炭酸と果実の甘みを味わう。

「理生って優しいよね。いつも助けられちゃってる。でも、私には気を遣わなくていいからね」
「私にはって?」
「理生はみんなに優しいでしょ? 誰にでも優しくできるって素晴らしいことだし、尊敬してる。でもいつもそれじゃ疲れるだろうから、私にはそんなに優しくしなくていいってこと」

 これからふたりの生活が始まるのだから余計な気遣いは無用、という意味だったのだが、理生があからさまに不満げな表情をした。

「誰にでも優しいわけじゃないんだけど?」
「そうなの?」
「……ったく、何にもわかってないんだな、マジで」
「ごめん、怒った?」
「怒ってないよ」
「……本当に?」

 疑いの視線を向けると、理生はため息をついて答えた。

「うんまぁ、少し怒ってる。小百合の鈍さに」
「え? 鈍い?」

 今の話に鈍さが関係していたのだろうか? というか、自分の何が鈍いのかもわからない。
 ただ不快な思いをさせてしまったのが申し訳なくて謝ろうとすると、理生が続けた。

「まさかこのまま、おやすみ~って眠るわけじゃないよな?」

 おもむろに立ち上がった理生が、小百合の手をつかんで歩き出す。

「り、理生?」
「子どもつくるんだろ? だったら早速始めないと。新婚初夜なんだし」

 寝室に入った彼は、小百合をベッドに座らせる。

「ええと、疲れてないの?」

 迫ってくる視線を見上げながら、小百合はあせった。

「全っ然。むしろ覚醒かくせいしてるくらいだ」
「疲れすぎて逆に目が冴えちゃう、みたいな?」

 男女の関係に至りそうな雰囲気をごまかすために茶化したのだが――

「小百合、黙って」
「っ!」

 唇に指を当てられる。理生の目は笑っていない。

「俺が初めてってわけじゃないんだろ? そう硬くなるなよ」
「わ、わかってるわよ」
「じゃあ目、つぶって」

 突然、その時が来てしまった。明日、新居に戻ってからだと思っていたのに。
 理生がすっかりその気になっていたとは意外だ。

「……うん」

 小百合は観念して目を閉じる。
 子どもが欲しいのだから理生とこうなることはわかっていた。なのに、「観念」はおかしいだろう。……などと、自分に突っ込んでいる最中に、とん、と体を押され、ベッドの上に仰向けになる。

「あっ」
「小百合……」

 驚いてまぶたをけると、目を伏せた理生の端整な顔が、すぐそばにあった。
 あっという間に唇が重なる。
 長い間、友人だった彼とのキスは妙に恥ずかしくて、目をけたまま小百合は固まった。
 そんな小百合には気づかず、理生が優しく何度も唇を合わせてくる。眉根を寄せて目をつぶる彼の表情は色っぽくて、下腹がきゅんとした。

「……ん?」

 その時、パチッと理生が目をけ、小百合の視線に気づく。

「ちょっ、何見てるんだよ、もう~」

 彼は顔を赤くしてこちらをにらんだ。

「恥ずかしいだろ……」
「ご、ごめんなさい。だって……」
「だって、何?」
「理生の顔がなんか良くって、つい見つめちゃったの。いつもと雰囲気が違って……」

 小百合は目を泳がせながら彼の表情について説明した。

「ふうん。クるものがあったとか?」
「……あった、かな」
「それならいい」

 ふっと笑った理生が再び顔を近づけてくる。

「今度は見るなよ?」
「……はい」

 念を押されて、小百合は目を閉じた。
 どうしてこんなにもドキドキするのだろう。彼に結婚の話をされたあたりからずっと、変な感じだ。ちょっとしたことにいちいち心臓が騒ぐ。
 再び重なった唇が深く押しつけられた。薄くいた唇から理生の舌が入り込む。小百合の舌と何度もからまり、口中をねっとりとまわされた。

「んっ、ん……ぁ」

 息苦しくなって唇を離すと、彼の両手で頬を押さえられる。

「もっとしたい。口けて、小百合」
「え、んっ、んーっ」

 さらに深く繋がり、まるで理生に食べられてしまいそうで怖い。
 彼の意外な激しさを初めて知った。女性に対してはそうなんだろうか。過去の恋人とも……?
 そう思った途端、胸がぎゅっと苦しくなる。

(何で……胸が痛くなったの、今)

 何かに気づきそうになったが、理生の勢いに思考が呑み込まれてしまう。もつれ合ううちにバスローブを脱がされた。

「あ、恥ずかしい」
「俺も」

 クスッと笑った理生は、自分のバスローブも脱いだ。小百合は下着をつけていたが、彼は何も身につけていない。一瞬、目をけた小百合はすぐに再びつむった。

(み、見てしまった、理生のアレ……。思ったよりずっと大きいんだけど、どうしよう)

 どうもこうもないのだが、挿入する時を想像してためらいが生まれる。

「大丈夫だよ、優しくするから」
「っ!」

 顔に不安が出ていたらしく、耳元で理生がささやいた。途端にゾクッと体中がうずく。
 理生の声に、唇に、舌に、そして熱に……小百合は感じている。
 おさな馴染なじみで長い間、友人関係の彼だから体が反応しないかも、などと思っていた自分はおろかだ。むしろ知らなかった理生を知るたびに、体も心も敏感になっていく。

(心も? 嘘でしょ? 今回の結婚はお互いの利のためだったはず。なのにどうしたんだろう、私ってば)

 彼の肌が小百合の肌に重なった。

「あ……っ」

 そのぬくもりに思わず声が漏れ出てしまう。
 ブラが外され、ショーツも脱がされた。理生の長い指が小百合の体をっていく。彼の言葉どおり、それはとても優しかった。その優しさが理生の心を表しているようで、何とも言えない気持ちになる。

(今までセックスした中で一番恥ずかしいよ……)

 肌に触れられながら、普段の理生が脳裏のうりに浮かぶ。
 ノリが良くて優しくて、何でも話を聞いてくれる、気の置けない友人のひとり。その彼の、こういった姿を知ることにすら羞恥しゅうちを感じる。

「……小百合」
(そういえば幼稚園の頃、縄跳びができないって泣いたから、私が教えてあげたっけ。あの理生がすっかり大人の男性になって、こんな――)
「小百合、どうした?」
「えっ?」

 頭の中でぐるぐる考えていた小百合は、そこでまぶたを上げた。

「いや、ずっと固く目を閉じてるから、イヤなのかと思って……」
「ち、違うの! むしろとてもいいんだけど、恥ずかしくて、あっ」

 思わず口から出た言葉に、かぁっと顔中が熱くなる。それを見逃さなかった理生が、意地悪く笑った。

「へえ、『とてもいい』んだ? それなら安心した」
「あっ!」

 胸の先端に触れられて、電気が走ったように小百合の体はビクンと跳ねる。そこにキスを落とされた。

「んっ、ぁあ……」

 熱をびた唇の感触に体が震える。

「これもいいの?」
「……ん、いい」

 こくんとうなずいて彼の顔を見る。視線が合った理生が微笑ほほえんだ。

「素直で可愛いな」
「え……」

 頬が熱くなると同時に、胸がきゅんっと痛くなる。すぐに、赤くれた乳首をちゅうっと吸い上げられた。

「んん……っ!」

 もう片方は指でいじられ、吸われたほうは執拗しつようめられつづけている。足の間がうずき、そこはもうだいぶ濡れているのがわかった。

「小百合、俺のも触って」
「うん……」

 彼の手に導かれてそっと触れる。
 硬く、熱いモノを握り、ゆっくり上下に動かした。先端が濡れている。

(大きいし、すごいかえってる。どうしよう、もう欲しくなってきちゃった……。こんなのれられたら、私……)

 セックス自体が久しぶりなのだ。
 婚活で知り合った男性とはキスすらしないで終わっている。その前に付き合っていた男性は、小柄で可愛らしい女性と浮気していたので、そもそも小百合とはそれほどシていない。

「これで、いい……?」
「ああ、いいよ……。根元も……あ」

 言われたとおりに屹立きつりつをしごくと、理生が熱い息を吐いた。何だか可愛くて、小百合も意地悪を言ってみたくなる。

「理生だって素直で可愛いじゃない」
「なっ、……言ったな?」

 恍惚こうこつの表情からめた彼が、眉根を寄せた。まずいと思った瞬間、足を大きくひらかされる。

「理生、ちょっと待っ――」
「待たない。俺は可愛くなんてないからな」

 不意に太ももの内側にふわっとした柔らかなものが当たる。顔を起こすと、それは理生の髪だった。何も身につけていない無防備な小百合のそこに、彼が唇を強く押し当てている。

「あっ! やぁっ、んっ」

 今日一番の羞恥しゅうちに襲われた小百合は、本気で気を失いそうだった。濡れているそこを見られるのはイヤなのに、体は理生の唇と舌をよろこんでいる。
 その時、いんな動きをしている彼の唇が、一番敏感な突起をとらえた。

「んっ、ダメッ」

 ビクンと腰を浮かすと、逃がすまいと理生の唇が吸いつく。彼の舌でそれを転がされ、下腹の奥から快感がせり上がってきた。

「もっ、ほんとに、ダメ、んんっ! あうっ!」

 彼の頭を押しのけようとしたのに、粒をめられながら指をぐっとれられる。ぐちゅんという音が耳に届いた。

「んぁっ!」

 ぐいぐいと押される下腹から強い快感の波が訪れ、目の前が何も見えなくなった。

「ちょっ、ダメほんとに! ……イッちゃ、あっ、あ~~っ……っ!」

 理生の指の動きと連動して、あっという間に絶頂へ達する。足の先までピクピクと痙攣けいれんしながら、小百合は快感をむさぼった。

「初めて見た、そんな顔」

 放心状態でいる小百合を見下ろす理生が、興奮気味な表情で言う。

「……あ、当たり前、でしょ……、見せたことなんて、ないんだから……」

 小百合はうつろな視線を理生に投げる。ぐったりした体は彼に預けたままだ。

「理生……上手うま、すぎ……」
めてくれてありがとうな。上手うまいとは思わないけど、小百合が感じてくれてるなら嬉しいよ」

 彼は体を少し起こして小百合の手を自身に触れさせる。硬いままのそれは熱くたぎっていた。

「俺、もう我慢できないんだけど、れていい?」
「……うん」
「今すぐ子どもが欲しいならゴムは着けない。どうする?」

 近づいた彼の瞳に小百合の顔が映っている。小百合をとらえてはなさない、強い瞳の色だ。

「俺はすぐにできてもいいと思ってる。ただ、小百合の体のことだから勝手に中に出すことはできない」

 理生らしい言葉だと思った。
 本能ではすぐにでも挿入して吐き出したいだろうに、小百合の気持ちを尊重してくれている。けれど、と小百合は口をひらいた。

「ここで私が拒否したら……、この結婚の意味がなくなるよね」
「まぁ、そうだよな」

 彼が視線をらし、口を引き結ぶ。

「ありがと、理生。私の気持ちを気遣ってくれて。私、そういう理生が――」

 そこまで言ってハッとした。

(私、何て言おうとしたの、今?)

 そういう理生が……好き?
 いや、理生のことは友人として好きだ。それは昔からずっと当たり前のこと。なのに、今言おうとした「好き」は違うもののような気がして、困惑する。

「ん?」
「えっと、あの! だから私、優しい理生の遺伝子を継いだ子ども、欲しいから! 出して!」
「お、おう。そんなにデカい声で言わなくても聞こえてるし」

 理生は驚きつつ、体勢を立て直して真面目な声で続けた。

「じゃあ、中で出す。俺のを……、いいな?」
「うん。……ちょうだい」

 こくんとうなずくと、彼の瞳の奥の欲望が増したのを感じた。小百合の心も体も、その行為に対して期待したのか、うずいている。
 再び長くキスをし、奥の熱がたかぶりのいただきに到達した頃、理生のモノが遠慮がちに小百合のナカへ挿入はいってきた。

「小百合……」
「んっ……、理生、遠慮しないで……もっとして、いいから」

 まだ我慢しているかもしれない理生に伝えた途端、ググッと一気に奥までつらぬかれる。衝撃が走り、声が口から飛び出した。

「あうっ! ちょっ、あんっ、待っ、あぁっ」
「していいんだろ? 遠慮しないから、な……っ!」

 そう言いながら、理生がさらに腰を激しく揺さぶってくる。

「あぁっ、あっ、あ……!」

 ずんずんと突かれて、勝手にあえごえがこぼれ続ける。口を押さえようとした手を理生につかまれた。

「抑えなくていい」
「恥ずかしい、からっ、あっ」
「もっと恥ずかしがって聞かせろよ、その声っ」

 理生は腰を動かしながら、小百合の耳元で言った。いつもと違う彼の命令口調に体が反応してしまう。

「んんっ、あっ、ああ……っ!」
「クソッ、締まりすぎだ、小百合のナカ……!」

 舌打ちした彼は、さらに腰を打ちつけながら顔をゆがめていた。その表情が小百合の快感をあおり、もっともっと理生のモノが欲しくなる。彼の背中にしがみつきながら小百合は思った。
 背の高い自分よりも、大きな体に包まれるのは、何と気持ちがいいのだろう……

「小百合、小百合、俺……っ」
「あ、あぁ……」
「俺……」
「え……な、に?」

 もだえる理生の言葉に問いかけると、何かを言おうとした彼の唇に戸惑とまどいが見て取れた。


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